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India Explosion
爆発するインディア
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週金曜日の夕方は、次なる巨大市場「インド」の今と、注目のニュースを伝えていきます。不況の煽りを受け、インドでは有名企業でも大規模なレイオフが進んでいます。2020年、巨大市場はどこに向かうのでしょうか。英語版(参考)はこちら。
「中国に代わる次の市場」、そう目されてきたインドですが、最近は経済指標の悪化を伝えるニュースばかりです。
2014年に政権を発足させたナレンドラ・モディ首相を旗振り役に経済政策を進める姿勢を国内外にアピールし、一時期は実質GDP(国内総生産)成長率8.2%という驚きの数字を叩き出しましたが、その勢いは何処へやら。昨年11月29日にインド政府が発表した2019年7~9月期の実質GDP成長率は前年同期比4.5%に止まり、最盛期からほぼ半減しています。
■インドのGDP成長率推移
この経済失速のダメージを労働者も免れません。昨年発表された2017年〜18年の失業率は統計が遡れる過去45年間で最悪でした。都市部は田舎よりも深刻で、失業率は男女それぞれ7.1%、10.8%と、中等学校以上(10年生以上)の教育を受けた人や若年層の失業率も悪化しています。
■インドの失業率推移
昨年から自動車とIT業界を包み込むレイオフの脅威ですが、今ではスタートアップや世界的大企業のインド法人にまで見られます。深刻化するインドの雇用危機──その現場では今、続々と解雇通知が送られていると言います。
LAYOFF WAVE
各社のレイオフ状況
OYO:ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の支援を受けたOYO(オヨ)は、将来のレイオフを予告しています。「ビジネスおよび全部門でより多くのチーム再編成を実施します」「これは、テクノロジーとの相乗効果、効率化を進め、企業や地域全体で重複した無駄な部分を取り除くに当たって、OYOの一部のシステムが必要なくなっていることを意味します」と、リテシュ・アガルワルCEOから従業員へ当てたレターの内容をCNNが伝えました。
レイオフの対象になる従業員数については言及されていませんでしたが、メディアの報道では対象者は最大2,400人に上ると見られます。
Walmart India:小売大手Walmart India(ウォルマート・インディア)は、グルグラム本社でマネジメント層の56人を解任しました。クリシュ・アイアー社長兼CEOは、「影響を受けたすべてのアソシエイト(上級管理職8名、中間/下位管理職48名)に退職金および転職サービスを提供」したと説明。Economic Timesのレポートは、同社が上位管理職の3分の1を手放していると指摘します。「Walmartはインドに進出してから10年以上、売り上げが伸び悩んでいたためです」
Samsung India:家電大手の経営陣はレイオフの気配をひしひしと感じています。The Times of Indiaは、Samsung India(サムスン・インディア)のRanjivjit SinghCMO(最高マーケティング責任者)とエンタープライズビジネスヘッドのSukesh Jainが「競争の激しい職場環境」を理由に辞任したと報告しました。同紙は、複数部門を統合した後、150人を解雇したと報じています。これに対してSamsung Indiaは「ビジネスの優先順位に従ってリソースを継続的に再調整し、長期的な成功のためにビジネスをより強固かつ効率的にする」と説明しています。
Cognizant:The Economic Timesのレポートによると、アメリカに本社を置くこのIT企業Cognizant(コグニザント)は、コスト削減の一環、そして従来のサービスからデジタルテクノロジーへのシフトチェンジにという名目で、およそ350人の従業員を解雇しようとしています。 解雇の対象は、800万ルピー(11万3,000ドル、約1,200万円)〜1,200万ルピー(16万9,000ドル、約1,800万円)の年収レンジに属する上級社員だと報告されました。これに先立ち昨年11月、コスト削減の一環として、今後数カ月で最大7,000人を減らす計画を発表していました。
Ola:ニュースサイトEntrackrが発行したレポートによると、Ola(オラ)は、500人を解雇して損失を減らしましたが、さらに今後6か月以内により多くの従業員を解雇すると報告されています。Ola広報は、影響を受けるのは4,500人の従業員のうち5〜7%で、限定的だとしています。
Paytm: 昨年11月のEntrackrのレポートによると、コスト削減の一環としてPaytm(ペイティーエム)は500人の中堅社員に退職を勧告したそうです。「Paytm車内には社員のパフォーマンスを評価するシステムが存在し、それに基づいて何らかの決定が下される場合があります」と Paytmの広報担当者は説明しました。
