21日に開幕した第77回国連総会が続いています。その会期中も、多国間主義(マルチラテラリズム)に対する信頼は高まっています(ただし、マルチラテラリズムにはさまざまな困難や広範な批判も寄せられています)。
多国間主義の熱心な支持者としてまず名前が思い浮かぶのは、元国連副事務次長のマーク・マロック・ブラウンでしょう。彼は、40 年以上にわたって自身のキャリアをこの問題に捧げてきました。
世界銀行、国連開発計画(UNDP)、国連財団でのキャリアのほか、2007〜09年まで英国でアフリカ・アジア・国連担当相を務めたマロック・ブラウンは、現在、著名投資家のジョージ・ソロスが設立したオープン・ソサエティ財団の会長を務めています。Quartzは国連総会に合わせてインタビューを実施。今日のニュースレターでは、その一部を紹介します。
Quartz:ダボス会議でお会いして以来ですが、あなたが関心をもって取り組んでいる問題のうち、多国間制度によって前進したと言えるものはありますか?
ブラウン:多国間主義は、「A」評価こそ少ないものの、ある程度の合格点は取れていると思います。ウクライナ産の穀物取引への国連事務総長の仲介は非常に影響力がありましたし、ウクライナの核施設に国際原子力機関(IAEA)の調査団が入ったことも重要でした。
いま、われわれが目の当たりしているのは、ロシアとウクライナの紛争が起こった当初に比べて積極的かつ活発に関与するようになった国連の姿です。また、ブレトンウッズ体制(第二次世界大戦後に確立した金ドル本位制)も、同様に重要な経済的側面に向けて進んでいます。
結果から見ればよくやってきたといえるでしょう。ただ、その原因に対しては、まったく関与できていません。安全保障理事会での同意が得られないため、国連は原因となる事態の解決に取り組むことができないのです。
つまり、人道的な問題には積極的で、核兵器や核施設の査察のような技術的な任務にも積極的ですが、主要国の間でコンセンサスが得られていないため、政治の中枢には立ち入れないという「冷戦型」国連として形成されてきたのです。
かすかな希望の光は、国連安保理改革に関するバイデンのある種の「転向」です。この問題では常に最もかたくなだった米国が、突然、改革に美徳を見出すようになりました。
それは、ロシアのウクライナ侵攻が理由でしょうか?
まさに。この問題は、安保理改革の残り火をかき立てる役割を果たしました。そこから火がおこるかどうか、世界が変わるかどうかはわかりませんが、端的に言えばこれは良いことです。
あなたはいまも、多国間主義を信じていますか?
ええ。なぜなら、たとえ不完全な結果に終わっても、国家的な解決策に適さない問題に対処する唯一の真剣な方法であることに変わりはないからです。
ある意味で、多国間主義を支持する声はかつてないほど高まっているように見えますし、その理由のひとつは、非常に多くの国が、強硬で現実から目をそむけるようなアプローチをとってきたことにあります。そしてもちろん、こうした各国政府のアプローチが、多国間主義の危機を招いてきたのです。
多国間主義とは、悪しき国家政府の代替物ではありません。政府同士の関係性を示すものです。各国政府は価値観やアプローチを共有することが必要で、互いに共通項を見出せた場合には、共通の解決策を推進するために協力していく必要があります。
多国間主義によって解決するのに最も適した問題は何でしょうか?
