Asia:5G戦争、ほんとうの勝者は

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Tuesday: Asian Explosion

爆発するアジア

世界中の通信ネットワークに根付いた中国企業を巡り、世界が揺れています。中欧関係が悪化するなか、着々と進む、欧州におけるファーウェイ排除の動きを整理しましょう。 ※AMメールでの予告と異なる内容でお送りします。

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Image: REUTERS/YVES HERMAN

中国の通信大手ファーウェイ(Huawei、華為技術)の、欧州における評価は「persona non grata」、すなわち“好ましからぬ人物”です。

英国からスウェーデンにいたるまで、欧州諸国はその電気通信インフラからファーウェイ製の機器を排除する計画を発表しています。歴史的にみて、ファーウェイがその分野において(限定的ではあるものの)重要な役割を担ってきたにもかかわらず。

Why has Europe banned Huawei?

排除、その理由

欧州の各携帯電話事業者は、今後10年間でファーウェイが4Gおよび5Gネットワークから段階的に撤退するよう準備を進めています。もっとも、競合はほとんどいないため、同社の主要なライバルとなるスウェーデンのエリクソン(Ericsson)とフィンランドのノキア(Nokia)が、順調とはいえないものの契約を獲得している状況です。

しかし、リスクを軽減する観点からすれば、ネットワークプロバイダーや政府がサプライチェーンを多様化しようとするのも当然です。専門家は、欧州でのファーウェイ支配の終焉は、新しいプレーヤーがこのゲームに参加するチャンスでもあると述べています。

モバイルネットワークが重要なインフラであることは、疑いようのない事実です。そして各国政府が、誰を参入させるか警戒するのも当然です。特に次世代携帯電話ネットワークである5Gは、ロボットからスマートシティまで、あらゆる種類のアプリケーションにつながる可能性があるされています。

米国は、少なくとも2010年から、次のような主張をしてきました(PDF)。曰く、ファーウェイおよび同じ中国のZTE(中興通訊)は中国共産党と結びついており、モバイルネットワークへのアクセスを利用して他国政府をスパイしたり、あるいは必要不可欠なサービスを停止したりユーザーのデータを盗んだりするだろう、というのです。

ワシントンは、ファーウェイが各国の通信機器に“バックドア”を設置することを(中国当局から)強制される可能性がある根拠として、2017年に中国で可決された法律(PDF、P.2)を指摘しています。しかし、ファーウェイ側は「そのような要請を受けたことはない」とし、もし受けたとしても「断固として従うことを拒否するだろう」と述べています

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しかし、それからしばらくの年月が経っても、欧州には米国の懸念は共有されていませんでした。

「ファーウェイの製品やサービスは、競合他社よりも安く、優れていた」と言うのは、米国の通信研究グループHeavy Readingのプリンシパルアナリスト、ガブリエル・ブラウン(Gabriel Brown)です。

Strand Consultが2019年発表した業界レポートによると、欧州における4G RAN技術のうち、ファーウェイが45%、ZTEが7%を供給していることがわかっています。さらに、オーストリアやベルギーなど一部の国では、両企業が4G RAN機器のすべてを供給していました。

Strand Consultによると、欧州の携帯電話ユーザーの半数以上が102の携帯電話事業者を介して、「中国のインフラにアクセスしている」というのです(その内訳の大半はファーウェイ。ZTEは、欧州でははるかに小さなプレーヤーで、英国などではすでにその機器が禁止されている)。

このレポートは、多くの通信事業者がファーウェイ機器を交換しようと発表する前に公になったもので、「これらの数字をもって、警鐘を鳴らす」と結論づけています。

そして今年、さまざまな理由によって、状況は変わりました

まず、中欧関係が悪化の一途を辿っています。例えば、香港や新疆ウイグル自治区。中国当局は、それら地域における自国の振る舞いを非難する国への報復として、通信という重要なインフラを遮断するのではないかという懸念が生じています。

また、欧州は「機会の公平性」を目指してもいます。業界誌『Light Reading』のニュース編集者、アイアン・モリス(Iain Morris)は次のように記しています

ファーウェイは、収益の約4分の1を欧州、中東、アフリカから得ており、欧州最大のモバイルインフラ・サプライヤーとなっている。かたやエリクソンの昨年における収益は中国のわずか7%で、ノキアも8%に過ぎない。5G契約においては中国企業が先を打ち、契約の約90%がファーウェイとZTEに流れようとしたことさえあった。ノキアは、その分野で完全に乗り遅れたとして、5G無線を諦めさえした。

2020年1月、欧州委員会は、加盟国が外国ベンダー依存を制限しつつ、国内の代替製品をサポートするためのロードマップを発表しました。

英国では、7月、議会の多数派を占める政府がファーウェイ禁止を宣言、ファーウェイに対してRAN機器の35%までの供給を認めるとした同年1月の決定を覆しました。最近も、スウェーデンが、2025年までにファーウェイとZTEの機器を段階的に廃止し、新しく両者の機器を設置してはならないとしています。

シリコンバレーの通信研究グループDell’Oro Groupバイスプレジデントのステファン・ポングラッツ(Stefan Pongratz)は、こうした決定を「欧州全体に波及効果をもたらす可能性のあるゲームチェンジャー」だと評しています。

Who will replace Huawei in Europe?

