パンデミックが起きる前、米国人にとってレストランでの食事はとても大事な「日常」でした。2020年2月の調査では、成人の64%が「週1回以上外食する」と回答しています。彼らにとってテイクアウトといえば、ピザや中華料理が定番でした。
しかし、その状況はパンデミックで一変。企業がオフィスを閉じ誰もが家に閉じこもることを余儀なくされると、レストランも適応せざるをえなくなりました。デリバリー(宅配)やピックアップ(店頭での受け取り)に対応し、テラス席を設けて屋外で飲食できるようにしたり、食事以外に商品を売り出したりするレストランも登場しました。
こうして新しいインフラを手に入れたレストランが、次にすべきこととは何でしょうか? ひとつ明らかなのは、そこにはテクノロジーが導入されるということ。いまレストランを始めようと思ったら、もはやかつてのやり方には戻れないのです。
Ghost kitchen or dining room?
ゴーストキッチン?
レストランは、投資先としてリスクが高いというのが現実です──米国では創業1年のレストランのうち、実に60%が経営破綻しています。しかし、パンデミックは、レストラン経営に新しい方法、より安全な方法をもたらしました。
パンデミックの影響でテイクアウトが増えたことで、「ゴーストキッチン」と呼ばれる店舗をもたないレストラン、店内で食事ができないレストランが増えました。不動産会社CBREが5月に発表したレポートによると、ゴーストキッチンは増加傾向にあり、2025年までには660億ドル(約7.25兆円)の米国外食産業の21%を占めるようになると予想されています。
しかし、ゴーストキッチンがレストランに完全に取って代わるわけではありません。「『食事』とは、換えがたいもの。食べることだけを考えれば食料品を買い出しに行けば済むかも知れませんが、マルガリータを飲みながら友人と語らうディナーを人がどれだけ心待ちにしていることか。とはいえ、COVID-19をめぐる規制の変更が続くと、再び食事をすることへの関心が抑えられる可能性があります」(コロラド州、アリゾナ州に店舗をもつチキンサンドイッチレストランチェーン・BirdcallのCEO、ピーター・ニューリン)
実際のところ、ゴーストキッチンと従来型の伝統的なレストランでは、どちらがより安全な投資なのでしょうか? 両者の長所と短所を見ていきましょう。
ゴーストキッチン
長所:
- 単純に考えて、ゴーストキッチンの初期費用は安い
- 不動産や顧客対応コストをかけずに規模を拡張できる
- 新規開拓のテストも容易
- 「将来的には、レストラン主導でどこでもテイクアウト事業を始められるようになる」(DoorDash Kitchensのディレクター、ルース・アイゼンスタット)
短所:
- キッチンスペースが一般的なレストランよりも小さいことが多く、手羽先やハンバーガーなど、調理が複雑でない料理に適している
- 市街地から離れれば離れるほど、料理を提供するためのコストが高くなる(不動産物件を探すのが多少困難)
- 競合として、従来の業務用キッチンスペースがある
従来型レストラン
長所:
- 外食は便利で、誰かと一緒に食事をするという経験そのものの価値が消えることはないので、レストランがなくなることはない。少しずつではあるが、状況は改善している
- 収益をデリバリー業者などの第三者企業とシェアする必要はないので、ゴーストキッチンよりも利益率が高い
- 特に新しいレストランを設立する場合、バーチャルなブランドよりも実店舗がある方がマーケティングしやすい
短所:
- 人件費の高騰。米国では、各州/市で最低賃金引き上げが義務付けられているほか、コロナ禍以降の労働力不足に対応するために賃金を引き上げなければならない事態に
- コロナ感染拡大防護策をめぐる政府方針が常に変化していること。「目が覚めると、今日実施すべき防護策が昨日から変更されていないかを気にするようになった」(テキサス州ダラスの中華料理店「Hello Dumpling」のマネジングパートナー、ジューン・チョウ)
The restaurant gets techy
レストランのハイテク化
今年の春にニューヨーク・チェルシーに引っ越してきて間もなく、出かけた先で、お気に入りのBOBA(Bubble Tea=タピオカティー)のお店を見つけました。そこではごくあたりまえにレジにいる店員に注文をしていたのですが、数週間後、ある変化が起きました。レジではなく、立っているその場で注文するように案内されたのです。
