Quartz Japanの読者の皆さん、こんばんは。西アフリカ特派員のアレクサンダー・オヌクウエです。
中国は先週、アフリカの17カ国に対して、2021年に返済期限を迎えていた23項目の無利子融資の債務を免除するという財政的な支援を約束しました。
アフリカにとって中国は世界第2位の債権国。今回の債務免除はアジアの大国の、アフリカにとって好意的な長期的な開発パートナーであり続けたいという意思の表れだといえるでしょう。また、この発表の際に中国の王毅外相が言及した「覇権主義や嫌がらせがさまざまなかたちをとって現れているのに、いま直面している」とのことばは、最近物議を醸した米国下院議長ナンシー・ペロシの台湾訪問を暗に批判するものだともいえそうです。
中国の経済成長はいま鈍化しています。同国はアフリカに対する資金提供を、額にして33%削減することも発表しています。
王毅外相は、アフリカに必要なのは「冷戦期のゼロサムの考え方ではなく、友好的な協力環境」であり、「地政学的利益のための主要国の競争ではなく、人びとのより大きな幸福のための互恵的な協力」だとも語っています。
アフリカの指導者たち、特にフランスの影響力の終焉を求めるフランス語圏の国々にとってすれば、李大統領のことばは大いにうなずけるものです。
STORIES THIS WEEK
アフリカで起きている事
- 普及に苦戦するeナイラ。2021年10月に正式に導入されたナイジェリアの中央銀行デジタル通貨(CBDC)「eナイラ」。しかし、1ウォレット当たりの平均取引件数が1.35件にとどまっており、国民からの反応は芳しくありません。
- ナイジェリアで5Gが利用可能に。通信大手のMTNが、ラゴスやアブジャなど7都市で5Gの試験運用を始めました。MTNはナイジェリアで38%のシェアを誇っており、5Gの導入でさらにその勢いを増すでしょう。
- アフリカへのアプローチを変えた日本。日本が主導する第8回「アフリカ開発会議(TICAD)」がアフリカで開催されました。アフリカで存在感を増す中国や欧米に対抗すべく、日本は援助から海外直接投資(FDI)へとアプローチを変えつつあります。
- クラウド上の戦い。アフリカではクラウドベースのサービスの需要が高まっています。しかし、そうしたサービスを提供できるアフリカの企業はほとんどおらず、利益を得ているのは米国企業です。こうした米国への過度な依存は、アフリカの大規模データ資源を利用したデータ植民地主義につながると懸念されています。
- トーゴがサイバー犯罪対策の拠点に。アフリカ域内のサイバー攻撃に対抗するために新設される国連のサイバーセキュリティセンターの設立場所がトーゴに決まりました。トーゴは国としてサイバーセキュリティの強化に力を入れており、「サイバーセキュリティと個人データ保護に関するアフリカ連合条約」の数少ない批准国でもあります。アフリカではサイバー犯罪によって年間40億ドルもの被害が出ていると言われ、新たなセキュリティセンターは犯罪の監視を行ないます。
- 大統領選はハッキングされたのか? ウィリアム・ルトの勝利が発表されたケニアの大統領選について、対立候補ライラ・オディンガは結果を操作するテクノロジーが使われたとする異議申立書を最高裁判所に提出しました。
- ワヌリ・カヒウのハリウッド・デビューは成功。レズビアンのラブストーリー『ラフィキ:ふたりの夢』で知られるケニア出身の映画監督ワヌリ・カヒウが、Netflixで初の監督デビューを果たしました。8月17日に公開された彼女の最新作『Look Both Ways』は、Netflixの『今日の総合TOP10』世界ランキングで2位、ケニアやカナダ、ボリビア、スウェーデン、イギリスを含む61カ国で1位の座に就いています。
DEALMAKER
今週の注目ディール
企業向けにサブスクリプション管理プラットフォームを提供するエジプトのスタートアップSubsBaseが、シードラウンドで240万ドル(約3億3,254万円)を調達しました。ラウンドはGlobal Venturesが主導し、HALA VenturesやPlug and Play、Ingressive Capital、Camel Venturesが参加しています。
SubsBaseは2021年以降、前月比200%のペースで成長を遂げており、今回の資金調達は拠点となる中東・北アフリカ地域での成長に使われるということです。
