India:超リッチ層「デリー妻」の掟

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India Explosion

爆発するインディア

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週金曜日の夕方は、次なる巨大市場「インド」の今と、注目のニュースを伝えていきます。都心に住む富裕層の生態を探ってみると、意外な「不安」が見えてきました。英語版(参考)はこちら

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2019年2月、スイスのサンモリッツで執り行われた、ある婚前イベント。主役は、世界でも指折りの大富豪ムケシュ・アンバニの息子カップルだ。

サンモリッツは世界の富裕層に人気のスキーリゾートだが、インドでの知名度は低かった。

しかしアンバニ家のイベント以来、サンモリッツなどスイスのスキーリゾートが、インドのエリート層のステイタス誇示に一役買うキーワードとして認識されていることが分かった。

事実、クリケット選手のヴィラット・コーリ(Virat Kohli)とその妻でボリウッド女優のアヌシュカ・シャルマ(Anushka Sharma)をはじめとする、多くのインドの有名人たちがスイスで2020年のカウントダウンを迎えたそうだ。

インドには119人の億万長者が存在しており、2017年に国内で生み出された富の73%を上位1%が独占

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貧富の差が開けば人々が、階級、お金、人種の不安に悩まされていることは容易に想像がつく話だが、お金に困らない富裕層にも苦労はあるらしい。インドの超がつくリッチ層は、自分たちを国際的感覚に優れた「グローバル・エリート」の一員であることをアピールするのに躍起になっているというのだ。

都心に住む超リッチな主婦「デリー妻」たちの生態を探ってみると野心、欲望、そして彼女たちの不安が浮かび上がってきた。

A GLOBAL WESSING

結婚式はアピールチャンス

とある有名なデリーのビジネスファミリーの男性アクシャイ(Akshay)との結婚を控えた23歳のソハ(Soha)は、イギリスで修士課程を修了しインドに帰ってきた。この縁談は名の知れた結婚仲介業者によってアレンジされたものだ。

招待客のうち、彼女の大学時代の友人のほとんどはインド人ではないので、インドならではの伝統的で大規模な結婚式を楽しみにしていた。しかし自らを洗練されたインド人と認識するソハの目的は別にあった。

A Hindu priest performs a ritual as a couple take their wedding vows.
Image: Rupak De Chowdhuri

ゾハは、典型的なインドの花嫁ではなく、伝統を取り入れながらも国際的な感覚を理解したグローバル・エリートの自分をアピールすることが重要だと考えていた。

彼女の美意識に則ると、伝統的なインドの結婚式で多用される赤とオレンジのテーマカラー、かつ豪華絢爛な装飾は、グローバル・エリートである自分に相応しくない。その代わり望むのは、パステル調で洗練された雰囲気を醸し出す色合い。彼女が選んだブライダルウェアは、花嫁の伝統的な色の赤ではなく、ベージュゴールドだった。

演出にもこだわった。テーブルには国際色豊かなメニューが並び、アフタヌーンティーの要素も取り入れた。さらに、スペインのダンサーによるショウと音楽……。インターナショナルな環境で培った感性を、結婚式に詰め込む。

THE HERMES BIRKIN BAG

エリートが選ぶバーキン

超リッチなインド女性にとってエリートの象徴は、エルメスのバーキンバッグ。バーキンと一口に言っても、何でもよいわけではない。インド国内のエルメスで購入したのか、海外の店舗で購入したのか。素材は最高ランクのエキゾチックレザーライン(クロコダイル・アリゲーター3種、トカゲの皮を使ったリザード1種)で……。真のアッパー層のコミュニティの中にも、様々な条件が存在するのだ。

上品な赤が目にも美しい、ルージュ・エルメス・バーキンへの熱量も凄まじい。手に入れるには、世界でも限られたショールームを通し、ウェイティングリストに名前を連ね待たねばならない。

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彼女たちの世界では、保有するバーキンの数、そのカラーと素材、購入店舗といった基準に基づいて、格付けされる。最高のファッションセンスと世界の流行にフィットする人物かを、それで判断されるのだからそれはもう必死だ。

