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Monday: Next Startups
次のスタートアップ
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。
2019年にはアメリカの子どもの3分の1がYouTuberを将来の夢に掲げています。日本でも「子どものなりたい職業1位(小学生男子)」になったというニュースが世間を騒がせました。
最近、人気YouTuberが送り出したカメラアプリが話題を呼んでいます。そこには単なる話題性に留まらない、新時代の事業のつくり方のヒントが隠されています。
今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、社名と同じ名のカメラアプリをローンチさせたDispoを取り上げます。
Dispo
・創業:2020年
・創業者:David Dobrik, Natalie Mariduena, Daniel Liss, Jack Reed
・調達額:400万ドル(約4億2,000万円)
・事業内容:使い捨てカメラアプリ
LONGING FOR FRIENDS
ネット上の「友だち」
Z世代のYouTuberのなかで特に成功を収めているのが、David Dobrik(デビッド・ドブリック)です。スロバキア出身の24歳で、1,840万人のチャンネル登録者を抱え、1回の動画の再生回数は軽く1,000万回を超えます。人気YouTuber集団Vlog Squadの中心人物で、アメリカの代表的なYouTuberであり、インフルエンサーです。
友人の部屋を浜辺に改装したり、プールに大量のドライアイスを落としたりと、度が過ぎるいたずら動画が中心ですが、友人たち(Vlog Squad)との間で繰り広げられる失恋や別離など、実話のリアルさがウリです。長年付き合っていた彼女と別れる動画は、2人が泣き語るシーンが有名になり、6,700万回再生されました。
ドブリックが毎回メインキャストとなるわけではなく、監督・出演者のひとりのような立場で、彼自身や友だちの人生と出来事を撮影している感覚です。20人ほどの登場人物もみな個性があり、それぞれクリエイターとして活動しています。
公開されている動画は一話完結型のストーリーで、過去の動画をいつ観ても楽しめるため、投稿頻度が減っても飽きることはありません。再生時間は毎回4分20秒で、気軽に、軽く楽しめます。“420(フォートウェンティ)”の由来には、大麻を表すスラング、放課後が始まる時刻が4時20分など、諸説あります。
ドブリックは、はしゃぐ友だちを撮影するのが大好きなのだと語り、純粋に楽しむ姿には親近感が溢れています。スター気取りをせず、いつも笑っていて涙もろい彼に、多くの視聴者は「ドブリックの友だちになりたい」と言います。映像の画質や音質を気にせず、友だちとストーリーにフォーカスしたそのコンテンツは、動画の全く新しいジャンルをつくり上げたとも言えます。
企業も群がっています。ドブリックの動画は内容に問題があるとされ、YouTubeからの広告収入は得られなくなりましたが、彼の世界観と一体化したプロモーションを展開したいスポンサーが一斉に手を挙げました。動画中、サプライズで登場人物に贈られるテスラやメルセデスなどの高級車はすべてスポンサーが手配しています。2019年5月、ニューヨークにオープンしたポップアップショップには2日間で1万人が詰めかけ、驚異的な人気を知らしめました。
最近はTikiTokに進出。15秒〜60秒程度のショートムービーは気軽な動画を得意としていたドブリックの手法と相性もよく、チャレンジ動画などではファンとのコミュニケーションもしやすくなりました。投稿頻度も1日3〜4回と増え、友だち感覚で彼のライフスタイルを追いたいユーザーにとって、さらに中毒性を増しています。
NEW CHALLENGE
Dispoの挑戦
ドブリックが立ち上げたスタートアップがDispoです。24歳にして成功を手にした時代の寵児は今、配信者の枠を飛び越えた新たなチャレンジを始めています。
Dispoは“Disposable”、つまり“使い捨て”のカメラアプリです。
もはや写真はスマホで撮って、すぐ編集できるのが当たり前ですが、Dispoで撮影した写真を確認できるのは翌日の午前9時。写りが悪くても、その場で何度も撮り直すことはできません。
基本的には「外」を撮るアプリで、インカメラの機能はなく自撮りには適していません。フィルター加工はなく、補正も効かない。20年前まで普通だった、かけがえのない1枚を撮るための工夫と、現像から上がるのを待つ楽しみをウリにしています。ドブリックの友達が、パーティで使い捨てカメラを使うのを見て、このアイデアを思いついたそうです。
採用している幹部メンバーの顔ぶれから、事業としての本気度が伺えます。エンジニア第1号として採用されたレジナルド・オーガスティン(Regynald Augustin、下写真・左)はTwitterの機械学習エンジニアで、投稿の差別的用語抽出の開発を主導したことで知られています。デザインチームのリーダーに就任するブリアナ・ホカンソン(Briana Hokanson)は、写真加工ソフトAdobe Lightroomのデザインなどさまざまなプロジェクトに携わってきた、業界では名の知れた存在です。
