Friday: New Normal
新しい「あたりまえ」
毎週金曜日の夕方のニュースレターでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えてきました。パンデミック、そしてBLM運動を経た世界では、企業の「社会的責任」がかつてないほど問われるようになっています。“wokewashing”ということばから、企業の“これからのあたりまえ”を探ってみましょう。
2017年、Pepsi(ペプシ)は大きな間違いを犯しました。原因は、ケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)を起用したある広告にあります。
2分超の広告で映し出されるストリートには、デモの群衆が。ジェンナーは群衆に合流、おそらくモチーフとなっているであろうBlack Lives Matter本来の意図は全く伝わらないままですが、警官に歩み寄りペプシ缶を差し出します。警官が飲み干すと、群衆から上がる大歓声──。なにがなにやら分かりませんが、どうやら問題は解決されたようです!
この広告は大きな反響を呼び──、誰もが嫌悪感を抱きました。結果、ペプシは48時間を待たずにその空気の読めない広告を引き下げ、謝罪を余儀なくされました。YouGovの調査によると、ペプシは、とくにミレニアル世代の信頼を取り戻すのに9カ月かかったともいいます。
「wokewashing」ということばがあります。企業が男女・人種平等、環境問題などといった社会的正義を市場戦略に利用することを指しますが、このペプシのケースは、まさにその一例。消費者は一連の動画キャンペーンが偽善的かつ全く意味のないものだとすぐに認識し、その表面的なだけの振る舞いはすぐにバレたわけです。
wokewashing is still very much
アマゾンもアップルも
それから3年が経った今も、wokewashingが消えることはありません。
2020年、Amazon(アマゾン)は、パンデミックの最前線で働く労働者と彼らの仕事を讃える広告を放映しました。この広告は、『The New York Times』のcritic-at-large、アマンダ・ヘス(Amanda Hess)をはじめとする批評家から「倉庫や食料品店で働くことのリスクを覆い隠すストーリーで、そうした仕事から利益を得ていることに対する罪悪感を和らげるための戦術」として非難されました。
また、警察によるジョージ・フロイド(George Floyd)殺害後、Nike(ナイキ)やAdidas(アディダス)、Spotify(スポティファイ)、Apple(アップル)、L’Oreal(ロレアル)などの企業は、その経営陣が圧倒的に白人によって占められているにもかかわらず、「人種的正義を十分にケアしている」と公言したことで非難を浴びました。
ブランドが、自らの動きと一致しない価値観を外に向けて発信する。それによって大きな反発を受けるリスクが生じるのは明らかです。誰もがwokewashingを嫌っています。にもかかわらず企業がwokewashingを続けるのは、なぜでしょうか?
companies weigh in on social issues
意識高くて、当然
企業は今、社会正義に立ち向かい、それに基づいて行動しなければならないという大きなプレッシャーにさらされています。
ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスの教授(臨床社会・経営学)で、同校サステナブル・ビジネス・センターのディレクターを務めるテンシー・ウィーラン(Tensie Whelan)は、次のように述べます。
「企業は、場合によっては小さな国よりも大きな力をもっています。企業がどのようにビジネスを行うかは、人びとや地域社会に大きな影響を与えるため、企業には大きな責任が問われるのです」
さらに企業には、消費者と従業員双方からもプレッシャーがかかっているとも言えるでしょう。
Edelmanのレポート「2020 Trust Barometer」(調査対象:世界中の3万4,000人以上)によると、従業員の大多数が、CEOに対して「所得格差」(78%)、「多様性」(77%)、「気候変動」(73%)などの問題に関する発言をすべきだと考えていることがわかりました。
企業は、いまや人材の奪い合いになっていることを認識しています。ゆえに、社会的責任に対する従業員の関心に非常に敏感なことが多いと、ウィーラン教授は話します。
「企業は、若い世代が社会問題に非常に高い関心をもっていることを知っています。そして、最高に素晴らしい人材を獲得したいとも考えています」
同じEdelmanの調査によると、消費者の64%が「信念に基づく購買者」であることも判明しています。つまり、社会問題に対するブランドのスタンスに応じて人は購入し、あるいは別の商品を選び、ボイコットする可能性があるのです。
一方、重要な政治的局面において発言を控えるブランドは、非難を浴びることになるかもしれません。
今年8月に米・ウィスコンシン州ケノーシャで起きたジェイコブ・ブレイク(Jacob Blake)の射殺事件に際して、ナショナルホッケーリーグ(NHL)はじめとするスポーツ協会がどのように対応したかについて、マーケティングリサーチャーのジェシカ・フレデンバーグ(Jessica Vredenburg)らは「沈黙することのリスク」について、『The Conversation』で次のように説明しています。
「かつて、ブランドは論争を避けていたかもしれません。しかし、射殺事件が起き、他のスポーツは中止しているのにもかかわらず、NHLが試合を続けていたことが発覚したときに起きたのはあまりにあからさまな事態でした。NHLはファンと選手からの反発を受け、2日間の試合中止に追い込まれたのです」
ニュージーランド・オークランド工科大学でマーケティングの講師を務めるフレデンバーグは、この変化は数年前と比べてより顕著になっていると言います。曰く、2017年時点において、企業は社会問題への取り組みを「差別化するうえで重要」だと捉えていたが、今では、「企業には社会的取り組みが期待されていて、もはや当たり前になっている」というのです。
Does woke advertising work?
wokeは効果あり?
