Quartz Japan読者のみなさん、こんばんは。地球外生命体の経済的可能性を伝える週刊ニュースレターへようこそ! 今週も、宇宙ビジネスのいまをお届けします。7月限定の配信を予定していましたが、8月も引き続きお届けしていこうか考えています。ぜひアンケートで感想を教えてください。
🚀 Space Business Insight
ベゾスを嫌いでも…
わたしの知る限り、ジェフ・ベゾスの宇宙旅行は宇宙産業にとって最悪の宣伝でした。
湧き上がった「アンチ」は彼の宇宙開発企業・ブルーオリジンとはほとんど関係がありません。ベゾスに向けられた反感の多くは、彼の富とそれを得た手法から膨らんだもの──最近の報道でもアマゾンの物流担当者の待遇の悪さや、創業者が(合法的な)戦略を用いて所得税の支払いを回避したことなどが報じられ、ベゾスの富とその獲得方法はさらに強固なものになっています。
「ベゾス憎し」の原因を考えてみると、ほとんどは単にそれが私企業であることに腹を立てていたり、ベゾスが貧困や気候変動対策にお金を割いていないという誤ったバイアスに基づいていたりするようです(ベゾスは慈善活動の後発組ですが、脱炭素経済に取り組む団体に100億ドル、貧困層への食糧供給に1億ドルを投じています)。
彼らは明らかに、宇宙探査について根本的に誤解しています。月面着陸など過去のNASA(米航空宇宙局)の成功に民間企業は関わっていなかったとか、ベゾスやリチャード・ブランソン、イーロン・マスクのような人物が、NASAの科学研究に取って代わると考えている人もいます。
しかし、現実はもっと単純かつ興味深いものです──ベゾスとブランソンは、微小重力環境下での実験ペイロードのための新しい場を提供しただけ。いまのところNASAにほとんど影響を与えていません。
一方、マスクのSpaceXは、NASAに数十億ドルのコスト削減をもたらしたうえ、2011年にスペースシャトル計画が打ち切りになって以来、米国を再び「宇宙飛行士を飛ばせる国」に押し戻しました。
問題の一端は、ニュースメディア、特にテレビニュースが、ブランソンとベゾスのサブオービタルツーリズム(軌道下観光)・プロジェクトの重要性を十分な知見や知識なしに、インパクトのある情報だけを持ち上げたことにあります。メディアによって編集されたニュースを目にした人たちは当然のことながら、わずか数分間の無重力状態を体験するだけの陳腐な宇宙開発競争に失望し、同時に、億万長者が地球を捨てようとしていると、実に無意味な心配をしていました。
報じられたのは大富豪ベゾスとその家族、そして彼の願望を印象づけるような偏ったもので、ブルーオリジンが実際に成し遂げたことは見事に霞んでしまったのです。超富裕層向けのビジネスには批判がつきものですが、CNNコメンテーターの評論家ヴァン・ジョーンズ(Van Jones)や世界各地で食料難の問題に取り組んできたホセ・アンドレス(José Andrés)(米誌『Time』の表紙を飾った経験もあるシェフ)に対し、それぞれ1億ドル(約110億円)を進呈するという突然の展開は、あまりにも突飛で、表面的なアンチを黙らすための目くらましのための努力としか思えませんでした。
本当に残念なのは、ブルーオリジンが開発したロケット「ニューシェパード」(New Shepard)のロケットブースターと宇宙カプセルを設計、テスト、運用するために、何百人もが信じられないほどの努力をした事実が表舞台に出ないことです。ブルーオリジンは、このような技術者たちにインタビューし、彼らが乗り越えた課題について話してほしいという要請を何度も拒否し続けた挙句、フライト後の記者会見に参加した役員さえいません。
ベゾスの宇宙飛行に対する世間の反応は、人類のために宇宙利用の方法を考えるにあたり広範なダメージを与える恐れがあります。NASAの官民パートナーシップは大きな成功を収めていますが、「ベゾスを救済する措置」としてレトリックを重ね批判する声も少なくありません。ベゾス叩きに躍起になっている人たちは、その行為そのものが最終的に軍産複合体の伝統的な請負業者を利することになるという皮肉を明らかに理解していないのでしょう。
