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Asian Explosion
爆発するアジア
Quartz読者のみなさん、GWをどのように過ごしていますか? 武漢に住む友人が私にWeChatメッセージを送ってきたのは4月中旬、武漢が2カ月以上にわたる都市封鎖が解除された1週間後のことでした。
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「封鎖の期間を、無駄にしないでください。私たちは今、それが自分の人生のなかでいかにユニークな時間だったかを実感しています」
そう書いた友人のアリシア・チェンからのメッセージを受け取る1週間前、彼女がニューヨークに住む私に送ってきたメールは、マスクが必要かどうかを尋ねる内容でした。その3週間前には、私は彼女をはじめ中国の友人たちにマスクを送り届けていたというのに。世界が様子を変えるスピードの、なんと早いことでしょう。
私たちは、より先に新型コロナウイルスを食い止めようとした中国の人々から、多くのことを学べるはずです。政府からでもなく、マクロ経済からでもなく。
中国語には「前车之鉴(前車の覆るは後車の戒めなり)」という表現がありますが、これこそまさに今、適切な言葉でしょう。幸いなことに、私たちは彼らの経験から学ぶことができるのです。
今日は、かつては同僚としてニューヨーク市に住んでいたアリシアとともに、世界のコミュニティに、このロックダウンの期間をどう活用するのがいいかをお伝えしたいと思います。
5 Lessons from Lockdown
5つのレッスン
① 儀式は安心感を生む。
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武漢での都市封鎖が2週目の終わりを迎えるころ、この封鎖がすぐには終わらないことは、アリシアとその両親の目にも明らかでした。
私自身も、中国の多くの友人や仕事関係者と電話で話をしていて、彼らがいつ終わるとも知れぬまま身動きがとれないことに気づいた途端に“感情的な閉所恐怖症”に陥ったと耳にしました。
人が不安に思うのは“未知”の世界であり、自分たちではコントロールできない、あるいは予測できないと感じることです。
これを早く突破できた人たちが見出したのが、ルーティンをつくることです。
たとえばアリシアの場合は、こんな感じです。「朝8時半に母と一緒に朝食をとり、昼食後に1時間読書をし、夕食後に運動をすること」。予測を可能にすることが、他でもない安心感を生み出していたと言います。
日課は安全な毛布のようなものであり、人に“コントロール可能である”という感覚を与えてくれます。
「運動は正気を生み出す」とメッセージを送ってくれたのは、ある重慶の友人です。私は、封鎖中の中国でブームとなったアプリKeepを使って、友人のアクティビティをフォローすることにしました。運動がもたらす規則性とポジティブな生化学的衝動は、多くの人にとって強壮剤となりえます。デジタルで活動を共有することで、つながりも生み出されるのです。
②あたりまえに迷う人こそ、幸いである。
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「同じことがまた起きるとしたら、自分でコントロールできることだけに集中して、ニュースのサイクルに引きずられないようにするでしょう」
武漢でのCOVID-19のピーク直前、人々は悪いニュースの嵐に見舞われていました。私が話をした多くの人々が、「揪心」(「心配する」の意味で、字義的には「心を引っ張る」こと)という言葉を使っていました。
アリシアもまた、悪いニュースのなかで孤立と無力さを感じていたと言います。SNSやニュース番組、WeChat上での友人、家族との絶え間ない話や噂の交換に取りつかれていたのです。
一方、アリシアの57歳になる母親がとったのは「佛系」と呼ばれるアプローチでした。家族のなかで彼女が最初に、ニュース摂取量を真剣に制限したのです。チェンさんが市民ジャーナリストやblogosphereのアカウントに夢中になっている間、彼女の母親は、自分でコントロールできることに集中すると決めました。
「私がパニックになっている一方で、母親は友人とオンライン麻雀をしたり、家族のレシピをメールしたり、本を読んだりしていました。いずれにしたろ、『家を出られずにいる』という結果に落ち着くほかなかったわけですが」
その後、アリシアは友人とともに資金を調達し、医療用マスクを探し、医療従事者に食べ物を届けるアクションをとることにしました。
③ 大切な人と喧嘩したときは、できるだけ抱きしめてあげる。
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常に身体的な距離が近いと、摩擦が生じます。
アリシアによれば、中国の家族は、愛を表現するのに、アメリカ人のように物理的にふれあい「I love you」と言葉にするわけではありません。
