Deep Dive: Next Startups
次のスタートアップ
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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也さんのナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。今週は、民泊市場の「次」を狙うスタートアップを取り上げます。
イギリスを皮切りに新型コロナウイルスのワクチン接種が始まり、光が見えはじめた旅行業界。一時は瀕死の状態に陥ったエアビーアンドビー(Airbnb)は先週NASDAQに上場を果たし、時価総額は10兆円に迫る高い評価を受けました。
一方で、Airbnbが切り拓いた民泊市場の「次」を狙うユニークなスタートアップが今、若者の支持を集めています。今週の「Next Startup」では、フランス発の「リービー(Leavy)」を取り上げます。
Leavy
・創業:2018年
・創業者:Aziza Chaouachi、Mario Moinet、Yassine Ben Romdhane
・調達総額1,400万ドル(約14億6,000万円)
・事業内容:コミュニティ型トラベル
INSTANT CASH FOR YOUR HOME
住まいの「即」現金化
コロナ禍以前の数年間、増加する旅行者とホテル不足を背景に、日本でも本格化してきたAirbnb。シェアリングエコノミーの普及が後押しにもなって、家を貸し出すホストもユーザーも爆増し、民泊はホテルや旅館に並ぶ選択肢にまでなりました。
しかし、ホスト側には相応なリスクもあります。Airbnbの場合、ホストとしてさまざまな規約をクリアして物件を登録しても、実際に借り手とマッチングしない限り収入は発生しません。また、ホテルや別荘と見間違えるほどの綺麗な物件が並び、「普通の住宅」ではなかなか借り手も見つかりません。
今や民泊用不動産は投資対象となり、管理を専門業者が請け負うこともしばしば。ゲストにとっても、価格も体験も「安価なホテル」とさして変わりません。民泊市場の拡大の裏で、「ホストとゲストの交流」というAirbnbの原点は、いつの間にか隅に追いやられています。
こうした実態を解消するのがLeavyです。旅好きな若者の「助け合い」によって、「お金がなくても旅行に行ける」を実現するサービスです。
Leavyは、旅行に行く際に空になる自分の住居を貸し出して、旅行代金の足しにすることを可能にします。たとえ借り手がつかなくても、サイトに物件をリスティングするだけで、提示された金額の支払いが保証されます。
最大の特徴は、リスティングした時点で前払いされる点。ユーザーが自身の旅の日程を決めたら、利用可能な日程とともにLeavyのサイトに載せれば、直ちに軍資金を得られます。宿泊の予約がなかった場合でも返金する必要はありません。
この驚きのサービスを可能にする秘訣、それはデータ分析を駆使した値付け(プライシング)のアルゴリズムにあります。
Leavyではリスティングの値付けはホストではなく、Leavyが行います。周辺や同時期の物件の価格、稼働率、利用日までの期間などによって、価格はオンデマンドに変化します。
借り手が付かなければ、そのコストはLeavyの持ち出しになりますが、Airbnb上の同等の物件よりも相応に安い値段で出すことで、予約を埋めにいきます。Leavyは内部に優れたデータサイエンティストのチームを抱え、曜日や時期、場所、物件の広さや期間などあらゆる条件を考慮した上で、徹底した価格の最適化を行なっています。
単なる「民泊マッチング」に見えて、実態は「アルゴリズムを駆使したデータ企業」。これがLeavyの真骨頂です。
TRAVELING WITH COMMUNITY
旅のコミュニティ
Airbnbに出せばもっと高い値段で貸せる可能性もありますが、借り手が付かないとゼロの可能性もあります。0か100かどちらに転ぶか分からない不確実性より、約束された30を望む人も世の中には多いもの。人々のこうした心理をうまく突き、Leavyは物件獲得で高い競争力を得ています。
また、旅行に行っている間、必ず空室になる自分の部屋を民泊に出すといっても、旅行中のゲストへの対応には手間もかかります。これを解決するのが「ローカル・ホスト(Hosts on Demand)」です。物件の近くに住むユーザーが、オーナーの代わりに鍵の受け渡しや問い合わせなどに対応する仕組みです。
自分の家を民泊に出したくても、他人が快適に泊まれるほど綺麗ではない。それでも地元が好き、旅行が好きで、海外から来る人を迎えもてなす体験を求める人たち。部屋はなくても、ホストとゲストが交流するLeavyのコミュニティに参加したい人たちにとっては、ローカル・ホストはお金も稼げて一石二鳥です。
借り手にとっては、Airbnbで探すよりもLeavyなら同程度の物件であれば必ず安く使えます。
今の10〜30代は旅が身近な存在になった反面、相対的な貧困に悩まされる世代でもあります。学生ローンやクレジットカードの借金のせいで、旅行に手が出ないと言う層も多くいます。Leavyなら物件は安価で探せ、自分の部屋も民泊に出してお小遣いにもなります。
まさに、借り手、貸し手、ホストの「三方良し」を実現するサービスといえるのです。
MILLENNIAL TRAVEL DEBT
借金で旅をする世代
Leavyの創業者アジザ・チャウアチ(Aziza Chaouachi)も大学生のころから「金欠の旅好き」でした。ユーロラインズ(ヨーロッパ、モロッコ、トルコを運行する国際バス)のチケット代を捻出するためにパリの住まいをAirbnbで貸し出した経験をヒントに、Leavyの元となるコミュニティを立ち上げました。
