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MILLENNIALS NOW
ミレニアルの今を知る
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜日の夕方は、「ミレニアル世代」のトレンドを、注目のビジネスニュース4本とともに紹介していきます。

「スリープバー」という言葉を聞いたことはありますか?
その名の通り「寝るための場所」です。実際、英語では「Nap Bar(昼寝バー)」と言われることの方が多いですが、今、これがアメリカでは爆発的に流行り始めています。
特に、42%のニューヨーカーが睡眠トラブルを抱えていると言われるニューヨークでは、快適な環境で短時間の睡眠が取れる「The Dreamery(ドリーマリー)」や「Nap York(ナップ・ヨーク)」といった睡眠バーが登場し、ミレニアル世代の間でも大きな人気を博しています。
興味深いのは、Dreameryを展開するのが、マットレス販売で急成長するスタートアップの「Casper(キャスパー)」であること。Casperは近年、「睡眠を売る企業」としてビジネスを加速し、今年はユニコーンの仲間入りを果たすほどの成長を遂げました。彼らを筆頭に、今や睡眠ビジネスは、アメリカで数兆円規模を誇る一大ビジネスになっています。
ともあれ、この「睡眠ビジネス」は実際のところはどうなのか。「行ってみなければわからない」ということで、まずは睡眠バーを実際に体験してきました。
What’s happened in 45 min?(奇跡の45分間)
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ニューヨークのオシャレ街SoHoにあるDreameryは、Casper本社のちょうど向かいにありました。
スタイリッシュな内装で、どちらかというとオシャレなヘアサロンやワークアウトスタジオに来たような雰囲気です。予約はウェブサイトから申し込むのですが、1回当たり45分で25ドル(約2,750円)。レンタルパジャマやスキンケアのキット、歯ブラシとコーム、お茶やコーヒーなども含まれるので、高いという感じはしません。
睡眠スペースにはCasper製のベッドがセッティングされた円形の個室が9室並び、ほどよい暗さが保たれているので、入った瞬間から気持ちも静かに落ち着き、眠りに誘われます。

ベッドに入り、ライトを消した瞬間、一瞬で眠りに落ちました。
正直、「本当に寝られるのか」と疑っていたのと、「45分間」という時間が中途半端だなと思っていたので、自分のことながら驚きました。さらに、ぴったりと45分間で起きることもできました。ちなみに、Wi-Fiパスワードも提供されているので、寝られない人は、(個人的にはあまりおすすめはしませんが)、個室でスマホをいじって時間を潰す、といったこともできます。
「睡眠バー」ではありますが、厳しいルールはありません。
また、この「45分間」という時間には科学的根拠があり、人が1日のうちにリフレッシュ&リチャージするために最適な時間だという研究結果に基づいているそうです。
Who is Casper?
Casperとは何者か
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ところで、そもそものCasperとは一体どんな会社なのでしょうか?
「睡眠界のNike」という立ち位置を築き上げようとしているCasperは、2014年に連続起業家のPhilip Krimらがマットレスを販売する会社として創業しました。当初は、圧縮したマットレスをダンボールに詰め、消費者に直接届けるというビジネスからスタートしています。
創業からわずか約1カ月で100万ドル(約1.1億円)の製品を売り上げ、初年度でいきなり1億ドル(約110億円)の売り上げを達成しました。
しかし、オンラインだけで販売し続けることに対して限界を感じ、2016年にはリアルのインテリアショップ「West Elm(ウエストエルム)」とのパートナーシップを締結し(その1年後に終了)、2017年には大手量販店「Target(ターゲット)」の1,000店舗で商品を売り始めました。ちなみに、Targetは、Casperに7,500万ドル(約82.5億円)を投資しています。
今や、北米のあらゆる都市部で広告を見かけるほど、普及したCasperですが、ここで紹介したいのは、彼らのマーケティング手法です。キーワードは4つの「E」になります。
- Experience:よりよい睡眠を得るために、新しいマットレスを手に入れること
- Exchange:よりよい睡眠の価値を知り、その対価としてマットレスを購入すること
- Evangelism:広告にお金を支払うより、人々によりよい睡眠のためにマットレスを購入してもらうこと
- Every Place:オンラインでも購入できる、お店でも購入できること
Casperは、単にマットレスやベッド用品を売っているわけではない、というのがポイントです。
あくまでも人々の睡眠問題を含め、マットレスを選ぶ時の問題点など、そういった顧客が抱える問題を解決するためにさまざまなアプローチをしようとしています。確かに、実際のところ、「寝具を売る」という手法は、何度も買い換えるわけではないので、限界があります。
このため、同社は睡眠バーのような普段の生活に取り込む「体験」を売っているのです。
Sleeping Business(スリープテック7選)
Casperは一つの例ですが、睡眠界は今後拡大していく産業として非常に注目されています。リサーチ会社「CB Insights(CBインサイツ))」によると、睡眠健康産業の市場は、2021年までに850億ドル(約9兆3,500億円)に達するとされています。
特に「Sleep tech(スリープテック)」を開発するスタートアップが次々と登場しています。
- Calm:メディテーションやリラクゼーションで睡眠を促すアプリ
- AutoSleep:Apple Watchを着けて寝るだけで睡眠時間と質をチェックする、睡眠トラッカーアプリ
- Withings Sleep:マットの下に設置し、睡眠の状態を計測する睡眠パッド
- Bose Noise Masking Sleepbuds(日本国内販売終了):ノイズマスキングテクノロジーを搭載した、安眠用イヤープラグ
- Oura Ring:血流から活動量・睡眠の質・ストレスレベルなどを計測してくれる、指輪型のウェアラブルガジェット
- WHOOP Strap:心拍数から睡眠の質まで細かく分析する、腕時計型のウエアラブルガジェット。アスリートも愛用

