Friday: New Normal
新しい「あたりまえ」
Quartz読者の皆さん、こんにちは。毎週金曜日のPMメールでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。今日は、US版Quartzの特集「The New Normal」から、テックのあり方を問う識者5人のオピニオンをお届けします。
ほんの数カ月のあいだに、私たちの生活は大きく変化しました。仕事や旅行から食料品の購入に至るまで、日常生活のあらゆる面について再考を迫られています。
今、私たちが直面する変化のなかには一時的なものもあれば、長く尾を引くものもあります。
米版Quartzは、さまざまな分野の専門家に、5年後の生活がどのように変わっているのか、尋ねました。「ニューノーマル」な世界を前に、私たちはどのように適応しなければならないのでしょうか?
- ソーシャルメディア:ハニー・ファリッド(カリフォルニア大学バークレー校教授)
- ヘルスケア:ロビン・バージン(Parsely Health創設者兼CEO)
- オフィス:メリッサ・グレッグ(Intel シニア・プリンシパル・エンジニア)
- Eコマース:ソーレン・ビョーン(Driscoll’s 社長)
- オートメーションシステム:アニューシャ・アンサリ(XPRIZE CEO)
New social media
有毒なSNSを精算
カリフォルニア大学バークレー校の電気工学・コンピュータサイエンスと情報学部の教授であるハニー・ファリッド。Deepfakeをはじめとするデジタル画像解析を専門とする彼は、人がテクノロジーに向き合う最たる例として、ソーシャルメディアを挙げています。
5年後の世界は、いまはまだ完全に規制されていないテック分野を規制することにつながる重大な転機に達していると予想します。テクノロジーが個人、社会、そして民主主義に対してどのように“武器化”されてきたかという問題に取り組むことになるでしょう。
とりわけソーシャルメディアは、世界の半数以上の人々にとって主要な情報源となりました。そして、同時にヘイト、対立、デマ、違法行為であふれています。世界中の人々がオンライン上で多くの時間を費やしているなかで起きた世界的なCOVID-19のパンデミックは、ソーシャルメディアの問題をより強く浮かび上がらせることになりました。
今後、生活のあらゆる部分をテクノロジーに依存していくなかで、私たちの見方や接し方を見直し、変えることになるでしょう。
──ハニー・ファリッド(カリフォルニア大学バークレー校の電気工学・コンピュータサイエンスと情報学部教授)
New system
ヘルスケアの再考
プライマリケアを再考する会社、Parsley Healthの創設者であるロビン・バージンの回答です。遠隔医療は長いあいだ、患者を治療する方法のひとつでしたが、コロナウイルスによって不可欠なものになりました。
コロナウイルスの影響を受けた何百万人もの人々にとっては、信じられないような悲劇でありましたが、ある意味で、ビジネス、スタートアップ、そしてヘルスケアを含む産業にとっての“アクセル”になりました。役に立っていないシステムを再考することになり、現在進行中だったシステムの進化が加速しています。たとえばそれは、ヘルスケア分野における遠隔医療への移行が挙げられます。
パンデミックは、医療における基礎的な条件や社会的な不平等が、特定の人々、とくにアフリカ系米国人を、健康状態の悪化や死亡のリスクが高い状態に追いやっていることを、痛感させるものでした。コロナウイルスは、何億人もの米国人が糖尿病、心臓病、肥満など死亡リスクが高い慢性疾患を積極的に管理することを犠牲にしました。そして、目先のことしか見えていない米国の救急医療や専門医療といった医療制度の致命的な欠陥を浮き彫りにしました。
5年後、医療分野において、私たちはより速く、より思慮深く動いている世界を見ることができると信じています。「質の高い医療」と「アクセス」の新しい定義が生まれ、その結果、保険制度では、慢性疾患の負担を軽減する積極的でホリスティックな医療サービスとともに、遠隔医療が全面的に採用されるようになると信じています。私は、このような変化がメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)と民間部門の両方で起こり、ケアの提供方法に新しい基準が設定されることを願っています。
現在、米国の成人の10人に6人が慢性疾患を抱えて生活しており、その数は過去100年間で着実に増加してきました。2025年までには、この数が100年ぶりに減少することを目にすることができるのではないでしょうか。
──ロビン・バージン(Parsely Health創設者兼CEO)
New office
オフィスの存在意義
Intel(インテル)のシニア・プリンシパル・エンジニアで、ユーザーエクスペリエンスとサステイナビリティの分野にフォーカスしている、メリッサ・グレッグ。仕事に関するいくつかの本の著者でもあり、直近では2018年に出版された『Counterproductive: Time Management in the Knowledge Economy』が代表作になっています。彼女の考える5年後の「オフィス」に対する回答です。
コロナウイルスは、雇用者と従業員のあいだの信頼関係の概念を根本的に変えるでしょう。5年後、私たちの多くはまだオフィスがあるという前提で仕事をしていると思いますが、利用頻度は少なくなり、オフィスで働くことに対して恐怖心をもって仕事をするようになる可能性があります。
オフィスを利用するには、そこに行く必要性と安全性を証明しなければならなくなるでしょう。とくに、自宅から遠く離れた場所、都市を越えた場所、あるいは世界を越えた場所にいなければならない従業員に対しては、その安全性を証明する必要があるでしょう。
