パンデミックとそれに伴うサプライチェーンの混乱は、わたしたちがどこでモノを買いどう移動するのか、グローバル経済にモノや人を満たしていく前提を覆しました。
いま、海運会社は自らを改革し、自動車は化石燃料を捨て、人工知能がハンドルを握っています。世界は今世代でも最大のモビリティ/サプライチェーン変革に直面しており、地球上でモノと人とを移動させるビジネスは、これまでとはまったく違う姿になるでしょう。
まず、目の前にあるサプライチェーンの混乱は、いつ正常に戻るのでしょうか? どうやらその答えは、2022年には徐々に回復するようです。過剰に荷が詰まれた港でも倉庫でも、積み上げられた大量のコンテナを片付ける機会をようやく得られるとの認識が拡がっています。
ただし、それはまた巨大船がスエズ運河を塞いだり、工場や港を閉鎖させる新たな変異種が現れなかったり、あるいはその他の災害などといった新たな大きな混乱がない場合にのみ、実現することです。
SHIPPING LINES ARE BUYING PLANES
海運会社は飛行機を買う
COVID-19は、世界の海運会社に大きな利益をもたらしました。例えばそのひとつ、デンマークのA.P.モラー・マースク(A. P. Møller-Mærsk、以下マースク)が9日に発表した2021年12月期決算では、EBITAが前年同期比で約2.7倍の240億3,600万ドル(約2兆7,600億円)となっています。彼ら海運大手はいま、より収益性の高い新たな事業分野に進出しています。
- 🏭 マースクは、飛行機、トラック、倉庫、物流会社などを購入。船舶以外での輸送を担うほか、サプライチェーン戦略に関するコンサルティングなどを手がける「エンドツーエンドのパートナー」を謳っています。
- 🛳 Mediterranean Shipping Company(MSC)は新しいクルーズ船を12隻発注。急成長を続けるクルーズ会社は新造船に113億ドルを投資しています。
- 🛫 CMA CGMは新たな貨物航空会社を立ち上げた。世界第3位の海運会社は昨年2月に航空会社を設立。一方で23億ドルを費やし、ロサンゼルス港にコンテナターミナルを設置しています。
パンデミックは海運業界にとって「諸刃の剣」でした。海運会社にとって、港にたどり着いた船がなかなか入港できず非効率なアイドリングを余儀されなくなったのがネガ要素なら、消費財の需要が急増する一方で小売業者の在庫が少なくなった状況はポジ要素。製品を売ろうと必死な企業は、法外な運賃を支払ってでも商品を貨物船に載せようとしているのです。
WHAT SUPPLY BACKLOGS LOOK LIKE
宇宙からみると
2021年、サプライチェーンの逼迫が極まり、宇宙からも港の「交通渋滞」が見て取れるほどでした。衛星データアナリティクス企業のSpire Globalは衛星画像から、ロサンゼルス港とロングビーチ港の外海で待機している船舶のタイムラプスビデオを編集しています(リンク先に動画あり)。
By the digit
海運環境フットプリント
地球温暖化を1.5度以下に抑えるというパリ協定の目標達成に向けてあらゆる産業が動くなか、こと海運業界についていえば、その取り組みは遅れています。英国のロイズ船級協会で海事脱炭素化ハブのマネジャーを務めるチャールズ・ハスケルによると、「技術的な問題ではなく、投資とコミュニティの問題」なのだとか。
- 5万:世界の商業船舶の数(ちなみに、そのほぼすべてが二酸化炭素を排出する船舶燃料油で動いています)
- 450万ドル(約5.18億円):海運業において、1日で使用される化石燃料の対価
- 45万:マースクがカーボンニュートラル船12隻を運航するために毎年必要となるグリーンメタノール燃料のメートルトン数
- 1兆9,000億ドル(約200兆円):今後20~30年の間に世界の海運を脱炭素化するための総コスト
ただし、最近では小売業者や船会社が貨物の脱炭素化を公約に掲げ、資金を投入し始めています。
SELF SAILING
自動運転がカギ???
日本では先月末、世界初の完全自律型コンテナ船2隻のテストが成功しています。
日本の非営利団体である日本財団と、商船三井など貨物業界のパートナーによるコンソーシアムは、自律型貨物船やフェリーを建造し、試験を行っています。日本財団は、このテクノロジーが、高齢化が進むなかで生産性を維持するのに苦労している日本が将来的に貨物を運び続けるのに役立つことになればと期待しています。
1月24〜25日にかけて、自律型コンテナ船「みかげ」(全長95メートル)は日本近海で最初のテストを実施しました。日本海側の敦賀港を出港した無人船は、レーダーやLiDARセンサー、カメラ、衛星コンパスなどのシステムを駆使して航行し、鳥取県の境港まで約270キロを走破。さらに、航行終了後にはドローンを使ってロープをおろし、下で待機している港湾労働者に船を固定してもらうという離れ業までやってのけました。コンソーシアムはさらに2月5日、東京湾と伊勢湾を結ぶ航路で、2隻目の自動運転船「すざく」をテストしています。
ノルウェーで昨年11月に発表された自律型電動貨物船「Yara Birkeland」とは違って、これら日本の船は「最初の自律型コンテナ船」と呼ばれるにふさわしい存在といえるでしょう。Yara Birkelandの初航海では人間の乗組員が乗船していました。そのほかにも、2018年にはフィンランドとノルウェーがそれぞれ完全自律型フェリーの試験を行っていますが、人間の乗組員を乗せずに自ら航行し停泊できるコンテナ船を実証したグループは、他にありません。
日本財団のウェブサイトによると、日本の内航海運(国内貨物の海上運送)業界は「船員の高齢化および減少に直面」しており、「必要な労働力を減らすことが急務だ」と認識しているとされています。
世界の巨大国際海運会社も、パンデミック時に長期間の海上勤務で燃え尽きてしまった船員を維持するのに苦労していますが、自律航行が「急務」だとする理屈には納得できない事情もあります。
というのも、海運会社はすでに船員の人件費を大幅に削減しており、燃料費や船舶の維持費などと比べると微々たるものでしかありません。例えば、世界第5位の海運会社であるドイツ船社ハパックロイド(Hapag-Lloyd)での従業員の賃金は、船舶の運航・保守費用の約15分の1でしかないのです。
つまり、海運会社にとってすれば、船員を自動化するよりも、船舶をより効率的に稼働させることに投資した方が、はるかに多くの利益を得られるということです。
さらに言えば、船舶の効率化に、規制当局の承認は必要ありません。「たとえテクノロジーが進歩したところで、全長400メートル、重さ20万トンのコンテナ船を運航するのに、人間を一人も乗せないなんてことが許されるとは思えません」と、マースクのCEOであるソーレン・スクー(Søren Skou)は2018年に『Bloomberg』に語っています。「わたしがいる時代には、効率化の原動力にはならないでしょうね」
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