New Normal:スポーツ観戦のトライ&エラー

Friday: New Normal

新しい「あたりまえ」

Quartz読者の皆さん、こんにちは。毎週金曜日のPMメールでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。今日のテーマは「ニューノーマルなスポーツ観戦」。スポーツ業界ではオーディエンスをどう迎え入れるか、そして現場をどのように“取り戻す”のか。あらゆるエンターテインメントが続ける苦闘への答えを、NBAを例に見ていきましょう。英語版はこちら(参考)。

KEVIN C. COX/USA TODAY
KEVIN C. COX/USA TODAY

COVID-19のパンデミックの影響は、スポーツ業界に対しても非常に深刻なダメージを与えています。

国連の最新のレポートによると、スポーツ業界の世界的な市場価値はもともと、推定で年間7,560億ドル(約80兆円)。

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しかし、今回のパンデミックでスポーツ選手だけでなく、旅行、観光、インフラ、交通、ケータリング、メディア放送など、リーグやイベントに関連する小売業やスポーツサービス業に従事する人々にとっても非常に過酷な状況で、何百万人もの雇用が危機にさらされています。テレビ収入は、推定22億ドル(約2,330億円)の損失になるといい、メディアにとってもかなり厳しいことが分かります。

プロのスポーツ選手はまた、自宅でのトレーニングにシフトしたり、スケジュールを変更したりというプレッシャーに悩まされている場合も多くあります。

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パンデミックにより、全米バスケットボール協会(NBA)をはじめ、世界中の多くのプロリーグもシーズンを中断。2020年3月で中断された時点では、2019-20年のNBAレギュラーシーズンは259試合が残っていました。これらの中止によって生じた損失は、3億5,000万~4億5,000万ドル(約370億円〜480億円)になるといわれています

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そして、私たちのスポーツ観戦にも大きな変化が起こっています。野球に水泳、テニスなど、それぞれの競技において私たちは新しい方法で楽しむことになり、選手も感染対策を意識したプレーを強いられる状況になっています。

今回は、先日プレイオフがスタートしたNBAを例に、「新しいスポーツ観戦」について見ていきたいと思います。

NEW BEGINNING

「新しいNBA」の始まり

NBAプレイオフが8月15日にスタートしましたが、そこで気づかされるのが「ホームコート・アドバンテージ」がないこと。ポストシーズンに進出する16チームはすべて、フロリダ州オーランドのウォルト・ディズニーワールド内の「バブル(隔離エリア)」にある同じ3つのコートでプレーすることになりました。

“新しい”NBAでは、選手とファンのために、そして試合が“平常心”を取り戻すために、テクノロジーを活用したさまざまな工夫を駆使しています。

Kim Klement-USA TODAY Sports
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「伝統的なNBAの試合に、できるだけ近い雰囲気をつくりたかった」と語るのは、パンデミックが発生する直前に、リーグのNextGen Telecast部門を引き継いだサラ・ズッカート。

「2万人のホームファンがチームを応援することに取って代わるものはありませんが、私たちは可能な限り、デジタルを使った最高の方法で再現するために、あらゆる機会に目を向けていました」

NBA選手たちが、新しい場所や状況にうまく適応しているかどうかは、人それぞれです。スーパースターのレブロン・ジェームズは、人生で初めて誰もいない体育館で重要な試合をすることの不気味さに言及していました。一方、ファンも新しいやり方の良いところ、悪いところ、変な感じがするような部分を見てきました。そういったなかで、運営側は良くも悪くもデジタルを駆使して新しい観戦のスタイルをつくり上げています。

Virtual fans sign up for the stands

ヴァーチャル観戦

バブルにあるコートは、あたかも『Microsoft Teams』によって運営されている「パノプティコン(全展望監視システム)」のようです──。アリーナを取り囲む17フィート(約5.2メートル)のLEDスクリーンには、家から観戦している300人のファンの姿を映し出したヴァーチャルスタンドを表示。観戦の「チケット」を獲得するには、ファンはNBAのビールスポンサーであるMichelob Ultraの缶やボトルの写真を撮影し、くじに登録する必要があります。

Ashley Landis/Pool Photo-USA TODAY Sports
Ashley Landis/Pool Photo-USA TODAY Sports

通常のNBAの試合のように、テレビ放送では、このヴァーチャルスタンドから元バスケットボール選手のシャキール・オニール、ラッパーのリル・ウェイン、そして非常にストレスを感じている元バスケットボール選手のポール・ピアースのような有名人のショットを混ぜ込みます。

ヴァーチャルスタンドの観客の動きが放送するのに不適切でないことを確認する必要があるので、NBAではスタンドを監視するため、モデレーターのチームを組み、配置しています。