私が初めて在宅勤務の経験を調査し始めた2007年当時、人々はまだ、物理的につながっていない環境で生産性を維持できるかどうかについて冗談を言い合っていました。
携帯電話やパソコンを使ってオンラインで同僚と連絡を取り合うことで、リモートワークの不安に対処していましたが、その一方で、時間外にメールをチェックしたり、常に通知を送ったり、pingを打ったりする文化が一般化しました。
2020年の今、何カ月もの自粛生活が強制されるなかで人々が仕事を遂行し続けられていることを信頼しましょう。実際、私たちの調査によると、労働者は眼精疲労、腰痛、頭痛、ヘッドホン使用による耳の損傷を訴えています。これは勤勉なリモートワーカーに特有な病気であって、仕事を真面目に行っていることの証明ともいえます。
ここで、オフィスというもの、通勤というものについての疑問が浮かび上がります。かつて、自宅で奇数日を過ごすことを求めていた労働者は、果たして会社にとって本当に脅威だったのでしょうか? 生産性の名のもとに、週5日に何時間も家族と離れ、交通渋滞のなかで通勤させるというのは、誰のみすぼらしい考えだったのでしょうか? なぜこのような儀式が、従業員の忠誠心を示す最強の証と考えられていたのでしょうか?
大勢の人がいる限られた空間で増殖する致死的なウイルスは、これまで私たちが生活の中で、さまざまな方法に囚われていたことを意識させてくれます。5年後には、証明する責任が逆転するでしょう。雇用主は、私たちの労働に最も安全な場所を提供することに対して信頼できる理由を、私たちに証明しなければならないのです。
──メリッサ・グレッグ(Intel シニア・プリンシパル・エンジニア)
New grocery shopping
青果物もオンラインで
ベリー類を販売するDriscoll’s(ドリスコル)の社長であるソーレン・ビョーン。彼は、2006年にDriscoll’sで勤務するまで、食品大手Del Monte(デルモンテ)でヴァイス・プレジデントの職についていました。彼が属する青果物の業界にも、新しい風が吹き込んでいます。
短期間で起こった変化を整理しながら、恒久的な変化を見極められるかどうか……。これは100万ドルの価値がある質問です。なかでも後戻りができない変化を遂げたと言えるのが、食料品の買い出しでしょう。
食料品のオンラインショッピング、特に青果物となると、コロナウイルス以前はあまり浸透していませんでした。「Amazon Fresh」が世界を変えるなどといった議論はされてきましたが、世界は変わっていませんでした。それは、消費者がオンラインショッピングに対して十分に信用できていなかったからです。青果物を買うとき、プラスチックケースを手にとり、十分に覗き込んで、痛んだベリーが混ざったものを買わないよう注意しますよね。私でさえそうします。しかし、コロナウイルスにより、オンラインで購入する以外の選択肢がなくなってしまいました。そして、オンラインでの生鮮食品ショッピングは、そこそこによい体験となっているようです。今となっては誰もが「食品スーパーに行くのには時間を取られる。オンラインショッピングの方が便利なのに、なぜ店に行く必要があるの?」と言っています。
オンラインショッピングにおける青果物の購入の増加は、いまや有意な数値に達しています。この業界の供給者である私たち全員が、この機会を最適化する方法を考えなければなりません。
今挙げた例で言うと、食品をプラスチックケースに入れるのは、消費者が中に入っているベリーを見られるようにするためです。これが、私たちとしてはプラスチックを減らしたいけれど、できない難しい理由であり、解決策が必要です。オンラインでの購入となると、手もとに届くまでベリーを見ることはなく、届いた時点では、ある意味手遅れになってしまうからです。
青果物の購入に関して、私たちへの影響はかなり大きいですが、業界にとってはチャンスなのです。大した驚きではないかもしれませんが、オンラインでの青果物の販売数の低さに気づいている人は、あまりいません。電化製品や服と比べてもとても低く、コロナ以前は食品全体の3%程度でした。
小売店に卸している生産会社すべてにとって、パンデミックの影響は非常に大きいと言えます。ここから受けられる恩恵のひとつは、ブランドです。考えてみると、青果物で名前を知られているブランドは少なく、Driscoll’sはそのうちのひとつで、品質の良さで知られています。食料品の即日配達サービスであるInstacartには、すべての青果物ブランドが掲載されているわけではありませんが、Driscoll’sの苺があるかどうか、消費者は気づきます。つまり、オンラインショッピングをする消費者には、選択肢があるということが見えてきました。Driscoll’sの苺を高い値段で購入するか、ほかの安価な苺を購入するか。これは生産者たちにとっても良いことで、ブランド力がより大事になってきます。消費者に知られていないブランドは、プライベートブランドのようになっていきます。
この状況が長引けば、ほかのことも恒久的になっていくでしょう。多くの人がオフィスやリモートワークについて話し合っていますが、会議や移動のために、どれだけお金を使わなくなったことか。それらはそもそも必要だったのかと、今、私たちは自身に問いかけているのです。
New technology
自動化が加速
XPRIZEのCEOであるアニューシャ・アンサリ。2006年に11日間宇宙を旅した彼女は、女性初の民間宇宙冒険家であり、史上初のイラン系宇宙飛行士であり、イスラム教徒の女性初の宇宙旅行者、そして宇宙を旅した4人目の民間宇宙飛行士です。彼女の考える5年後は、どのようにテクノロジー化が進んでいるのでしょうか?
