Thursday: MILLENNIALS NOW
ミレニアルズの今
パンデミックもどこ吹く風。インフルエンサーやセレブリティ、富裕層は、感染リスクも顧みず「パーティー」を開催し続けています。彼らの振る舞いを巡る議論からは、米国内の激しい格差の実情がみえてきます。
仕事を失い、あるいは学校にも行けずにギグワークに身をやつす──。パンデミック中に若者のあいだで浮き彫りになったのは、しかし“貧しさ”だけではありません。米国では、新型コロナウイルスが蔓延しても、パーティーを止められない人たちがいるのです。
ロサンゼルスでは大人数での集まりがすでに禁止されていましたが、主にセレブリティや富裕層、若いインフルエンサーが主催するパーティーは後をたたず、ハリウッドヒルズの個人宅や空き家、Airbnbといった短期賃貸で行われ、度々問題になっていました。
Party must go on
それは、生きるため
今や“立派な職業”であるインフルエンサーやTikTokerたちもパーティー三昧。しかし、多くのインフルエンサーが検査で陽性であったことがのちに判明しています。
21歳のトーマス・ペトローが管理人で、TikTokerたちが住むハリウッドヒルズの邸宅「Hype House」でも、7月下旬、とあるパーティーが開催されました。物議を醸したのは、その場にマスクなしで参加した人気YouTuberでインターネットセレブのタナ・モンジョー。ソーシャルメディア上には、まるでパンデミックが起こる以前に開催されたようなパーティーの様子をおさめた動画が投稿されました。モンジョーはその後、「世界的なパンデミックのなか、パーティーへ行ったのは不注意で無責任な行動だった」と、謝罪しています。
一方のペトローは、完全擁護の構え。『The New York Times』に対して、次のように答えています。
「クリエイターにとって、こうしたイベントはただの遊びではなく、仕事。私たちの仕事は人を楽しませること。(パンデミックによって)1年もムダにして、お金を稼ぐことはできません」
同じころ、YouTuberのジェイク・ポールは、カリフォルニア州カラバサスの邸宅でパーティーを主催し、同市市長のアリシア・ワイントローブや近隣住民の怒りを買っていました。ポールはこのパーティーに関して『Insider』のインタビューに答えて「ぼくはじっと座って人生を送るタイプの人間ではない」と述べています。
ロサンゼルスに住む25歳のクリエイター、マリク・アーネストは、パンデミック中であっても、パーティーに顔を見せることが自分のキャリアに役立っていると『The New York Times』に対して話しています。また、一部のホストや出席者が表明した謝罪はその場しのぎに過ぎず、彼らが行動を変えてはいないとも語ります。
「インフルエンサーが謝罪するのを見てきましたが、次の週末が来てパーティーへ行けば、また彼らの姿を目にするでしょう。彼らはTwitterやInstagramで“言うべきこと”を言って、自分の人生を生きているのです」
PARTY IS NOT OVER
変わらない生活
富裕層やセレブリティも同じく、これまでと変わらずにパーティーを続けています。
6月、ソーシャライトのアシュレイ・テイラー・ブロンゼックは自邸の裏庭でパーティーを開いたことが明るみに。その後、彼女自身が陽性だったことが判明し、パーティー開催を謝罪しました。
セレブリティはといえば、まず名前が挙がったのがヘイリーとジャスティンのビーバー夫妻。報じられたジャスティンの誕生日パーティーにはケンダル&カイリー・ジェンナー、ウィニー・ハーロウ、ジェイデン・スミス、ルカ・サバトなどが出席し、豪華な顔ぶれになったようです。
ビジネス界で注目されたのは、ゴールドマン・サックスのCEOデービッド・ソロモン。CBSニュースによると、7月末、ニューヨーク州ロングアイランドのハンプトンズで開催され何千人ものゲストが招待されたザ・チェインスモーカーズの「ドライブイン」コンサートにて、ソロモンCEOはオープニングアクトとして「D-Sol」の名でDJを務めたのです。