こうした「woke(社会で起きていることに対して意識的でいること)」な行動が、企業を窮地に追い込んでいるのも、また事実です。なぜなら、それと同時に、ブランドに対する消費者の疑いの目が強まる傾向があるからです。
フレデンバーグは、警察の横暴に抗議するべく米国国歌の斉唱時に起立を拒否したことで知られるNFLの元クォーターバック、コリン・キャパニック(Colin Kaepernick)をフィーチャーした、2018年のナイキのCMに人々がどのように反応したかを研究しています。
調査によると、調査対象者の60%はその広告を見たあと、ナイキに対して肯定的に感じていることがわかりました。しかし、ナイキが“純粋に”人種的正義にコミットしていると考えていたのはその45%に留まったというのです。
「人は、企業が製品を売るために嘘をつくことに慣れています」とウィーランは言います。
Volkswagen(フォルクスワーゲン)の排ガス不正のスキャンダルからタバコ会社が喫煙を健康的な習慣と見せかけていたことに至るまで、消費者の信頼がこれまでにも損なわれてきました。いまや人びとは、企業が自社製品のみならず、政治/社会問題についても誤った表現をしている可能性があるということに、すぐに気づくようになったのです。
Make them cry, make them buy?
泣かせて、買わせる?
wokewashingに対する批判は、企業の内部からも起きています。Unilever(ユニリーバ)のCEOであるアラン・ジョープ(Alan Jope)、2019年カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルで講演し、wokewashingが蔓延ることでブランドの信頼性と消費者の信用とが傷つけられていると主張しました。
「ブランドが掲げるアクションについて裏付けのないキャンペーンを行うことで、ブランドマーケティングが損なわれている例はかなり多くあります。Purpose-Led(目的主導型)なブランドコミュニケーションとは、単に『泣かせて、買わせて』ということではないのです」
しかし、多国籍企業であるユニリーバに対するwokewoshingへの疑念は拭えません。
ユニリーバは、「Dove(ダヴ)」や「Ben & Jerry’s(ベン&ジェリーズ)」など多くのブランドを所有しています。Doveのボディポジティブなマーケティングキャンペーンや、「Love Beauty and Planet(ラブ・ビューティ・アンド・プラネット)」が2019年に展開したホリデーギフトのラッピングとして再利用できる新聞広告など、「パーパスドリブンなマーケティング」に多額の投資を行ってきました。
2017年、Doveのひどい「Real Beauty Bottles」キャンペーンのように、ユニリーバの取り組みの一部は反発を受けています。このキャンペーンは、洋ナシ型や砂時計型といった形状・大きさの異なるプラスチック製のパッケージをラインアップし、女性の体型を連想させるものでした(「これは女性が考えたものとは思えない」と、テキサス大学オースティン校教授〈広告学〉のアンジェリン・クローズ・シャインバウム〈Angeline Close Scheinbaum〉は『Washington Post』にて批判。「カラダにフィットしていると感じることと、カラダの輪郭に基づいて購入の意思決定をさせるのはまったく違う話だ」と結論づけています)。
ユニリーバはまた、最近まで「Fair&Lovely (フェア&ラブリー)」として知られ、カラーリズムの論争を巻き起こしたインドの美白化粧品ライン「Glow&Lovely(グロー&ラブリー)」や、近年、性差別的な広告の歴史から距離を置こうとしてきた男性用パーソナルケアライン「Axe(アクス)」など、物議を醸しているブランドをもつ会社でもあります。
ジョープの言う「wokewashingがブランドを傷つける」という弁明はたしかに的を射ている部分もありますが、「ユニリーバが“偽り”の目的に加担せず、そうした目的をもつ者とは協力しない」という彼の宣言を一貫して守れるかというと、必ずしもそうはいえないでしょう。
The branding of “woke bravery”
“見かけ”の勇敢さ
社会問題への取り組みについて“正しく”主張ができないことを認識している企業は、その代わりに社会正義や差別の是正を求める運動に何かしら関連している著名人を広告に起用することがあります。
キャパニックを起用したナイキの広告をはじめ、Coca-Cola(コカ・コーラ)が最近公開した「Stand for Change」のCMが、このケースに当てはまります。これはBLM運動に対応して公開されたもので、競泳選手で米国オリンピック金メダリストのシモーネ・マニュエル(Simone Manuel)やオペラ歌手のダヴォン・タインズ(Davóne Tines)などの著名なアフリカ系米国人を起用し、“黒人の素晴らしさ”に敬意を表するものでした。
