XPOロジスティクス(XPO Logistics)が快進撃を続けています。2021年第1〜3四半期の決算ではいずれも、「売上高が記録更新」という言葉が見出しを飾りました。
アメリカ・コネティカット州に拠点を置くこの会社の名前を聞いたことのある人は、そう多くはないでしょう。XPOはユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)やフェデックス(FedEx)に匹敵する数の輸送車両を有する米国2位の運輸会社で、ターゲット(Target)やベライゾン(Verizon)、ウォルマート(Walmart)、エイソス(ASOS)といった大企業が顧客に名を連ねます。
XPOは空運や海運、港湾運送、倉庫管理、長距離トラック輸送、ラストワンマイルなど、サプライチェーンの上流から下流まで幅広く事業展開しており、個人顧客の返品にも対応します。創業は2011年で、最高経営責任者(CEO)のブラッドリー・ジェイコブス(Bradley Jacobs)がエクスプレス1・エクスペディテッド・ソリューションズ(Express-1 Expedited Solutions)という小さな物流企業を買収して設立しました。XPOという名前は、エクスプレス1のティッカーシンボルから来ています。
ジェイコブスはエクスプレス1の社名を変え、買収攻勢とともに、生産性の改善に向けたオートメーション化を進めました。XPOの株価は2011年から16.5倍に伸び、新型コロナウイルスのパンデミックでも業績に影響はなし。ロックダウンが終わってからのサプライチェーンの混乱は、むしろ同社のビジネスに大きな恩恵をもたらしました。
ただ、XPOの成功の裏には従業員の搾取の歴史があります。米国では、不当な労働慣行を理由にこれまでに120件の罰金を科されているほか、パンデミックの最中に従業員の安全を無視した行為があったとして訴えられています。また最近では、カリフォルニア州でトラックの運転手が起こした集団訴訟において、3,000万ドル(約34億円)の和解金を支払うことで合意しました。
『The New York Times』は2018年に、過酷な労働環境のためにXPOの倉庫で流産をした女性がいるという調査報道記事を掲載しています。2020年8月には、従業員たちが加入する複数の労組が共同で24ページにわたるレポートを公表しました。ここでは、トラック運転手たちが車内で寝起きせざるをえなくなっている状況や、賃金の未払い、安全対策を巡る問題、コロナ対策の甘さといった同社の労働法違反が指摘されています。
XPOの広報担当副社長ジョゼフ・チェックラー(Joseph Checkler)はこれに対し、「記事は、われわれの職場を正しく描写していない」とEメールで回答。倉庫で流産した女性がいるという問題については独自の調査を進めており、妊娠している従業員の取り扱いに関する規定の作成にも着手したと述べています。一方、労組のレポートに関しては、チェックラーは「労組が公表した文書はすべてが不正確であり、XPOはレポート全体に対して誤りを指摘している」と説明しています。
トラック運転手と倉庫作業員の不足が続くなかで、XPOのような物流企業は労働条件の改善を余儀なくされる可能性もあります。しかし、CEOのジェイコブスは収益に目を光らせているようです。ジェイコブズは今年4月付の株主に対する年次書簡で、「昨年の年次書簡では、短期的には現実主義で弱気(bear)、中期的には強気(bull)、長期的にはさらに強気(mega-bull)で事業を進めていくと伝えているが」と書いています。「弱気でいる時間は過ぎ去り、思っていたより早く強気になるときがやってきた」
BY THE DIGITS
数字でみる
- 44%:2021年第2四半期の増収率(前年同期比)
- 10万7,000人:2020年の世界全体の従業員数。今年8月に事業の一部をGXOロジスティクス(GXO Logistics)としてスピンオフしたため、従業員の数は減っている
- 2,180万ドル(24億8,000万円):2020年のCEO報酬(PDFの55ページ)
- 3万4,663ドル(394万円):従業員の給与の中央値
- 8万人:米国で不足しているトラック運転手の数
- 1,100万マイル(1,770km):ラストワンマイル事業の年間の総輸送距離
