[qz-japan-author usernames=”kurumifukutsu”]
MILLENNIALS NOW
ミレニアルズの今
Quartz読者のみなさん、こんにちは。今日の「Millennials Now」では、巨大マーケットへ成長している「代替食品」の現状をお伝えします。ブームの裏側にある食生活の変化や、“肉”の次のトレンドとして多額の出資を得たニューカマー……。新たなバブルが起きている食品業界に注目してください。

今、特にアメリカとヨーロッパで話題で大きく取り上げている食のトレンドといえば、「代替食品」。ダイエット食品にも適しているとされ、「plant-based(植物由来)」の商品がスーパーマーケットでも多く並びます。
そのなかでも、「代替肉」はこの数年で拡大したマーケットとして投資家や世間からの目を引くトピックにもなっています。日本ではまだ「代替食品」は生活に馴染みないものですが、なぜアメリカでは今、巨大なマーケットへと成長しているのでしょうか。
「巨大なマーケットへと成長している」ことのひとつの象徴として、マス化、セレブリティの起用など宣伝手法もユニークです。先日、「Beyond Meat(ビヨンドミート)」とのコラボで「Dunkin’(ダンキンドーナツ)」は、「Beyond Meat Sauasage Sandwich」を発売。そして、今月、ラッパーのSnoop Doggからインスピレーションを得た「Beyond D-O-Double G Sandwich」を展開しました。
SnoopはBeyond Meatの大ファンということもあり、Dunkin’にて1日店長もしています。
今年の「CES2020」でも「Impossible Foods(インポッシブルフーズ)」が、新作の「Impossible Pork」を提供したり、第77回ゴールデングローブ賞の授賞式でもヴィーガン食が提供されたりと、公の場においても代替食品はひとつの食のカテゴリーとして取り上げられるようになりました。
「代替食品」は大きく「植物由来」と「動物の細胞培養」を利用したものの2種類に分けられますが、今回は植物由来のものにフォーカスしてお伝えします。
U.S. meat consumption
アメリカの食肉事情
まず、アメリカの食肉事情についてです。米国農務省(USDA)によると、2018年、アメリカでは、1人あたり222.2ポンド(約100キロ)を消費しました。家畜の所有者が安価な飼料穀物を利用できるため、国内生産量は初めて1,000億ポンド(約453億キロ)を超えています。
■アメリカの食肉消費量(鶏肉、豚肉、牛肉別)

USDAによると、2019年は食肉の国内生産量が2018年より1.3%増加。しかし、生産する量が増えたからといって、消費者がより多く食べるようになるわけではありません。1人当たりの消費量は、217.3ポンド(約98.5キロ)になると予想されていました。
そもそも、肉を食べること=環境へ悪影響といわれてきました。もちろん、家畜が増えることで環境破壊へ関与を促すことは否めません。
しかし、メディア『Reason』は、「すべてのアメリカ人がヴィーガン食を採用し、すべての家畜の飼育をやめると仮定した場合、アメリカの温室効果ガスはわずか3.6パーセントしか削減しない」と述べています。
2017年、農学者のロビン・ホワイト(Robin White)とメアリー・ベス・ホール(Mary Beth Hall)は総合科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に、畜産を完全に排除することでアメリカの温室効果ガスを2.6パーセント削減できると発表しています。
私たちが地球で生きてく以上、環境への配慮は必要ですし、そのなかで食肉産業とうまく付き合っていかなければなりません。ただ、今回のアメリカの代替食品ブームには、環境問題に対する意識もそうですが、現代における「食生活の変化」がありそうです。
Newcomer
フレキシタリアンの登場

「ベジタリアン(肉と魚を食べない菜食主義者)」、「ヴィーガン(卵や乳製品も食べない完全菜食主義者)」、「ペスクタリアン(肉類は食べないが魚介類は食べる)」はよく聞くワードですが、今、アメリカでは「フレキシタリアン」を選ぶ人たちが増えています。
フレキシタリアンとは、「基本的には菜食主義だが、ときには肉も取り入れる」食事の方法を取る人。現在、アメリカの消費者の約30%が食肉消費量を減らしていると答えており、32%が自分自身をフレキシタリアンであると考えています。こうした新しい食の選び方も、代替食品ビジネスを加速させる理由のひとつになっています。
特に、フレキシタリアンはミレニアル世代において63%を占め、ライフスタイルだけでなく、食に対しても好きなようにしたいフレキシビリティを求める世代ならではの結果だと言えます。
■世代別のフレキシタリアン、ヴェジタリアン、ヴィーガンの割合