英・ウェールズのカーディフ大学の講師(デジタルメディア研究)であるフランチェスカ・ソバンデ(Francesca Sobande)は、こういった類の広告は、wokewashingの悪質なかたちであると指摘しています。彼女は「セレブリティを使うことで、あたかもサポートしているかのように振る舞う」ような広告には懐疑的だと言います。
キャパニックをフィーチャーしたからといって、それがナイキのブランド・パーパス(ブランドのもつ存在意義)につながる限りません。今年の夏、ナイキの現役従業員および元従業員によって構成された匿名の集団がInstagramに「Black at Nike」というアカウントを開設(すでに削除)したことで、社内で起こっていた差別的な事例が明らかになったわけですが、パフォーマンスだけの支援では何もならないことは、すでに示されています。
同様に、一連のBLM運動では、多くの企業が広告や声明で公言していた価値観に沿うことができなかったことが問われました。圧倒的に白人が多いリーダーシップチーム、黒人従業員に対する差別の疑惑、人種的不平等を積極的に続けさせる製品や慣行、あるいは根本的に何もしていなかった、などです。
「残念ながら、ほとんどの企業は人種差別と闘うためにほとんど何もしていません」とウィーランは言います。「社会的大義にお金を寄付することは素晴らしいことですが、透明性のある報告書や目標、社内で有色人種の人々を提供し、サポートしていることを確認するためのプログラムを配置することに代わるものではありません」
しかし、多くのブランドにとっては、何も言わないことで失うものの方が大きいと考えているようです。Netflixがツイートしたように、「沈黙することは共犯と同じ」なのです。
How to avoid wokewashing
では、どう解決する?
オークランド工科大学のフレデンバーグは、ブランドがwokewashingを回避するためのアドバイスとして、「自分たちが賛同するものを選び、その姿勢が信用に足るものであるようにすること」を挙げています。
たとえば、2018年にフロリダ州パークランドの高校で起きた銃乱射事件の後、Dick’s Sporting Goods(ディックズ・スポーティング・グッズ)が半自動小銃の販売を中止し、銃の販売を縮小することを発表。この決定は、同社が銃暴力に対して具体的な一歩を踏み出していることを明らかにしました。
フレデンバーグは、もうひとつの選択肢として「企業が自ら、特定の問題についての実績が不十分であるという事実を透明化し、それを変えるためにどのように取り組んでいるかを説明すること」を挙げています。
その取り組みが実現するまでのあいだ、企業が掲げるメッセージが自社の実践とどのように一致しているか(あるいは一致していないか)は精査され続けなければなりません。wokewashingが忌むべきものなのは確かです。そして、企業が気候変動や不平等について公の場で発言しなければならないというプレッシャーを感じている世界は、よい一面もあるということも理解されるべきでしょう。
「企業が自らの約束を記録として残すのは、非常に有益なことです」と、前出のウィーラン教授は指摘しています。「もし実行しなければ、企業は責任を問われることになるのですから」
This week’s top stories
今週のニュース4選
- フランス独自のオンデマンド。ストリーミングサービスを提供するフランスのスタートアップMolotov(モロトブ)は、AVOD(広告付き)サービスの「Mango」をスタートしています。ユーザーはライブ配信にアクセスしたりプレミアムチャンネルを購読したりできるほか、放送後のコンテンツ視聴や、クラウドへの録画が可能です。
- パンデミックでクルマ需要が高まる。この傾向は、調査に参加した26カ国すべてにおいて明らかでした。最も顕著だったのはブラジルで、62%がパンデミック前よりもクルマを使うと答え、それ以下と答えたのはわずか12%。南アフリカでは60%、米国とオーストラリアでは、40%以上が「以前よりも多くクルマを運転するようになった」と予想されています。
- スマホを持つと、イベントはより楽しくなる。ラトガース大学とニューヨーク大学の研究結果によると、スーパーボウルのハーフタイムショー、ホリデーパーティー、バスツアー、バーチャルサファリ、ダンスパフォーマンス、ホラー映画などといったイベント中にソーシャルメディアで投稿した参加者は、一貫して自分の体験に没頭し、ポジティブな体験を楽しんでいることが分かりました。
- ウワサのドレスが人気な理由。先週、Hill House Home(ヒルハウスホーム)はわずか30分で100万ドル(約1.05億円)相当のナップドレスを売り切りました。今では、このアイテムが年末までに同社のビジネスの50%を牽引することになっています。その成功の秘訣は何なのでしょうか?
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