ANXIETIES OF TRAVEL

旅のお作法

もう一つ、海外で過ごすバケーションも大切なポイント。経済成長目覚ましいインドでは、海外旅行が珍しいことではなくなってきたので、超リッチ層は、中流〜上の中レベルとの差別化に必死になっている。超リッチ層の女性は、自分たちと「その他」の人々とを区別する戦略を練る必要があると明かした。

彼女たちの具体的な作戦を紹介しよう。

①定番は避ける

まず、リーナ(Reena)はいわゆる観光地に行かないという。バルセロナ、ローマ、シンガポールといった、わかりやすい観光地でオーソドックスなバカンスはせず、フランスのサントロペ、フランス領ポリネシアのボラボラ島など、異国情緒あふれ、かつリッチなリゾートを選ぶそうだ。

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この地は5つ星ホテルや高級レストランばかりが立ち並ぶ、他国の富裕層たちとの社交の場。お金がないと楽しめない場所なので、インドの中産階級は避けるそうだ。

②分かりやすいハイブランドアイテムは必須

次はファッションについて。これはズバリ、一目瞭然で高級と分かるハイブランドを身につけること。

そう語るのは、カジュアルなファッションのせいで苦い思いをした主婦アアルティ(Aarti)。彼女はロンドンにあるハイブランドの店員に、中流階級の観光客だと思われ無礼な対応をされたそうで、その日のコーディネイトに高級品を取り入れなかったせいだと信じている。ぞんざいな扱いを受けたのは、人種・国籍のせいではなく、店員に、高級品を購入する富裕層に見えなかったからだ、と。

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この一件以来、アアルティは世界中どこで買い物をしようと、ルイ・ヴィトン、グッチ、バーバリー、ディオール、シャネルのアイテムを必ず身に付けて行く。店員から、パッと見でリッチ層と認められたいのだ。

ハイブランドのアイテムで着飾るのは、消費力を誇示するだけでなく、グローバル・エリートとして認められないことへの不安を和らげる方法でもある。

ある意味、超リッチ層の女性たちの消費はグローバル・エリートの一員であるための「会費」なのだろう。

This week’s top stories

インド注目ニュース5選

  1. レイオフの波が拡大。国内経済の低迷を受けて昨年から本格化した大規模なレイオフの勢いが止まない。自動車とIT産業中心だったのが、他の業界にまで拡大。OYOは最大2,400人が解雇予定で、ウォルマート・インディアは56人、サムスン・インディアは150人が既に解雇された。
  2. ベゾスが10億ドル投資を明言。インド訪問中のアマゾンのジェフ・ベゾスCEOは15日に登壇したカンファレンスで、インド市場に10億ドル(約1,100億円)を投じることを発表した。狙いは中小の小売企業のEC取引進出支援。インドでは、アマゾンとウォルマートが不当廉売で中小小売業の経営を圧迫しているとして批判されている。
  3. メルセデスから初EVお目見え。メルセデス・ベンツ・インディアがインド市場に初めて投入する電気自動車(EV)を発表した。約1,000万ルピー(約1,550万円)で、4月に販売をスタートする予定。2019年11月に、インドでEVは発売しないと宣言したベンツだが、今回の動きは前言撤回と受け取れる。
  4. マクドナルドとゾマトが提携。食事宅配サービス大手Zomato(ゾマト)とマクドナルド・インディアは15日、宅配サービスでの提携を発表。インド北部および東部の店舗が対象で、ゾマトユーザーのマックデリバリーの利用が可能になる。
  5. 職場にヨガ休憩を。伝統医学の普及を担うアユーシュ省が主導し、EYインド法人、タタ・ケミカルズなど民間企業を含む15機関でヨガ休憩の導入試験が始まった。同省は特製パンフレットとビデオを作り、ヨガ休憩の普及を目指す。インドで働く機会があるなら、体験できるかもしれない……。

今週の特集

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今日1月13日の日本時間夕方から配信される、今週のQuartz(英語版)の特集は「Accounting at a crossroads(岐路に立つ会計事務所)」です。WeWork問題をはじめ、会計事務所の存在意義を揺るがすような事態が次々と発生するなか、いかに会計事務所は変わるべきなのか。Quartzがレポートしていきます。

(翻訳・編集:鳥山愛恵、写真:ロイター)

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