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Next Startups
次のスタートアップ
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。
世界的な問題になっている気候変動。先週、スウェーデンの高校生環境活動家、グレタ・トゥンベリさんがTIME誌のPerson of the Year(今年の顔)に選ばれました。今月はスペインでは地球温暖化会議のCOP25が開催され、環境問題について目にする機会が増えてきました。一方で「なんだかヤバそう」とは思っていても、やれCO2(二酸化炭素)だ、カーボンオフセットだと聞いてもピンと来る人は少ないでしょう。
実は、地球は本当に大変な状況にあります。昨年、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は緊急報告書をまとめ、「気候変動を安全と思われる許容範囲内にとどめておくには、世界全体のCO2の排出量を、今後30年のうちにゼロにしなければならない」と発表。まず、2030年までに炭素排出量を半分に削減する必要があることを強調しました。
京都議定書とパリ協定で二酸化炭素の削減を約束したのに、全世界での二酸化炭素の排出量は増加の一途を辿っているのです。昨年日本は世界で5番目に二酸化炭素を排出した国として不名誉なランキング入りを果たしています。(「BP Energy Outlook 2019」より)
- 中国:9,419.62
- アメリカ:5,017.89
- インド:2,481.05
- ロシア:1,550.77
- 日本:1,150.06 (単位:百万トン)
この状況を危惧して、草の根から解決に挑むムーブメントが始まっています。今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、フィンテックの力で気候変動に立ち向かうDoconomyをご紹介します。
Doconomy(フィンテックを用いた商品・サービス)
- 創業:2018年
- 創業者:Johan Pihl、Mathias Wikström
- 調達総額:非公開
- 事業内容:CO2排出量に応じて利用を制限されるクレジットカードを開発
FINTECH FOR ENVIRONMENT
環境×フィンテックの力
Doconomyは、金融、テクノロジー、通信業界などのプロフェッショナルが気候変動問題の解決策を開発するために立ち上げた、スウェーデンのフィンテック企業です。
Doconomyのクレジットカード「DO」を使って決済すると、購入した商品・サービスから発生するCO2排出量が専用アプリに表示されます。排出量はスウェーデンのBank of Alandが提供するCO2排出に関するAland Indexを参照し、自動計算します。
通常、クレジットカードは、ホテルのレイトチェックアウト、コンシェルジュサービス、国際線ラウンジ利用といった、消費を促進させる付帯サービスが充実するものですが、Doconomyはこれと真逆です。
つまり、「DO」のプレミアムカード「DO Black」では、CO2排出量が一定量に達すると利用が制限されるのです。通常のカードでショッピング枠を満たした時と同様です。
Doconomyでは、排出したCO2のオフセットも可能です。例えば、「風力発電所を建設する」などの権利を購入したり、排出量削減につながるファンドへ投資することもできるのです。CO2排出量が上限に達した際にもオフセット権を購入すると、カード利用が再開するのです。カードそのものもオーガニックな素材を使っており、印刷も大気汚染物質をリサイクルしたインクを使っています。
Doconomyは各方面で話題を呼び、2019年に世界最大のクリエイティビティの祭典カンヌライオンズのクリエイティブeコマースのグランプリに輝いています。そして今月、DoconomyへのMastercardからの出資とパートナーシップの拡大が発表され、CO2排出量トラッキング機能を広くMastercard発行会社全てが利用可能になると表明しました。
行動を促すための、「気づき」の重要性
Doconomyによると、一般的に炭素排出量のうち60%は消費に関連したものだそうです。商品やサービスを購入するにあたって、①価格、②質 の判断軸がありますが、Doconomyはこれに「環境負荷」という第3の判断軸を浸透させたいと考えています。
ただ、これは案外難しいものです。気候変動で気温が上昇しても日々の生活で切羽詰まった危機感は感じにくい。環境問題への関心はあっても、日常生活の中で意識されないまま、行動にも移されないでいるのが実態です。
Doconomyは日々の生活と気候変動へのアクションの橋渡しをするために、クレジットカードを通して消費者に意識をリマインドさせることが重要と言っています。気候変動を「自分ごと」と捉えてもらうために、まずは消費における環境負荷の「気づき」を提供すること、それが彼らの狙いです。
やがて消費者が購入の際にCO2排出量を気にするようになれば、企業もその動きに敏感になるはず。このサイクルを回すことができれば、持続可能な経済システムが構築されるかもしれません。
CLEANTECH 2.0
クリーンテック2.0へ
まさにCOP25の最中、環境問題の解決に向けて、政治の重要性は言うまでもありません。各国トップがCO2削減目標を合意した上で、実施のルール策定・運用をするトップダウン型での施策が中心的な対策になるはずです。
一方で、COP25でも各国の主張は食い違い、交渉は難航を極めています。環境問題が難しい理由、それは「おしっこプール」に例えられます。プールで誰かがおしっこをすると、それが全体に影響することを防ぎようがない。その場所を隔離できないという難点、これはある地域で温室効果ガスが排出された影響から他国が無害でいる状況を作り出し得ないことと似ています。
これまでの環境関連のテクノロジーは「クリーンテック」と呼ばれ、再生可能エネルギーなど技術寄りのイノベーションが中心でした。一方で欧州を中心に、一般の消費者向けサービスとしての、新たなクリーンテックの動きが起きています。
一番の先行事例はテスラ・モーターズでしょう。ソーラーパネルや蓄電池などの開発から製造・販売までを一貫して手掛け、最先端のエコカーを一般消費者の手に届ける。同時に、EVという自然な形で、一般消費者が環境貢献をすることを可能にしています。
まさに一般消費者の身近なサービスの中に埋め込まれた環境貢献、言い換えれば人々の環境意識を行動に移したいとする欲求を簡単に実現するサービスと言い換えることができると思います。そこはソーシャル性やコミュニティ性など、スマホが得意とする領域。実は世界のトップVCも、この「クリーンテック2.0」のトレンドに注目しています。Doconomyはその代表事例の一つと言えます。今後に注目です。
久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- ストリップクラブの会計は経費に非ず。AIで物流を最適化するサービスを展開するTurvoのCEOを務めていたエリック・ギルモア氏が5月に解雇された、驚きの理由が明らかになった。ギルモア氏はストリップクラブで豪遊し、7万5000ドル(約820万円)以上を、会社のクレジットカードで決済していた。
- Robinhoodで1ドルから株式投資可能に。手数料無料を謳う人気のトレーディングアプリRobinhood(ロビンフッド)は12月12日、端株の売買を可能にすることを発表した。この機能は、今週からアメリカの一部のユーザーに限って提供される予定。
- Appleが英スタートアップを買収。スマホ撮影写真の色を鮮明にする技術を持つSpectral Edge(スペクトラル・エッジ)の取締役にアップルの企業弁護士ピーター・デンウッド氏が指名された。12日に公開された届け出によると、Spectral Edgeの取締役会メンバーは解任されており、ここからアップルが同社の経営権を掌握していることが分かる。
- 自動運転で自宅に食料品が届くように。Walmart(ウォルマート)は来年、自動運転車両による無人の配送サービスを試験的に実施する。自動運転車メーカーのNuro(ニューロ)がこのために開発した「R1」を使い、無人の自動運転車に荷物を積み込んで配達して戻ってこれるかの実証実験を行う。
(翻訳・編集:鳥山愛恵、写真:ロイター)