同イベントではマスクやソーシャルディスタンシングなどのルールが守られているとされていましたが(皮肉にもメインイベントのタイトルは「Safe & Sound」)、ソーシャルメディアからはそのような様子は見受けられず、ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモは強い怒りを表明しました。
さらに、8月には、約200人が参加したカリフォルニア州ビバリー・クレスト地区のパーティーで女性が射殺されるなど、感染の拡大とは異なる問題も発生する事態に。業を煮やしたロサンゼルス市長のエリック・ガーセッティは、集会禁止令に反抗して大規模なパーティーを繰り返し開催していた邸宅の、水道と電気の供給を停止する措置も許可しています。
あえて感染するための「コロナウイルスパーティー」が非難されるのは当然です。しかし、米国での報道を見る限りどうしても目立つのは、大規模な邸宅パーティー。その背景に、富裕層およびエリート層への負の心理を見出さずにはいられません。
NO RULES
ルールは適用されない
新型コロナウイルスは、米国における「貧富の差」を露わにするとともに、人びとの生活にこれまでにない激しい制限を強いるものとなりました。だからこそ、大規模なパーティーの様子がソーシャルメディアのタイムラインで流れてくれば、特権階級の人々がルールから免除されているかのように見えるのも仕方がないのかもしれません。
実際のところ、超富裕層の人々はより頻繁にルールを破ると、心理学者のブラッド・クロンツは、2017年に『The New York Times』に語っています。
「(富裕層の多くは)自分にはルールは適用されないという感覚があるようです。特定の方法が禁じられたら、別の方法を探します」。資本主義のなかで富を勝ち取るということには「ルールを破ってもいい」というマンドセットも含まれているというわけです。
とりわけ、目に見えないウイルスとの戦いという現状は、彼らにとって先行きが不透明な「答えがないもの」という認識なのかもしれません。先述のYouTuberであるポールも、パーティーについて聞かれた際に「誰も答えをもっていないし、ぼくたちは指導者(政府)によって失望させられている。誰も、何をすべきか分からない」と答えています。
『Refinery29』は、次のように論評しています。
「世界中のすべての特権をもった人たちが何をすべきか、何をすべきでないかを知る方法があるということは別です。今、大規模なパーティーを開くことが、よいアイデアだと考えるなんてありえません。しかし、資本主義においては、ルールを守ることが周りをケアすることに繋がるという当然の考えが備わっていない。そして、富裕層はパンデミックによって富を増やしているので、もちろん、ルールを守ろうなんてしないでしょう」
Economic inequality
拡大する経済格差
経済協力開発機構(OECD)のデータによると、米国の所得格差はG7諸国の中で最も高く、所得格差を示すジニ係数に至っては、米国は0.434(2017年)。
また、61%の米国人が経済的な不平等が多すぎると答えていますが、支持政党や家計の所得水準によってその見解は異なります。2019年9月に行われたPew Research Centerの調査によると、不平等を訴えているのは、共和党および共和党寄りの人たちが41%なのに対して、民主党および民主党寄りの人たちは78%と大きく乖離しています。
また、最近の分析によると、米国の最も裕福な家庭と貧しい家庭の間の格差は、1989年から2016年までのあいだに2倍以上に増加しています。国際通貨基金(IMF)は、「世界の所得は3%増加する」との年初の予想を翻し、今では3%減少すると予想。この数値は、2008〜09年の大不況に比べてはるかに悪いものです。
経済学者たちを対象とした最近の世論調査によると、大多数がコロナウイルスのパンデミックが未熟練労働者に不釣り合いな影響を与え、一部では不平等を悪化させると感じていることがわかっています。
RICHER, FREELY
裕福に、自由に
しかしながら、一方の億万長者はさらに“リッチ”になっていくのです。