ニューシェパードは永続的な意義をもつかもしれませんが、その多くはブルーオリジンがそれをつくり、そこで得た教訓を今後どう生かすかにかかっています。
7月20日に地球へ帰還した際にベゾスが身につけていたカウボーイハットとブーツは、19世紀に交通手段に革命をもたらした大陸横断鉄道完成後のデュード・ランチやカウボーイのコスプレをした観光客を思い起こさせます。
🌘 IMAGERY INTERLUDE
写真でひとネタ
本当の宇宙ビジネスは、「牧場」ではなく、「鉄道」のようなものになるでしょう。ベゾスは、アマゾンの「基本のキ」として顧客中心主義を声高に謳っているにもかかわらず、ブルーオリジンの主要顧客は「自分」でした──つまり彼らは、宇宙の市場がすでに宇宙に夢中になっている人びとよりもはるかに広いことをすっかり忘れてしまったのです。
一方で火星では、NASAが2020年7月に打ち上げた探査機「Perseverance」が、「岩」にその手を伸ばしています。
「Perseverance」は、火星で初めてのロボットによるサンプル採取を行っています。岩石を特殊な容器に入れ、この先送られるであろう探査ロボットが採取し地球に持ち帰ることができるよう保管しておくのです。ラボに戻って分析すれば、水や揮発性化学物質、地球外生命体の証拠を探すための貴重なサンプルになります。
🛰 SPACE DEBRIS
宇宙ビジネスのいま
- 法律もなければ主もいない。黎明期の宇宙旅行は、他の航空宇宙活動とは大きく異なる点があります。そう、乗客を守るための政府の安全規則がないのです。これはいまに始まったことではありませんが、ブルーオリジンやヴァージンギャラクティックが運航を定期化する動きを見せるなかで、連邦航空局(FAA)がこの問題にどう対処するか、議論は活発になるでしょう。
- NROは宇宙貿易を妨害している。国防総省の諜報機関であるアメリカ国家偵察局(NRO)は、情報機関に代わって商業データの収集を行っていますが、外国籍の企業からは衛星画像を購入しないとしています。宇宙関連商品に関わる保護貿易政策の歴史はお世辞にも良いものとは言えません。1990年代に米国の衛星を外国のロケットで打ち上げるのを制限すると決定をしたことで、米国の宇宙船メーカーは10年分、遅れを取ってしまいました。皮肉にも、これは情報機関に可能な限り米国企業を使用するように促す法律の意図しない結果で、さらにはNROの幹部はこれを全面的な禁止に変えてしまったようです。
- イグニッション、リミックス。米国とニュージーランドの小型ロケット打ち上げのロケット・ラブ(Rocket Lab)は、5月の打ち上げで2つの「ブラックスカイ」(BlackSky)衛星を失った原因になった不具合を見つけたと発表しました。問題は、ロケット・ラブの人工衛星打ち上げ用の小型燃料ロケット「エレクトロン」(Electron)の第2段のエンジンを始動させる点火システムで発見されました。同社のエンジニアは、問題を切り分け、再発防止のために新たな冗長性を構築し対応したそうです。同社は、今月中に再度打ち上げし、年内には特別目的買収会社(SPAC)で株式公開を完了させる予定です。
- 勢いのある瞬間。今年、ナスダックにSPAC方式で上場した宇宙輸送スタートアップのモメンタス(Momentus Space)のロシア人創業者ミハイル・ココリッチ(今年1月に辞任)が先週、証券詐欺で起訴されました。ココリッチは現在住んでいるスイスからQuartzの取材に応じ、疑惑を否定しました。彼は、モメンタスの投資家を騙してはいないと語っているが、悪行の疑惑が露呈して退職した宇宙関連企業は、これで少なくとも4社目。しかしこのロシア人の連続起業家はいまだに臆することなく、大陸間を結ぶロケットで貨物を打ち上げる新会社を立ち上げると語っている。
- 魔法の数字。ヴァージン・ギャラクティックのエンジニアが書いた、自動車の設計者が安全率を確保する方法にまつわる奇妙な歴史についての解説はオススメです。
(翻訳:鳥山愛恵)
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