Startup:対トランプの切り札は、ガブテック

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Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

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Image: REUTERS / SHANNON STAPLETON

新型コロナウイルスによる経済や日常生活への被害の陰に隠れていますが、アメリカでは今年、4年に1度の大統領選を迎えます。再選を目指す共和党ドナルド・トランプと民主党ジョー・バイデン前副大統領の攻防は、静かに熱を帯びています。

大混戦が予想される「コロナ選挙」の命運を握るのはテクノロジーです。今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、次世代の選挙をリードするThe Tuesday Companyを取り上げます。

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Image: THE TUESDAY COMPANY

The Tuesday Company(非営利団体向けコミュニケーションプラットフォーム)
・設立:2017年
・創業者:Michael Luciani, Shola Farber, Charley Austin
・調達額:400万ドル(約4億8,000万円)
・事業内容:非営利団体が支援者との関係を強化するためのツール開発

ELECTIONS GOING DIGITAL

選挙戦もデジタル化

今回の大統領選は、コロナで様変わりしそうです。お馴染みの大規模集会を舞台にした候補者と支持者たちの固い握手熱い抱擁は「濃厚接触」そのもの。支持者の自宅を訪ねての勧誘や、タウンホールのような集会も憚られます。そもそも投票所自体が「三密」です。

これを受けて、選挙戦の主戦場は地上戦からデジタル空間へと急速にシフトしています。バイデン陣営は2020年3月だけで900万ドル(約9.6億円)をウェブ広告に投じる予定で、その額は前月比12倍と急増しています。コロナで選挙もDX(デジタル・トランスフォーメーション)を余儀なくされているのです。

一方のトランプはホワイトハウスからの記者会見で「戦時下の大統領」として指導力をアピールし、TVでその姿を見ない日はないほど。Twitterのフォロワー数が8,000万のトランプに対し、バイデンは540万弱と足元にも及びません。

集会や自宅訪問など、得意とする草の根活動を封じられた民主党。自宅の地下スタジオに篭ってのヴァーチャル集会を余儀なくされていますが、77歳の元副大統領は慣れない環境に四苦八苦です。YouTubeチャンネルの登録者数は5万(対するトランプは40万)と、寒い状況。経験と安定が売りのバイデンですが、デジタル空間での存在感は失われてしまっています。

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THE SECRET WEAPON

民主党の秘密兵器

そんな民主党が期待を寄せる秘密兵器が、The Tuesday Companyという名の設立4年目のスタートアップです。彼らは候補者と有権者のコミュニケーションプラットフォーム「Team」を提供しています。

Teamでは、まず候補者の選挙活動員のコンタクトリストをアップロードすると、管理者がもつ有権者のターゲットリストと突き合わせ、誰が誰にアプローチすべきか、解析が行われます。見知らぬ人からの飛び込み訪問や画一的な一斉メールより、知人や何かしら繋がりのある人から呼びかける方が、はるかに効果があります。

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Image: THE TUESDAY COMPANY

Teamには、つながった有権者がさらに自分の知人を誘ったり自らのソーシャルメディアで拡散することで、自然とネットワークが広がる仕組みが内在されています。チャットで選挙活動に関する情報を共有できるほか、有権者が意見を述べてディスカッションを行うことも可能です。

コミュニケーションの状況はプラットフォームの管理画面で可視化され、活動がトラックされます。どの有権者に向けてどんなメッセージを発信すべきか、どんなアクションを取るべきか、コントロールを可能にする一方で細部の運用は現場の自治や判断に委ねられており、人と人との自然な関係性を重視しています。

候補者は、このプラットフォームを用いて寄付金を募ることもできます。自宅訪問や集会が禁じられた状況では、非常に助かる機能です。通常のメールでの勧誘に比べて、30倍ほど高い効果があるそうです。

Teamは大統領選挙から学校のPTA選挙まで、非営利団体や組合も含めこれまで2,000を超える組織に使われてきました。30万人のエンドユーザーが120万人にリーチし、ユーザーの週間アクティブ率も約80%と非常に高い数値を誇ります。3月の問い合わせは前月の30倍と、コロナ禍でユーザーが殺到しています。

