Society:いま「マストハブ」なアプリ

REUTERS/CARLOS OSORIO

Deep Dive: New Consumer Society

あたらしい消費社会

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜夕方の「Deep Dive」のテーマは、「あたらしい消費のかたち」。今週は、パンデミック下でさらなる飛躍を続ける瞑想アプリ「カーム(Calm)」の人気に迫ります。英語版はこちら(参考)。

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Image: REUTERS/CARLOS OSORIO

先日行われた米大統領選。その夜、『CNN』の報道を何百万人もの人びとが視聴していましたが、そこにはちょっとした「皮肉なポイント」がありました。

というのも、同チャンネルで選挙結果を紹介する際に映し出す「Key Race Alert」では、ウェルネスアプリの「カーム(Calm)」がスポンサーになっていたからです(もっとも、この「Key Race Alert」に関しては、人びとの不安を引き起こすものだと物議を醸しているため、Calmがスポンサーなのはある意味、理にかなっているのかもしれません)。

起業家のマイケル・アクトン・スミス(Michael Acton Smith)とアレックス・テュー(Alex Tew)によって2012年に設立されたCalm。人びとが瞑想し、リラックスし、眠りにつくのを助けるという使命のもと、今では10億ドル(約1,044億円)の評価額を誇っています。2017年には、アップル(Apple)の「App of the Year」に選出。調査会社センサータワー(Sensor Tower)によると、2019年には8,000万以上のダウンロード数9,200万ドル(約96億円)の収益を上げており、収益額およびダウンロード数で業界1位となっています

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新型コロナウイルスのパンデミックやそれによって激動する経済、さらには人種問題や米大統領選挙の行方が注目された2020年、ユニコーンスタートアップのCalmは「瞑想業界」の新たなステージに躍り出ようとしています。

Growing Up

成長し続けるアプリ

今年4月、世界がロックダウンされるなか、Calmの初回ダウンロード数は160万件に急増。パンデミックが起こる前の1月に比べて36%の増加を記録しました。5月には、保険会社カイザー・パーマネンテ(Kaiser Permanente)との新たな契約により、年間のサブスク料金69.99ドル(約7,300円)のアプリが、1,240万人の会員に無料で提供されることに。カイザーの精神科医は「不確実性やストレス、あるいはコロナウイルスによってもたらされる恐怖」に向き合う人びとを助けるためのアクションであると、プレスリリース内で述べています。

Calmはまた、ストレスフルな仕事で疲れたスタッフに対して、デジタルメンタルヘルスサービスを拡大しようとしている雇用主からも恩恵を受けています。Calmの最高戦略責任者であるアレックス・ウィル(Alex Wil)は、10月に『CNBC』に対して、現在雇用している140人のスタッフのうち20人以上が法人営業に専念していると語り、「多くの組織が、メンタルヘルスは従業員にとって『あるといいもの(nice-to-have)』ではなく、『あるべきもの(must-have)』であると認識している」と指摘しています。

PHOTO VIA CALM
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最近では、冒頭に紹介した「CNN効果」もあり、雨が葉っぱに当たる音を流すという30秒の広告がソーシャルメディアでヒット。前週までは1日あたり平均500件だったメンションは、選挙当日には9,700件以上に増えています。

10月に『Bloomberg』が報じたところによると、同社はこの勢いに乗って、前回の非公開価格の2倍以上となる22億ドル(約2,300億円)前後の評価額で、さらに、1億5,000万ドル(約156億円)の資金調達を検討しているといいます。しかし、ますます拡大し、競争が激化している瞑想業界のなかで、Calmは油断してはいられません。

By the numbers

数字で見るCalm

💸 1億4,300万ドル(約149億円):これまでに行った資金調達額

🧘‍♀‍ 200万人:2019年の有料会員者数

📱 390万件:2020年4月のダウンロード数

👀 30〜35:ユーザーの年齢中央値

😴 10分:最も人気のある瞑想プログラム「The Daily Calm」を聴くのにかかる所要時間

🤓 6:利用できる言語の数(英語、スペイン語、ドイツ語、フランス語、韓国語、ポルトガル語)

Calm’s Hollywood dreams

ハリウッドを目指す

Calmの戦略として大部分を占めているのが、「セレブリティ」です。レブロン・ジェームズ(LeBron James)は「感情のコントロール(managing emotions)」や「チャンピオンのマインドセット(a champion’s mindset)」などといったセッションを提供し、アプリのストリーミング機能ではモービー(Moby)やEllie Goulding(エリー・ゴールディング)、シガー・ロス(Sigur Rós)などの音楽をエクスクルーシブで配信。就寝時は、マシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)、ハリー・スタイルズ(Harry Styles)、ローラ・ダーン(Laura Dern)、ケリー・ローランド(Kelly Rowland)、スコッティ・ピッペン(Scottie Pippen)などの名だたるセレブが読み聞かせをしてくれます(「Dream with Me」をセクシーな声で語るスタイルズは、Calmの投資家でもあります)。