- 40%:英国のパブで飲まれるビールのうちXPOが輸送を行っているものの割合
XPO’S LABOR ISSUES
労働問題、深刻化
XPOは今年10月、カリフォルニア州のトラックの運転手784人が起こした集団訴訟で3,000万ドルの和解金を支払うことになりました。原告のドライバーたちはいわゆるギグワーカーで、パンデミック後に起きたサプライチェーン全般の混乱によって港湾周辺で交通渋滞が悪化した結果、XPOとの契約に基づくと報酬が法定賃金を下回ることになったといいます。
こうした状況では、ドライバーはよりよい賃金と労働条件を求めて転職するため、サプライチェーンの混乱はさらに悪化するでしょう。トラック運転手の労組「チームスターズの国際同胞団(International Brotherhood of Teamsters)」を率いるジェームズ・P・ホッファ(James P. Hoffa)は、XPOがドライバーと結んでいた契約は、港湾運送におけるトラック運転手の不足とは関係がないと述べました。また、XPOのチェックラーは、請負契約で仕事をするドライバーは希望すればXPOでフルタイムで働けると話しています。
XPO’S COMPETITORS
競合となるのは?
- ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS):ジョージア州アトランタに本拠を置き、1日当たりの荷物の取扱量は1,600万個
- CHロビンソン(C.H. Robinson):1905年創業で、本社はミネソタ州エデンプレーリー
- JBハント(J.B. Hunt):アーカンソー州ローウェルが拠点で、輸送車両台数は1万2,000台
- DHL:ドイツ西部ボンに本社があり、業界で初めて通関書類を航空便で運ぶサービスを提供した
- フェデックス(FedEx):本社はテネシー州メンフィス。前四半期には、ホリデーシーズンの需要をさばくために9万人の増員計画を明らかにしている
PERSON OF INTEREST
注目の人
ブラッドリー・ジェイコブス(XPOロジスティクスおよびGXOロジスティクスのCEO)
ジェイコブスは大学で数学とジャズピアノを学びましたが、地味ではあるものの利益を出す商売を発見する目をもっていたようです。大学を中退したジェイコブスは、ナイジェリア・ロシアと欧州の間をつなぐ石油輸送船をチャーターする仕事を始めました。その後は米国で廃棄物の運搬と重機のレンタル事業を経験し、2011年に物流の世界に足を踏み入れます。
トラック輸送が大当たりしたおかげで、ジェイコブスは現代版「鉄道王」になろうとしています。彼が一代で築き上げたXPOはアマゾンと比較されることもあり、CEO報酬は従業員の給与の中央値の実に629倍に上ります。ジェイコブスは今年、最高で8,000万ドル(約91億円)を受け取る方向で、トラック労組はこれに強い反発を示していますが、最終的な決定は株主総会で下される見通しです。しかし、株主の投票には強制力はありません。
ONE 🕵️ THING
トラック労組を巡って
チームスターズを率いるジェームズ・ホッファの父親で、映画『アイリッシュマン(The Irishman)』にも登場するジミー・ホッファ(Jimmy Hoffa)は、長年にわたり同労組の会長を務めました。ホッファは1975年に急に姿を消し、その行方はいまだにわかっていません。
連邦捜査局(FBI)は今年10月、ニュージャージー州のごみの埋立処分場の跡地の捜索を行いました。ある男性が死を目前にして、ホッファをドラム缶に詰めてここに埋めたと告白したためですが、死体が見つかったかは明らかになっていません。
今日の「The Company」ニュースレターは、シニアレポーターのAurora Almendral(物流大好き)がお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。
💎 毎週水曜の夜にお届けしているニュースレター「The Company」では毎回ひとつの注目企業の「いま」を深掘りしています。年内の配信は本日が最後ですが、来週の月曜夜は、特別版ニュースレターとして、2021年に活躍が目立った(そして、来年さらなる躍進が期待される)40のイノベイティブな企業をまとめてお伝えします。
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