Society:Instacartが手放せない

THOMSON REUTERS FOUNDATION/ MICHAEL A. MCCOY

Deep Dive: New Consumer Society

あたらしい消費社会

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜夕方の「Deep Dive」のテーマは、「あたらしい消費のかたち」。今週は、食料品の即日配達サービスを展開する、サンフランシスコ拠点のインスタカート(Instacart)の成長を追います。英語版はこちら(参考)。

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米国でスーパーマーケットに入ると、スマホを猛烈な勢いでスクロールしながら、商品をいっぱいに詰め込んだカートを押している人たちを見たことがあるかもしれません。

コロナウイルスの影響で起こったパンデミックは、食料品配達のスタートアップ、インスタカート(Instacart)の成長を後押ししており、スーパーで見る買い物客の多くは、実は自分の家族のためではなく、アプリのために食料品を選んでいるのです

GROWING UP

Instacartの成長

サンフランシスコに拠点を置くInstacartは昨年、3億ドル(約321億円)の赤字と報じられていましたが、今年の4月に初めて黒字化を果たしました。投資銀行コーエン(Cowen)の報告書によると、Instacartは10月には、ウォルマート(Walmart)、アマゾン(Amazon)に次ぐ、米国で3番目に人気のあるオンライングローサリー(ネットスーパー)に躍り出ました。早ければ2021年にも株式を公開し、300億ドル(約3.12兆円)の時価総額になる可能性があるといいます。

スタートアップのデータベースであるピッチブック(PitchBook)によると、Instacartは現在、178億ドル(約1.85兆円)の評価額が付けられており、Walmart、セブンイレブン(7-Eleven)、セフォラ(Sephora)を含む500以上の小売業者との提携を通じて、米国とカナダの8,000の店舗から配達しています。一方、食料品配達のビジネスは飽和状態でもあります。というのも、ドアダッシュ(DoorDash)やウーバー(Uber)のようなギグ・エコノミーの会社も、Amazon、Walmart、ターゲット(Target)のような大手小売業者と同じように食料品配達に参入していているからです。

とはいえ、コロナの影響で記録的な需要が生まれていることから、大きなチャンスがあるのは間違いありません。

ベイン(Bain)のレポートによると、2020年3月の時点で米国における食料品の売上高全体のほぼ7%をオンラインショッピングが占めるほどになっており、2019年末の5%と比べると堅調に伸びています。英国では、コロナウイルスが発生する前が8%だったのに対し、12%に達しました。フランスでも6%から10%へと伸び、イタリアでは4%に倍増しています。アナリストたちは、こうした需要の急増の一部は、少なくとも今後も続くと予想しています。そして、2025年までには、オンライングローサリーは米国の食料品総売上高の22%、2,500億ドル(約26兆円)にまで達すると予想されています。

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Instacartでは、この需要の急増に応えるため、契約の配達員を何十万人も雇っています。また、フードスタンプ(米国における、低所得者向けに行われる食料費補助対策)で買い物する人向けの配達サービスを提供したり、電話サービスを開始して高齢者60,000人をユーザーに加えるなど、多種多様な顧客獲得のための基盤を整えつつあります。

とはいえ、サービスを拡大していくなかで、労働者の補償、労働環境の保護危険手当(使用者が労働者に危険な仕事をさせるときに、通常の賃金とは別に支払う手当金)の不足などの問題が急増しているのも事実です。今、Instacartは、短期的な需要に応えつつ、長期戦となるオンライングローサリー業界の基盤を築く必要に迫られているわけです。

By the digits

数字で見るInstacart

REUTERS/Cheney Orr
REUTERS/Cheney Orr

41分:スーパーへ向かう平均移動時間

💰2%:スーパー側の平均的な利益率

💸2億2,500万ドル(約234億円):Instacartの直近の資金調達

🛒75万人:稼働しているInstacartのショッパー(購買代理人)

👍350億ドル(約3.65兆円):年内までに予想される、Instacartでの食料品売り上げ額

🏠85%:Instacartで食料品の注文を受けられる米国の世帯

👀155ドル(約16,100円):9月21日の週に顧客がInstacartに費やした平均金額(調査会社セカンドメジャー調べ)。前年と比べると20%増

📱39%:2019年のInstacart/Harrisの世論調査で、サンクスギビング(感謝祭)の夕食を作る役目よりも、1カ月間スマホを手放す方がマシと答えたミレニアル世代の割合

Remember when

覚えておきましょう

Instacart が急速に成長しすぎているのでは?  と思いますよね。その教訓としては、最も悪名高い「失敗作」の一つと考えられている、オンライングローサリーのスタートアップ、ウェブバン(Webvan)を参考にするのがよいでしょう。

同社はわずか3年で8億ドル(約833億円)の資金を使い果たしたあと、2001年に破産を申請しました。急成長、経営の専門知識の欠如、独自のインフラを構築するための資金の使い込みがそろったときの「失敗モデル」として知られるようになりました。

Instacart’s origin story

Instacartの誕生物語

ちなみに、Instacartはどのように始まったのでしょうか?