PHOTO VIA CALM
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共同創業者のスミスは、Calmで「エミー賞やアカデミー賞を受賞したい」と語っています。そのことばを裏付けるように、今年、「A World of Calm」と呼ばれる10エピソードのHBO Maxシリーズでテレビデビューを果たしました。制作会社Nutopiaと共同で制作されたこのシリーズは、ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)、キアヌ・リーブス(Keanu Reeves)、ルーシー・リュー(Lucy Liu)といった著名なナレーターを起用し、サンゴ礁の中を海亀が旅する様子を描写しています。『The Hollywood Reporter』は、「現代の不安を和らげる鎮痛剤」として、「非常に、非常に、非常に、非常に高価なスクリーンセーバー」と述べています

「セレブリティ」と「精神を安定させるコンテンツ」に、これといった明確なパターンがあるわけではありません。しかし、よくよく考えると、その組み合わせは必然であるように思えてきます。たとえば、俳優のニック・オファーマン(Nick Offerman)以外に、「The Big Bad Wolf Learns Anger Management?」というストーリーを読むのにふさわしい人はいないでしょう。また、『Star Trek: The Next Generation』のレヴァー・バートン(LeVar Burton)が、「Journey to the Stars」の担当ではないとしたら、どうでしょうか?

The fight to sell tranquility

「静けさ」を売る戦い

Calmの最大のライバルは、元仏教僧のアンディー・プディコム(Andy Puddicombe)と元マーケティング界の大御所リチャード・ピアソン(Richard Pierson)が2010年に共同設立した、瞑想アプリの「ヘッドスペース(Headspace)」です。Headspaceのユーザー数は6,500万人以上、資金調達額は2億1,500万ドル、評価額は3億2,000万ドルと推定されています。

PHOTO VIA HEADSPACE
PHOTO VIA HEADSPACE

当初、Headspaceは立ち上げ時期も早く、初期資金も多かったため、Calmよりも優位に立っていました。一方、Calmは収益と投資家を取り込むのに苦労していました。しかし、2016年からCalmはすぐに人気が出て、Sleep Storiesと毎日の瞑想でプレミアムコンテンツを拡大し、有名人のナレーターやファンから大きな宣伝効果を得るように。Calmはそれ以来、収益とダウンロード数でほかのアプリを引き離し、トップの座についています。

とはいえ、Calmがトップの座に留まり続けるという保証はありません。Headspaceは、スターバックス(Starbucks)、アドビ(Adobe)、ユニリーバ(Uniliever)など1,300社以上と契約しており、独自の法人ビジネスを展開しています。また、臨床試験にも多額の投資を行っており、アプリの有効性を証明し、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得て、健康保険の対象になろうともしています。さらに同社は今年、英国の『BBC Four』で、自然の音や映像を展開するシリーズ「Mindful Escapes」をスタートしました。

ほかにも、初心者や懐疑論者向けの「テンパーセント・ハッピアー(10% Happier)」、6万5,000以上の無料ガイド付き瞑想のライブラリを有する「インサイト・タイマー(Insight Timer)」、ハーバード大学心理学者が監修した「シンプル・ハビット(Simple Habit)」など、小規模なプレイヤーもたくさんいます。しかし、Calmは自らの展望について自信をもっているようです。スミスは、2018年にHeadspaceについてこのように語っています。「わたしたちはお互いにマインドフルな競争をしています


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

DAVE CHAPPELLE/PHOTO VIA YOUTUBE
DAVE CHAPPELLE/PHOTO VIA YOUTUBE
  1. 今年を象徴するトレンド動画。YouTubeが、米国における2020年のトップトレンド動画を発表しました。人気だった動画は、同社も指摘しているように、今年は予想外のパンデミックやBLMなどの出来事が起こったため、通常とは違った並びだったといいます。1位にはデイヴ・シャペル(Dave Chappelle)の「8:46」、2位にはマーク・ローバー(Marc Rober)の「Building the Perfect Squirrel Proof Bird Feeder」がランクイン。まだ見ていない人は、是非チェックしてみましょう。
  2. 世界で増えるメンタルヘルスアプリ。シンガポールを拠点とするメンタルヘルスアプリ「Intellect」が、今年のローンチから半年で100万人のユーザーに到達しました。同社は最近、Insignia Ventures Partnersが主導する非公開のシードラウンドを終了したばかり。さらに、グーグルが発表した、2020年の「Best For Personal Growth」のひとつにも選ばれ、アジアで注目されている企業になっています。
  3. 一人勝ちのアジア。ユーロモニター( Euromonitor)の新しいレポートによると、北米と西ヨーロッパにおける小売の売上高はそれぞれ20%と19%減少すると予想されており、ラテンアメリカでは年間22%とさらに急激に減少すると予想されています。対照的に、アジア太平洋地域は2019〜2024年のあいだに40%の成長が見込まれる唯一の地域(2020年には年間売上高は14%減少すると予想)。実際、同期間における世界で最も急成長している企業のトップ10には、アンタ(Anta)、セミールグループ(Semir Group)、リーニン(Li Ning)、ボスドン(Bosideng)の中国企業4社がランクインしています。
  4. 欧州で拡大へ。パリを拠点とするオンラインマーケットプレイスのアンコーストア(Ankorstore)が、欧州展開を拡大するために投資家から2,500万ユーロ(約3.15億円)の資金調達を行ったと発表しました。同スタートアップは昨年、元エッツィー(Etsy)、ヴェスティエール・コレクティブ(Vestiaire Collective)、ア・リトル・マーケット(A Little Market)の従業員によって設立。すでに1万5,000人のインディペンデント系の小売店が参加しているといいます。

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