REVENGE AFTER FOUR YEARS

4年越しのリベンジ

マイケル・ルチアーニ(Michael Luciani)はじめ3人の共同創業者は、2016年の大統領選挙でヒラリー・クリントン陣営のスタッフでした。当時、地元のミシガン州のある郡でTeamの原型を試してみたところ、その選挙区だけ民主党が圧勝するという驚くべき成果を挙げたのです。

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Image: THE TUESDAY COMPANY

マイケルはすぐに上司の元へ飛んでいき「このツールを選挙戦で広く使うべきだ」と提言します。しかし、飛び込み訪問の回数や電話の数をベースに計画された選挙戦の現実を前に、彼の提案は却下されました。

その後、ヒラリー陣営の予想外の敗北を目の当たりにし、失意に暮れたマイケルとその仲間たち。そのまま起業を決意し、Teamを完成させます

2018年の中間選挙で、早くもその威力は証明されました。民主党の70の候補者に採用されたTeamは、下院の議席数奪還に大きく貢献します。2019年には「VoteWithMe」という、友人に投票を促すCtoC型のサービスを買収(規模は不明)し、さらに強固な体制を整えました。

満を持して訪れた、4年越しのリベンジの時。The Tuesday Companyは、地上戦を封印された民主党の救世主となるでしょうか。目が離せません。

POLITICS AND TECH

政治とテック

パンデミックを抑えるため、移動が制限され鎖国化した世界。リモートワークが定着し、生活圏は自宅周辺の数キロで完結する毎日。感染者対策が国によって180度異なるように、私たちの生活や健康も、属する国や地域といったコミュニティとの関わりが深まるなかで、大きな影響を受けるようになりました

断絶していた政治と個人との関係性。ガバメント・テック(ガブテック:Gov-Tech)の領域は、“行政のオンライン化”という表層的な次元を超えて、大きな機会を秘めています。

ガブテック・スタートアップが対象にするのは、もちろん選挙戦だけではありません。

Neighborlandは市区町村などの行政が住民とつながるためのツールを提供するスタートアップです。サンフランシスコ市はウォーターフロント開発やホームレス対策など24のプロジェクトで同社のソリューションを活用しています。交通や公共施設の整備計画に住民の意見を取り入れ、ボランティアの協力を仰ぐこともできます。単なるネット上の窓口ではなく、住民の行政へのエンゲージメントを促進する双方向型のプラットフォームなのです。

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Image: NEIGHBORLAND

同社の共同創業者であるダン・パーラム(Dan Parham)は起業以前、Yahoo!のUXデザイナーでした。テクノロジーの世界では当たり前な「徹底的にユーザーの声を聞く」ことが、政治や行政では決定的に欠けていると、創業に突き動かされます。

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Image: Dan Parham/LINKEDIN

4月にNeighborlandは、近隣住民同士がつながるローカルSNSのNextdoorに買収されました。助けを買って出るボランティアと助けを必要とする住民をつなぐなど、コロナ禍でNextdoorが果たす役割はより一層求められています。

閉じた社会で見直されるローカル、そして近くなる政治との距離。ガブテックは、コロナが提示する巨大なイノベーションのフロンティアかもしれません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. クラウドファウンディングでのスタートアップ支援は加速するか。規制緩和米国証券取引委員会(SEC)は、コロナの影響で資金繰りに困窮する中小企業の救済策として、クラウドファンディングを実施する際の制限を一時的に緩和。クラウドファウンディング登録の承認作業を加速させる考えです。
  2. 開かれたApple開発者会議、来月22日。例年6月初旬にAppleが開催している年次開発者会議WWDCが、今年は6月22日(米国時間)、オンラインのみで開催されます。「Apple Developer」アプリと「Apple Developer」のウェブサイトから、全ての開発者が無料でアクセスできるそうです。
  3. XiaomiがHuaweiに追いつく。中国国内では苦戦を強いられているXiaomiですが、西ヨーロッパでは強力なオンラインマーケティングが功を奏し、第一四半期のスマホ出荷台数は前年同期比79%増。同地域で18%、第3位のシェアを占めるHuaweiの次点につけています。リサーチ会社Canalysによると、Xiaomiはコロナ禍でプラス成長を達成した唯一の主要ベンダー
  4. FacebookとGoogleは年末まで在宅勤務。両社は現在の在宅勤務の体制を年末まで続けることを発表しました。Google CEOのスンダー・ピチャイは、オフィスに戻る必要がある従業員について、安全対策を強化した上で7月から戻ることができると説明しています。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)


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