勝者は、誰か

つまるところ、通信機器市場は、ノキア、エリクソン、そしてファーウェイ、ZTEのわずか4社に支配されているのです。

5Gのような革新的なテクノロジーの開発には多大なコストがかかり、それらを世界中に展開するためには深い専門知識が必要なうえに、維持そのものにも費用がかかります。

歴史的にみれば、通信ベンダーは、コストを削減して市場シェアを拡大するために、何度も何度も統合を繰り返してきました。例えばノキアは、シーメンス、モトローラ、アルカテルを含む5つの異なるモバイル機器ベンダーを吸収しています。今日のエリクソンにはノーテル、マルコーニ、クアルコムの一部からなっています。「この業界は、規模の大きさがすべてを決める」と、Strand Consultのファウンダー、ジョン・ストランド(John Strand)は説明します。

韓国のサムスン(Samsung)は、4社に比べれば非常に小さく、仮に5G ネットワークを構築できたとしても、通信事業者が必要とする2G、3G機器を供給していないため、同じレベルでは競争にならないのです。

エリクソンとノキアを比べれば、財務的に有利な立場にあるのは前者、エリクソンです。

エリクソンが先週発表した四半期決算(PDF)によれば、収益予測は達成されいます。中国においては同国の大手3社と5Gを展開しており、欧州での事業展開も拡大させています。

一方のノキアは、今年の利益予測を下方修正。2021年の予測も低く設定されています。同社の中国におけるモバイルインフラ市場でのシェアは小さく(PDF)、最近では米・ベライゾン(Verizon)との5G RANの大口契約も失っています。2016年にアルカテル・ルーセント(Alcatel-Lucent)を買収して5Gの展開を遅らせたことからも、いまだ立ち直れていません。

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5Gで苦戦しているノキアですが、その多様なポートフォリオはエリクソンにはない強みです。

同社は最近、米航空宇宙局(NASA)との間で、初の月面セルラーネットワークを構築する契約を獲得しました。また、IPルーティングや次世代光トランスポート技術など、他の分野での躍進も目立っています。前出Heavy Readingのアナリスト、ガブリエル・ブラウンは「ノキアは、競争力ある存在として戻ってくる」「エリクソンとの競争関係も、5年後にはほぼ拮抗する」と語っています。

break up the Nokia/Ericsson duopoly

もうひとつの道

今、ノキアとエリクソンによる独占を打破するもうひとつの方法も、持ち上がっています。それがO-RAN(Open RAN)です。O-RANは、通信事業者が異なるベンダー間で切り替えることを可能にする技術で、現在、このソリューションに取り組んでいる通信事業者として、日本の楽天や米国のディッシュ(Dish)などの名前が挙がります。

もっとも、この技術はまだ実用可能なレベルにないというのが専門家筋の意見です。事業者はリスクを嫌がるものですが、Open-RANは間違いなくリスク高。O-RANはまだ先の未来の技術であり、現在ノキアやエリクソン、ファーウェイ、ZTEが提供する機器に代わるものではないという点で、大筋一致しています。

それでも、欧州において、通信という重要な技術のサプライチェーンにとっては多様性が必要だという考えのもと、このテクノロジーへの期待が高まっているのも事実です。EU は大規模なデジタル改革の一環として研究を進めており、英国でも「通信市場を開放し、成長させるための大胆な介入について助言する」ためのタスクフォースが結成されています。

欧州におけるファーウェイ撤退後、勝者となるのは特定のベンダーではないと、前出Strand Consultのジョン・ストランドは言います。彼は、「より安全なインフラを手に入れることができる。すなわち、欧州市民が勝者となることを意味している」と、主張しています。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 巨大ドラッグストアチェーン誕生か老百姓大薬房(LBX・ファーマシー・チェーン)と一心堂薬業集団股分有限公司(Yixintang Pharmaceutical Group Co Ltd)が合併に向けて協議を重ねていると、ロイター通信が匿名の関係筋の話として報じました。調整は3カ月以上続いており、この数日の間に取引を終了することを目指しているそうですが、2日夜にYixintang側は否定しています。上海に上場するLBXは約44億ドル(約4,600億円)、深セン上場のYixintangは約35億ドル(約3,700億円)の価値があり、合併が実現した場合、中国最大のドラッグストアチェーンが誕生します。
  2. ゾンビが売る「死人の服」。ライブコマースで活躍するタイ人女性のKanittha Thongnakは、これまでに誰も売らなかった「死者の服」を売って注目を集めています。毎週自宅からFacebook Liveでゾンビメイクを施した姿で配信し、葬儀屋から調達した故人が来ていた衣類を販売。ゾンビ人形など手作りアイテムも人気ですが、ブランド物が安いこともユーザーの関心を惹きつける要因で、リピーターもついているそうです。売り上げの一部は寺院に寄付されます。
  3. 米政府のH-1Bビザ発給停止はインドにとって好都合。米国企業がインド人労働者をシリコンバレーに呼び寄せることができないなら、彼らはインド人労働者がいる場所に生産を外注するだけ。「これは米国の生産が減り、インドは増加することを意味する」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略学部のGaurav Khanna准教授は指摘。一流企業へのアクセスとされていたH-1Bビザ取得への認識は変わり、今では世界中がインドへのアプローチの方法を模索し、インドを離れずとも「アメリカンドリーム」に挑めます。
  4. シンガポール:女性起業家のためのスタートアップ。既存の銀行と提携してさまざまな金融サービスを提供するネオバンクのLucyがプレシードで50万シンガポールドル(約3,840万円)を調達。女性が事業を始めるにあたって必要な金融的サポートを提供するアプリを開発中で、来年頭にローンチする計画です。米国、英国、メキシコ、インド、オランダなど様々な国の18人の女性投資家が出資しています。

(翻訳・編集:鳥山愛恵、年吉聡太)


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