Asia:バイオ燃料先進国に必要なもの

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Tuesday: Asia Explosion

爆発するアジア

Quartz読者のみなさん、こんにちは。インドのLCCがバイオ燃料による試験航行に成功したのは2018年のことでした。その後、同国のグリーンエネルギーに対する取り組みは、どれほど進んでいるのでしょうか。英語版(参考)はこちら

Jatropha, the power plant.
Jatropha, the power plant.
Image: AP Photo/Mahesh Kumar A

2018年8月、インドのLCCが、この国の輸送分野における新たな歴史を切り拓きました。スパイスジェット(Spicejet)が成功させたのは、インド中部チャティスガル州の農場由来の燃料を使っての試験運航。北部ウッタラカンド州デヘラードゥーンからニューデリーまでの約285キロの旅が達成されました。

時間にして約45分。積載人数は20人。この飛行に成功したことで、インドは米国やオーストラリアに並び、バイオ燃料を航空機に使用している数少ない国としてリストに加わることになりました。

この試験運航を経て、インドのバイオ燃料分野への期待はさらに高まることになりました。

The history of ethanol production

1948年に始まっていた

そもそもインドでは、急速な都市化と人口増加によってクルマの台数が増え、原油の輸入量と二酸化炭素の排出量が増加しています。

この問題に対処するためにインドがとった政策のひとつがバイオ燃料でした。植物、あるいは廃棄物由来のエタノールとガソリンの混合したもので、既存の燃料よりもはるかに安価で、二酸化炭素の排出量も少ないとされている燃料です。

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Image: 2019, MUMBAI, REUTERS/FRANCIS MASCARENHAS

2018年のバイオ燃料を使った試験運航は、なにも突然に実現できたわけではありません。

インドにおけるエタノール生産の歴史は、1948年の「インド電力アルコール法」の制定にまで遡ることができます。1970年代にはエタノールの実現可能性を探るための研究が盛んに行われ、2002年には、国内9つの州と4つの連邦直轄領(union territories)において、石油販売会社(OMC)に対してガソリンに5%のエタノールを混合することを義務付ける通達が出されました。

2008 年には、標準的な法的ガイドラインに基づいて市場を規制するための「国家バイオ燃料政策(NBP)」が採択。同政策では、2017年までにガソリンに20%のエタノール、ディーゼルに20%のバイオディーゼルを混合することを目標としていました。

2018年のスパイスジェット機就航の数日前、ナレンドラ・モディ首相は8月10日の「世界バイオ燃料デー」に向けてスピーチを行っています。

モディは、バイオ燃料がインドの国内経済と環境とをつなぐものであると強調し、政府がバイオ燃料のブレンドによって約26.7億ドル(約2,820億円)以上の輸入外貨節約を目標としていることに言及しました。さらには、これによる雇用創出農家の所得向上農村開発に焦点を当てており、バイオ燃料に対して非常に先進的な絵図が描かれています。

What’s stopping the biofuel business?

バイオ燃料の“重し”

2008年のNBPでの目標に対し、2017年の実態はどうだったかといえば、ガソリンとディーゼルに対するエタノール・バイオディーゼルの混合費は2%、0.1%tに留まりました。インドは新たな目標として、「NBP 2018」においては、2030年までにガソリンにエタノールを20%、ディーゼルにバイオディーゼルを5%混合することを約束しています。

石燃料に莫大な補助金が出ている市場に限っていえば、再生可能エネルギーの参入は「不可能ではないにせよ困難」というのが現実です。というのも化石燃料には200年以上の歴史があり、その補助金に至っては再生可能エネルギー部門の7倍にもなるからです。かような環境下では、適切な支援なくして再生可能エネルギーが花開く日は遠いといわざるをえません。

インドが2002年と2008年に設定した目標はいずれも失敗に終わりましたが、その主たる原因は、バイオマスの不足が挙げられます。

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Image: Q400, REUTERS

スパイスジェットの72人乗りボンバルディアQ400型機は、350キログラムのバイオマスを使用することで、既存の燃料に比べ15%の二酸化炭素排出量を削減できるといわれています。インドにおける目標は、燃料に1,000万リットルのエタノールを配合することで、2万トンの二酸化炭素排出量削減を目標とするものですが、エタノールを生産するためのバイオマスの入手は難しく、需要をはるかに下回っています。

