New Normal:新しい「幸福な家族」 のかたち

Friday: New Normal

新しい「あたりまえ」

毎週金曜日のPMメールでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。今日は、新しい「家族」のかたちについて。かつて米国の象徴ともいえた「核家族」は、ミレニアル世代を中心にもはや幻想になりつつあります。COVID-19の影響で大きく変化する、家族の行方についてレポートします。

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自宅待機を経て、リモートワークが一部の職種で当たり前になってから、半年近くが経過しました。外出を控えることで増えた家で過ごす時間は、改めて「家族」という生活をともにする存在と向き合う機会となります。

ただ、今回のパンデミックは、わたしたちの生活の基盤ともいえる家族のあり方にも大きな影響を及ぼしつつあります。

GOING DOWN

先進国で下がる出生率

ブルッキングス研究所によると、米国で生まれた新生児は来年、2020年に比べて30〜50万人減少する可能性があるといいます。これは、同国の平均年間出生数370万人の約10%が減少することを意味します。

また、米国の18歳から49歳までの女性の約3分の1が、パンデミックのために妊娠を延期することを計画しているというデータもあります

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この状況は、米国だけのものではありません。英国、フランス、ドイツ、スペインでは、回答者の50%以上が出産を延期すると述べました。すでに少子化が進んでいるイタリアでは、新しい子どもをつくる予定がなくなったと答えた人が目立ちました。

出生率と不況には明確な相関があります。ただ、手もとにお金がないことを理由に子どもへの出費を恐れて、「今は生まない」という選択を女性がするだけに状況は留まりません。もし不況が長くつづけば、一部の人々の生涯所得は低下し出産を遅らせるだけでなく、生涯に産む子どもの数を減らすことになるかもしれません。

ただ注目すべきは、COVID-19感染の拡大前から、米国を含む多くの先進国で出生率が減っていたことです。

NEW STUDY

より小さな家族

米国疾病対策予防センターの発表によると、2019年に米国で生まれた新生児の数は、2019年に30年以上で最低のレベルに達し、5年連続で下降傾向を継続しています。

同報告書によると、出生数は2019年に記録的な低水準に達していました。米国人女性の合計特殊出生率(生涯で1人の女性が産む子供の数)は約1.71。 人口が減少しない基準とされる2.1を下回る状態が、2007年以降続いています。

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ただし、例外もあります。40代前半の女性による出産が増加。過去20年間、初産婦の年齢は上昇し、20代や30代で子どもを産まずに、出産を遅らせる女性が増えているのです。ウィスコンシン大学のクリスティン・ウィーランは、その原因の一部が2008年のリーマンショックの影響にもあるとしながら、以下のように家族に関する価値観の変化にも言及しています

「2018年の米国の結婚率は1900年以降で最も低く、新婚は1,000人あたりで6.5人しかいませんでした。結婚が嫌がられているというよりも、多くの米国人が今では『より小さな家族』というあり方を重視しているのかもしれません」

NUCLEAR FAMILY

核家族は幻想?

そもそも米国では、夫婦や親子だけが同じ家に住む「核家族」と呼ばれる家族形態が一般的でした。ジャーナリストのデイビット・ブルックスは、その背景にはアメリカンドリームがあると〈The Nuclear Family Was a Mistake〉(核家族という誤り)という論考のなかで語っています。

「19世紀後半から20世紀初頭にかけて、大都市に工場がオープンすると、若い男女はアメリカンドリームを追いかけるために家族のもとを離れました。このような若者たちは孤独な状態に陥り、都市で22〜23歳で結婚しました。1890年から1960年までの間に、初婚の平均年齢は男性で3.6歳、女性で2.2歳下がったのです」

結果、核家族というフォーマットは全米を席巻しました。1960年までには、全児童の77.5%が、祖父母を含まない家庭で両親と一緒に暮らしているという調査もあります。

また、ブルックスは以下のように、そこで生まれた教育規範についても触れています。「核家族では、子どもたちが思春期に独立、自分のパートナーを探すことができるように自律性を求めた教育が行なわれました」。核家族のもと、子どもたちが家から出ることが前提となった社会システムが構築されていたといえるでしょう。

いま起きている出生率の減少などの事象は、そんな価値観の終わりを告げているのかもしれません。ミレニアル世代の家族像を紐といてみると、核家族という考え方から大きく異なるかたちが見えてきます。

FAMILY VALUES

ミレニアルな家族

Pew Research Centerのレポートによれば、配偶者と自分の子ども一緒に暮らしているミレニアル世代は、30%程度。この数字は、ベビーブーマー世代の場合だと70%程度です。さらにミレニアル世代の14%が、両親と同居。ほかの世代よりも高い割合を示しています。

