India:化けるスタートアップはインドから

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India Explosion

爆発するインディア

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週金曜日の夕方は、次なる巨大市場「インド」の今と、注目のニュースを伝えていきます。英語版(参考)はこちら

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筆者は現在スタートアップを支援するVC、Lightspeed Indiaのパートナーだが、それ以前はアメリカの半導体メーカーであるアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、Google、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)などを15年間渡り歩いてきた。そんなキャリアを持つからか、私はよく、革新のゆりかごであるシリコンバレーとインドを比較する問いを受ける。

結論から言うと、インドから世界で活躍できるレベルのスタートアップが生まれる可能性は十分にある。理由を明かしていこう。

まず、データから「市場の真実」が見えてくる。近年、多くのユニコーン企業がアメリカ以外で誕生しているが、この主な要因はインターネットの普及だ。

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インターネットの可用性、価値創造の大きな領域に対するコストの低さ、両者の間にはとても強い相関関係がある。2000年〜2018年にアメリカと中国に見られたストーリーは今、インドで見られる。

しかし、これはGoogleやFacebookのような巨大B2C企業に限ったことではないのか? 疑問に思う人も多いだろう。

インターネットの普及はB2C企業に利益をもたらしたが、企業間(B2B)にまで、2次的な影響をも企業に及ぼす。

DEVELOPER IN THE NEW BUYER

エンジニア第一

多くのトップダウンの決定は、社内の「消費者(開発者)」に影響を与えるため、彼らの意見に従う必要が自ずと出てくる。

シリコンバレーに見られるように、エンジニア第一主義のマインドを持つ起業家は世界的に大きな勝利を収めており、「ITにおけるエコシステム」特にエンジニアを中心としたエコシステムは世界で最も活況に満ちている。

おまけにインドの起業家はこの点に関して独自の利点を持つと言える。インドで技術者になることは「オタク」でも「ダサい」でもなく、クールでファッショナブルとさえ見做されるのだ。

しかし、インドは所詮、世界のコールセンターとビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)のイメージが強いと思だろう。確かにその通りとも言える。ただこれは15年〜20年前の話だ。

インドのストーリーを1990年代後半から振り返ると、インド科学大学(Indian Institute of Science:IIS)のトップ学生は、国内2位のIT企業Infosys(インフォシス)、IBMとマッキンゼーのインド拠点責任者が創業した、EvalueServe(イバリュウサーブ)などの企業でBPO/KPO(ナレッジプロセスアウトソーシング)の役割を担っていた。

その後2000年代後半までに、インドではInMobi(インモビ)やExotel(エクソテル)などの企業が道を切りき、プロダクト開発の分野に移行し始めた。

そして今、インドはSaaS領域にかなり力を注いでいる。

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例えば、Postman(ポストマン)はAPIを開発するチームのためのプラットホームを提供を掲げ、3億ドル(約328億円)の大規模なラウンドを募集。Browserstack(ブラウザースタック)は目覚しい成長を遂げており、Freshworks(フレッシュワークス)は昨年1億ドル(約109億円)の年間経常収益(ARR)を達成したと報じられた。

インドは現在、アジア太平洋地域で2番目に大きいパブリッククラウド購入者に成長した。規模は中国の半分程度ではあるが、その成長速度は凄まじい。インド人は中国人に比べてハングリーであり、既存のブランドや概念を気にしない。よりトップライン(売上高)に焦点を当て、プロセス駆動型サービスの拡大を目指すことはスタートアップにとって理想的と言える。

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IT支出はまだ成長の余地があるが、その多くは今後数年でソフトウェアに食われてしまうデバイスやサービスだ。(※パブリッククラウドの消費データであり、プライベートクラウドの場合はこれに限らない)

