Impact:でっかいEVが売れるワケ

GMC’s Hummer EV

Deep Dive: Impact Economy

これからの経済

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その燃費の悪さから、地球環境とはとことん相性の悪そうな巨大4WDが電気自動車(EV)として復活します。いまEV市場では何がウケて、何が後ろに追いやられているのでしょうか。毎週火曜夕方のニュースレターでは、気候変動をはじめとするグローバル経済の大転換点をお伝えしています(英語版はこちら)。

A photograph of a silver 2022 GMC Hummer EV parked in a field of grass.
GMC’s Hummer EV
Image: GMC

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ハマー(Hummer)、復活」の報に、疑問を感じる人もいるのでは? 1992年に発売されたこの巨大な4WDは湾岸戦争で有名になった軍用車両を民間仕様にしたもので、かつては大きな人気を集めました。公道を合法に走れる装甲車だった初代「ハマーH1」と、わずかに小型化した「ハマーH2」は、2006年には米国だけで合わせて7万1,524台を売り上げています。

ただ燃費は極端に悪く、特にリーマン・ショックをきっかけに始まった景気後退局面では「ガソリン食いのアホウドリ」と呼ばれ、敬遠されるようになったのです。自動車分野の市場調査会社エドムンズ(Edmunds)のジェシカ・カルドウェル(Jessica Caldwell)は、「ある種の嫌われ者扱いで、発売当初の価値観からすると『クール』だとはみなされなくなりました」と説明します。最終的に販売終了となった2010年には、ガソリン価格は3倍近くにまで跳ね上がっていました。

The electric Hummer

電動ハマー

それでもハマーは戻ってきたのです。電気自動車(EV)に生まれ変わり、ゼネラル・モーターズ(GM)の商用車ブランドであるGMCから11万2,000ドル(約1,220万円)で発売されることが決まりました。「GMC・ハマーEV」はピックアップトラックですが、2024年にはSUVモデルも登場することが明らかになっています(CMのナレーションを担当するのはNBAの“キング”、レブロン・ジェームズです)。

「ハマーEV SUV」は830馬力。「Watts to Freedom」と呼ばれる特別モードでは、時速60マイル(96.6km)までの加速時間はわずか3.5秒です。カルドウェルは、「GMの技術力を示す数字です。かなりの値段ですが、すべてが詰まっているのです」と話します。

過去10年の自動車市場から読み取れることがあるとすれば、それは米国民は大型なクルマを好むという事実です。2016年には新車販売のうち50%以上をこの種のモデル(ピックアップトラック、SUV、クロスオーバー)が占め、アナリストたちを驚かせました。この傾向はその後も加速しており、昨年には新型コロナウイルスのパンデミック(とそれに伴う急激な景気の悪化)にもかかわらず、この割合は70%を超えています。

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Trucks and SUVs are luxury vehicles

大きいは、高級

ピックアップトラックとSUVのハイエンドモデルは、米国で販売される自動車の平均価格の2倍近い値段がします。例えば「シボレー・シルバラード」は5万3,000ドル(約580万円)、「GMC・シエラデナリ」は5万4,000ドル(約590万円)、「RAM・1500」の特別モデル「ロングホーン」は7万1,000ドル(約777万円)といった具合です。「フォード・F-150」の限定版(フロントシートにマッサージ機能付き、ムーンルーフで内装はレザー)に至っては、実に7万5,000ドル(約820万円)という価格設定になっています。

それでもこうしたモデルの人気は衰えず、さらにメーカーにとっては利益率が非常に高いドル箱商品なのです。ピックアップトラックの所有者(9割近くは男性)は値段など気にしません。しかも80%は次もピックアップトラックの購入を考えており、この割合はセグメント別でもっとも高くなっています。

EV販売は急速に伸びており、米国の新車市場に占める割合は昨年には1.8%と過去最高に達しました。しかし、そのなかにあっても、ピックアップトラックやSUVの成功には程遠い状態です。世界でEVが新車販売の半分を超えているのはノルウェーだけで、これは政府の強力な購入支援策が背景にあります。それ以外の国では、一般的な消費者は環境車に乗り換える準備はまだできていないのです。

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自動車検索サイト「iSeeCars.com」のカール・ブラウアー(Karl Brauer)は、EVが主流になるには、価格、航続距離、充電方法のすべての面で、ガソリン車と同等かそれに勝る必要があると指摘します。現状に目を向けると、バッテリーのコストが下がることでEVの価格は低下傾向にあるほか、航続距離も伸びており、同時に米国では充電インフラの拡充が進められています(近く議会を通過する予定のインフラ関連法案により、充電ステーションの設置がさらに進むはずです)。