THE CASE STUDY
今週のスタートアップ
- 企業名:Tibu
- 本社所在地:ナイロビ(ケニア)
- 分野:ヘルスケア
ナイロビに拠点を置くヘルステック・スタートアップのTibuは、在宅の医療相談や250以上の疾患に関する臨床試験、COVID-19の検査、ワクチン接種などを提供しています。カップルや妊婦、ミレニアル世代、高齢者などに合わせた医療パッケージも揃えており、サンプルの収集や検査を簡単にする独自の医療キットも開発中です。
パイロットフェーズを経て2020年初頭に正式に創業したTibuは、主にケニアの中産階級にサービスを提供しています。独自の検査インフラをもち、医師や臨床担当者、検査技師などの医療従事者を擁しています。
最高経営責任者(CEO)のジェイソン・カーマイケル(Jason Carmichael)と最高技術責任者(CTO)のピーター・ギチャル(Peter Gicharu)がTibuのアイデアを思いついたのは2016年のことでした。公衆衛生学と疫学で大学院の学位を取得したカーマイケルは、アフリカ医療研究財団(Amref)や世界保健機関(WHO)などの組織でケニアやセネガル、コンゴ民主共和国、フィリピン、モーリシャス、ボツワナに赴任し、世界の医療システムが抱える課題をその目で見てきました。そして、医療制度が患者や医療従事者にとっていかに不透明なものになりうるかを痛感したといいます。
「抗生物質をもらうために5時間も待たなければならないのは異常です」と、カーマイケルは公共医療施設での一般的な待ち時間について話します。さらに、専門医でさえ急患の多い病院で働かなくてはならないがために、スキルを十分に発揮できないとも指摘します。
Tibuは競争力のある価格設定をしており、診察や検査の料金は私立病院に比べてほんの少し安くなっています。例えば、COVID-19のPCR検査の場合、私立病院のナイロビ病院では6,000Ksh(約6,883円)であるのに対し、Tibuの在宅検査は5,950Ksh(約6,826円)です。
最近、Tibuは慢性疾患をもつ患者向けの特別なパッケージを展開し始めました。糖尿病やコレステロール、高血圧、HIV、関節や筋肉の痛み、喘息、アレルギーなどの管理をサポートしています。Tibuはケニアの保険会社4社を含む12の保険会社とパートナーシップを結んでおり、加入者はTibuの医療サービスを利用できるということです。
また、Tibuは企業向けの健康・ウェルネスサービスも提供して事業を拡大しています。全体で見ると、B2BのビジネスがB2Cを抜いて最も同社の利益に貢献しているとカーマイケルは考えています。
Tibuは2021年のシードラウンドでBlue Haven InitiativeとKepple Africa Venturesから100万ドル(約1億3,766万円)弱の資金を調達しました。なお、Kepple Africa Venturesは以前にもTibuに投資しています。Tibuは医師やサポートスタッフの増員や技術の向上、事業開発や営業力の強化などのために、2022年にも資金調達を予定しています。
「需要に追いつけていないので資金調達をしています」と、カーマイケルは言います。同社はいずれ、他の東アフリカ諸国を始め、大陸全体に展開する計画です。
IN CONVERSATION WITH
- 👩⚕️TibuのB2Bサービスを利用する企業が増えていることについて:「企業はウェルネスと生産性に関係があると考えています。不健康な従業員を抱えることは大きなコストなのです。健康とウェルネスへの投資を収益への投資と考える企業が増えています」
- 📊 顧客のデータをどう守るか:「わたしたちのプラットフォームは、2019年のデータ保護法(ケニア)とGDPRの両方に準拠しています。患者データへのアクセスはファイアウォールで制限しており、CEOの私でも見ることができません」
- 💸 ケニアの医療の効率化について:「わたしたちは時間と資源を節約するために、医療サービスの提供方法を再構築しています。時間と資源の使い方を間違えれば医療費が増えます。患者はもちろん、医療従事者にとっても不便です」
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