昨日配信したニュースレターでビル・ゲイツも言及していた「持続可能な開発目標」(SDGs)。2030年に向けて設定された「ゴール」について、果たしてどれだけ達成できるかと問われれば、現状は決して芳しくはありません。
一方でSDGsには、社会問題や地球環境問題を可視化したという点で大きな意味があるともいえます。「貧困」や「飢餓」、「健康」に「福祉」、さらには「平和」といった世界の諸問題をデータ化し、現状を明示し目指すべき数値目標を設定することを可能にしたのです。
もっとも「データ」と一口に言っても、国や地域によってその内容や規模、収集方法は実に多種多様であり、基準も大きく異なります。
そこで登場するのが、「持続可能な開発データのためのグローバル・パートナーシップ」(@Data4SDGs)です。これは世界280団体以上の組織や研究機関からなるネットワークであり、各国のデータの質と量を高め、SDGsの達成度を国際的に比較できるようにするための努力を地道に行っています。
今夜のニュースレターでは、その道のりや成果の一部を紹介します。
By the Digits
数字でみる
- 231個:SDG指標の総数(複数の目標に重複している指標を除く。2022年9月現在)。日本では、2022年6月現在で[4. 教育][9. インフラ、産業化、イノベーション][16. 平和][の3項目が良好であり、[5. ジェンダー][12. 持続可能な消費と生産][13. 気候変動][14. 海洋資源][15. 陸上資源][17. 実施手段]の6項目で大きな課題を抱えている
- 6,000万ドル:世界銀行が2022年3月にアンゴラ共和国の統計能力を改善するために提供した資金の総額。世界銀行が各国の統計当局を対象に今年行った国際調査によると、回答者の80%が行政データと地球空間データの整備への資金提供を最優先課題として挙げた
- 21位:2019年のデータに基づいて世界銀行が算出した統計パフォーマンス指標(SPI)における日本の世界ランク。統計能力指標(SCI)が主に発展途上諸国のみを対象としているのに対してSPIでは先進諸国が含まれており、GDPが高いほど、SPIも高くなる傾向があると世界銀行の専門家チームは分析している
- 2,000万人:2018年の時点で「極度の貧困に関するデータが得られていなかった人びと」の推計総数。一般的にはデータがない国や地域に関しては周辺地域のデータの平均値が暫定的に用いられる場合が多いが、これは世界の貧困者数を下方修正してしまっている可能性があると世界銀行の統計チームは指摘している
Tally and Rally
数える、集める
2015年にミレニアム開発目標(MDGs)からSDGsへの移行が行われた際に、国連加盟諸国は人間生活のさまざまな分野での進歩を計るための新しい指標群の整備に着手しました。これが「SDG指標」です。
SDG指標の多くは質・量ともに不十分な状態にあったため、同年にはデータ収集のための能力の大幅な向上やそのための大規模な資金提供の必要性が確認されました。その後2017年に「持続可能な開発データのためのケープタウン世界行動計画」が採択され、データの改善がSDGsの中心的な目標として正式に掲げられます。
データの質と量を把握するために、SDG指標は3つの「Tier」にレベル分けされています。
- Tier I:概念として明確であり、国際的に認められた方法論や基準に基づいており、指標に関連する地域に存在する国や人口の50%以上に相当する国々(*)による定期的なデータ収集が行われている。※「指標に関連する…に相当する」という文言は2016年当初はなく、のちに追加されています
- Tier II:概念として明確であり、国際的に認められた方法論や基準に基づいているが、かかる国々による定期的なデータ収集が行われていない。
- Tier III:国際的に認められた方法論や基準に基づいていないが、かかる方法論や基準の開発や検定が進んでいる(あるいは将来的に進められる予定である)。
