Future of Work:アマゾン労組問題は続く

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Deep Dive: Future of Work

「働く」の未来図

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Quartzのミッションは「Make Business Better」。ビジネスを「よりよく」するためには、「働くこと」そのものを振り返る必要があります。今週から、木曜夕方のニュースレターでは、変化する世界の「仕事」の現在を、皆さんと共有していきます。今週は、今月9日に結果が出た、アマゾンの労働組合結成の是非を問う投票について、米国の識者の声をお届けします(英語版はこちら)。 

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Image: REUTERS/KACPER PEMPEL

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1兆7,000億ドル規模の巨大EC企業とその従業員。両者の間に歴然とあるパワーバランスに変化がもたらされるかと注目された投票において、アラバマ州ベッセマーのアマゾン倉庫従業員は、「ノー」と宣言する結果となりました

3月30日に始まった開票では、「小売・卸売・百貨店労組」(RWDSU)への加入に対して従業員の738人が賛成票を投じたのに対し、1,798人が反対。その差は、アマゾンが勝利を宣言するのに十分なものでした。また、選挙権をもつ従業員5,800人のうち、約45%がこの郵送選挙に参加していません

もしも逆の結果が起きていたら、ベッセマーの労働者は「米国初のアマゾン労働組合」を結成していたことになります。それこそ、彼ら労働者を支持していた人たちが期待していた結果であり、そこでの勝利は50万人を超える米国のアマゾン倉庫従業員を勇気づけ、組織化を促すことになっていたでしょう。

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Image: REUTERS/DUSTIN CHAMBERS

新刊『Fulfillment: Winning and Losing in One-Click America』を上梓したばかりの『ProPublica』のジャーナリスト、アレック・マクギリス(Alec MacGillis)は次のように語っています。

「この件が重要なのは、アマゾンが米国国内の企業のなかでも民間雇用者数第2位を誇る存在になっていることにあります。しかも同社は急速に成長しています。今日の『低賃金労働者』を、かつて製造業に従事していた労働者たちのように、より安定していて持続可能で、かつ家族を支え自らのキャリアも支えるものへと引き上げようとするなら、アマゾンにおける仕事は整理されなければなりません」

今回、そんな結果は訪れませんでした。アマゾンの勝利には、いくつかの要因があると思われます。

Amazon’s anti-union campaign

反組合キャンペーン

アマゾンは、過去に行った「反組合戦術」を参考に、事に当たりました。トイレの個室に反組合のチラシを貼り、毎日メールを送り、ベッセマーの従業員を強制的にグループや1対1でのミーティングに引き込み組合結成が各人に及ぼす悪影響を並べ連ねていったのです。

アマゾンがそうしたキャンペーンを実現できたのは、アマゾンに「ホームコート・アドバンテージ」があったからだと、『Beaten Down, Worked Up: The Past, Present & Future of American Labor』著者で元『New York Times』記者のスティーブン・グリーンハウスはTwitterで指摘しています。曰く、「アマゾンは24時間365日、従業員にアクセスできた。一方で、米国の法律によってアマゾンは組合の構成員が倉庫に入るのを禁止できた」。

『Washington Post』に掲載された米国郵便公社(USPS)のメールでは、アマゾンがUSPSに依頼し、2月の郵送投票の開始直前に、郵便受けを倉庫の敷地内に設置させたとするやり取りが記されています。RWDSUは、そこに投票活動を妨害する意図があったと指摘していますが、一方のアマゾンはその意図を否定しています。広報担当者のヘザー・ノックス(Heather Knox)は、郵便投票は「従業員が簡単に投票できるようにするための、シンプルで安全な、完全に任意の方法であり、それ以上でもそれ以下でもありません」と同紙に語っています

RWSDUのスチュアート・アッペルバウム会長は、「選挙期間中のアマゾンの違法かつ重大な行為に対する責任を追及する」予定だと述べています。その際、この「郵便受け」の問題は、大きな争点のひとつになりそうです。

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Image: RWDSU PRESIDENT STUART APPELBAUM(RIGHT), REUTERS/DUSTIN CHAMBERS

