Asia:Facebook「爆発的インド制覇」の目算

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Asian Explosion

爆発するアジア

Quartz読者のみなさん、こんにちは。火曜の夕方は発展めざましい中国、インドに加え、東南アジアや韓国でも胎動しているグローバルビジネスを動かす大きな力をお伝えします。原文記事(参考)はこちら

REUTERS/SHAILESH ANDRADE
REUTERS/SHAILESH ANDRADE
Image: REUTERS/SHAILESH ANDRADE

57億ドル(約6,100億円)のディールは、世界最大級のデジタルサービス企業を生むことになりそうです。

2016年9月に開業したJio(Reliance Jio Infocomm)は、インドの大富豪ムケシュ・アンバニ(Mukesh Ambani)が所有する通信事業者。親会社であるリライアンス・インダストリーズ(Reliance Industries: RIL)が展開する大規模ブロードバンドネットワークを活用し、電子マネーからEC、さらにはコンテンツ制作まで、その翼を広げてきました。

一方、Facebookにとって、インドには世界最大規模のユーザーがいます。メッセージングサービス「WhatsApp」の最大の市場でもあり、同サービスの月間アクティブユーザー数は4億人を超えています。また、インドにおける「Instagram」のユーザーは8,000万におよび、米国に次いで2番目に多いのです。

Birth of the giant

巨人、誕生

4月22日、FacebookはJioへの57億ドル(約6,100億円)の出資を発表しました。先立つこと数週のうちに、Jioは投資家から約6,060億ルピー(約8,600億円)を調達。4月以降も、さらに投資会社シルバーレイク・パートナーズによる約7億5,300万ドル(約810億円)の出資が続き、5月8日には、米PE投資会社のビスタ・エクイティ・パートナーズがJioの株式を1,137億ルピー(約1,600億円)で取得することを発表しています

当然のことながら、“共通の利益を目指す力の合流”の行き着く先は、巨人の誕生にほかなりません。両社は共に、ネットワークコミュニティコンテンツコマース通貨、および金融を横断するビジネスに取り組もうとしています。

その“巨人”の描く絵図がどれほどのものか。並べてみるとその巨大さ、広範さがうかがい知れます。

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Not a clean sweep

“親”の総取り?

両社の提携の第一歩のひとつが、WhatsAppメッセージを介して食料品を注文できる「JioMart」です。両サービスは、まだ完全には統合されていないのです。

「すべてのユーザーがJioとFacebookの提携に満足しているわけではない。当然のことながら、すべてのセキュリティを単一の“Jio ID”の下に統合するというJioの計画に、懸念を抱くことになるだろう。これはインドで拡大している問題だ」

そう指摘するのは、グレイハウンドリサーチのCEOでチーフアナリストのSanchit Vir Gogiaです。

2019年、WhatsAppが公表した同アプリの脆弱性は、非常に深刻なものとして広く報道されました。その脆弱性とは標的に電話をかけるだけで端末にスパイウェアをインストールできるというもので、このスパイウェアの開発元が“合法盗聴ツール”ともいわれるツール「Pegasus」を生んだイスラエル企業であったことから「ペガサス事件」とも呼ばれています。

このペガサス事件以降、WhatsAppに対する警戒が高まっていることを考えると、Gogiaの指摘も大いに頷けます。

しかし、インド市場に深く浸透したRILの影響力を考えると、インドでのFacebookの苦労を忘れさせるような突破口になる可能性があります。

もっとも、2年前にベータテストを開始した「WhatsApp Pay」もいまだローンチされていませんが、これは、Facebookがインドで直面している多くの苦境の一つに過ぎません。現時点では、Jioの買収は「役立つかもしれないが、一朝一夕にFacebookの問題すべて解決することはできない」といえるでしょう。


This week’s top stories

アジア注目ニュース4選

  1. ラグジュアリー業界はさらに中国頼みに。ラグジュアリー業界はパンデミックで大きな痛手を受けていますが、Bain&Companyのレポートによると、中国市場はすでに回復の兆しが。先月14日に移転オープンした広州市にあるエルメスの旗艦店はその日だけで1,900万元(約2億8,500万円)の売り上げを記録。世界で高級品を買い求める中国人の割合は2019年の35%から2025年までに49%まで拡大すると予測されます。
  2. アフターコロナの映画館は非接触型。スタッフや見知らぬ人との接触を可能な限り回避できる非接触技術が、韓国の映画館で導入され始めています。ロッテシネマでは国内130のうち22の映画館で、売店に音声認識システムを導入し、来場者の恐怖心を和らげる対策が取られています。業務を自動化することで運営の効率化も期待されます。
  3. 感染加速でも封鎖解除。パキスタンは今週から段階的な都市閉鎖の解除が始まり、各地の市場は賑わいを見せました。その一方で感染が拡大する兆候も。イムラン・カーン首相は、ロックダウン緩和に踏み切った判断を是認しながらも、国民それぞれが予防策を講じなければ感染は拡大する恐れがあると警鐘を鳴らします。再開した市場では店員も客もマスクをしない姿が目立ちました。
  4. 現金は避けたい…。マスターカードの調査によると、アジア太平洋地域の消費者の68%がカードをかざすなどの非接触型の決済を希望しています。2月から3月までの間に非接触型決済の利用数は2.5倍に増えました。現金を介して新型コロナウイルスが感染するかは不明ですが、現金文化が根強いアジアにとってキャッシュレス化の追い風となりそうです。

お詫びと訂正】本日朝配信のDaily Briefに掲載したニュースで「SoftBankの収益はWeWorkにもかかわらず、微増した」とお伝えしましたが、今回の決算発表は、ソフトバンクグループ株式会社(SoftBank Group Corp.)の通信子会社であるソフトバンク株式会社(SoftBank Corp.)のもので、WeWorkへの投資とソフトバンク株式会社の決算には直接の関係はありません。訂正してお詫びいたします。


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