Quikr:ベンガルールに拠点を置く、このモバイル広告会社は、昨年12月に約2,000人の従業員を解雇しました。運用モデルの微調整を決定した結果、「労働力の合理化」とQuikr(クイカール)が展開するプロモーション「AtHomeDiva」の美容サービス中断が発生したそうです。一部報道によると、3人の従業員が架空のクライアントとの取引を捏造し2億ルピー(約3億円)の損失を出し、その補填をきっかけにレイオフが始まったとされます。
TOUGH TIMES AHEAD
厳しい時代
「危機が続くとは言い切れませんが、確かに不安な状況です」と、人事コンサル会社、ノーブルハウスのサンジャイ・ラクティア(Sanjay Lakhotia)ファウンダー兼CEOは話します。 「経済がダメで、企業が期待どおりに成長していない場合、シニアとミドルレンジが影響を受けます。これは自然なプロセスです」
今年も状況は改善しないかもしれません。「19年度、インドは従業員積立基金(EPF)のデータをもとに新たに899万件の雇用記録を作成しました。現在の予測によると、20年度には少なくとも158万件減る見方もあります」
EPFの調査は、主に月額15,000ルピー(約2万3,000円)以下の雇用を対象としており、国民年金制度(NPS)の対象である政府や州のスタッフは含まれていませんが、「NPSの対象者も不況のあおりを受け、20年度には3万9,000人近くをカットする」と報告されています。
ただ、違う見方もあります。もちろん景気が良くないのは事実ですが、こういったレイオフは“スタートアップにつきもののカルチャー”という側面もあります。
インドのスタートアップはご存知の通り多くがIT系です。世界的にテクノロジーの進化によって自動化が進み、簡単な事務レベルのタスクはボット化されており、デジタル化が目覚ましいインドにおいては、雇用の最大30%がロボットに取って代わると推定されています。つまり、レイオフの一部はビジネスエコシステム全体の急速な変化が顕在化したわけで、スタートアップの成長の過渡期の脱皮のようなものかもしれません。
このような状況を鑑みて、今後、インドが乗り越えなくてはならない課題は2つ考えられます。
- テクノロジーに遅れずに立ち向かうこと
- 抵抗すること
また、足元の経済減速の数字ばかりに目が行きがちですが、その延長で中・長期的な成長が論じられるのは違います。
意外かもしれませんが経済成長が鈍化するなかでも株価は堅調で、モディ政権の新たな対策への期待感などを要因として、主要株価指数のSENSEX指数は昨年12月に過去最高値を更新しました。GDP成長率も今年5.8%、2021年には6.5%程度に回復すると見込まれています。
■2030年のGDP上位10か国
長期的な目で見ると、2029年にはGDPは日本を追い越し、さらに先の2035年にはインドGDPは10兆ドル(約1,000兆円)規模に達すると予測されています。
インド経済の混迷ぶりが経済指標に現れた2019年でしたが、飛躍の前のスランプか……。今年もインドの動向に要注目です。
This week’s top stories
インド注目ニュース5選
- インド人は日本人よりスマホを使う。アプリに関する市場データを提供するApp Annie(アップアニー)が公開した最新のレポートによると、インド人の1日あたりのスマホ利用時間は3時間半で、アメリカ、日本、イギリスなどの成熟した市場を上回っています。
- インド政府の狙いはワシントン・ポスト。ナレンドラ・モディ首相はAmazonを超えて、ジェフ・ベゾスCEOが2013年に買収したワシントン・ポストまでもコントロールする恐れがあるとNYタイムズが報じました。政府が有力メディアを抑圧し、その影響力を私利私益のために使うやり口はドナルド・トランプ大統領と同じだと批判します。
- 自殺者、自営業と失業者が突出。2018年のインド国内の自殺者数は、前年比3.6%増の13万4,516人でした。国家犯罪記録局(NCRB)は、職業別では自営業者が1万3,149人、失業者が1万2,936人だったと報告しています。毎日、平均35人の失業者と36人の自営業者が命を絶ったことになります。
- Amazonに小売オーナーたちは怒り心頭。先日Amazonはインド市場に10億ドル(約1,100億円)を投じて、地場零細小売のデジタル化に協力すると発表しましたが、小売を営むオーナーたちからは抗議の声が上がっています。彼らは、Amazonとインド政府の不公正な取引を懸念し、結局はインドの零細小売の収益性は改善しないと主張しています。
- Uber Eatsインド事業をライバル社へ売却。Uberはインドでのフードデリバリー事業を競合のZomato(ゾマト)に3億5,000万ドル(約380億円)の全額株式交換により売却したことを発表しました。Uber Eatsはインドでの営業を停止し、レストラン、配達パートナー、ユーザーはZomatoアプリへ引き継がれます。
【今週の特集】
今週のQuartz(英語版)の特集は「Gaming’s next level(次のレベルにいくゲーム産業)」です。今や、世界の人口の3分の1が手にするゲーム、もはや業界の枠を超え、娯楽から行政、ヘルスケアに影響を与える最先端を、Quartzがレポートしていきます。
(翻訳・編集:鳥山愛恵、写真:ロイター)
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