自立する核家族というモデルが、ミレニアル世代を捉えるためには役に立たないことがわかります。

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テキサス大学オースティン校で、家族について研究するカレン ・ フィンガーマンは、その要因を次のように指摘します

「離婚が一般的になったミレニアル世代では、育児の助けを得るために、自分の親と一緒に暮らす傾向があります。また、数十年前の若者と比べて、今日の若者はチャットアプリなどを通じて親との連絡をとる頻度が高く、経済的な問題や人生において、親から指導を受けることが増えました。それは『新しい親密さ』といってもいいのかもしれません」

さらに考えるべきなのは、ミレニアル世代のなかにある多様性です。さきほどのレポートでは、男女、学歴や人種によって世代のなかでもデータに違いがあることがわかっています。

例えば、ミレニアル世代の男性は女性よりも両親と同居している1.8倍、学士以上の学位を持たないミレニアル世代の男性に限れば2倍になります。

また、ミレニアル世代のなかだと、家族と暮らしている可能性が最も低い人種は黒人で、白人とヒスパニック系の同世代の8割程度になっています。一方で、ヒスパニック系と白人のミレニアル世代の男性は、黒人やアジア系よりも、自分の子どもと一緒に暮らしている可能性が高いというデータもあります。

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FAMILY OF CHOICE

多様な家族のこれから

さらに、「性」の側面でも、家族の多様化は進んでいます。2015年の最高裁の判決で婚姻の平等が確保されたあと、米国ではLGBTQの家族の数が急増するだろうと考えられてきました。

2019年に行なわれた調査で、実際にLGBTQであるミレニアル世代の48%が、家族を増やすことを計画していることが明らかになりました。非LGBTQの55%と比較しても、その数字は決して少ないものではありません。さらに、新しい家族が欲しいLGBTQの人々の63%が、先端生殖技術、里親や養子縁組サービスの利用を考えており、旧来の家族計画とは異なるステップを目指しています。

また、結婚に対しての捉え方にも変化があるようです。結婚しても家計を同じにすることが少ないミレニアル世代にとって、結婚は経済的なメリットを意味しません。むしろ、精神的な安定のためのものなのです。既婚者カップルは、同棲中のカップルよりも「非常にうまくいっている」と感じ、結婚がパートナー同士の信頼関係を高める可能性が高いともいわれています

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COVID-19は、出生率に限らず、もともと多様化していた家族観にさらなる変化をもたらしつつあります。米国人の47%がデートするのが10年前よりも難しくなったと答えていて、今後の状況次第では、家族のスタート地点ともいえる“出会い”にも影響があるかもしれません。

さまざまなデータを通じてわかるのは、米国では家族の多様化がかつてないレベルで進んでいることでしょう。そこに生きる人々は、核家族のような与えられた規範に囚われることなく、自身の求める道を進んでいるようにみえます。出生率の低下の背後には、新しい幸せな家族のかたちが存在しているのです。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 起業家は新たなビジネスを始めている。JustBusinessが428人の起業家を対象に行った新しい調査によると、5人に1人以上の起業家がパンデミック前に計画していなかったビジネスを始めていることがわかりました。そのうち、4割近くが、宿泊施設、外食サービス、小売、芸術・娯楽・レクリエーションなど、厳しい状況に直面している業界に進出しています。
  2. パンデミックで誕生した新たな賞。ローマのフィウミチーノ空港が、世界初の5つ星となる「Anti-Covid」賞を受賞しました。同賞は、空港の衛生面や効率性などを評価したもの。同空港では、多言語化された読みやすい看板、マスク着用の徹底、清掃スタッフの存在が目に見えること、すべての発着便を1つのターミナルに統合して追跡を容易にしたことによる効率性などがポイントになったようです。
  3. 過去最大の景気後退。ニュージーランドは6月の四半期に12.2%のマイナス成長を記録し、景気後退に陥っています。1987年に記録をつけ始めて以来、GDPは「過去最大の落ち込み」であり、数カ月間のロックダウンが影響しているといいます。小売業、宿泊施設、レストラン、運輸業などの産業が大幅に落ち込み、建設業が25.8%、製造業が13%減少。家計の国内支出は12%減少しているといいます。
  4. 隔離場所が“ワイルド”だった件。多くの人が、COVID-19によるパンデミックにより自宅での隔離を行っていましたが、なかには非常にユニークな状況に置かれていた人もいました。アフリカの砂漠、動物園、ゴーストタウンなど、『NEW YORK POST』では、間違いなく最もワイルドな10の体験談を紹介しています

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