ミッション味のアイスクリーム

今夜のニュースレターでは、B&Jがいかに“社会的に進んだ”企業であったのか、その一端がわかる同社の足跡をお伝えしようと思います。
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Photo: HANNAH MCKAY (Reuters)

先週金曜に配信したニュースレターの通り、米国で行われたベン&ジェリーズ(以下B&J)と親会社ユニリーバの間で争われた裁判では、ユニリーバ側に軍配が上がりました。

B&Jはユニリーバの意向に背いてパレスチナ暫定自治区(occupied Palestinian territory、OPT)におけるアイスクリーム販売を止めようとしたわけですが、その際にB&Jの主張を支えたのは同社の独立したボードメンバーの存在でした。

今夜のニュースレターでは、B&Jがいかに“社会的に進んだ”企業であったのか、その一端がわかる同社の足跡をお伝えしようと思います。B&Jは自らの声をどのように発信してきたのでしょうか


in ice-cream form

アイスはメッセージ

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Image: Ben & Jerry’s

B&Jは1978年、米国バーモント州で創業しました。同社は気候変動や経済的不平等などの社会課題に対して実際に声に出して発信するだけでなく、自らの社会的バリューを「限定フレーバー」として表現しています。

例えば1988年に発売された「ピースポップ(Peace Pop)」は、その売上がB&Jのオーナーが設立した国際平和活動を推進する非営利団体1% for Peaceの支援に充てられています。

  • 🐒 1988年発売「レインフォレスト・クランチRainforest Crunch)」:アマゾンの熱帯雨林保護を目的に、現地のナッツ組合を支援(ただし、その政治的目的は達成されなかった
  • 🌳 2002年発売「ワン・スイート・ワールドOne Sweet Whirled)」:ロックバンドのデイヴ・マシューズ・バンドとコラボし、収益の一部を環境団体Save Our Environmentに寄付
  • 🇺🇸 2009年発売「イエス・ピーカン!Yes Pecan!)」:バラク・オバマの選挙キャッチフレーズをもじったネーミング。収益は、国市民の政治参加を促す「Common Cause Education Fund」に寄付
  • 🌎 2015年発売「セイブ・アワー・ワールドSave Our Swirled)」:その年のパリ協定で認められた気候変動対策を支援
  • 🗳️ 2016年発売「エンパワー・ミントEmpower Mint)」:有権者弾圧撲滅キャンペーン時に発売。利益の一部がノースカロライナ州の全米有色人種地位向上協議会(NAACP)に寄付されている
  • 🙅♀️ 2018年発売「ピーカン・レジストPecan Resist)」:ドナルド・トランプ米大統領(当時)の政策が女性や移民、有色人種、環境に与える影響を訴える
  • 🌶️ 2019年発売「ジャスティス・リミックスJustice ReMix’d)」:人種擁護団体The Advancement Projectと提携。チョコレートとシナモンのアイスクリームに、シナモンバンの生地とスパイシーなブラウニーを加えたフレーバー
  • ✊🏿 2021年発売「チェンジ・ザ・ワールドChange the Whirled)」:ヴィーガンフレーバー。フットボール選手で人種平等活動家のコリン・キャパニックが協力
  • ☕ 2021年発売「チェンジ・イズ・ブリューイングChange Is Brewing)」:ブラウニーを混ぜ込んだコーヒーフレーバー。パッケージには、黒人女性活動家で米国下院議員のコリ・ブッシュの警察改革法案を支持する黒人経営企業のアートワークもあしらわれた
  • 🍫 2023年発売予定「チョコレート・ラブ・アフェアChocolatey Love A-fair)」。チョコレート会社Tony’s Chocolonelyとコラボ。「カカオ農業における現代奴隷制を終わらせる」ミッションの推進を謳う

Two years after George Floyd

あれから2年

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Photo: ERIC MILLER, 05/26/2022 (Reuters)