今週、わたしが行ったことのひとつは、太平洋諸島の会議で、沈みつつある島々が受けている壊滅的な影響について話し合うことでした。彼らは非の打ち所のない気候認証を受けており、完全にパリ協定の範囲内で生活をしています。しかし、気候変動を引き起こしているのはわたしたち(地球全体)の排出量なのです。
世界の人びとの目を覚まさせ、文字通り地球の反対側の島々に住む人びとに対して自分たちの活動がどのような影響を与えているのかを意識させることは、非常に難しいことです。しかし、島々から始まったこうした影響は、やがてアパートが浸水するといった形でニューヨークのような場所に及ぶことになります。
このようにすべてがつながっており、被害が拡大していくなかで、ある国が事態に対処しようとしてもそれは自国の枠の中だけでは成り立ちません。たとえば、米国が国内でジョン・ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)の望むことをすべて行ったとしても、世界中が行動を起こさない限り、ニューヨークやフロリダの沿岸部に脅威が及ぶことになります。
その点では気候も例外ではありません。移民の流れや世界経済の状況に対処するにしても、こうしたことはもはや国家単位で厳密に解決するには適していないのです。
GOOOOOOALLLLLLLLL
国連目標の達成度
2015年、国連加盟国は、「持続可能な開発目標」に合意しました。これは、2030年までに貧困を減らし、不平等と戦い、気候変動を止めることを目的とした、一連の野心的な目標です。国連総会で、Quartzはそのうちのいくつかについて進捗状況を調べました(結論から言うと、全体的にあまり良い結果ではありませんでした)。
17の目標のうち、最初に掲げられたのは「貧困をなくす」ことです。シンプルですが野心的なその目標は、あらゆる場所であらゆる形態の貧困をなくすことです。最近まで、貧困の減少に関するトレンドは良好でした。極度の貧困状態にある人びとの割合は、1990年の36%から2015年には10%に減少しています。極度の貧困とは、国際貧困ラインである「1日1.90ドル」以下で暮らす人びとのことを指します。
しかし残念ながら、新型コロナウイルスはその歩みを逆行させてしまいました。予測によると、世界の貧困率は2019年の8.3%から2020年には9.2%に上昇し、1998年以来初めて上昇に転じました。この急上昇は、パンデミックのために、世界で新たに9,300万人が貧困に陥ったことを意味しています。
新型コロナは、別の目標である「質の高い教育」にも影響を及ぼしました。世界的なロックダウンにより、約1億4,700万人の子どもたちが対面での教育を受けることができませんでした。そのため、学習の貧困、つまり10歳までに基本的な文章を読んで理解することができない子どもの割合は、世界のあらゆる地域で増加しています。パンデミック以前は、低・中所得国での学習貧困率は57%でした。予測によると、現在では70%に達しています。
もちろん、学習貧困だけが目標の達成度を測る方法ではないのですが、他の指標についてもあまり良い結果とは言えません。たとえば、少年少女の数学と読解の習熟度は、2030年の目標を達成するために必要なレベルに達しない状態が続いています。
BILL CLINTON SEEMS…
クリントンのメッセージ
多弁なことで有名な米元大統領のビル・クリントンは、6年ぶりに国連総会に合わせて会合を開催したクリントン・グローバル・イニシアチブ(CGI)でのいつになく短い基調講演の中で、緊急性のある問題が何かを特定するためだけの議論はもう十分行われてきた、と述べました。「わたしたちは、課題に取り組むのに最も効果的な方法は何かということすら、もうわかっている」とクリントンは語っています。
ミッドタウンのヒルトンの巨大なボールルームに集まったCGIの聴衆に向かって、クリントンが投げかけた問いかけは、解決のための多くの優れたアイデアを、いかにして真の変化に結びつけるか、というものでした。「この“How”に答えられない限り、他のことは意味をなさないと思う」とクリントンは述べました。
彼はまた、膠着状態や二極化がこうした努力を圧倒してしまいかねないと警告しました。「やるべきことは、良いことを実現するために、他の人と協力する方法を考えることだけだ。それ以外のことはもう十分やったと思う」
CGIの会合に参加した人びとは、ランチビュッフェの皿に味噌を塗った豆腐や古代の穀物のサラダを律儀に(場合によっては喜んで)載せたり、あるいは、世界をより良くするために何百万ドルもの寄付を表明したりと、大小さまざまな形で応えました。しかし、各国の代表団がマンハッタンを去った後も、この勢いは続くのでしょうか?
有名シェフのホセ・アンドレは、非営利団体「ワールド・セントラル・キッチン」(World Central Kitchen)を通じて、戦争や自然災害に見舞われた人びとに食料を提供し、世界で起こる災難に対応する重要な存在となっています。彼は、こうした活動の勢いを持続させるために、クリントンの「お墨付き」が助けになったと話しています。
クリントンは大統領時代、演説でアンドレの名前を挙げたことがあります。「わたしは当時、26歳でした」。53歳になるシェフは、まだ現在のような著名慈善家ではなかった当時のことをこう振り返っています。「あの機会があったからこそ、『わたしたちにはまだできることがある』と言えるようになりました」。
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