Deep Dive: Impact Economy
始まっている未来
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QUARTZ読者の皆さん、こんにちは。毎週火曜の「Deep Dive」では気候変動を中心に、いま世界が直面しているビジネスの変化を捉えるトピックを深掘りしています(英語版はこちら)。
2月8日、エネルギー業界で低炭素化をめぐる大きな動きがありました。大手石油会社が相次いで、世界的なエネルギー転換における自社の次の一歩を描き出すような取引や投資を明らかにしたのです。一連の案件の規模は総額で数百億ドルに上ります。
それぞれの取引、投資に直接的なつながりはありませんが、エネルギー各社は競合に遅れを取らないよう、大規模な投資を積極的に行っていく方針であることがわかります。
パンデミックによる景気の低迷にもかかわらず、動き出したエネルギー業界。今回の動きから、この業界に共通する4つの傾向がうかがえます。
#1 future in offshore wind
洋上風力発電に熱視線
英国では洋上風力発電の開発権入札で、地場の石油メジャーBPとフランスのトタル(Total)が落札件数上位に躍り出ました。両社とも入札に費やした金額は10億ドル(約1,070億円)を超えたほか、今後数年で洋上風力発電設備の建設に数十億ドルを投じる計画です。
欧州の石油メジャーは、成長を続けるゼロカーボン電力市場でのシェア拡大に向けた最適解は洋上風力発電だと考えており、競争が加熱しています。またこの分野であれば、海底油田などこれまで培ってきた技術を活かすこともできます。
BPとトタルは英国での入札の前にも大きな取引をまとめました。トタルは1月、デンマーク沖北海に世界最大規模の洋上風力発電設備を建設すると発表。一方、BPはニューヨーク州の沖合でのプロジェクトに参加することを決めています。欧州での洋上風力発電への投資は昨年に総額317億ドル(約3兆3,900億円)となり、過去最高を記録しました。米国ではちょうど市場が拡大し始めたところです。
#2 Tech giants are key buyers
クリーン電力の買い手
アジア、米国、欧州の風力発電や太陽光発電プロジェクトでは、大手テック企業が電力の購入に名乗りを上げることが多く、彼らはクリーン電力の”アーリーアダプター”となっています。
例えば、アマゾンはロイヤル・ダッチ・シェルが北海に建設中の巨大な洋上風力パークで発電される電力の半分を購入する契約を結びました。
アマゾンは自社のゼロカーボン電力の購入量は企業としては世界でもっとも多いと述べています。シェルとの契約は単一のプロジェクトとしてはこれまでで最大規模となり、購入した電力はデータセンターの稼働に利用する方針です。
アマゾンは2030年までに消費電力をすべて再生可能エネルギーで賄う目標を掲げており、いまのペースで行けばこれを5年前倒しで達成できるとの見通しを示しました。ただ、同社の温室効果ガス排出量は現時点では依然として増加傾向にあります。
#3 king of renewable energy
再エネの覇者は中国
陸地に目を向けると、中国のソーラーパネル材料大手の新特能源(Xinte Energy)が25億ドル(約2,670億円)を投じて、内モンゴル自治区に世界最大の多結晶シリコン工場を建設すると明らかにしました。数年内の完成を予定しており、稼働後は現在の多結晶シリコンの生産量が大幅に拡大する見通しです。
太陽光発電はもっとも急速に伸びているエネルギー源ですが、世界のソーラーパネルの7割以上は中国で生産されています。
習近平国家主席は昨年12月、2030年には電力の4分の1を非化石燃料由来とすることを目指す方針を明らかにしました。中国の大手メーカーが生産能力強化への投資を続けるようであれば、欧米のソーラー企業がこれに対抗するのは難しいでしょう。
#4 countries exporting natural gas
天然ガス輸出国の焦り
ただ、こうした流れにもかかわらず、化石燃料への投資が行われなくなったわけではありません。カタール国営のカタール・ペトロリアム(Qatar Petroleum)は2月、ペルシャ湾のノースフィールド(North Field)天然ガス田の生産設備の拡張に290億ドル(約3兆950億円)を投じると明らかにしました。
エネルギー分野の市場調査会社ウッド・マッケンジー(Wood Mackenzie)によれば、液化プラントを備えた同ガス田は液化天然ガス(LNG)の生産基地としては世界最大となる見通しです。また、今回の投資はふたつの理由から、化石燃料の生産設備1カ所に使われる金額としては年間で最高になる可能性が高いと予想されています。
まず、パンデミックによる需要の落ち込みで石油大手は探査・生産への投資を控えており、大規模な投資決定がなされるのは少ないことがあります。次に、アジアやアフリカ諸国は排出量削減に向けてガス火力発電への切り替えを進めており、いわばLNGのゴールドラッシュが起きていますが、カタールはこれらの国々への輸出において優位な立場に立っているためです。
LNG需要は急拡大していますが、各国で進行中の輸出向けプロジェクトをすべて合わせると、世界需要を超えていることがわかっています。つまり、他の生産国に取られる前に輸出シェアを確保しなければならないのです。カタール産のLNGは価格面での競争力が高く、タンザニアやメキシコ、米国など天然ガス生産国の政府や企業は、計画中のプロジェクトをそのまま進めるのか、それとも諦めるかという決断を迫られることになるでしょう。
ノースフィールド・ガス田は今後数十年間は稼働する見通しで、世界経済が天然ガスという化石燃料への依存から抜け出すにはまだ時間がかかりそうです。
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Column: What to watch for
EV業界のプレイヤー
電気自動車(EV)の普及には、充電ステーションの普及もまた欠かせません。とくに米国において、高速道路近くに充電設備があるか否かはドライバーにとって死活問題です。米国で主要EV充電ネットワークとして名前が挙がるのは「Electrify America」と「EVgo」の2つですが、全米に敷設されている充電ステーションは約4万基(2021年2月時点)。ただし、西海岸と北東部に集中しており、南東部と中西部とは大きな隔たりがあります。
今月2日、電力会社6社が共同で、南東部16州に跨がる高速道路にEV充電ステーションの大規模ネットワークを構築する計画を発表しました。計画が実現すれば、ワシントンDC、シカゴ、サンアントニオ、オーランドなどの都市間をEVで移動できるようになります。あるアナリストは、「電力会社がEV充電の普及をリードする動きは、社会のEVへの移行スピードに拍車をかける」とも述べています。完成までのスケジュールやステーション数などの詳細は、未定です。
(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)
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