Startup:学びを変える、Web3時代の「ポイ活」

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。土曜昼にお届けするこの連載では、毎月ひとつ「次なるスタートアップ」を紹介しています。

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今週は、Web3時代の“学び”を変える、Learn-to-Earn(L2E)プラットフォームの「RabbitHole」を取り上げます。


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Learn to earn

「学んで稼ぐ」を実現

クリプト(暗号通貨)やNFT界隈では、毎日のように新たな話題が巻き起こっています。

日本ではアートの文脈で取り上げられるケースが多いですが、世界では先行して「NFTゲーム」が流行していました。NFTゲームは、簡単に言えばゲームとブロックチェーン技術を組み合わせたもので、ゲーム内の報酬としてプレイヤーが暗号通貨を得られる仕組みが出来上がっています。その様は「Play to Earn(=遊んで稼ぐ)」とも呼ばれ、現在もNFTのメインストリームの一つとなっています。

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Image: 2021年夏にリリースされた「Axie Infinity」は「Play to Earn」ゲームの代表格 IMAGE COURTESY OF AXIE

しかし、クリプト/NFTの敷居はまだ高い、というのも事実。例えば、クリプトユーザーのなかでもDeFi(Decentralized Finance、分散型金融)を活用したことがある人は1%に過ぎないというデータもあるほどです。「取っ付きにくさ」が、依然として大きな課題としてそびえ立っているのです。

今回取り上げる「RabbitHole」は、その壁を壊すかもしれません。

RabbitHoleは、クリプトやメタバースなどといった新たな潮流を語るのに欠かせない、Web3.0(Web3)について学べるウェブサービスです。Rabbithole上には企業やコミュニティが設定した課題(タスク)が用意されており、ユーザーはそれらタスクをやり遂げることでトークンをもらえます。

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Image: RABBITHOLE

用意されているタスクには「Quests」「Skills」「Projects」という3つのカテゴリーが設定されており、このうちSkillsには、Web3の世界をこれから知ろうという人のためのチュートリアル的な内容も含まれています。ユーザーからすれば学ぶことで報酬が得られるわけで、「Play to Earn」ならぬ「Learn to Earn(=学んで稼ぐ)」が叶うのです。手に入るトークンには、タスクごとに設定されたものだけではなく、RabbitHoleの独自トークン「XP」も含まれます。

a new dimension of education

メタバース内の大学

実は、こうした「Learn to Earn」を実現したサービスはRabbitholeだけではありません。例えば仮想通貨取引所の最大手Coinbaseは、「暗号資産について学びながら暗号資産を獲得」と銘打ち、ユーザーがクリプトの仕組みを学んだ対価としてトークンを得られる機会を提供しています

ただ、それらはあくまで「自社のサービス」について学ばせるもの。一方のRabbitHoleは「プラットフォーム」である点が特徴的です。つまり、ユーザーは「RabbitHoleを使いこなすために学ぶ」のではなく、あくまで「Web3について広く学び、それに関わる技術や企業について学ぶ」のです。

学んだ先のステップとして、ユーザーの前には、より関わりを深めたいWeb3コミュニティを自ら選び取っていく選択肢が広がっています。その意味で、Rabbitholeは前者に比べてより分散型の色合いが強く、いかにもWeb3的なサービスだといえるでしょう。

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こうした特徴に着目すると、現実世界の大学の有り様とよく似ていることに気づきます。大学という場は、自分が就く職業や会社を決める前に、学業を通してスキルを広く身につけ、その後の進路を考えるための場所として機能してきました。このアナロジーでいうなら、RabbitHoleを「メタバース内の大学」と表現してもいいでしょう。

もっとも、業界内外からみた「Learn to Earn」の構造は「単なるお小遣い稼ぎ」と変わらず、「Web3における『ポイ活』では?」と揶揄する声もあります。ただ、Rabbitholeには、単なる「トークン集め」以上の可能性が秘められていると感じられるのです。そして、それこそが「大学」という表現を用いた理由でもあります。

who pay for the education?

教育の対価は誰が払う?

現代における大学は、さまざまなスキルを身に付ける場であると同時に、人的ネットワークをつくり、その後の社会でどんなコミュニティに属していくのかを決めていく場ともいえます。

RabbitHoleがWeb3という世界において同様に機能する可能性があるということは、これまでもお伝えしてきた通りです。しかし、両者には決定的な違いがあります。大学に通うための費用は学生が負担するのに対し、RabbitHoleでは学ぶほどにトークンをもらえる仕組みであることです。

これはつまり、「教育は受ける側がお金を払う」という概念が覆され、「学んだ人のメリットを享受する人がお金を払う」という変化が起きているとも言えます。社会に出れば、新人研修や語学研修など「お金をもらって学ぶ」機会は無数にあります。「人が資産」である企業や組織にとって、教育コストは重要な投資であり、費用を負担するのは当然でしょう。これまで当たり前と考えられていた「学費を払って大学に行く」という行為もまた、Web3の提唱以降、過去のものとなりつつあるかもしれません。

また、従来の大学では、学生に学ぶことによる金銭的なインセンティブはなく、何をどう学ぶかはすべて学生本人の自発性に支えられていました。さらに、大教室での一斉授業ともなれば、受身で画一的な内容を学ぶ時間が多いのも事実です。

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RabbitHoleは、こうした学びの環境も変えていきます。自発性をもって「学びたい!」と思う人の気持ちに応えられるのはもちろん、学びに対する強い動機がなくとも、トークンという明確なインセンティブが与えられることで、学びが継続しやすいメリットが期待できます。また、多種多様なタスクから自ら選べ、専門分野を深めやすいのも魅力といえます。