設置されたモニタ画面に表示されたメニューを見て注文し、Apple Payで支払いを済ませると、支払いが完了したことを知らせるメールと、ドリンクの出来上がり時間を知らせるメールが送られてきました。わたしはそのままロボットがシェーカーを振るのを眺めていましたが、2分後、約束通りにドリンクが完成。その間、人間と話をする必要はまったくありませんでした。
レストランでは、人手不足を解消しコストを削減するテクノロジーが導入されつつあります。例えば、チェックインやウェイティングリストの管理、予約などといったフロント業務が自動化されているほか、かつては紙で用意されていたメニューのQRコードへの置き換えが進んでいます。
もちろん、テクノロジーがすべてを解決してくれるわけではありません。テクノロジーによって、レストラン経営者は“それ以外”をより深く考えられるようになるのです。
前述のサンドイッチレストランチェーン・Birdcallのニューリンは、こう言います。「『ごいっしょにフライドポテトもどうですか』なんてことは、もはや言わなくてもいいのでしょうね。ただ、『お元気ですか』だとか『ご来店ありがとうございます』、『お食事をもっと特別なものにするために、わたしたちに何ができるでしょうか』などといったやりとりは代替できません」「テクノロジーは、需要を喚起するためではなく、オペレーション上の問題を解決するためのものでしかありません」
テクノロジーによる自動化が労働者にもたらす功罪は、いずれもまだはっきりとしてはいません。米国内のレストランの売上高はすでにコロナ禍以前の水準に戻っていますが、雇用についてはそうではありません。これは、レストランがより少ない労力でより多くのことを行っていること、つまりは労働者が余計な負担を強いられていることを示唆しています。
🔮 Prediction
5つの予測
レストラン業界は、そもそも起業家精神にあふれた業界です。あらたなテクノロジーが導入されることで、注文や支払いに関してはよりシームレスな体験がもたらされるでしょう。パンデミックを抜けた先に、レストランには次のような変化が起きることになりそうです。
- 📱 体験はよりシームレスに。レストランの体験は、レストランに到着する前に始まることになるでしょう。メニューをチェックしたり実際に席に着くまでの時間を確認したりといったプロセスの多くは、スマホ上で完結します。「お客さまには自宅やクルマの中、近くのバーなどで快適に待っていただいて、テーブルの準備ができた時点で通知を受けられるようになるでしょう。よりよい顧客体験を提供できるようになるほか、注文プロセスが合理化されてオーダーミスも減らせます」(Yelpレストランプロダクト担当バイスプレジデントのアンソニー・クロス)
- 🤔 顧客の期待値が上がる。レストランを訪れる人は、単に美味しい料理を期待しているのではありません。自分より大きな何か、あるいはあるミッションの下で動いている何かに帰属しているという感覚を得たいのです。
- 🌯 選択肢がもっと増える。デリバリー需要は横ばいになると予想されます。理由は単純で、デリバリー料金/手数料を支払うことを好まないからです。一方で、レストラン側はデリバリーに限らずピックアップやドライブスルーなど「料理を受け取る方法」の選択肢を増やすことになるでしょう(ドライブスルーでの提供をしてきたレストランでは、デリバリー配達員のための特別なレーンをすでに設けています)。「ドライブスルーのスピード感は何よりも勝ります。そのニーズはすぐにはなくならないと考えています」(タコベルのプレジデント兼グローバルCOO、マイク・グラムス)
- 🤑 物価がさらに上昇する。食材や人件費の高騰により、外食のコストは上昇する一方です。さらに、米国のチップ文化が外食の頻度に影響を与えるかもしれません。レストラン全体に占めるファストフード店の割合が高まっていますが、その傾向はさらに強くなるかもhしれません。
- 🐕 「ポイントカード」が増える。タコベルやマクドナルドなどの大手チェーン店では、顧客の囲い込みや競争を勝ち抜くために「ロイヤリティ・プログラム」を導入するケースが増えています。これらのプログラムには、もうひとつの目的があります。それは、データを収集して顧客の注文傾向を知ることで、料理やマーケティング施策を改善することです。
今日のニュースレターはMichelle Cheng(レポーター、財布がポイントカードでいっぱい)がお届けしました。
📺 『Off Topic』とのコラボレーション企画、4回連続ウェビナーシリーズの第2回は9月28日(火)に開催予定。詳細はこちらにて。先日開催した第1回のセッション全編動画も公開しています。