A large voting pool

大量の投票用紙

選挙の結果を左右した要因として、アマゾンが組合に参加できる従業員の数を増やすことを推し進めたことも指摘されています。これは『ProPublica』のマクギリスも指摘するところで、数が増えれば増えるほど、選挙に勝つために必要な過半数を得るのは難しくなります。

High turnover and higher wages

ほかよりはマシ

また、ベッセマー倉庫での離職率が、他のアマゾンの倉庫と同様、高いのも理由となるでしょう。従業員がそこでの仕事を一時的な停留所だと考えているのであれば、労働条件を改善することに時間を投じる可能性は低くなります。

マクギリスは、組合結成に反対の立場をとるアマゾンの従業員にインタビューするなかで、彼らの期待感が「信じられないほど低い」と感じ取ったようです。そこにあったのは、「時給15ドルならこの種の仕事としては十分だし、ファストフードよりはマシだし、どうせ長くはいられないし」といった空気感でした。

アラバマ州の最低賃金は時給7.25ドルですが、同州ベッセマーのアマゾン倉庫の初任給は時給15.30ドル。しかも医療手当がつきます。『Bloomberg』の記事では同倉庫の従業員16人にインタビューしていますが、雇用主としてのアマゾンに対する感情は賛否両論。地元の別の選択肢と比べればアマゾンの方が好ましいと考える人も多くいました。

What Amazon’s victory means

活動のこれから

組合結成を目指す一連の活動が、他の倉庫労働者の関心を高めることに成功したのは疑いようもありません。ここ数週間で1,000人以上のアマゾン労働者がRWDSUにコンタクトしたようです。しかし、アマゾン側の勝利は、他の地域での組合活動にとって落胆をもたらすものであることもまた、間違いありません。

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Image: REUTERS/CLODAGH KILCOYNE

この結果は、拡大を目指す組合にとっては「赤信号」だと言うのは、ペンシルバニア大学ウォートン経営大学院准教授のマシュー・ビッドウェル(Matthew Bidwell)です。ビッドウェルは「(組合が)拡大を目指して投資するリスクを高め、同様のキャンペーンへの熱意を損なう可能性がある」と言います。彼は、これが労働者にとっても同様に作用すると言います。「努力しても成功しそうにないと思ったら、人は努力をしないものですから」

一方、バルーク大学公共政策学部の教授で、労働と不平等について研究している社会学者のヘクター・コルデロ・グズマン(Hector Cordero-Guzmán)は、アマゾンは今後も組合活動の対象となる可能性が高いと指摘しています。

「組合運動の歴史についてわかっていることは、このような敗北は永久的なものではなく、一時的なものである傾向があるということです」と言うグズマン。特にアマゾンは「企業として非常に大きく強力であり、周辺で起きた問題は誰の目にも留まる」がゆえに、そこでの活動が広くアピールするものになる、というのです。アマゾンは、人びとが毎日接している企業。「だからこそ、その知名度の高さは、今後も組織化活動の対象となることを意味する」というわけです。

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Column: What to watch for

ゲームで学ぶ倉庫仕事

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Image: IMAGE VIA YOUTUBE

本文中にも登場した「フルフィルメント」(fulfillment)とは、ECにおいて受注から配送までの一連のプロセスを指すことば。そのものずばり、『Fulfillment』と名付けられたゲームタイトルがリリースされています。このゲームを紹介する説明文はたった1行、「アマゾンのフルフィルメントセンターで働く喜びを感じられる、エキサイティングなアドベンチャー!」。

プレイヤーは、倉庫の一室で働くキャラクターを操作します。毎朝6時に電車に揺られて倉庫に向かい、ボスからの指令通りに棚からベルトコンベアに荷物を運び給料をもらうと、あとは帰宅するのみ。もらった報酬は家賃か食費に消える毎日のなかで、作業効率を上げるとわずかばかりのボーナスがもらえ、数々のメッセージ(「会社はキミのことを大事に思ってる」などなど)が繰り返し画面に表示される……。手がけたのは、米シアトルのインディ・ゲームディベロッパー、Unbound Creations。Steamで無料公開されているほか、Unbound Creationsのサイトではブラウザでのプレイも可能です。

(翻訳・編集:年吉聡太)

本日のニュースレターは、予告とは異なる内容でお送りしました。どうぞご了承ください。


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