「しかし、封鎖の間、喧嘩をしたあとは必ずハグしていました」と、彼女は言います。物理的な安心感こそが、誰しもが脆弱さと恐怖とで意識を支配されているときに必要です。
「何年も前に離れて暮らすことになった人たちと連絡を取ることもありました。いつも話をしている人だけを相手にするでもなく思いやりを表現する、素晴らしい瞬間でした」
④何もないときには離れて過ごし、普段はしないことを一緒にやる。
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中国都市部のアパートの多くは、ニューヨークなど他の多くの都市とよく似て、自由に出入りできるからこそ十分な広さだと感じられるのです。
他の多くの住民と同様に、アリシアもまた、家に閉じこもっていても仕事をしなければなりませんでした。
「中国の親たちは、個人のスペースを尊重するようなことはしません」と彼女は言います。彼女は“法による制限”を設けなければなりませんでした。「『ノックしないなら、鍵をかけるから』って言ったんです」。
そのうち、家族の間には言葉にならない理解が生まれていったと言います。アリシアはダイニングテーブルに座って仕事をし、お母さんはソファに座っていました。
「その棲み分けされた空間は、愛と尊敬の賜物でした。封鎖中の関係を、持続可能なものにしてくれました」
一日の終わりには、家族の皆が集まります。アリシアは、いつもなら観ないようなテレビ番組を両親と一緒に観て、いつもなら気にもかけないゲームを一緒にやり、TikTokに挑戦しました。
「一緒に何かをするための余計とも思える努力をすること。それによって、ウイルスのことや私のデートライフと関係のない会話も生み出せました」
⑤ カーブがピークに達したあとで、人は何を食べてどこに行くかを空想し始める。
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生活のなかにこれまで存在していた快適さを司るパーツが剥ぎ取られたとき、人の心はどこに迷い込むのでしょうか?
中国では、食べ物と旅行とが皆の精神を支配していました。封鎖の最後の2週の間には、中国の人々の間には「リベンジショッピング」という表現が生まれたほどです。
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今、アリシアは、この2カ月をノスタルジアとともに思い出しています。
「この2カ月間の隔離生活は、私にとって一生忘れられないものになるでしょう」と、彼女はメールに書いています。私が話をしたアリシア以外の多くの中国人たちも、いざ普通の生活を再開してみると、過去を非現実的な感覚とともに振り返らずにはいられないと同意をします。
多くの人は、生活のペースが戻ってきて初めて、もっと本を読んだり、愛する人と一緒に過ごしたりしていればよかったと思っているようです。そして皆、パンデミックを食い止めるべく外出しないという必要な予防措置をとったことを、喜んでいます。
今、“半分普通”の生活に戻っているアリシアは、友人や人間関係にもっと気を配るようになったと言います。そして電話の最後にこう私に尋ねるのです。「本当にマスクは十分なの? 私に嘘をついていない?」
This week’s top stories
アジア注目ニュース4選
- さらに2週閉じ込め…新車販売は「ゼロ」。4日に終了するはずだったインドのロックダウンはさらに2週間延長されることになりましたが、一部の建設業と自営業には営業再開が許可されました。昨年から続く経済の冷え込みは新型コロナウイルスの影響でさらに厳しい数字を突きつけており、4月の主要乗用車メーカー4社の国内新車販売台数は前代未聞の「ゼロ」。月の損失は約7兆ルピー(約9兆8,800億円)に迫ります。
- 香港GDP8.9%減。香港の2020年1~3月期の実質域内総生産(GDP)成長率速報値は、前年同期比でマイナス8.9%。統計を取り始めた1974年1~3月期以来、四半期で過去最大の下落率を記録しました。香港政府のポール・チャン・モポー財務長官は、消費刺激と経済復興のために団結できれば、第2四半期にはある程度改善し、年末には抜け出せる見込みがあると話します。
- マスクの盲点を忘れないで。口の動きを読み取ることでコミュニケーションを補ってきた聴覚障害と聴覚障害者は、着用したマスクに隠されて、相手の表情や口型が読み取れません。そこで発案されたのが「透明マスク」です。インドネシアのジョグジャカルタ市に暮らす女性は、口元に透明のプラスチック板をはめ込んだ手製のマスクで難局を乗り越えようとしています。
- 紫禁城など観光スポット続々再開。紫禁城は約3カ月ぶりに、1日のメーデーから一般公開が始まり、1日あたり5,000人(通常時は8万人)の入場が許可されています。このほか北京の博物館なども徐々に再開する予定。マレーシアでは4日から外出制限が緩和され飲食店や商業施設の営業が始まり、シンガポールでは12日から学校や職場が再開されます。
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