Deep Dive: Quartz at Work
未来の仕事のインサイト
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毎週木曜夕方は、新世代のビジネスパーソンのためのマインドセットやティップスを週替わりでお届けします。今週は昨年バーチャル開催された大規模フェスでの事例から、「働く場所」と「人と人とのつながり」についてお伝えします。(英語版はこちら)。
毎年8月下旬、ネバダ州の砂漠で1週間にわたって開催される“何でもあり”の音楽フェスティバル「Burning Man」(バーニングマン)。同フェスの主催者が、パンデミックを理由にオーディエンスが物理的に参加するイベントをすべて中止する決定を下したのは、昨年4月のことでした。
代わりに9月に開催されたフェスティバルは、「バーチャル」での実施に。8つのデジタルプラットフォームでイベントが行われました。
そのうち、「トピア」(Topia)という動画チャットサービスで実現されたのは「バーチャルなキャンプ場」でした。これまでのように電動工具や合板、鉄筋などを砂漠に持ち込むのではなく、テントやコンサートステージなどのイラストを、デジタルのキャンバスに描き込んでいくわけです。そこではユーザーはシンプルなアバターで表現され、歩き回って他のユーザーが作成したキャンプ場の広大なマップを探索し、出会ったバーチャルな参加者とチャットすることもできました。
The future of virtual events
デジタル・サファリ
Topiaは、バーニングマンのためにつくられたアプリではありません。リリースこそ昨年6月とフェス開催と同時期ではありましたが、創業者はバーニングマンのいち参加者であったにすぎません。
同フェスが開催されるにあたってデジタルプラットホームを探していると聞きつけ参加したというのが事の経緯でしたが、結果的に、2020年のバーニングマンは、Topiaにとって格好のグランドオープンの場であると同時に初期テストの場となりました。1週間の期間中、Topiaでは約1万6,000人の来場者と500のキャンプを受け付けることになったのです。
いま、多くのスタートアップ企業がZoomに代わるサービスとして、よりリアルな社交体験をオンラインで実現しようとしています。設立から9カ月が経過したTopiaも、そのひとつ。バーチャルな場を設けハッピーアワーを実施する企業が増えていますが、TopiaのCEO兼共同設立者であるダニエル・リーベスキンド(Daniel Liebeskind)も同じく、デジタル上に「従業員のための社交場」をつくろうとしています。さらにリーベスキンドが考えているのは、このサイトをオフィス以外の場所にも活用することです。
ブライアン・アルデア(Bryan Aldea)は、一昨年まで5年連続でバーニングマンに参加してきた「常連」のひとり。リアルで開催されていたバーニングマンでは、友人たちとともに動物を砂漠に連れて行き、自分たちのキャンプサイトを「サファリ」さながらにし、他の参加者たちの目を楽しませてきました。昨年のバーチャル開催の際には、評判を聞きつけたTopiaの開発者から協力を依頼されました。
実際にできあがった「デジタル版サファリ」では、有機的な交流が生まれることになりました。そこでは、自分のアバターが他の人のアバターに近づくと、その人の声や顔が画面に映し出されます。これは、ビデオ通話では失われがちな「社会的な慣習」そのもの。つまり、「1人が話してみんなが聞く」のではなく、少人数のグループに分かれたり、友人を呼び寄せて1対1で話し合ったり、話し相手が見つかるまでゴロゴロしたりできるわけです。
バーチャルバーニングマンについて、アルデアは「とてもいい経験になりました」と振り返ります。ネバダの砂漠で75フィート(約23メートル)の巨大な彫刻が燃え落ちるのを見るような恒例のスリルはなくとも「仲間意識や人とのつながりを楽しむことはできるのです」と、彼は言います。
その「つながり」こそが、いま、多くの企業がバーチャルに求めているものだといえるでしょう。Topiaの場合は、企業でも学校でも、あらゆる種類の組織がTopiaに月額5ドルを支払うことで、いつでも無制限に人々が交流できる場をつくり出すことができます。バーチャルバーニングマンでTopiaが実施した「キャンプ場」は無料で開放されていましたが、今後、大規模イベントを開く際にはチケット制になるようです。Topiaは、イベントの主催者に対して、25人以上の集まりに対して1日1人あたり2ドルを請求します。主催者は参加者に対し、いくらでも入場料を課すことができるモデルです。
Virtual real estate
「超不動産」市場
リーベスキンドは、「デジタル不動産」ビジネスへの参入にさらに意欲を燃やしています。TopiaはCFOに、インターネット黎明期に花開いた仮想世界の実験的プロジェクト「セカンドライフ」(Second Life)でCFOを務めていたジョン・ズダノウスキー(John Zdanowski、在任期間:2006〜2009)を迎えています。
2009年の最盛期、Second Lifeは5億6,700万ドルの「内部経済」を誇っていました。
Second Lifeを開発したリンデン・ラボ(Linden Labs)は、「不動産」(広大な仮想空間を担保するサーバースペース)を提供することで、年間1億ドルもの利益を得ていました。プレイヤーはこの不動産を購入し、現実世界で不動産開発業者がやるようにスペースを「カスタマイズ」し、他のプレイヤーにプレミアム価格で販売していました。この取引によって少なくとも1人の億万長者が誕生。リアルでは不動産市場が低迷していた2009年、Second Lifeのブローカーたちは、ゲーム内通貨を米ドルに換えて5,500万ドルを手にしていたのです。
Topiaは、こうした「超不動産」市場(“surreal estate” market)に関するパネルを最近も主催しています。その壇上で、ズダノウスキーは、TopiaがSecond Lifeの役割を担う可能性があると語っています。「Second Lifeの収益の60%は、収益性の高い『インワールド・ビジネス』(in-world business)によるものでした。Topiaの前にも、同じことを実現する機会が拡がっています」
ズダノウスキーによると、TopiaにはSecond Life以上のチャンスがあるとも指摘しています。まず、Topiaはユーザーがダウンロードする必要がないこと。参加するために精巧なアバターをつくる必要もなく、何よりいま、人びとは仮想空間で過ごすことに慣れてきているというのです。
Topiaで「基本的な世界」をつくるのは無料です。ただし、パーソナライズされたURLを発行するほか、追加機能を利用するのに月額9ドルの課金が必要です。目下、ユーザーが「バーチャルアーキテクト」として制作物を売買できる内部マーケットプレイスも構築中なのだとか。
「アーティストやクリエイティブな人びとが、人と人とのつながりを促進するためのアートを創造する。それで実際に生計を立てられるようになる世界をつくるのがわたしの夢のひとつです」と、CEOのリーベスキンドは言います。
現在のところ、Topiaの収益は黄金期のSecond Lifeのそれには及びもつきません。しかし、ユーザーは徐々に増え始めており、リーベスキンドによると、昨年12月だけで1,700個の世界がつくられたといいます。このプラットフォームで結婚式を挙げたカップルもいるようです。
音声メッセージアプリ「Discord」にもサーバーを開設していますが、そこではガチなメンバーが自身のクリエイティブをシェアしています。たとえば、「ボイジャー衛星が各惑星を通過するときに捉えた音を再生する太陽系モデル」だとか、「非常に内省的なゲーム『ヘビとハシゴ』」、あるいは、「トリッピーな音楽とティモシー・リアリーのような人の講義で賑わうサイケデリックな森」などなど……。
リーベスキンドは、次のように語ります。「ここには、人びとを結びつける空間をつくろうと邁進する人びとの興奮とエネルギーがあふれています。これは本当に素晴らしいことです」
(翻訳・編集:年吉聡太)
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