Africa:今こそ、開発途上国に学ぶこと

Social distancing, temperature checks, and masks in South African schools as the reopened after a strict lockdown in June
Social distancing, temperature checks, and masks in South African schools as the reopened after a strict lockdown in June
Image: REUTERS/MIKE HUTCHINGS

Wednesday: Africa Rising

躍動するアフリカ

世界の視線が、大統領選で揺れる米国に注がれています。一方で、COVID-19の感染は相変わらず拡大を続けているのも事実です。今夜のニュースレターでは、目線を転じることの大切さについて、お伝えします。

Social distancing, temperature checks, and masks in South African schools as the reopened after a strict lockdown in June
Social distancing, temperature checks, and masks in South African schools as the reopened after a strict lockdown in June
Image: REUTERS/MIKE HUTCHINGS

今日のニュースレターは、オックスフォード大学上席研究員・グローバル開発倫理アドバイザーのマル・モルミナ(Maru Mormina)、ジョージ・ワシントン大学健康公平性シニアアトランティックフェローのイフェアニイ・M・ンスフォー(Ifeanyi M Nsofor)の2人の連名でお届けしています。

パンデミックから9カ月が経ちましたが、欧州では今もってCOVID-19が猛威を振るっています。

100万人あたりの死亡者数が最も多い20カ国を並べると、うち10カ国には欧州の国々が、残りのもう10カ国にはアメリカ大陸の国々の名が挙がります。逆に、最も少ない10カ国をリストにしたとき、そこに並ぶのはアフリカ、アジア諸国です。

そこにはもちろん、国ごとの統計的な違いをはじめ、さまざまな要因があります。しかし、ひとたびアフリカやアジアに目を向けたなら、その地域の開発途上国が、新型コロナに対してより早くより強力に対応し、それによって着実な成果を上げたケースが多くあることに気づけるはずです。

しかし、その事実に対して、先進国はほとんど見向きもしていません。

ジャーナリストや政治家たちが「成功した戦略」として挙げる例は、ドイツニュージーランドのような先進国での出来事ばかり。開発途上国について「彼ら」が知りえたことが、「わたしたち」先進国にとっても同じ問題だとは、必ずしも認識されていないのです。

African leadership

いくつかの教訓

感染症に関して、アフリカ諸国からみえてくるのは「経験こそ最高の教師である」という教訓です。

アフリカ大陸で起きている問題は、COVID-19だけではありません。新型コロナとともに、ラッサ熱や黄熱病、コレラ、はしか、その他多くの病が管理・対応されています。そして、これらの感染症に対して専門知識をもっているがゆえ、COVID-19発生以来のアフリカでは、より強い警戒心をもって希少な資源を投入し、流行を食い止めようとしてきました。

アフリカ諸国の“マントラ”を要約するならば、「断固として行動し、共に、今すぐに行動する」ということ。資源が限られているときには、隔離と予防こそが最善の戦略であることをアフリカの人たちは知っています。

People wear face mask at a butcher Ouagadougou, Burkina Faso, April 20, 2020. 2020.
People wear face mask at a butcher Ouagadougou, Burkina Faso, April 20, 2020. 2020.
Image: REUTERS / Anne Mimault

アフリカ諸国はCOVID-19に対してどのように対応してきたのか。まず、政府はウイルスと断固として闘う意志を示し、国境を迅速に閉鎖しました。かたや英国がパンデミックの流行に乗り遅れ、対応がどっちつかずになっている間に、モーリシャス(世界で10番目に人口密度が高い)の空港の到着口ではスクリーニング検査が開始され、リスクの高い国からの訪問者に対する隔離が実施されていました。これは、モーリシャス最初の症例が検出される2カ月前のことです。

ナイジェリアでは、2月28日に最初の症例が発表されてから10日以内に、大統領ムハマドゥ・ブハリがロックダウンを主導するタスクフォースを立ち上げています。これもまた英国と比較すると、英国では1月31日に最初の症例が発生しましたが、対策計画は3月初旬まで発表すらされていません。その間、首相のボリス・ジョンソンは、ウイルスについての緊急会議を5回も欠席したとも言われています。

