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✏️ 必須科目はサプライチェーン

パンデミック以降、数多のメディアに「サプライチェーン」ということばが溢れかえりました。そしてそれは、MBAの世界でも。学生が、企業がその知識を求めています。9月30日まで、平日夜のニュースレターでは、これまで通り気候変動やアフリカのニュースのほか、この3年で起きたグローバルビジネスの大転換を振り返る内容をお送りしようと思っています。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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「サプライチェーンマネジャー」にとって、2021年は自分たちの仕事が一躍脚光を浴びるようになった年でした。

これまで彼らが営んできた仕事は、華やかな世界とはほど遠い、無味乾燥なものでしかありませんでした(「本船動静? 在庫管理? それってなんですか?」)。しかし、その評価は2021年に一転します。あらゆるメディアにおいて「輸送網の大混乱」「行き詰まる港」「スエズ運河で立ち往生する船」といったことばが見出しを飾るようになりました。

サプライチェーン」ということばは、もはや小難しい専門用語ではなくなりました。それどころか、プレゼントでいっぱいのクリスマスを迎えられるかどうかの決め手となるまでになったのです。

Image copyright: NOAH BERGER

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学びたい人、急増

世界的なサプライチェーンの危機は、ビジネススクールにも大きな影響を与えることになりました。ペンシルバニア州立大学MBAスミールのサプライチェーン学科(supply chain department)で学科長を務めるケビン・リンダーマン(Kevin Linderman)は、次のように語っています。

「これは数年の実務経験を経て初めて理解できるトピックで、学生にとっては到底理解できない知識だった。しかし、いまやニュースで取り上げられるようになっている。サプライチェーンは辞書にも載るようになった。学生、特に学部生は、それが何であるかをある程度理解して入学してくる

「サプライチェーン学」にはその他の専門領域──例えば金融の“儲かりそうな感じ”もなければ、マーケティングの“イケてる”感じとも無縁です。しかし、この分野にいま、陽の当たる瞬間が訪れています。リンダーマンのような管理側の人間からすると、企業からだけでなく学生からもこのコースの重要性が認識されつつある状況は、とても好ましいものだといえます。

2020年、スミール校の場合、学部生が専攻を決める際にサプライチェーンマネジメント(SCM)を選んだ学生の数は前年比20%増でした。マサチューセッツ工科大学(MIT)の場合で言うと、交通・物流センター(Center for Transportation & Logistics)内の同学科で2022年5月に卒業予定のクラスの60%以上が、2021年末の時点ですでに内定を獲得しています。

ちなみにこのMITの内定者数ですが、2019年は55%で2020年は29%でした。

2020年に数字が落ち込んでいることについて、MITのSCMの修士課程で事務局長を務めるマリア・ヘスス・サエンツ(Maria Jesus Saénz)は、COVID-19の感染が拡大した最初の1年ほどは、入学希望者が新しいコースにお金をかけることを躊躇ったため入学者数が不安定だったと説明しています(「不確実性を考慮して」)。この時期、企業も採用を控えていました。しかし、「いまでは学生も、企業も来てくれる。サプライチェーン崩壊はもう二度と起きないだろうと、誰もが確信しているようだ」と語ります。

Image copyright: CNES/AIRBUS DS

Brief History

古くて新しい学問

「サプライチェーンマネジメント(SCM)」ということばの歴史は、そう古くはありません。1982年に、米老舗コンサルのブーズ・アレン・ハミルトン(Booz Allen Hamilton Inc.)のコンサルタントが生み出したものだとされています。

もっとも、この分野、とくに学問領域としてのSCMを表す名称はそれより昔から存在しています。シラキュース大学では1921年に「トランスポーテーション(Transportation)」という名の専攻が創設されており、同じ内容を扱っていました。

とはいえ、1990年代に入ってもサプライチェーンという言葉は一般的ではなかったと、ASCM(Association for Supply Chain Management)の最高責任者であるエイブ・アシュケナージ(Abe Eshkenazi)は語ります(ACMはSCMの専門家団体で、認定資格の「APICS」を提供するなどの活動を行っている)。当時は「オペレーションズマネジメント(operations management)」や「ビジネスロジスティックス(business logistics)」と呼ばれていた、とアシュケナージは振り返ります。「学問としてサプライチェーンを扱う学校は、世界でもせいぜい6、7校しかなかった」

しかし、製造業のアウトソーシングが進みビジネスのグローバル化が進むにつれ、複雑なサプライチェーンへの対応は不可欠なスキルとして認識されるようになりました。「いまでは、500校以上がサプライチェーンプログラムを提供している」とアシュケナージが言うように、2014年から2016年にかけて、サプライチェーンプログラムの上位25校の入学者数は、8,500人から1万2,200人へと急増したのです(ガートナー社のランキングによる)。

にもかかわらず、ほんの数年前まで「わたしたちが何を生業としているのか、誰も理解していなかった」とアシュケナージは語ります。「わたしが『サプライチェーン』と言ったところで、『サプライ……なに?』って具合。ようやく日の目をみたといえる」

ただし、これは今回の危機によるものではなく、パンデミックが起こる以前の世界でもサプライチェーンの専門家の重要性は高まっていたともエシュケナージは付け加えます。そして、いま危機の真っ只中におかれているものの「企業はサプライチェーンの専門家をすぐに雇うことはできない」とも。

Everybody wants a czar

サプライチェーン王求む

2021年、スミール校では、ビジネス関連の学位の専門分野ごとに、面接の回数をはじめとする企業・学生の交流を人数で数値化しました。それによると、サプライチェーンでは約1,600人だった一方で、その他の分野では約500人程度だったそうです。

前出のMITのサエンツは、学生を採用しようと訪れる企業の種類にも変化があると指摘しています。消費財メーカーEV(電気自動車)メーカー、あるいはテック系企業が増えているというのです。なかにはサプライチェーン分析を専門とするコンサルティング会社のほか、スタートアップも数多く名を連ねているようです。「こうした企業は、サプライチェーンにおける中間的な業務、例えばサプライチェーンにAIのアプローチを導入するためのコンサルティングを行っている」とサエンツは指摘します。

Image copyright: BRENDAN MCDERMID

もっとも、2021年になって、複数の企業がSCM研修やMBA取得のために従業員を派遣するのを中止したとの指摘もあります。その例として、6〜9カ月のASCMトレーニングモジュールへの参加費用を負担する企業数は実際に減少していたようです。アシュケナージは、「スキルアップの必要性を感じている受講者もいて、彼らは直接ASCMを訪れ、自費で受講している。その数は増加している。企業が財務状況を理由に、専門家育成の機会を削減しているというのは、悪いニュースの兆しを見る思いだ」と語ります。

そして2022年初頭には、COVID-19の変異株が発生しサプライチェーンに新たな懸念を引き起こすことになりました。パンデミックが収まったとしても、そして物流の混乱が収まったとしても(ええ、確かにいずれは収まるものです)、企業が原材料を調達し製品を出荷するためにより強固なネットワークを構築する必要性があることに変わりはありません

サエンツは言います。「『君たち、わたしは重要な存在だよ。わたしのことを忘れて弾力性をもたせることを怠れば、また同じことが起こってしまうよ。そのとき苦しむのは、君たちなんだよ』。サプライチェーンは、きっとそう言っていますよ」


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