米国の民間シンクタンクInstitute for Policy Studiesが発表した報告書によると、Amazon創業者のジェフ・ベゾスやTeslaのイーロン・マスクを含む米国の億万長者の富の合計は、パンデミックのあいだに10%近く増加。これは、皮肉にも2,200万人もの米国人が失業申請をしている期間に起こっています。ちなみにAmazonは最終四半期に52億ドル(約5,450億円)の記録的な利益を計上したばかりで、昨年の目標の2倍になっています。
『Vanity fair』では、あるシリコンバレーの富裕層の談話として「コロナウイルスは貧乏人のウイルスだ」ということばを紹介。数え切れないほどの億万長者が、感染者数が最も少ない場所へと飛び回っていて、ロサンゼルスの別の億万長者は、豪華なディナーパーティーを開催しているといいます。
さらに別の投資家は、パームスプリングスにある月5万ドル(約525万円)の大規模な施設をグループパーティーハウスとして使用しているなど、コロナウイルスのパンデミックが起こったとしても、なにひとつ変わらないような生活を送っているようです。
彼らは、米国に滞在したくないと思えば、海外への移住も簡単です。報告書によると、富裕層は国際市民権のために260万ドル(約2.73億円)も支払っていることがわかりました。
「人々は“別の国の市民権”という保険を欲しがっています。富裕層は5年から10年の計画を立てるのではなく、100年以上先を見越して、富と幸福の観点から計画を立てているのです」と、海外居住・市民権に関するコンサルタント企業Henley & Partnersのアジア担当責任者ドミニク・ヴォレクは、CNN Travelに対して述べています。
ちなみに、プライベートジェットも大人気。ジェット機のレンタルも急増しています。
プライベートジェットのレンタル会社であるNetJets(ネットジェッツ)の広報担当者によると、問い合わせは前年に比べて急増しており、パンデミックの長期化に伴って増加し続けているといいます。たとえば4月には、ネットジェッツへの問い合わせは前年比60%増でしたが、6月時点では195%に増加しているようです。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- フリーランスの獲得。フリーランスマーケットプレイスの「Fiverr」は、大企業のチームがフリーランサーとの仕事を管理できるように設計された新サービス「Fiverr Business」を開始しました。CEOのミチャ・カウフマによると、同社はすでに大規模クライアントとの連携しているものの、新サービスによって利便性が向上し、パーソナル・エグゼクティブ・アシスタントをいつでも利用できる独占アクセス権など、より企業ニーズに応えるものになっているようです。
- ホログラムでのコミュニケーションがより身近になる? ビデオチャットに費やす時間が増え、実生活で人に会う時間が減ることが予想されるなか、スタートアップのSpatialは、デジタル空間でのコミュニケーションを大きく変えるサービスを提供しています。完全に没入型のデジタル環境に身を置くことで、アバターと会話したり、あたかも自分がオフィスや学校にいるように感じることができます。「スターウォーズ」のような世界はもう、すぐそこに?
- ストレス解消とリラクゼーションを促進するドリンク。PepsiCoが、ストレス解消とリラクゼーションを促進するとのふれこみの「Driftwell」を発売します。砂糖を一切使用していないカロリーゼロの無炭酸水で、ブラックベリーとラベンダーの香りが特徴。200mgのL-テアニンと1日に必要な10%のマグネシウムが含まれています。7.5オンスのミニ缶は、「リラクゼーションに一口」というキャッチフレーズで12月にオンラインで発売され、2021年の第1四半期には店頭でも販売される予定です。
- 占星術を使ったデートアプリ。マッチングアプリは新しい出会いを求める人たちにとって、不可欠なものになっているのかもしれません。さまざまなタイプのマッチングアプリがありますが、元Appleのエンジニアであるレイチェル・ローが新しく立ち上げた「Struck(ストラック)」は、占星術ベースでマッチングしてくれるので、占い好きにはピッタリなものになりそうです。
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