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Quartz JapanのDaily Briefでは日々世界で起きている出来事をお伝えしていますが、それらグローバルニュースのなかで、最近とくにトラックドライバーによるストライキが続いていることが妙に気になっていました。
最近だと今年6月、韓国ではトラックドライバーによる大規模ストライキが1週間以上続き物流がストップ、それによる損失は1,600億円相当と伝えられています。1〜2月には、カナダで「フリーダムコンボイ」と呼ばれる抗議デモが起きていました。このデモは、トラックドライバーによるワクチン接種義務化への抗議から実施されたと報道されています。
さて、今夜のニュースレターでお伝えするのは、米国のトラックドライバーの実情です。フィン・マーフィーは1980年以来、全米を飛び回ってきたトラックドライバーです。Quartz記者のMary Pilonは、自らの経験を回想録『The Long Haul』にまとめたフィンに、彼の愛する業界の未来について、自律走行について、賃金について、そしてポッドキャスト愛について話を聞きました。
COVID-19以来の世界がサプライチェーン危機に直面するなかで、その最前線に立つ“先進的”トラックドライバーの声を聴いてみましょう。
──フィンさんは、1980年にトラック稼業を始められたとか。当時といまとで、何か違いはありますか?
いまでこそ商業運転免許証(CDL)を取得するのはかなり難しいけれど、1980年当時はそんなことはなかったのです。
わたしの場合は、コネティカット州スタンフォードにある施設に連れて行かれたのですが、そこには小さなトレーラーとオレンジコーンが路上に置いてあって。試験官と一緒にトレーラーに乗り込むと「あのオレンジコーンのところまで行け」と言われたのでそうすると、試験官が「よくやった。はい、免許証」って。
いまは、ちゃんと専門の免許学校に通わなければならなくなりました。費用は7,000ドルくらいかかるし、期間も1カ月くらい必要ですね。薬物検査や、運転や修理に必要なあらゆる試験も受けなければなりません。CDLを取得するための条件は、以前よりずっと厳しくなっています。
──トラック輸送の自動化についてはどうお考えですか?
まず、これは宇宙開発競争みたいなものだということ。世界で最もアグレッシブかつ資本力のある6、7社が、自律走行車の開発で一番乗りを目指して競争しているということですね。プレイヤーの名を挙げるなら、アルファベット(グーグル)、アマゾン、ウーバー、フォード、トヨタ、そしてカーネギーメロン大学といったところでしょうか。
いずれのプレイヤーもレベル5の自律走行、つまり「ドライバー不要」を目指しています。そして、そのすべてがトラック輸送に集中しています。トラック輸送業界では顧客がそれを待ち望んでいる、というのがその理由です。
運転の自動化はまずトラック運送業で起こるでしょう。一般の人びとにとって、マイカーを諦めるのに必要なのは、テクノロジーの変化ではなく、むしろ文化的な変化です。しかし、企業がトラックドライバーを排除するのに文化的な変化などは不要です。なにせ給料を払う相手が減るのはいいことですから。
次に、完全な自律走行の実現には解決すべき技術的課題がありますが、それらがあくまで“技術的”な課題だということは認識しておいたほうがよいですね。それらの課題は、上に挙げたような企業が何十億ドルもの資金を投入すれば解決することです。トラックの停車場なんかで立ち話をしていると、「ただし……」「でも……」なんて技術的な反論をされます。しかし、これらの技術的な問題が簡単だとは言わないものの、必ず解決する問題です。
3つ目に思うのは、安全性の問題です。アリゾナ州フェニックスで自律走行車に女性が巻き込まれて死亡した事故がありましたが(2018年3月18日)、事故直後、アリゾナ州は自律走行車を停止し、多くの人が騒いでいました。ただ、同じ日、110人のアメリカ人が路上で亡くなっています。毎日誰かが亡くなり、何百万人もの重傷者が出て、数え切れないほどの物損事故が起きています。こうした事故は、あまりにも長い間起き続いているがゆえに、人はそれを異常なことだとは思っていません。たしかに、自律走行は安全性について大きな課題を抱えているのでしょう。しかし、そのテクノロジーが承認されれば、多くの人命が救われるはずです。
4つ目は、何百万人ものトラックドライバーが仕事を失うことについて。これは社会が返答すべき課題ですね。「人が失業するからテクノロジーの進化を保留しよう」という考えがうまくいった試しはありません。それに、アメリカ人がやらなくても、デュッセルドルフやシンガポールで実現するでしょう。わたしたちにできることは、テクノロジーが社会の構造に何をもたらしているのか、雇用の喪失に何をもたらしているのかを、もっと真剣に考えることです。
織物職人が機械式の織機に取って代わられるまでには、数百年かかりました。馬車メーカーが廃業するまでには、一世代を要しました。そうなって馬が自動車に取って代わられるのに、また同じくらいかかっています。翻っていま、こうした変化が雇用の場に浸透するのに要する時間は数カ月から1〜2年で、人びとはいたるところで仕事を失いつつあります。
いまはまだ、その影響は低賃金の仕事にしか及んでいませんが、それも変わっていくでしょう。すでにコンピュータが契約書を読み込み、解析しています。弁護士や会計士が廃業に追い込まれる日も来るでしょう。では、この廃業した人たちをどうするのか。これは、政治的な問題にも発展します。何百万人ものヒマな人たちがイライラしているようでは困りますよね?経済的な社会参加の道を見出せないアメリカ人の不満は、すでに問題を引き起こしています。
──こういった話は、トラック運送業界で有意義に行われているものですか?