また、「Nestlé」によると、ヴィーガンおよび肉を食べるアメリカ人の87%が植物由来のタンパク質を選び、その3分の2が週に1回以上、それを取り入れているといいます。このように、ベジタリアンやヴィーガンではない人たちにとっても、食生活の一部として受け入れられるようになってきています。
Traceability and Sustainability
トレーサビリティと
サステナビリティ
植物由来の食品への関心は、動物愛護、食肉(特に赤肉)の摂取に関連した健康上のリスク懸念、健康、宗教上の問題などもあります。また、近年は食品のトレーサビリティへの関心も広がり、消費者は自分が何を食べているのか、そしてどこから来たものなのかを気にしています。
食事に対して創造性、柔軟性、および多様性を望むため、新製品を試したり、加工食品を組み合わせ、食を楽しむようになったことも関係しているでしょう。
また、アメリカの多くの消費者は、食肉の代替品が健康管理をサポートしてくれると信じています。同時に、サステナビリティのためにも、こういった食事へ移行する人は少なくありません。
最近の調査によると、アメリカ人の30%は肉を皿から取り除いているだけでなく、植物由来の肉の代替品を探しています。この傾向は主にミレニアル世代に多く見られ、自身の価値や倫理に沿った食品を探している傾向に。
その結果、食肉や乳製品の消費量が減少し、動物から得られるのと同じ量のタンパク質を代替品で補うことで「社会的および環境的にプラスの影響を与える」というブランディングがもでき上がりつつあります。
Growing up
代替食品の市場成長

代替食品の市場は、急成長しています。
Nielsenが実施した「Plant Based Foods Association」の新しい調査では、アメリカにおいて2018年6月16日までの52週間で植物由来の食品の売上が20%増加し、合計33億ドル(約3,600億円)に到達。食品の総売上高が年間わずか2%しか成長しないなか、このデータは、代替食品の市場が単なるニッチ市場ではないという状況を示しています。
Marketsand Marketsのレポートでは、植物由来の食品のグローバル市場は2019年、185億ドル(約2兆円)の価値を占めると推定され、2025年までに406億ドル(約4.4兆円)の価値に達すると予測。代替肉だけで見ると、2019年に121億ドル(約1.3兆円)の価値を占めると推定され、2025年までに279億ドル(約3兆円)の価値に達すると予測されています。
また、一部の業界アナリストは、植物由来の代替肉が2050年までに食肉産業の50%を占め、500億ドル(約5.4兆円)の市場価値になると予測しています。
アメリカのみの数字で見ると、2019年4月時点での植物由来の食品市場は、45億ドル(約4,900億円)で、2017年の4月から比べると2年で31%も増加しています。
■アメリカの植物由来食品の市場

Two top brands
代替肉2大ブランド

非営利団体Good Food Institute(GFI)が発表した「State of the Industry Report」によると、アメリカで、植物由来の食品を取り扱う会社は過去10年間で160億ドル以上を調達し、2017年と2018年だけで130億ドルの記録的な利益を上げました。今、投資家は、この「代替食品」市場に目を光らせているのです。
■植物由来の製品を手がける食品会社への投資

アメリカでは、植物由来の代替肉を市場へ取り入れる取り組みは、約4年前から行われていて、特に「Impossible Foods」と「Beyond Meat」は、投資家と消費者の注目を集めている最も人気のある2つです。
- Impossible Foods
設立年:2011年
拠点:アメリカ・カリフォルニア州レッドウッドシティ
創設者:パトリック・ブラウン(Patrick Brown)
メモ:2019年5月、3億ドルを調達。ビル・ゲイツのほか、セレブリティも多く出資する。 - Beyond Meat
設立年:2009年
拠点:アメリカ・カリフォルニア州エル・セグンド
創設者:イーサン・ブラウン(Ethan Brown)
メモ:2019年代替肉企業として世界初の上場。同年、創業以来初の黒字。ビル・ゲイツ、レオナルド・ディカプリオなども出資。
Impossible FoodsとBeyond Meatの戦略には当初、大きな違いがありました。
■Beyond MeatとImpossible Foodsがスーパーマーケットに展開する数

- Impossible Foods
スーパーマーケットで発売する前に、レストランで展開することで消費者の名前を認識させる。また、有名なシェフやブランドと組み合わせることで、派手なブランディングを確立する。 - Beyond Meat
レストランではなく、多くの消費者がいるスーパーマーケットの食品売場に置くことで、マスからの認知度を高める。
しかし、2019年からは、それぞれが有名な全国のファーストフードチェーンに代替肉を提供し始めています。 Beyond MeatはCarl’s Jr.、Del Taco、Tim Horton’s、Dunkin’、Subway、KFCのメニューに登場し始めました。また、McDonald’sとの提携も進められていて、現在カナダの店舗にてテスト販売されています。

