🕯 欧州に「冬来たる」

9月9日、EU各国のエネルギー担当相がブリュッセルで会合を開き、「この冬に自国を暖めるにはどうしたらいいか」という切実な問題について議論し、懸念を表明しました。
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Illustration: Quartz

9月9日、EU各国のエネルギー担当相がブリュッセルで会合を開き、「この冬に自国を暖めるにはどうしたらいいか」という切実な問題について議論し、懸念を表明しました。

ガス代が高騰するなか、ロシアはヨーロッパへのガス供給を絞っており、エネルギー会社が利益を上げる一方で消費者は苦しんでいます。数カ月後には、光熱費が高騰するあまり、都市は停電に見舞われ、工場は操業停止や閉鎖を余儀なくされるかもしれません。

9日の会議での結論は、「結論はない」というものでした。新たな対策は提案されず、ロシア産ガス価格に上限を設けるという既存のアイデアについても、実質的な進展はありませんでした。

しかし、これは驚くべきことでもありません。EUは複雑な組織であり、落としどころを見つけるのは常に困難です。「(EUに加盟する)27カ国はエネルギー構成が全く異なり、地理的位置、つまり夏や冬が暑いか寒いかも全く異なり、そして、相互関係も全く異なる」。イタリアのエコロジー移行担当相であるロベルト・チンゴラーニ(Roberto Cingolani)は、ブリュッセルでこう述べています。

しかし、事態は急を要しています。エネルギー調査会社のライスタッド・エナジー(Rystad Energy)によると、8月はヨーロッパで過去最も電気代が高い月となりました。8月29日、ヨーロッパの電力指標であるドイツの1年物電力先物価格がメガワット時あたり1,000ユーロ(約14.4万円)を超え、過去10年間の通常レートの10倍以上に跳ね上がりました。(『Game of Thrones』ではないですが)まさに「冬来たる」、です。

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Graphic: Quartz

今後数週間は、さまざまな動きが続きそうです。英国の新首相としてのリズ・トラスの最初の動きのひとつは、家庭のエネルギー料金支払い額を年間2,500ポンド(約41.3万円)に制限することでした。

EUの首脳も、ガスと電気の価格を分離する計画を練っています。その場合、英国のように、ガスの実質的な市場価格と電力・暖房市場でのガスの価格設定との差額を政府が負担する案などが想定されています。また、各国政府は、低所得世帯や重要産業の利用者への請求額を削減し、高いエネルギーコストを相殺する可能性もあります。

価格に上限を設けることで、リスクも生じます。事実上、化石燃料への補助金となり、化石燃料の消費を抑制するインセンティブが失われ、クリーンエネルギーに対してガスが不公平な優位性をもつことになるためです。しかし、その代わりにもたらされる結果が停電、冷え込んだ建物、工場の閉鎖を伴うのであれば、ヨーロッパはそのリスクを負わなければならないかもしれません。


CONSIDER THE MARKET

電力市場の盲点

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Photo: ODD ANDERSEN (Getty Images)

通常、供給不足でガス価格が上昇すると、他の供給者がそのギャップを埋めるために参入してきます。これは、ヨーロッパでもある程度起きていることで、米国やエジプトといった輸出国からの液化天然ガス(LNG)の出荷が急増しています。

しかし、ヨーロッパには、失われたロシアのパイプライン輸送を完全に補うだけのLNG輸入能力はありません。また、価格がどれだけ高騰したとしても、新しいサプライチェーンや代替エネルギーシステムを、少なくともあと2〜3年でこの問題を完全に解決できるほどの速さで構築することはできないでしょう。

これは、電力市場の仕組みに起因するもので、電力利用者に影響を与える問題です。ヨーロッパの送電網は、ガスや原子力、石炭火力発電所、風力発電所、太陽光発電所などの発電事業者から入札を募り、必要な電力を販売しています。発電事業者は、生産コストの安い順に列に並ぶことになります。

つまり、発電コストの安いものから販売され、そこに発電コストの高いものが続き、需要を満たすまで販売され続けるのです。ガス価格が高騰しているため、通常は自然エネルギーからまず販売され、ガス発電所は優先順位が後になります。

その日の卸売電力価格は、最もコストが高く、列の最後に並んでいた発電事業者(たいていの場合はガス発電所)に連動します。この仕組みにより、最もコストの低い発電事業者が最大の利益を得ることができるため、生産コストを下げるインセンティブが働くのです。一方で、電力利用者はコモディティ市場の変動にさらされることにもなります。

こうした動きは普段、ほとんど顕在化することはありませんが、地政学的な混乱を引き起こそうとする独裁者が電力事業を運営している場合は別です。市場は高騰する電力価格を修正することができず、たとえば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のような人物に、ヨーロッパ経済の足を引っ張る力を与えてしまうのです。


BY THE NUMBERS

数字でみる省エネ対策

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Photo: Sean Gallup (Getty Images)

ヨーロッパで最もシンプルな省エネ対策は、電力を使う照明の無駄遣いを減らすことです。現在、政府や企業は、特に夜間について、街灯やモニュメント、オフィス、店舗などの照明を消したり、暗くしたりすることに躍起になっています。

電気代を常に気にしている貧しい国々では、この習慣が根付いています。しかし、欧米ではLEDの普及に伴い、照明がエネルギー料金に占める割合が小さくなっています。その結果、電力を無駄遣いする習慣が生まれ、現在のような危機的状況下では、すぐに電気コストが支払えなくなるのです。

以下のデータは、リンク先を除き、フランスのトゥールーズ大学の物理学者であるGeorges Zissisによるものです。

  • 13~14%::世界のエネルギー使用量のうち、照明に充てられる平均的な割合
  • 86%:タンザニアのエネルギー使用量に占める照明の割合。ドイツでは9%
  • 12億トン:1年間に照明に使われる電力から排出されるCO2。自動車の約2億8,000万台分に相当する
  • 300億:全世界で使用されている照明
  • ~45%:世界の照明に占めるLEDの割合。2010年の1%未満から増加した
  • 4万9,000:1時間に点灯する電球の個数。ドイツ銀行が、夜間の消灯などで節約したいと考えている電力量に相当

ONE 🇨🇳 THING

ちなみに……

欧州がガス不足にあえぐ一方で、中国の化学セクターが隆盛を極めています。関連するETFは3.5%以上跳ね上がり、国有企業シノケム(Sinochem、中化集団)の株価は10%以上上昇。他の化学会社数社も、2桁の株価上昇を記録しました。

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Graphic: Quartz

欧州、特にドイツの化学工場が、エネルギー流通の先行きが不透明ななかで生産を減速・停止を余儀なくされる一方で、中国の化学企業は短期的には輸出を増やし、長期的には生産能力を高められるというわけです。あるアナリストは、「東では太陽が昇り、西では雨が降っている」と表現しています。


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