どうでしょう、見たことはないですね。同業者の間で、わたしは完全に異端児ですから。
世間では、こうした変革には15〜20年かかると言われています。わたしは1~3年だと思いますね。20年なんてスパンで考えていたら、自律走行車に何十億ドルも費やすなんてできないでしょう。もしあなたがアップルやアルファベットにいたとしたら、是が非でも実現させたいですよね。
──著書では、ドライバーのヒエラルキーについて書かれていますね。そのあたりを説明していただけますか?
トップとボトムを比べれば、それはもう大きな隔たりがありますね。わたしはよく言っているのですが、いまトラックドライバーになろうと考えているなら、運転以外の別のスキルを仕事に生かす必要があるでしょう。
コンピュータの動かし方を知っていれば、それは付加価値となります。「ミサイルタービンのような特殊な形状のものの防水方法」でも「干し草を満載したトレーラーの運搬と梱包の仕方」でもいいですが、これらはすべて付加価値となって自律走行車が登場したとしても、最後に消えるドライバーのひとりになれるでしょう。
一方で、生きた動物を運ぶ人たち、いわゆる「チキンチョーカー」は、最下層の仕事として見下されていますね。夏の晴れた日曜日にはトレーラー全体が悪臭を放ち、誰もその近くに駐車したがりません。
──米国におけるトラックドライバーの多くが契約社員であることをほとんどの人は知らないと思います。一般の仕事とは構造があまりにも違いますが、日々、どのようなことをしているのですか?
わたしの場合は、トラックをリースし、その支払いを毎月の収入からしています。ドライバーの中にはマイル単位で給料をもらう人もいますね。大企業の貨物輸送業者の多くはそうしています。
そして、これは実に大きな問題で、「車輪の上の搾取工場」と呼ばれているほどです。6時間も渋滞に巻き込まれたら? 倉庫やターミナルで、自分のトラックに乗るまでに4時間待たされたら? 彼らは、給料をもらうことなく何時間も働いていることになるわけですから。
──自律走行に話を戻します。長期的にみて、どのような影響があると思いますか?
30年後には、人が自分でクルマを運転することは違法になると思っているのですよね。喫煙者に向けられる目と同じように、わたしたちを見る人が出てくるでしょう。「お前らは野蛮人だ!」ってわけです。「道路で人を殺し、あるいは何百万人もの人を傷つけていたのに、何も考えていなかったのか!」と。保険料もどんどん上がっていくでしょう。
運輸業界では、わたしのような人間が「一晩で何百万人もの人が放り出されることになる」と言ったところで、「そんなことにはならない、ラストマイルの配達にもっと人が必要になる」と反論されます。確かにラスト・マイル・デリバリーにはいま以上に人員が必要です。アマゾンは、わたしが住んでいるコロラドをはじめ全米に広大な倉庫を建てていますが、これらはラスト・ワンマイル・デリバリーのためのもので、それらの役割は最終的にドローンに委ねられることになるでしょう。
──ドローンにも、ドライバーと同じくらいの規制が導入されるでしょうか? というのも、トラック輸送がどれだけ規制されているか、多くの人が知らないと思うのです。
それは、トラックドライバーでさえ自覚していませんよ。トラックドライバーにはカウボーイ的な自由で開放的な神話がつきものですが、実のところ、最も規制の多い仕事のひとつです。
尿検査は毎月受けなければならないし、電子記録装置をトラックにつないで、加速、燃料消費、ブレーキ、シフトチェンジ、全体的な安全性などあらゆる行動がすべて記録されています。大手運送会社では、運転席に24時間365日ビデオを設置しているところもあるほどです。自由なんてほど遠いですよ。
──なるほど。さて、あなたはほかの多くのトラックドライバーと同様に、NPRやオーディオブックの熱心なリスナーだと聞きました。
昔とはずいぶん変わりましたね。とにかく、ポッドキャストですよ。何百万ものポッドキャストがあって、しかもそのほとんどが無料ですからね。オーディオブックもありますね。わたしがこの仕事を始めたころは、寝台代わりのマットレスの下に600本のカセットテープを入れるスペースを用意していたものですが、いまはすべて1台のスマートフォンで済むわけですから。
──長距離ドライブでのお気に入りを教えてください。
『Team of Rivals』は最高でしたね。それ以外だと……『Hardcore History』は聴いたことありますか? とにかくダン・カーリンが大好きでね……。ほかにオーディオブックでいいのがあれば教えて欲しいくらいですが。『Infinite Jest』を本で読もうとして断念したのですが、オーディオブックで聴いたらこれもまた最高でしたね。
──では最後に、トラックドライバーについて知っておいてほしいことをひとつ。
次に外でトラックを見かけたら、その運転席を見上げてみてほしい。そこに座っているのが、希望と感情をもっていて、普通に食卓に食べ物を並べるもうひとりのアメリカ人だということを忘れないでいてほしいですね。
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