コンセプトは「旅するミレニアルを増やすこと」。Leavyも当初は学業の片手間に、自分たちの家や時間を持ち寄った旅好き達の相互扶助的なコミュニティ的な存在でしたが、月次30%の急成長を遂げます。そして昨年11月、シード期の旅行系スタートアップとしては最大規模となる1,400万ドル(約14億6,000万円)の資金調達を行い、成長に邁進しています。
女性起業家であり、同性愛者でもあるチャウアチ。「起業すると、1日の23時間59分は苦しいが、勇気をもって前に進むことで、自分を誇りに思える1分が訪れる」とマイノリティの苦労を語ります。お金が無くても支え合い、助け合うことで旅を可能にするLeavyの構想は、彼女の原体験と理念に起因するものと言えます。
CHANGING OF THE GUARD
民泊の「攻守交代」
もう一点、Leavyが興味をそそるのは、Airbnbが華々しく上場を果たしたこのタイミングでアリが象に挑む戦いが、スタートアップらしいと思えるからです。
上場によって、Airbnbは四半期毎に業績を投資家から厳しく問われることになります。Leavyと同様のモデルを真似て低価格競争を仕掛ければLeavyなどひとたまりもないでしょうが、価格破壊を招き売上を下げることになりかねず、実際にはそうした戦略は取りづらいでしょう。
成長という宿命を負った上場企業にとって、規模を追い求めるほどに「コミュニティとしての体験」は希薄になります。自ずと「暮らすように旅をしよう」というAirbnbの創業のミッションはどこかに置き去りにされ、ホストの自由競争による価格高騰や綺麗な民泊専門物件の登場によって、お金のない若者世代の味方だったAirbnbは遠い存在になってしまいました。
ホテル業界のディスラプトを果たしたAirbnbもここで攻守交代、今度は民泊市場のディスラプトを目指す新たな勢力からの防御戦が始まります。勃興する新世代が求める「コミュニティによる旅の新体験」という推進力を得たLeavyの挑戦から目が離せません。
久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。
【ウェビナー第2回、申込み受付中!】
世界各地で活躍する日本人VCが現地の声で伝える、月イチのウェビナーシリーズの第2回は、アフリカにフォーカスします。開催は12月17日(木)。これからスタートアップが、そして日本企業に求められる役割を、現地からお届けします。ぜひお見逃しなく。
- 日程:12月17日(木)17:00〜18:00(60分)
- 登壇者:品田諭志さん(Kepple Africa Ventures)、久保田雅也さん、Quartz Japan編集部員(モデレーター)
- 参加費:無料(Quartz Japan会員限定)
- 参加方法:こちらのフォームよりお申込みください
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 暗号資産でエネルギー効率は改善されるのか? アップルの共同設立者の一人、スティーブ・ウォズニアック(Stephen Wozniak)が立ち上げたエネルギー効率プロジェクトへの投資会社Efforceの先行きは明るそう。HBTCで公開されたEfforceの独自トークン「WOZX」の価格は1週間で0.10ドルから2.88ドルに急上昇し、2,800%以上伸びました。しかし、ブロックチェーンを活用してエネルギー効率を高めることができるか、本当のところは分かりません。ウォズの「グリーンテック」の取り組みについては、明日15日夕方のQuartz Japanニュースレターでも詳しくお伝えする予定です。
- シリコンバレーは終わっている。Airbnb、ドアダッシュ(DoorDash)、インスタカート(Instacart)、ロビンフッド(Robinhood)、そして今週IPOを控えるモバイルeコマース企業のウイッシュ(Wish)はいまだにサンフランシスコに本社を置いたままですが、将来のユニコーン候補はカリフォルニアから分散する兆候があります。同州へのシリーズBの資金調達シェアは縮小。シリーズBは大規模なスケーリングが始まる前の最終ラウンドであることが多いため、これは将来のユニコーンがカリフォルニアに集中しなくなる兆候であると推測できます。
- グーグルのAI博士辞任問題で応酬。人工知能の専門家ティムニット・ゲブル(Timnit Gebru)博士が辞任した経緯は不当であると、調査を始めることを発表。これは著者となっている研究論文を撤回するか、論文から自身の名前を削除するよう求められた末の出来事で、内外から反発の声が上がっています。CEOのスンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)は「素晴らしい才能をもった黒人女性が去った」と、後悔を感じさせるコメントを発表したが、ゲブル博士の怒りに油を注いだよう……。『Venture Beat』のインタビューで「怒った黒人女性」の揶揄と捉えていると発言。
- 起業の格差を拡大しないための「よりよい」行い。2019年に米国で管理されているベンチャーキャピタル資産全体の84%はニューヨーク、マサチューセッツ、カリフォルニアに集中し、内陸の都市との不平等は長い間続いています。シリコンバレーのような沿岸の技術ハブの外にいる起業家は地域に雇用を創出しながらも経済的機会に恵まれません。AOLの共同創設者スティーヴ・ケース(Steve Case)と今回の大統領予備選に立候補していたジョン・デラニー下院議員は、新型コロナで損害を受けた中小企業救済に割り当てられた、手付かずの1,300億ドル(約13兆5,000億円)を、こういったスタートアップ経営者に向けることでコミュニティを変えるような仕事を成長させると説きます。
(翻訳・編集:鳥山愛恵)
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