アフリカの指導者たちは、2013〜2016年の西アフリカでのエボラ出血熱の発生以来、ウイルスとの戦いに対して相互に協力する姿勢を強く示してきました

エボラ流行の教訓は、「感染症は国境を尊重してはくれない」ということ。その教訓は、アフリカ連合(AU)によるアフリカ疾病対策予防センター(CDC)設立というかたちで活かされています。

そして今年4月、アフリカCDCは「COVID-19検査を加速させるためのパートナーシップ」(PACT)を立ち上げ、大陸全体での検査能力を高め、ヘルスケアワーカーの訓練と配備に取り組んでいます。

PACTはナイジェリアに対する検査装置・検査試薬の提供をスタートさせているとともに、エボラ出血熱との戦いで得た知識を応用し、アフリカ大陸全土に公衆衛生要員を派遣しています。

AUは、実験室や医療用品を調達するためのプラットフォーム「アフリカ医療用品プラットフォーム(AMSP)」を設立してもいます。

このプラットフォームでは、診断キットやPPEを一括購入しロジスティクスを改善することで、加盟国に対して高いコストパフォーマンスで同医療機器を提供しています。透明性を担保し、参加メンバー同士の公平性を高め、必要不可欠な物資に対する競争をなくそうとしているAMSPのアクションと、一部の先進国で横行している卑劣な戦術とを比較すれば、どちらが優れているかは明らかです。

COVID-19について発揮された強力なリーダーシップは、アフリカ諸国に限ったものではありません。例えばベトナム政府の公衆衛生キャンペーンは、その明確さにおいて広く賞賛されています。パンデミック初期段階で手を打ったことでも知られ、COVID-19による死亡者数が最も少ない国のひとつとして名前が挙がるほどです。

Testing n Hanoi, Vietnam Aug.10, 2020.
Testing n Hanoi, Vietnam Aug.10, 2020.
Image: REUTERS/Kham

南米・ウルグアイを見てみましょう。ウルグアイは南米諸国のうち、65歳以上の高齢者の割合が最も高く、人口の大部分が都市部に集中しています。ブラジルと国境が接しているため、感染症のホットスポットになりやすい国です。しかし、ウルグアイは強制ロックダウンを実施することなく、感染を抑制することに成功しています。

Doing more with less

質素なイノベーション

必要はすべての発明の母──資金が不足しているところには、創意工夫があふれています。これは、COVID-19にもいえることで、先進国が考えるべきもうひとつの教訓です。

パンデミック初期にセネガルが開発に着手したのは、特別な装置も不要で、1ドル以下・10分間で実施できるCOVID-19検査でした。同様に、ルワンダの科学者は、プールしておいた多数のサンプルを同時に検査するアルゴリズムを開発しました。

南米各国の政府では、COVID-19の症例をモニターし、公衆衛生に関する情報を発信するテクノロジーの採用が進んでいます。コロンビアで開発された「CoronApp」では、市民は毎日政府からのメッセージを受信し、国内でウイルスがどのように広がっているかを確認できます。チリで生まれた低コストのコロナウイルス検査は、特許で保護されていないため、他の低資源国もその恩恵を享受できています。

Innovation in Senegal. A prototype of a ventilator developed in Thies, Senegal April 7, 2020.
Innovation in Senegal. A prototype of a ventilator developed in Thies, Senegal April 7, 2020.
Image: REUTERS/Zohra Bensemra

こうした例は、なにも医療分野に限ったものではありません。

ガーナでは、農薬散布を専門とする企業で働いていたドローンパイロットが活躍。屋外のマーケットをはじめとする公共スペースの消毒にドローンを活用することで、通常であれば時間と人手のかかる作業を迅速かつ安価に実行できたといいます。また、ジンバブエでは、オンライン食料品店スタートアップが食品販売業者にプラットフォームを提供し、対面での買い物を躊躇している顧客の役に立っています。

こうした例は、「質素なイノベーション(frugal innovation)」の重要性を教えてくれます。シンプルで安価で即興的な解決策が、複雑な問題を解決できる──資源が制約されたなかで、複雑な問題に対処する能力は、あらゆる人にとって役立ちます。開発途上国で実現している解決策は、先進国で議論されている精巧かつ高価な「ムーンショット」的な解決策よりも、はるかにコストパフォーマンスの高いものになるといえるでしょう。

Why not follow these examples?

