Friday: New Normal
新しい「あたりまえ」
Quartz読者の皆さん、こんにちは。毎週金曜日のPMメールでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。今日は、パンデミックがきっかけで見直す機会になった人も多い「恋愛」 をテーマに、時間をかけた関係性の築き方を考察します。ニューノーマルの世界では、多くの人がより幸せで永続的なパートナーシップを結べるかもしれません。
テクノロジーの進化のおかげで、マッチングサイトで手軽に“出会い”を求めることが当たり前になりました。しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックは、その手段を制限することになりました。
恋愛のあり方やパートナーとの過ごし方、結婚に関する捉え方はこの数年で大きく変わり、ゆっくりと時間をかけて愛を育む「スローラブ(slow love)」の追求が始まっています。
そしてさらに、今回のパンデミックは恋愛を改めて見直す機会になったようです。さらに新たな変化をみせる「スローラブ」。コロナ後の“愛”は、一体どのようなかたちをとるのでしょうか?
GAME CHANGER
変わる「恋愛」
パンデミックが起こる前から、ミレニアル世代は恋愛のやり方を変えてきました。生き方、働き方、コミュニケーション方法を大きく変化させ、特に恋愛、セックス、結婚のルールをあっという間に書き換えました。
2018年、米国における初婚年齢の平均年齢はほぼ30歳(男性29.8歳、女性27.8歳)。男性24.7歳、女性22歳だった1980年と比べれば、結婚が5年以上遅れていることを意味します。
同世代間の交際においては、金銭的な問題が大きく影響します。彼らは、学生時代の借金を抱えながらも、有意義な仕事を見つけたいという願望をもっています。また、2008年の金融危機の影響を大きく受け、両親が事業を失い借金に苦しみ、離婚したのを目の当たりにしているケースも多く、自身の人生に対してかなり慎重になっています。
彼らの恋愛のかたちを変えた最大の要因は、テクノロジー。マッチングアプリが多く登場したことで、出会いはオンライン上が主流になりました。
友人の紹介を通じて出会う機会も減少し、1995〜2017年までの期間で、友人経由で知り合ったというカップルは、33%から20%までに減少しています。
2017年、米国では、カップルのおよそ40%がオンラインで出会ったと、スタンフォード大学の社会学者Michael Rosenfeld(マイケル・ローゼンフェルド)とSonia Hausen(ソニア・ホーゼン)、そしてニューメキシコ大学のReuben Thomas(ルーベン・トーマス)の最新の研究が明らかにしました。
米国のシングルの半数がマッチングアプリに登録しプロフィールを作成。また、2020年4月の米国の成人を対象とした調査データによると、18〜29歳の回答者の15%が、マッチングアプリ「Tinder」を利用していることが分かりました。なお、もっとも利用率が高いのは33〜44歳までの層で、回答者の19%が利用しています。
HAVE FUN
刹那的なカタチ
カジュアルなセックスを頻繁にするという「フックアップ(hook up)世代」を生み出したのも、ミレニアル世代を含む若者でした。特に大学生の間で、本来のデートはせずにマッチングアプリで知り合う、一夜限りの関係性です。
しかし、この一般的なメディアの概念とは逆に、特に1990年代に生まれたミレニアル世代とZ世代では、18歳を超えた年齢で、性的なパートナーがいない割合が高くなっているのが現実です。
Archives of Sexual Behavior誌に掲載された2017年の研究によると、20代前半の若いミレニアル世代の多くはむしろセックスをしておらず、上の世代に比べてもセックスをしていない割合が2倍以上になります。こうした状況は、「Sex Recession(セックス不況)」とも呼ばれています。
批評家たちは、デジタルの飽和状態がミレニアル世代をより社会的に孤立させ、自由でいられるようにしたと話していますが、その身軽さや手軽さゆえに、セックスをする回数を逆に減らしているとも言います。
また、セックスをする場合においても、ミレニアル世代は「hook up」や「friends with benefits(メリットになる友人)」と表現される関係性の上に成り立っており、その行為自体すらあまり意味はないと見られているのです。
IN ADVANCE
事前に「知る」
しかしながら、ミレニアル世代の恋愛がたんぱくで、効率だけを求めているかというと、必ずしもそうではないようです。『A Natural History of Mating, Marriage, and Why We Stray』の著者で、現在の恋愛と結婚の傾向に関連した3万人以上のデータを収集しているHelen Fisher(ヘレン・フィッシャー)博士は、恋愛への変化をもたらしたこの世代への関心を促しています。
「彼らは、自分たちより前の世代よりも愛を持続させるための成功の道を切り開いている可能性があます。先の見えない状況下で多くの時間をムダにしたくない人たちから、私たちは学ぶことができます」
フィッシャー博士の研究によると、今日のシングルは、恋愛に時間とエネルギーとお金を費やす前に、可能な限り相手のことを知りたいと考えているといいます。
その結果、ロマンスへの道のりが大きく変化。以前は“初デート”が恋の始まる最初の段階であったのに対し、今ではお互いの関係性を築いた“後半”になってから正式にデートをするようになりました。
また、一部のシングルにとって、セックスはお互いを知るためのひとつのフェーズになっています。マッチングサイトMatch.comのために実施された研究では、34%のシングルが、最初のデートの前に気になる相手とセックスをしていたことが分かりました。