アプリのダウンロード数は260万を超え、YouTubeなどでもドブリックのファンが次々にハウツー動画をアップしています。“撮った写真がすぐに見られない”ノスタルジックな体験は新鮮で、簡単にコピーできない希少性と、唯一無二な本物感を追い求めるZ世代の心を捉えています。シンプルさを追い求め、機能を削ぎ落とし切った先にある「退化による、進化」と言えるでしょう。
STRONG SUPPORTERS
強力な支援者
このDispoを支えるのは、「Reddit」の共同創業者であり、テニス界のスーパースター、セリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)の夫で有力投資家のアレクシス・オハニアン(Alexis Ohanian)です。
オハニアンは、大学のルームメイトと創業した掲示板サイトRedditを2006年に売却。その後Redditの立て直しのため会長として返り咲き、同時に有力VCのInitialized Capitalを共同創業します。ところが今年、これらを突然辞職。その去就が注目されたなかで立ち上げたVC、BCE776の動向は、世間の注目を集めていました。
BCE776の名は、初めてオリンピックが開かれた紀元前776年に由来しています。「オリンピックの最初の競技は徒競走で、各地から集まった猛者のなかで、優勝者は会場近くの村に住むただのパン職人だった。未来のスターは、誰もが気づかないところにいる。その原点に立ち返る」と、オハニアンは語ります。
このBCE776の記念すべき第1号案件が、Dispoです。オハニアンは投資の経緯について「ドブリックの人を惹きつけるたぐいまれな魅力はすでに知られているが、ソーシャルメディアを再構築する彼の構想力に、世の中は気付いていない」と語ります。
群がるVCの中でBCE776を選んだ理由について、ドブリックは「オハニアンほど、クリエイターの力を理解し、ソーシャルの未来を信じている人はいなかった」と言います。BCE776以外の出資者はソーシャルでの発信力が高いShrug Capital、最近VCを立ち上げた世界的DJのThe Chainsmokers、そしてVlog Squadのメンバー個人など、VC業界の世代交代を象徴するかのような顔ぶれです。
Dispoでドブリックが体現しているのは、従来の「プロダクトがあって、ユーザーが付く」から、「コミュニティが先で、プロダクトが後」への逆転現象です。その思想は「事業ではなく、人とアイデアに投資する」と語るオハニアンの投資哲学にも通じます。
ドブリックとオハニアンの壮大な社会実験、このコンビが再定義するソーシャルメディアの未来に、期待を抱かずにはいられません。
久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 1,500人が入居待ちの起業家シェアハウス。TikTokで活躍するインフルエンサーたちが暮らすLAのシェアハウス「HypeHouse(ハイプハウス)」はよく知られていますが、起業家たちが共同生活を送る「Launch House(ローンチハウス)」も話題になっています。今年5月、AirbnbやUberでの経験をもつマイケル・ホウク(Michael Houck)をはじめとする18人の起業家で結成されたローンチハウスは、新型コロナが一掃した人間同士の対面での相乗効果を再現するような試みです。ウェイティングリストには1,500人以上が名を連ねています。
- SB、MS、Disney…大手がこぞって投資するスタートアップ。ノルウェー発のオンライン教育プラットフォーム「Kahoot(カフート)」は10月13日、SoftBankから2億1,500万ドル(約230億円)を調達したことを発表。SoftBankは同社の株式9.7%を取得しました。2012年に設立されたKahootは、大人数で遊べるクイズを簡単に作つくるツールで、家庭と企業クライアント向けにサービスを展開。Microsoft VenturesやDisneyなどからも出資を受けています。
- アントグループ、評価額目標を引き上げへ。8月下旬に香港と上海での新規株式公開(IPO)を申請し手続きを進めていたアントグループが、評価目標額の引き上げを発表。当初予定していた2,500億ドル(約26兆円)から少なくとも12%引き上げ、2,800億ドル(約29兆5,000億円)を目指す計画です。
- 欧州で今年最大のIPO。ポーランドのEコマース大手Allegro(アレグロ)が10月12日にワルシャワ証券取引所に上場しました。上場前の評価額は440億ズウォティ(約1兆2,000億円)。取引開始後に同社の株価は63%上昇し、初日だけで10億ドル(約1,050億円)以上が取引されました。今年ヨーロッパで行われた最大のIPOとなりました。
(翻訳・編集:鳥山愛恵)
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