ただ、ブラウアーは「これが本当に実現するまでは、EVはガソリン車ほどは売れないでしょう」と言います。

EV buyers are luxury buyers

EV購入者はお金持ち

つまるところ、EVは現時点ではまだ“高級品”なのです。GMは「シボレー・ボルトEV」によってこのことを学びました。

実用的なEVを目指してつくられたボルトはGMの技術力を結集した力作で、ファンには絶賛されましたが、商業的な成功にはつながりませんでした。昨年の北米での販売台数は約2万台と、(実用性が低く価格は高い)テスラの「モデル3」の20万6,500台の10分の1に止まっています。

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Image: CHEVROLET BOLT EV, REUTERS/REBECCA COOK

ブラウアーは「ハマーの復活は確かに理にかなっていると言えます」と指摘します。「メインストリームに躍り出ることはないでしょうが、人々の欲望を追求したモデルです」

高額なピックアップトラックやSUVの購入者は、何でもできるクルマを求めています。木材を運んだり、子どもをサッカーの練習に連れて行くだけでなく、デートで乗ったり、近所の人に自慢することもできるクルマです。

実際にそうしたことをするかは問題ではありません。ピックアップトラックの所有者で、これまでに実際に何かを牽引したり、未舗装の道路を走ったりしたことのある人は25%に過ぎないことがわかっています。それでも、市場調査会社ストラテジック・ビジョン(Strategic Vision)の調査によれば、ピックアップトラックの購入者が重視するのは「他車より性能がよく、見栄えがして、タフなイメージで、自らのパーソナリティの延長となり、他のクルマがたくさんあっても目立つ」ことです。

そして、マーケティングの担当者はこれをよく理解しています。GMは今年のスーパーボウルでEVの新モデルを紹介するCMを流しましたが、そのラインナップは来年発売のハマーEVと「キャデラック・リリック」を筆頭にほぼすべてがSUVとピックアップトラックで構成されているのです。ボルトの姿は影も形もありません。GMは2025年までに30モデルのEVを市場投入する予定です。

The Hummer EV vs Tesla Cybertruck

伏兵、サイバートラック

電動化したハマーにはテスラの「サイバートラック」との直接対決が待っています。サイバートラックは「ウルトラハード 30X コールドロール ステンレススチール」と呼ばれる素材で覆われた要塞のようなデザインで、航続距離は250マイル(402km)、300マイル(483km)、500マイル(805km)の3タイプがあります(なお、2019年11月に初公開されたときには、バックミラーやサイドミラー、シートベルトなど法令で定められた装備がまったく付いていませんでした)。

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また、既存の自動車大手に加えて、リヴィアンRivian)、ローズタウン・モーターズLordstown Motors)、ボリンジャー・モーターズBollinger Motors)といった新興メーカーが電動ピックアップトラック市場に参入しようとしています。今年に発売される電動SUVとピックアップトラックは合わせて19モデルと、昨年の2倍に上る見通しです。

車両重量が2.5トンの電動ピックアップトラックがどこまで環境に優しいのかには疑問が残りますが、米国民の多くは総重量がトン単位のクルマを日常の足として選択しているという現実があります。そして、ハマーを求める人たちは確かに存在するのです。


Column: What to watch for

カギはコンクリート

Cement production accounts for about 7% of the world’s carbon footprint.
Cement production accounts for about 7% of the world’s carbon footprint.
Image: REUTERS/Stringer (China)

19日(現地時間)、非営利団体「Carbon X-Prize」は、回収した二酸化炭素(CO2)を活用するアイデアに関するイノベーションコンテストの勝者として、2つのスタートアップを選出しています。

両者は「コンクリート」に着目している点で共有しています。米アルバータ州のCarbonCure Technologies, Inc.は、CO2を使ったコンクリート硬化テクノロジーを開発。米カリフォルニア州にあるCarbonBuilt, Inc.はCO2を活用してコンクリート製造に必要なセメントの量を減らすことに成功しています。

近年では、回収したCO2を石油掘削会社に再販し、油井に注入して掘削を促進する、いわゆるEOR(Enhanced Oil Recovery)が主流となっています。しかし、COVID-19以降、原油価格の見通しが悪化している現状においてその市場は限定的だと言わざるをえません。本コンテストの最終選考には、CO2を利用してプラスチック、カーボンナノチューブ、工業用化学品を製造する企業が勝ち残っていました。

(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)


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