フィッシャー博士は、この行動を「セックスインタビュー」と呼んでいます。「昔は相手を知るためにデートを重ねていましたが、今ではそもそも、初デートに投資する価値があるかどうかを見極めるために、『セックスインタビュー』をするようになったのです」
VIDEO CHATTING
台頭するビデオチャット
パンデミックで外出が制限されると、相手を事前に知るためのセックスインタビューは困難です。そこで、恋愛の新しいツールとして登場したのが、ビデオチャットです。
2020年4月上旬、マッチングサイトのMatch.comはパンデミック後に、恋愛体験がどう変わったかについて、6,004人の男女に質問。そこで浮かび上がったのが、ビデオチャットというキーワードです。
パンデミック前、ビデオチャットを利用していたのは、わずか6%のシングルにとどまっていましたが、今では69%がパートナー候補とのビデオチャットに好意的で、3分の1はすでにビデオチャットを利用して話したい人がいるという結果でした。
FaceTimeやZoomなど、インターネット上のプラットフォームで気になるパートナーを“品定め”するメリットは、いくつも挙げられます。
私たちの脳は、目の前の人物から瞬時に反応し、自身に合う可能性の高い人について、2つのことを評価するとされています。それは、「性格」と「物理的な魅力」です。
ビデオチャットであれば、相手を見てから数秒以内に判断できます。メッセージをやり取りして会う約束をする前に、ビデオチャットをすることで、よりふさわしいパートナーと知り合うことができる可能性が高いというのです。
PANDEMIC LOVE
新たな「スローラブ」
パンデミック下では、人々はより多くの時間を、自分自身と向き合うことに費やすようになりました。結果として、それぞれが話したい“大切なこと”をもち、誰かと共有したいという気持ちに傾きやすくなりました。
たとえばシングルが、不安と希望とを相手に共有したいと思ったとすると、この自己開示は必然的に将来のパートナーが大切にしていることも知ることになるのです。心理学者は、自分の心の奥底にある感情、態度、経験をあらわす自己開示が「親密さ、愛、コミットメント」に拍車をかけるようになる、と報告しています。
パンデミック以降、私たちは、新しいデジタルツールと余分にできた時間とによって、“相手を知る”プロセスを、かつてよりも長くもつことができました。
「スローラブ」は、恋愛の進め方として理に適っているという意見もあります。
その根拠となるのは、そもそも人間の脳は、ゆっくりと相手に愛着をもつようにつくられているとする研究結果です。脳スキャンから得られたある研究では、18カ月間にわたり情熱的な恋をしていた男女は、ロマンティックな情熱に関連する活発な脳領域の活動が見られることが分かりました。一方、2〜12年の恋愛をしたあとに結婚を決めた人は、カップルの絆や愛着に関連する別の脳領域の活動が見られることが発見されたというのです。
つまり、ロマンティックな愛は急速に誘発されるのに対し、深い愛着の感情は発展するのに時間がかかるということ。私たちはもともと、ゆっくりとした恋愛をするようになっていて、このパンデミックでは、そのプロセスを引き出し続けてくれているのです。
米国の3,000人以上の既婚者を対象にした調査では、1年未満の付き合いをした人に比べて、結婚前に1~2年付き合ったカップルは、離婚する可能性が20%ほど低いことが判明。結婚前に3年以上の付き合いがある場合は、別れる可能性が39%低い確率でした。また、結婚するのが遅ければ遅いほど、結婚したままでいる可能性が高いことも統計で分かっています。
いざ、社会がパンデミックの状況から回復したとき、シングルは再び、直接会うことで出会いを広げていくかもしれません。しかし、すでに恋愛のプロセスは新しいステージを迎えています。
相手と出会うためには時間とお金をかけずに“効率的”に(たとえばマッチングアプリ)、そして相手を知るための行動は“物理的”なものから“精神的”なものへと変わっています(セックスインタビューから、ビデオチャットを使って対面で話し、相手をゆっくりと知ることへ)。
そして、パンデミック前も後も、恋愛のキューピット役は「テクノロジー」なのです。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- スマホも除菌する時代へ。Mophie(モフィー)が、新しいスマホ除菌装置(ワイヤレス対応もあり)を発表しました。最大6.9インチまでのスマホに対応しており、UV-Cを使用して99.9%の細菌を殺すとしています。今後、感染症予防を目的に、スマホも常に除菌して持ち歩く時代がやってきそうです。
- 米国で依然として猛威を奮うウイルス。現在、ヨーロッパやアジアの先進国のほとんどが新型コロナウイルスの症例数の大幅な減少を報告しているなか、米国ではいまだに猛威をふるっています。ジョンズ・ホプキンス大学が収集したデータによると、6月26日の時点で、241万1,413人の米国人が感染しており、そのうち12万2,482人が死亡しています。
- これからの家づくりを再定義。Ikea(イケア)とイノベーションラボSpace10は、「Everyday Experiments(毎日実験)」と題したプロジェクトを公開しました。同サイトでは、複数のデザイン会社が作成した“18のクリエイティブなアイデア”が掲載され、「明日のテクノロジーは、どのようにして私たちの家での暮らし方を再定義するのか」という問いを探っています。
- チョコレートも関税対象に? 欧州連合(EU)による航空機大手エアバスへの補助金を巡り、米国のEUに対する報復関税の一環として、ヨーロッパ産のオリーブ、チョコレート、ジン、麦芽を使ったビールなどが新たな関税の対象となるかもしれません。米国通商代表部は、関税が課せられる可能性のある30の製品のリストを発表し、米国がヨーロッパから年間約31億ドル(約3,300億円)のこれらの商品を輸入していることを指摘しました。
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