バイオ燃料の先駆者である米国やブラジルは、主にサトウキビやパーム油といった1G(第一世代)、つまり食用バイオマスを原料としたバイオ燃料を使用しています。一方、インドのバイオ燃料計画における“マスコット”は、ヤトロファ(jatropha; ナンヨウアブラギリ)や農業廃棄物(2G、3G)です。同国は食糧とエネルギー双方の観点から慎重に検討し分析した結果、荒地での生育に適したヤトロファやその他農業廃棄物をに注力することを選びました。

2018年8月のスパイスジェット便においては、ヤトロファが約500軒の農家から調達されました。しかし、州や中央政府が作物生産を促進しようと支援やインセンティブを与えても、これらバイオマスの生産は、国の需要全体を満たせる見込みはありません。

理由のひとつに、ヤトロファの種子開発のための研究不足が挙げられます。報告によると、現在、ヤトロファ栽培はわずか50万ヘクタールに留まっています。2030年、インドの運輸部門においてはディーゼル約1億1,700万リットル、ガソリン約4,200万リットルが消費されると予想されています。それを考慮すると、2030年までに目標を達成するためには、インドはヤトロファの生産量を22%増産する必要があります。

理由はほかにもあります。バイオマスが利用できないのは、バイオマスが季節に左右されるうえに、サプライチェーンの信頼性が低いことも関係しています。

2011年からグリーンエネルギー生産とバイオマスサプライチェーンに携わってきたアジャイ・ラハネは、EcoOpus Agri Ventures Private Limited (ECOOPUS)というスタートアップを率いていますが、彼は「バイオマスサプライチェーンは政策によって完全に無視されており、バイオマスの適切な供給が困難になっている。各プラントはエタノール生産を経済的かつ効率的なものにするのに苦労している」と述べています。

困難なのは、効率的なバイオマスの調達だけでなく、プロセスそのものの健全化においても同様です。

先進的なバイオ燃料に注力するインドでは、研究開発への巨額の投資に加えて、高価かつ高度なテクノロジーが必要とされます。バイオ燃料の産業化そのものにも時間もかかります。商業規模として十分なプラントの設計・建設には相応の時間が必要ですが、インドにはその時間が不足しています。

This business cannot be just usual

一筋縄ではいかない

インド政府は今、民間企業に焦点を当て、インフラ整備のための資金提供も約束しています。公約された資金の総額は500億ルピー(約725億円)に上りますが、1 日あたり 100 キロリットルのバイオ精製所の開発に必要な設備投資は、約800~900億ルピー。現在の資金提供の水準では、バイオ燃料プラントの支援には少なすぎるといえるでしょう。

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Image: 2014, BRASIL, REUTERS/PAULO WHITAKER

プラント整備ができたところで、次には小売販売を整備する必要があります。

エタノールと化石燃料の最終的な混合は、官民の石油販売会社(OMC)によって行われます。OMCは1,000億ルピーを投じて12の2Gバイオプラントを設立しようとしていると推定されていますが、この開発は、農村部への適切なインフラ投資のほか、バイオ燃料の適切なマーケティングサプライチェーンマネジメントがなければ、大きく進展することはないでしょう。

グリーン産業政策において、“誤算”は不可避です(実際のところ、誤算が少ないということはそもそものパフォーマンスが低いということを意味します)。グリーン化プロジェクトを成功に導くには、効率有効性正当性のすべてが必要です。重要なのは、誤りを認識しそれに応じて政策を修正する機能があることであり、国家バイオ燃料委員会のような規制機関がよりよい政策を導くことです。

現在のインドのバイオマス生産能力についていえば、テクノロジーもインセンティブも、投資そのものも推進するには不十分といわざるをえません。

が、大幅な政策支援さえあれば、2030 年までに先進的なバイオ燃料を用いて、ガソリンに約 6%、 ディーゼルに約 4%の混合燃料を使用するという目標の達成も可能だとする試算もあります。

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Image: REUTERS

スパイスジェット機の「エタノール25%の混合」航行は、たった一度きりの試みでした。インドがこれを成功させ、世界の注目を集めたのは確かです。しかし、これを政策として成功させるためには、バイオ燃料生産の経済的、環境的、市場的側面すべてを統合し、成功に導く必要があります。

グリーン産業にとって資金は常に不足しています。今考えうるのは、公共部門が民間投資を誘致し、「再生可能産業」を盛り上げていくことにほかならないのです。


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(翻訳・編集:鳥山愛恵、年吉聡太)


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