2010年、Amazonの物流エンジニアだったアプオルワ・メフタ(Apoorva Mehta)は、自分の仕事にやりがいを感じていませんでした。そこで、会社を辞めてサンフランシスコに移住し、自分の会社を立ち上げることにしたのです。

弁護士のためのSNSなど、約20パターンの起業アイデアを検討する中で、メフタは食料品の買い物時の「悩み」に目をつけました。そして、2012年の春に、Instacartの最初のプロトタイプを作り上げたのです。メフタは自ら最初の注文を送ると、自分で商品を受け取りにいき、自分で配達を完了させました。その後、アプリを通じて6本入りのビールを投資会社のパートナーに届けると、Yコンビネータ(Y Combinator)から投資が決定したのです。

Instacartは創業初期から、米国とカナダの5,500都市へと提供エリアを拡大し、アンドリーセン・ホロウィッツ (Andreessen Horowitz)、セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)、クライナー・パーキンス (Kleiner Perkins)などの投資家から24億ドル(約2,500億円)もの資金を調達していきます

REUTERS/BECK DIEFENBACH/FILE PHOTO
REUTERS/BECK DIEFENBACH/FILE PHOTO

Labor tensions at Instacart

拡大する労働争議

同時に、Instacartは、チップをめぐるポリシーから労働環境まで、労働者の反発を受けてきました。2015年には、「従業員のように扱われている」というインディペンデント・コントラクター(独立請負人)からの訴訟を受け、買い物と配達を請け負うショッパーに対して、特別な手当でパートタイムの社員になる選択肢を提示しました。

しかし、労働争議は煮詰まった状態が続きます。2019年には、Instacartの労働者が、会社が顧客からのチップで賃金を目減りさせたと主張。そして、今年のパンデミック下における需要急増時には、労働環境の不満が爆発し、ショッパーたちが賃金引き上げと危険手当の支給を求めてストライキを敢行したほどです

そんな中で、2020年11月3日、カリフォルニア州で「プロポジション(Proposition)22」と呼ばれる住民立法案が成立しました。これは、Uber、Lyft、DoorDash、Instacartのようなギグ・エコノミーの企業が、今後もギグワーカーを(従業員ではない)「個人事業主」と分類し続けることが可能になる法案です。企業たちは、Proposition22を推進するために2億ドル(約208億円)以上を費やしており、カリフォルニア州史上最も高額な住民投票になっていました。現在では、他の州でも同様のイニシアチブを進めようとしています。

REUTERS/BRIAN SNYDER
REUTERS/BRIAN SNYDER

What’s in your cart?

カートの中身は何?

Instacartの知られざる世界を覗いてみるのにオススメなのが、Redditのスレッド「r/InstacartShoppers」。ショッパーがヒントを共有したり、質問をしたり、ギグワークについて話したりしています。ハイライトは以下の通りです。

💰 世代によるチップ習慣の違いについての理論

🛒 Instacartのショッパーが受け付けない注文の種類についての情報

❤️お客様(注文者)の最高最悪な行動


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

REUTERS/Temilade Adelaja
REUTERS/Temilade Adelaja
  1. Uber、空飛ぶタクシー事業を売却。カリフォルニアを拠点とするジョビー・アビエーション(Joby Aviation)が、ウーバー(Uber)の空飛ぶタクシー事業「ウーバー・エレヴェイト(Uber Elevate)」を買収することになりました。これにより、Jobyは、電動垂直離着陸(eVTOL)機が将来的に実際にサービスを提供する際に、Uberのアプリを利用して空飛ぶタクシーを提供できるようになります(早ければ2023年にも可能になるかも?)。
  2. プラスチック汚染を進めるのは誰だ? NGO団体「ブレイク・フリー・フロム・プラスチック(Break Free From Plastic)」の新しい報告書によると、コカ・コーラ(Coca-Cola)、ペプシコ(PepsiCo)、ネスレ(Nestlé)が、2020年のプラスチック汚染企業のトップ3になりました。ワースト1位となったコカ・コーラは、55カ国中51カ国で同社のプラスチック廃棄物が発見されたといいます。
  3. オンラインビジネスに賭けるフィットネス。フィットネススタートアップのアーミー(Aarmy)は現在、パンデミックの影響もあり、オンライン中心のビジネスを展開しています。ジェイ・Z(Jay-Z)やカーリー・クロス(Karlie Kloss)などのセレブからの投資も受けているAarmyですが、現在は、オンラインで受講ができるサブスクサービスを提供したり、フィットネスクラス以外にも、アパレル事業もスタートしています。
  4. 超富裕層は高級品を買い続ける。オークションハウスのクリスティーズ (Christie’s)が、「ラグジュアリー・ウィーク」をスタート。今年は、11月と12月の販売数が「200パーセント増加した」とのことです。また、サザビーズ(Sotheby’s)は「The Festival of Wonder」と題して、ライブとオンラインで販売会を開催していますが、オンラインでの販売量はすでに前年比4倍、総額は5倍の1億5,050万ドル(約156億円)に達しているとのことです。

(翻訳・編集:福津くるみ)


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