INDIA-TO-EVERYWHERE

インドから世界へ

インドは、東南アジア市場のエンタープライズおよびSaaSのハブになる可能性を秘めている。それはなぜか。

中国の企業は、ハードウェアに焦点を当てるか、ローカル市場向けのサービスを展開するかだが、その一方、東南アジアの地域は、歴史と発展段階(ギグベース、移民人口など)を考えると、文化、言語、ユースケースにおいて整合性を持つ。インドで機能したケースが場所を変えて受け入れられる可能性は高い

そして、このすべての価値創造をサポートするための大切な要素がうまいこと組み合わさっている。現在、企業創設者の多くがスタートアップでの経験を持つ。

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これはつまり、インドで最も優秀なエリートたちが目指すベクトルが、銀行、コンサルティング、GoogleやFacebookではないということだ。

さらに、税制やビジネス環境の改善、破産法改正など政府による一連の改革は追い風を強め、起業家がより多くのリスクを取りチャレンジすることを容易にする。

大企業はインドを注力すべき市場に位置付けているが、一方でインド企業は消費者サイドと企業サイドの両方でグローバルに進出している。例えば、SaaSスタートアップInnovaccer(イノベーサー)、Oyo Rooms(オヨ・ルームズ)などは中国、アメリカ、そしてさらに他の市場に手を伸ばしている。

インバウンドであれば、Darwinbox(ダーウィンボックス)やYellow Messenger(イエロー メッセンジャー)などの企業は、東南アジアからの顧客を獲得している。

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インドの起業家たちは味をしめた。彼らはハングリーで、挑戦を厭わず、テクノロジー領域に息を吹き込んでいる。

この先10年のインドはきっと、起業家たちにとって真に刺激的なものになるはずだ。

This week’s top stories

インド注目ニュース5選

  1. 首都圏のネットが止められる。「国籍法改正案」の混乱が止まらないインドで、学生らによるデモ活動を恐れた政府は、首都ニューデリーの一部で通信を遮断する措置に踏み切った。12月11日に議会で可決された本法案は、イスラム教徒への差別を加速するとして大きな反感を買い、国内全土でデモが起こっている。
  2. B2Bフードテクノロジー企業が事業拡大へ。社食などカフェテリアのシステム管理サービスを提供するHungerBox(ハンガーボックス)は資金調達ラウンド・シリーズCでPaytmやアジアのVC、NPTKなどから計1200万ドル(約1億3000万円)を調達した。来年3月までに毎日の100万件以上の注文を処理する計画で、Paytmの決済ノウハウを用い処理能力を上げる考え。
  3. 1年待たず、OYOがヤフーと合弁解消。メガベンチャーOYO(オヨ)が日本市場の戦略パートナーとして提携していたヤフーを傘下に持つZホールディングスとの合弁を解消すると発表。今年2月に日本市場に本格参入し、翌月スタートした敷金礼金ゼロ、初期費用なしで家具家電付きの部屋が借りられる賃貸サービス「OYO LIFE」は、運営会社の株式を売却する形で出資を引き揚げた。
  4. 日本企業から11億円出資。インドのフィンテック企業、ローン・フレーム・テクノロジーズは五常・アンド・カンパニーから1000万ドル(約11億円)の出資を受ける。ローン・フレーム・テクノロジーズはこれまでにインド国内で約1億ドルの融資実績があり、今回の資金調達で顧客基盤の拡大と情報処理技術の強化を図る。
  5. CO2削減プロジェクトで海外企業をしめ出す。インドの電力の4分の1を生産するNTPC(ナショナル・サーマル・パワー)は、CO2の排出削減するために実施予定のパイロットテスト(20億ドル相当)に向けた海外企業からの技術提案を退けた。報道によると、GEはじめ外国企業が提案したCO2排出削減技術は「インドの発電所への設置に適していない」とされた。

【今週の特集】

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今週のQuartz(英語版)の特集は「The business of water scarcity(水不足のビジネス)」です。世界中で、新鮮な水が足りなくなる事態が発生しています。企業たちが支配する水ビジネスと、資本主義の問題について、Quartzが論じます。

(翻訳・編集:鳥山愛恵、写真:ロイター)