ほんの2年前、2020年5月25日に米ミネアポリスで起きた痛ましい事件を覚えているでしょうか。この日、黒人男性ジョージ・フロイドが警察官の手で殺害され、以降、全米でBlack Lives Matter運動が盛んになりました。ミネアポリスの市内の商店では強奪事件が多発し、ソーシャルメディア上にはフェイクニュースもあふれました(被疑者の警察官が熱狂的なトランピストであるとの誤った情報も流れていました)。

こうした流れのなかで、米国では数多くの企業が長年無視してきた人種間の不平等について意見を述べようと試みました。

ペプシコなどの食品会社をはじめとする企業が人種差別的なパッケージやCI、商品名を撤回しましたが、一方でそのメッセージが「偽善的である」と断罪されたケースも。フェイスブック(現メタ)やグーグル、ツイッターはボイコットに見舞われ、従業員によるウォークアウトも実施されました。マクドナルドやスターバックスといったファストフードチェーンは、BLMへの賛同を表明するや「お前が言うな」とばかりにワーカーたちからの手厳しい批判を浴びることになりました。

そんななかで、B&Jは「最も信頼できるBLM支持者のひとつ」として浮上しています。その背景には、それまでに培ってきた社会活動があったといえるでしょう。B&Jは事件の1週間後、6月2日に次のようなメッセージを公開しています。タイトルは「解体すべき白人至上主義〜沈黙なんて選択肢はない(We must dismantle white supremacy: Silence is NOT an option)」とつけられています。以下、引用。

先週、ミネアポリスの警察官によって別の黒人が殺害され、抗議者たちに対する警察の暴力的な対応が続いていることについて、ベン&ジェリーズの社員全員が憤りを感じています。わたしたちは声を上げなければなりません。肌の色のために殺され、疎外され、抑圧された犠牲者たち、そして国中の抗議活動を通じて正義を求める人たちとともに立ち上がる必要があります。わたしたちはジョージ・フロイドの名を掲げなければなりません。

(中略)ジョージ・フロイドの殺害は、白人至上主義の文化によって永続させられた非人道的な警察の残虐行為の結果として起きたのです。ジョージ・フロイドに起こったことは、なにも「毒リンゴを食べたから」ではなく、はなから黒人の身体を敵として扱ってきた人種差別的で偏見に満ちたシステムと文化の、予測できた結果でした。ミネアポリスでジョージ・フロイドに起こったことは、1619年、奴隷にされた男女が初めてこの大陸に到着したとき、ジェームズタウンで我が国の海岸に植えられた有害な種が生んだ果実なのです。

(中略)4年前、わたしたちはBlack Lives Matter運動への支持を公に表明しました。今日、わたしたちは、あらゆる形態の白人至上主義を解体するための具体的な措置をとることが緊急に必要であることをさらに明確にしたいと考えます。


Get to know B.O.D. heroes

B&J四銃士

先週金曜のニュースレターでもふれたB&Jの「ボードメンバー」については、いったいいかなる面子なのかと疑問をもった読者の方もいらっしゃったようです。今夜のニュースレターの最後に、B&Jのサイトから4人の顔ぶれを簡単の紹介しておきます。

  • アヌラーダ・ミタル(Anuradha Mittal):ボードの議長で、別名「Green Goddess」。政策シンクタンクのオークランド研究所の創設者で、開発・人権・農業問題のスペシャリストとして国際的に知られている。2008年2月にボードに参画
  • ダリン・ドッドソンDaryn Dodson):インパクト投資家としての経験をもっており、B&Jでもそのキャリアを背景にしたアドバイザーとして活動。好きなことばは「正義とは、公における愛の姿である」(コーネル・ウィルソン)。2012年に参画
  • ジェニファー・ヘンダーソンJennifer Henderson):公民権運動家として40年におよぶキャリアをもった、通称「Wonderful Woman」。B&Jのオーナーが立ち上げた非営利団体1% for Peace にボランティアとして参加後、1996年にボード参画
  • マシュー・マッカーシーMatthew McCarthy):B&Jの現CEOで、現職に就く前にはユニリーバの北米における食品部門バイスプレジデントを務める。B&Jには2018年に入社

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