Impossible Foodsは、White Castle、QdobaとBurger Kingと提携しています。また、同社は「Impossible Pork」と「Impossible Sausage」を新たには開発し、2020年中に発売する予定。これは、豚肉の消費量の多い中国への市場も見据えて開発されました。
なお、Impossible Sausageについてはすでに2020年1月後半から、Burger Kingのアメリカ国内の一部店舗にて朝食メニュー「Impossible Croissan’wich」として提供されることが決定しています。
そのなかで、既存の大手企業「Tyson Foods」もこの戦いに参戦するカタチで、代替食品を発売すると発表。スタートアップ企業だけでなく、このような老舗企業も今や代替食品産業への参入なしでは生き残れないと考えているのでしょう。
Next trend is…
次はシーフード?
代替肉フィーバーが巻き起こっているなか、静かに次のトレンドとして注目されるのが「代替シーフード」です。
アメリカでの魚の消費量は減っています。しかし、現在、米国には約20の企業が植物由来のシーフードを開発しており、Impossible Foodsも最近、魚の代替品を生産することが最優先事項であると述べています。
■アメリカの食肉と魚の消費量

今、メディアや投資家が目を向けているのが、植物由来のマグロやフィッシュバーガー展開するスタートアップ「Good Catch」です。
同社は2016年に設立し、先日、3,200万ドル(約35億円)の資金を調達。そこには、CheeriosやYoplaitなどを傘下にもつ「General Mills」も投資しており、ますます大手企業の代替食品産業への期待は大きいといえます。

代替エビを展開する「New Wave Foods」のほか、シーフード以外にも、代替ミルクなら「Ripple Foods」や「Califia Farms」 、代替卵には「JUST Egg」があり、私たちの食の選択肢は広がるばかりです。
「代替食品バブル」ともいえるような現状ですが、こういった代替食品が増えることで私たちの生活にもなにか大きな変化が現れるのか、また、企業が代替食品のメリットをどのようにアピールし続けるのか、そしてそれにどう消費者が応えていくのか……。このあたりが市場拡大への鍵にもなっていくかもしれません。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- コービーを追悼するLAのテック企業。Crunchbaseによると、コービー・ブライアントは2013年にパートナー兼シリアルアントレプレナーのJeff Stibelとともにベンチャーキャリアを開始しました。2人は、LegalZoom、Scopely、Art of Sport、The Honest Company、RingDNA、FocusMotion、DyshApp、Representなど、LAを拠点とする企業に投資。そのため、LAの企業からは悲しみの声があがっています。
- Match GroupのCEOが辞任。Tinder、Match、OkCupid、PoFその他多数のオンラインデートアプリを展開するMatch Groupは1月28日(現地時間)、CEOのMandy Ginsbergが辞任したことを発表しました。Mandyは14年間同社に勤務し、2017年よりCEOを務めていました。辞任理由は「プライベートライフにおいて困難な状況に直面しているため」とのことです。
- ミュージシャンは“バーニー”推し。2020年米大統領選の民主党候補の公認指名争いが行われるなか、78歳の Bernie Sanders上院議員が多数のミュージシャンから支持を受けています。先日の集会にはBon IverやVampaire Weekendが登場しましたが、2月10日(現地時間)の集会では、Strokesが演奏する予定です。ほかにも、Ariana Grande、T.I.、Miley Cyrusなどの若手もBernieを支持しています。
- アメリカでも自動車のナンバープレートに絵文字? アメリカ・バーモント州下院は、ドライバーが決められたナンバーに加えて6つの絵文字の1つを追加できるプレートの作成を提案。もしくは、ドライバー自身が選んだ数字や文字に合わせて、決められた絵文字を追加することもできると述べています。なお、オーストラリア・クイーンズランド州では、2019年、サングラス、スマイル、ハートの目、ウィンク、大笑いの5つの絵文字から数字と組み合わせたナンバープレートを作成することができます。
【Quartz Japan読者イベント開催】

読者の皆さんとのミートアップイベント「Voice Up」を開催します。
日時:2020年2月14日19:00〜
場所:都内某所
参加をご希望の方はこちらのフォームよりご応募下さい。応募多数の場合は、抽選とさせていただきますこと、ご了承下さい。
【今週の特集】

今週のQuartz(英語版)の特集は「The global economy in 2020(2020年のグローバル経済)」です。リーマンショックから10年以上が経つ中で、我々は今の経済を理解しているのか、そして次の景気後退の可能性とは、Quartzが独自にディープレポートしていきます。
(写真:ロイター、Good Food Institute、Quartz、Good Catch、Statista、Financial Times、World Resource Institute)
Quartz JapanのTwitterで最新ニュースもどうぞ。