バイアスが邪魔をする

COVID-19以前。エボラ出血熱やジカ熱が知られるようになった世界は、すでに「世界的な準備」を強化する必要があることを知っていたはずです。

グローバルな行動には、当然ながら、国の利益を超えて、人びとのニーズを見極めることが求められます。いわゆる「グローバルな連帯(global solidarity)」です。

国同士の連帯とは違い、グローバルな連帯に求められるのは、「多様な主体が相互に依存している」という事実を認識することです。言語や民族、文化など「共通しているもの」に頼るのではなく、「違っていること」を受け入れなければならないため、その実現が非常に難しいのも事実です。

しかし、パンデミックは、なぜグローバルな連帯が必要なのかを教えてくれました。国と国とは、経済的な理由だけでなく、もっと深い部分──生物学的な理由から相互に依存していることを明らかにしました。

にもかかわらず、ここ数カ月、世界では“孤立主義”的な姿勢が優勢になっています。米国のWHOからの資金引き上げから、英国のEU共同調達協定への参加拒否に至るまで、国々がそれぞれ単独での戦略を追求しようとしています。このような“内向き”の世界では、先進国がアフリカやアジアの教訓を生かせずにいるのも不思議ではありません。

この点について、最後にもうひとつ、例を挙げます。

パキスタン・シンド州に拠点を置く農村開発財団では、4〜6月の3カ月間で、この地域における感染拡大を80%以上減少させました。これは、情報キャンペーンや衛生対策を通じ、コミュニティを巻き込むことで実現されたものです。コミュニティレベルのアプローチということでいえば、コンゴ民主共和国とシエラレオネでエボラ出血熱が発生した際、政府はテクノロジーやアプリに頼るのではなく、現地の人々に直接接触し、十分な追跡が実施できるよう訓練を続けました。

こうしたコミュニティレベルの戦略は、英国を含む先進国の専門家からも提唱され、明確なニーズがあったにもかかわらず、先進国においては、いまだ十分に活用されていません。これまでのところ、優先されているのは(効果があるとは証明されていない)“ハイテク・ソリューション”ばかりです。

エドワード・サイードは、その著著『オリエンタリズム(Orientalism)』において、先進国を「後進国」や「貧困国」の発展途上国と比較して「先進国」と表現するナラティブを指摘していますが、グローバルヘルスの分野にも、その考え方は根強く残っています。開発途上国からなんら学ぼうとしない西欧の失敗は、いわゆる先進国には「教えること」はあっても「学ぶべきこと」は何もないとする、歴史的に染みついたナラティブの必然的な帰結です。

COVID-19がわたしたちに何かを教えてくれたとすれば、今、知識に対する認識を再構築する必要があるということでしょう。欧州には「第二の波」が押し寄せていますが、南半球の国々の多くは、まだ第一波のまっただ中にいます。先進国が「自分たちこそ最先端」という考え方を捨て、普段目を向けていない国と関わり、そこから学ぶ謙虚さを養うことが、今、求められているのです。

(翻訳・編集:年吉聡太)


👤 アカウントページで登録メールアドレスを変更いただいても、ニュースレターのお届け先は変更されません。メールアドレス変更の際にはアカウントページで設定後、こちらのアドレスまでご連絡ください。

🎧 Podcastもぜひチェックを。SpotifyApple

📨 TwitterFacebookでも最新ニュースをお届け。

👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。