Tierシステムが確立された2016年12月の時点では、計230個の指標のうち83個が、「開発中」のTier IIIに分類されていました。その後、データ収集のための能力向上やデータの整理が国際的に進められ、2020年3月にはTier IIIのカテゴリーそのものが廃止。2022年6月の最新状況では、計231個の指標のうち約60%がTier Iに分類されるまでに進んでいます。
過去6年間におけるデータの大幅なレベルアップやTier IIIの廃止は、世界各国が協力してSDG指標の質と量を向上させてきた成果だといえます。
Unsung Heros
縁の下の力持ち
SDG指標の集計結果を土台としつつ、今年の6月に『持続可能な開発(SD)レポート』2022年版が国連から発表されました。そこでは「SDGs達成のための世界規模の資金提供」が中心的な課題の一つとして位置づけられました。具体的には、次の5つの対策が解決策として提案されています。
- G20が発展途上諸国へ現在よりもはるかに大きな資金フローを約束する
- G20主導で国際開発金融機関(MDBs)の融資能力を飛躍的に上げる
- G20が政府開発援助(ODA)、大規模慈善活動、そして債務の建て直しといった分野へ支援を拡大する
- 国際通貨基金(IMF)をはじめとする信用格付機関は、将来的な成長を勘定に入れつつ、債務の持続性の定義を見直す
- 発展途上諸国は債務管理や信用力を改善していくために、借入政策を税制政策や輸出政策、そして流動性管理と一体化させる
こうした主張が説得力をもつ背景には、先進諸国の活動による発展途上諸国への悪影響、「スピルオーバー」の度合いがSDG指標によってしっかりと可視化されているという事実があります。
Still Counting
まだまだ数える
コロナ禍以降、リアルタイムデータに対する需要が高まる一方、従来のデータ収集方法に大きな制限がかかりました。
こうした課題を乗り越えるために、SDG指標に関連した諸機関は世界各国の政府と協力し、さまざまな工夫を行いました。その実例の一部を『SDレポート』2022年版から紹介します。
- 🇹🇭🇵🇭 タイ&フィリピン:貧困の度合いをより正確に把握するために、この2つの国では当局が世帯調査や人口調査に加えて地球観測(EO)データを使いました。関連して、全球農業監視イニシアティブ(GEOGLAM)はEOデータをもとに月ごとの「作物モニター報告」を作成しています。これは発展途上諸国が収穫期に先立って予測を行う上で広く利用されています。
- 🇬🇭 ガーナ:海洋ごみの問題の把握の一環として、ガーナの統計局は2020年に公共機関やNGOなどの組織と連携しつつ、データ収集の市民科学モデルを導入しました。一例として、一般の人々が自分で拾った海洋ごみを入力できるアプリ「Clean Swell」のデータが活用されました。このような努力のおかげで、ガーナは2021年に初めてSDG14.1.1b(プラスチックごみの密度)を報告できるようになりました。
- 🇨🇴 コロンビア:SDG16.b.1(過去12ヶ月でハラスメントまたは差別を受けたと感じる人の割合)とSDG16.7.2(意思決定が包摂的かつ応答的であると感じる人の割合)に対して、コロンビア国家統計庁はFacebook上での国民のやりとりを収集して活用しました。国民の間での差別の度合いを見極めることで、このデータは2つの指標の基準値(ベースライン)の設定に役立ちました。
One 🌀 Thing
ちなみに…
データの有無は時として人の生死を決めることもあります。世界各地の気象観測所や関連施設は、過去のデータをデジタル化し、既存のデータを広く共有することで、天気予報や気候予想の精度を上げてきました。世界気象機関(WMO)によると、特にマルチハザード(複合的な危険)に対応した早期警報システムは、干ばつやサイクロンなどの極端気象から人の命を守る上で中心的な役割を果たしてきました。
もっとも、WMO加盟193カ国のうち、こうしたシステムをもっている国は約半数しかありません。WMOが2020〜23年の期間を対象に発表した戦略的計画では、低開発国や小島嶼開発途上国における「環境サービスの能力ギャップを埋める」ことが5大目標のひとつとして掲げられています。
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