ウェブにさえつながっていれば、国籍も出自も関係なく学べ、それぞれのWeb3コミュニティに貢献し得る人材になれる。Web3の世界においては、いまや中学生でも高校生でも、自ら必要なことを学び仕事をこなす時代です。事実、Web3コミュニティでは高校生がコントリビューターを務める例も出ているくらいです。

For Whom the Bell Tolls

マーケティングも変える

ここまでは教育への影響を見てきましたが、ビジネス面にも良い効果がありそうです。

まずは、RabbitHoleでの学びが、顧客獲得のためのマーケティングと、ユーザーオンボーディングの機会となることです。ユーザーはタスクを通じて企業のサービスに触れ、さらに企業ごとに発行されるトークンがもらえるため、すぐにでもそれを使ってみたくなる気持ちが湧くでしょう。トークン保有者であることは、そのサービスにおけるステークホルダーになることを意味しますから、強烈なオンボーディング効果も望めます。

従来のマーケティングにおいて、視聴者(=ユーザー)は広告に触れても金銭的インセンティブは全く得られませんでした。それは、インターネットという場所においても同様です。あらゆるウェブサービスは、ユーザーへの直接的な課金を諦め、マネタイズを広告モデルに依存してきました。膨大なトラフィックを集め、メディアの価値を数字で可視化させ、それを換金するための構造をつくり上げてきたのです。GAFAは個人情報をかき集めることで自らの成長を加速させ、結果として世界の資本も一極集中したのがWeb2.0の世界でした。

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Image: REUTERS/Aly Song

RabbitHoleのようなサービスは、まさにそんな世界に変化が起きていることを教えてくれます。

ブロックチェーン技術が開発され、Web3の世界では経済価値のやりとりが極めてスムーズになりました。企業ごとに発行できるトークンは、これまでマーケティングに割いてきた予算をユーザーに直接手渡す仕組みともいえます。「顧客獲得」という成果は同様であったとしても、それに至るまでの道筋、あるいはその後の関係性は全く異なるわけで、その意味では、広告の概念を覆しているとも見なせるでしょう。

さらに、RabbitHoleで学んだ人は、タスクを課したWeb3系企業からすれば「将来のユーザー」であり、将来の「採用候補者」になるかもしれません。

RabbitHoleではユーザーのタスクの完了度合いが可視化されるため、採用プラットフォームにもなるのがユニーク。ブロックチェーン上で証明された「誰が、どのタスクを、どれほどのスピードで、いかにこなしたか」という情報を、採用の参考にすることができます。ユーザーからしても、スキルが証明されたかたちで記録されるため、イチからレジュメを書く必要すらありません

RabbitHoleを創業したブライアン・フリン(Brian Flynn)は、NFTゲーム『CryptoKitties』などの開発で知られるDapper Labsに所属していた際に、「集めたユーザーの質と量をいかに評価すべきか」に課題意識をもっていたそうです。つまり、あるサービスやコミュニティを前に、いわゆる「ポイ活」をしてオトクを取りたい人と、それに深くまでコミットする可能性のある人を、いかに可視化して差別化するか。そして、後者を取り込んでいけるのかを判断したかったのです。

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Image: VIA YOUTUBE

適切にユーザーを評価するために、ブライアンが考え出したのが「ユーザーに一定のタスクを課して、それを完了できるか」という手段でした。RabbitHoleは、まさにこの考えのもとに生まれたサービスであり、結果として教育や広告など、現実世界のあちこちに影響を与え兼ねない可能性を感じさせるまでになりました。

Down the rabbit hole

Web3の「入り口」

RabbitHoleに限らず、現在のウェブサービスは「サービス提供側=企業側の人間」と「サービス受益者=ユーザー」の境界が曖昧になりつつあります。Uberにおけるドライバーをはじめ、Newspicksにおけるプロピッカーなど、サービス提供者と受益者の中間的な存在が生まれています。サービスにおいてはその提供者も需要者もひと括りに「コミュニティの構成員」であり、もはや対立構造として存在していません。

「企業側の人間」と「ユーザー」との境界線が曖昧になっていく状況は、Web3の文脈に沿ったものだともいえます。トークン経済は、この中間的な存在のインセンティブを貢献に応じてアラインするための発明です。RabbitHoleは、ユーザーが学びを通じてスキルやトークンを得るという仕組みをつくりました。これは、サービス利用者となる「入り口」でありながら、そのサービスを提供するコミュニティを形づくる「入り口」としても機能しているのです。

社名の由来でもあるrabbit hole(ウサギの穴)は、英語では「本筋とは外れた横道」や「非日常な経験をする」といった意味をもっています。その由来は『不思議の国のアリス』でアリスが飛び込んだ穴のこと。Web3の世界では、その魅力に熱中する人にも使われているのを目にします(「どういう経緯でそのrabbit holeにハマったの?」といったやり取りがされています)。

RabbitHoleという彼らの社名は、Web3への新たな招待客を呼び込む「不思議の国の穴」であり、さらにはWeb3という広大な世界に踏み込むための「大学の門」でもある──。わたしにはそんなふうに映っています。


久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。ベンチャーキャピタリスト。主な投資先はメルカリ、Hey、RevComm、CADDi等。外資系投資銀行にてテクノロジー業界を担当し、創業メンバーとしてWiLに参画。本連載のほか、日経ビジネスで「ベンチャーキャピタリストの眼」を連載中。NewsPicksプロピッカー。慶應義塾大学経済学部卒業。Twitterアカウントは@kubotamas

(構成:長谷川賢人)


🚀 ニュースレター連載「Next Startup」、次回は3月26日(土)に配信予定です。

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