なかでも、カリフォルニアを拠点とするBeddrは、睡眠界の注目スタートアップ企業の一つであり、睡眠向上のためのデバイス「SleepTuner」を2018年から149ドル(約1万6,000円)で展開しています。
アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を得たスタンプサイズの睡眠センサーをおでこに貼ると、そこから血中酸素、心拍数、睡眠時の姿勢のほか無呼吸の状況を計測してくれます。日々のデータがスマートフォンのアプリに送られ、なぜ睡眠に問題があるのか、どのように改善できるのかといったことが分かり、そして1週間以内には睡眠時間も長くなるといいます。
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特に、このデバイスで期待されているのが「睡眠時無呼吸症候群」の解消です。
アメリカではなんと、2200万人が睡眠時無呼吸症候群だとされ、そのうち80%がその症状に気づいていないそうです。そのため、今後は「SleepTuner」が一役買ってくれるのではないかという期待が高まっているのです。
「Beddr」はこれまでにStanford StartXやThree Leaf Ventures、Delta Dental、エンジェル投資家などからの支援を受け、560万ドル(約6億2千万円)の資金調達をしています。
The goal is……
睡眠ブームの行き先
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睡眠健康産業の市場規模はさらに拡大し、新たなステージへと向かっていますが、テクノロジーを駆使したデバイスやサービスが多く見られる一方、ブームが高まるにつれ、スリープテックは医療機器のような医学的正確性を兼ね備えているのか、という判断が難しくなります。
ですので、Casperのように、マットレスという普段使うものと合わせ、「睡眠」を時間で売るといったアプローチはより、実体験として効果が得られているように感じるかもしれません。
ただ何よりも、睡眠というのは、忙しい現代人にとっては、何よりも貴重な時間です。スリープテックの隆盛から、人々を健康で幸せな睡眠に誘うビジネスが登場してくれるのであれば、歓迎したいものです。
This week’s top stories
今週の注目4ニュース
- ミレニアル世代は早死の傾向? 全米非営利民間健保会社協会(BCBSA)の調査によると、ミレニアル世代は、1960年代初頭または半ばから1980年代に生まれたX世代に比べて病気がちで重大な病気にもかかりやすいということが分かった。そのため、このまま何も彼らの生活が変わらない限り、X世代よりも早死にする可能性が高いという。
- 21歳セレブが株の過半数を売却。カイリー・ジェンナーが、自身が手がけるブランド「カイリー・コスメティクス」の株式の51%を6億ドル(約660億円)で売却した。売却先は、バーバリーやリンメル、マックスファクターといった世界的な有名ブランドを傘下に持つコティ社。
- 電子タバコのJUULが告訴される。米カリフォルニア州とニューヨーク州が、電子タバコメーカーのJUULを告訴した。同社が若者に対し、健康被害を及ぼす電子タバコの不正広告を展開したため。
- レンタルサービスの契約延長へ。米百貨店「Nordstrom」と服のレンタルサービス「Rent The Runway」が、今年6月にスタートしたパートナーシップの契約延長を発表した。物を持たず、経験にお金を費やすミレニアル世代にとってこのようなサービスは、今後さらに需要の高いものになるだろう。
【今週の特集】
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Quartz(英語版)の今週の特集は「ETFs are eating the market(ETFが市場を喰う)」です。その安さと簡単さで、株式市場を席巻するETF(上場投資信託)について、その功罪を問う一大レポートです。Quartz Japanの購読者は、英語のオリジナル特集もお読みいただけます。
(写真:ロイター、Casper、Beddr)