コロナウイルスは、私たちのすべての生活面において多大な影響を及ぼしました。今、私たちが経験していることのうち、すぐに忘れ去られてしまうこともあるでしょうが、多くのことは私たちの行動を恒久的に変化させました。これまでなら拒否していたようなテクノロジーを、必要に迫られて生活に受け入れることになった今、これらのテクノロジーの“タネ”が日々の生活で利用され、想像を超えた勢いで芽吹いているのです。
ロックダウンやソーシャルディスタンスが必須なものとなるなかで、ビジネスの意義は精査され、あらゆる場面における人と人との接触は可能な限り削減されました。この動きは、工場内の自動化と知能システムの導入を加速させ、配達や移動などを含むサプライチェーンの全てのプロセスに影響を及ぼしています。自動トラックや配達ロボット、ドローンが登場し、人の手による配達は5年以内になくなるでしょう。
この先の5年間で、人工知能やVR/ARシステムがビジネスに取り入れられることにより、人々の生活は大きく変わります。会議、病院での診察、普通の電話でさえ、VR/AR技術の進歩による恩恵を受けることになります。信頼できるARのAIドクターとモバイルアプリを使用することで、ドローン配達システムによって数日前に玄関に届けられた検査キットの検査結果を聞けるなら、いったい誰が病院の待合室で風邪気味の人に囲まれていたいでしょうか? VRヘッドセットを電話に装着すれば、診察室で医者と対面で話すこともできます。もちろん、AIを搭載したアバタードクターのおかげで、担当医はあなただけではなく、同時に複数人とも話していることでしょう。このAIアバタードクターは人々の治療歴を全て把握しており、1時間前に病院宛に送信した症状と検査結果に基づいて、正しく適切な問診を行います。
医療や診断の領域は、常に進歩しています。AIアバタードクターであれば、変化や新たな発見も迅速にキャッチアップできるでしょう。人間の医師は“診察”というよりも“監督”しているようなものとなるでしょう。
AIアバタードクターは非常に現実的で、あらゆる可能性を考えます。たとえば、あなたが下腹部の鋭い痛みを訴えたとして、AIアバタードクターがそれを「至って健康である」と判断したとしましょう。その一方で、AIはあなたの腎臓結石の病歴からモバイル超音波キットを送り、ARヘッドセットと同封されていた手袋に手を通すよう指示。結果として、その痛みがただの筋肉痛だと判明したとしても、超音波キットによるチェックを経ることで、これまでにないほどに安心できるはずです。
2020年を振り返り、人々はバーチャルドクターの問診を拒否していたことが、いかにバカバカしかったかと感じるでしょう。2025年、自分の都合に合わせてプライバシーが守られた自宅で、AIアバタードクターに会えるのに、誰が直接、医者に会いに行きたがるのでしょうか?
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 特別なiPhoneの貸し出し。Appleが正式に「Apple Security Research Device Program」を開始。iPhoneのハッカーやセキュリティ研究者がバグや脆弱性を見つけやすくするために、特別なデバイスを送ることになりました。
- ハンドサニタイザーにご注意。米国食品医薬品局(FDA)は、特定のハンドサニタイザーにはメタノールや他の有毒な形態のアルコールが含まれている可能性があるため、製品の危険リストを発表しています。なお、7月20日現在、69種類のサニタイザーがリコールされています。
- アルコール解禁。西オーストラリア州では、ロックダウンが解除されたとき、飲酒による搬送が増加しました。6月24日から7月14日までの3週間で、アルコール関連の救急部門への入院が合計190件となり、前年同期比で21%増えたといいます。
- 広告費が回復? コロナウイルスの影響で、ファッション業界が足踏み状態に陥ってから3カ月が経過した今、ファッションブランドは再び広告費を投入し始めています。ファッションブランドがより少ないパートナーで、より大きなキャンペーンを行うという最近の傾向が今年は加速するとの見方もあります。
📩このニュースレターはSNSでシェアできるほか、お友だちへの転送も可能です(転送された方の登録はこちらから)。
🎧Podcastもスタートしました! 👍Twitter、Facebookもぜひフォローを。