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「私たちは幸運にも、何の問題にも出くわしていません」とズッカートは述べています。「あるファンがヤギをフレームの中に入れ込んだときでさえも、ヤギはとてもお行儀よくしていました」

Canned crowd noise

観客のノイズ

無音の状態でプレイすることの不気味さを紛らわすため、NBAはアリーナとテレビ放送に観客のノイズを流し、ヴァーチャルファンの音声と過去の試合からの歓声を混ぜています。

リーグは「ホーム」チームの実際のスタジアムのサウンドスケープを再現しようとしており、地元の場内放送のアナウンサーの声や各チーム特有の音楽の合図を取り入れています。いくつかのチームは、試合のためにアリーナでより大きな観客のノイズを要求している一方、ボールを持っているときは音楽をカットするよう、オーディオヴィジュアル・チームに依頼しているところもあります。

また、観客の反応をシミュレーションするために、試合中にファンがボタンをクリックしたり、ハッシュタグをツイートしたりして、自分のチームを盛り上げる「タップ・トゥ・チア」機能も導入。テレビ放送やアリーナのビデオスクリーンには、各チームの「デジタル歓声」の数を表示するカウンターが表示されることもあります。

PHOTO VIA NBA
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NBAは、全世界の視聴者を魅了し続けるために、こういったエフェクトを続けることを検討しています。「アメリカに住むファンが試合(アリーナ)に戻ってきたとき、実際には試合を見に行くことができないファンに、多くの価値をもたらすことができると考えています」とズッカートは述べています。

Digital logos and ads

デジタルロゴと広告

Kevin C. Cox/Pool Photo-USA TODAY Sports
Kevin C. Cox/Pool Photo-USA TODAY Sports

各チームがバブルにある3つのコートで試合をしているとき、そこにはNBAマークと“Black Lives Matter”の文字があるだけです。しかし、いざテレビ放送されるときには、ホームチームのロゴと地元スポンサーの広告がデジタルで重なり合い、コートに映し出されているのを観ることでしょう。

それによって、リーグが失ったマーケティング収入を回収するとともに、コートをより本物だと感じるようにするのだと、ズッカートは述べています。

こうしたヴァーチャル広告は、ほかのスポーツでは一般的です。

たとえば、サッカーのテレビ放送では、試合が放送されている国の観客にアピールするために、フィールドの周りに表示されるデジタル広告を工夫します。しかし、ズッカートによると、こういったテクノロジーを使ったやり方はNBAにとって初めてのこと。今まさにトライしているところだと言います。実際に、ときに選手がグラフィック上を走る際に“バグ”ってしまい、選手の体がロゴに吸収されてしまうという現象が起きてしまいます。

「私たちの置かれている状況が、奇妙でユニークなものであるということですね」と、ズッカートは話します。「この状況をさらなるイノベーションのための機会として、使っていくようにします……とはいえ、できるだけ早くファンが戻ってくることを願っています」

先日、FacebookはNBAとの複数年契約を締​​結。子会社であるFacebook Technologiesの一部門であるOculusがNBA、女性のNBA(WNBA)、およびNBA Gリーグの公式マーケティングおよびVRヘッドセットパートナーになることが発表されました。これまでは、今年初めにAppleに買収されたNextVRがNBAと提携してVR配信をしていましたが、Facebookとの契約で、NBAのヴァーチャル化に拍車がかかりそうです。


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今週の注目ニュース4選

  1. フランス、ほとんどの職場でフェイスマスクを義務化9月1日に施行されるこの新ルールは、従業員が2人以上いるオフィスや工場の共有スペースすべてに適用される可能性が高いようです。フランスでは7月以降、コロナウイルスの感染者が急増しており、マスクはすでに広く使用されています。
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  3.  過密、そして高額。英国のステイケーションは悪夢。毎年、およそ1,800万人の英国人観光客を引き付けるスペインでは英国人に対して入国制限があり、別の人気の目的地フランスでも先週末より制限されています。そのため、英国内はステイケーションを求める人でごった返し、“密”な状況になっているようです。
  4. タッチフリーな飛行機のトイレ。多くの空港にある自動化されたトイレとは対照的に、飛行機内の場合は通常、ドアから洗面台、便器に至るまで、1回につき7つ以上のタッチポイントがあります。航空機整備会社のHaeco Americasは、コロナウイルスが大流行する前に、足踏み式トイレ水洗機を開発しました。それ以来、自動化されたゴミ箱、手指消毒器と液体石鹸ディスペンサーを製品ラインナップに追加。今後は「触れないトイレ」がスタンダードになっていくかもしれません。

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