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India Explosion
爆発するインディア
Quartz読者のみなさん、こんにちは。1月最後の金曜日、週末の予定がある人もない人もリフレッシュできますように。さて、今週は次なる巨大市場「インド」のトランスジェンダーを取り巻くデート事情を伝えていきます。英語版(参考)はこちら。
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インドでデートをするのはかなり骨が折れます。同性愛者であればなおのこと。気になる相手とライトに、意中の相手を誘ってディナーを……なんて、楽しいひと時を過ごすのは相手が異性か同性か次第で、難しさに雲泥の差があります。この国のトランスジェンダーの人たちは間違いなく、最悪の状況に置かれています。
近年、出会い系サイトや「Tinder」などのデーティングアプリは、自分のセクシャリティーを「トランスジェンダー」と明記するオプションをユーザーに提供しています。しかし、それ以上は何もありません。彼・彼女らのコミュニティ形成に役に立つことは、ほぼ皆無、です。
そこに打開策を見出そうとしているのが、デーティングアプリ「Butterfly(バタフライ)」です。2019年10月、イギリスに拠点を構えるMinns(ミンズ)から、トランスジェンダーの人と付き合うことに興味があるすべての性別向けにローンチされました。
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従来のデーティングアプリでは、「トランスジェンダーの人々から送られたメッセージの拒否率は非常に高かった」と、Minnsのデヴィッド・ロナルド・ミンズはQuartzに明かしました。トランスジェンダーの人たちは気に入った相手にアプローチしても相手にされず、だからと言って他の選択肢もない状態でした。
現在、Butterflyは、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、ニュージーランド、スペイン、イギリス、アメリカを含む12か国で4万2,000人以上のユーザーを擁しています。インドでは今年1月6日に提供を開始しました。
ユーザーはまず、セクシャリティを24通りから選びます。さらに細分化された10のオプションから選択でき、これはいつでも変更可能です。たとえば、登録時に自分の性を言葉にできるほど固まっていない場合は「Questioning(自分のジェンダーや性的指向を探している人)」で登録し、セクシャリティを自覚したあとで「MTF(身体的には男性であるが性自認が女性)」に変更する、なんてこともできるのです。
INTOLERANT SOCIETY
不寛容な社会
2019年の時点で、インドには推定50万人のトランスジェンダーの人々が存在するとされています。およそ13億人の全人口のうち、非常に低い割合です。アメリカでも、第三の性別を公言するのは人口のわずか1%に過ぎません。しかしButterflyのコミュニティにおいて、彼らの意思表現は、はっきりとなされています。
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ここでの大きな目標は、いわゆる「その他」に属する人を主流にすることです。
ストレートの利用者ばかりのデーティングアプリでは「レディボーイ(ladyboy:女装し男性を恋愛対象とする男性)」や「シーメール(she-male:豊胸手術をして、女性のように見えるが、ペニスはついたままの男性)」といった言葉がよく使われますが、これらの用語はトランスコミュニティにおいては不快なものと見做されます。
Butterflyの次のアップデートでは、トランスジェンダーの人々が嫌悪するこうしたポイントを取り除く機能が追加される予定です。Butterflyユーザーたちが不快だと感じる用語をデータベース化し、該当する用語が使われるメッセージをプロファイルしフラグを立てることが計画されています。
Butterflyがここまで徹底する背景にはインドのトランスジェンダーたちの悲惨な状況があります。
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トランスジェンダーというだけで親に見捨てられる子ども、雇用を拒否される人、最悪の場合、殺されたり自殺者を生むほどの社会的圧力が存在します。そんな絶望的な市場で、Butterflyはインタラクティブに認知度を高めようと考えています。
ただ、いま一番大切なのは最初の足場を固めることでしょう。自分のセクシャリティをまだはっきりと自覚していないトランスジェンダーを含め、「その他」の人たちのコミュニティが安全にあり続けるための環境づくりが何より先決です。
BENIFIT OF INTERNET
ネットがもたらす希望
インドで同性同士が愛を育むのは、長い間タブーとされてきました。遡ることおよそ150年。植民地時代に始まった刑法第377条で同性間のセックスは「不自然な違法行為」として固く禁じられてきたのです。もちろん、ここに同意があったとしても「犯罪行為」として世間の冷たい目に晒されます。
長すぎる時を経て2018年9月6日、インド最高裁が同性間の性行為を禁じる法律は違憲として、ようやく「犯罪」のレッテルは消えましたが、本当にそれだけなのです。真の意味で、制限が撤廃されたわけではありません。実は、ストレートの男性と女性以外、第三、第四の性については完全に認められていません。
2014年4月に、インド最高裁は「第三の性」を認めることを発表しましたが、それも形だけのものでした。昨年11月に承認されたトランスジェンダー法は、トランスジェンダーの人々を「二流市民」とみなしています。トランスジェンダーコミュニティでも議論の的となっています。
インドの社会は「寛容」と言うには、まだまだ状況が追いついていないわけです(この点については日本も似ているものがあります)。
ただ、インターネットの普及はトランスジェンダー、「その他」の人たちにとって選択肢を増やすきっかけになることは間違いないでしょう。
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実は日本でも同じようなことがありました。1995年にWindows95が発売されてから徐々にコンピュータ、携帯電話が普及したわけですが、このテクノロジーの進化は同性愛コミュニティに大きな変化をもたらしました。
当時を知る人は、新宿2丁目に集まる「人種」が増えたと振り返ります。それまでは、自分の性別を自覚しない潜在的なトランスジェンダーやバイセクシャルといった「その他」の人々が2丁目に近寄るのは難しいことでしたが、インターネットが浸透したことで「その他」が確実に増えたと言います。
インターネットによって、本当の自分を表現できるコミュニティへの道筋が明確になったのです。
PRIVACY FIRST
まず、プライバシー
インドに話を戻しましょう。この国では下手をすれば、恋愛をするだけで「犯罪」になった時代が2年前まで続いてきたくらいなので、Butterflyのようなアプリではユーザーのプライバシー保護が最優先です。
Butterflyでは複数の機能で、プライバシー、ひいては個人の「尊厳」を守ることが徹底されています。
- Facebookアカウントをリンクするような、他SNS経由でのサインアップの強制はありません。アカウントを作成するときに必要な個人情報は、メールアドレスのみです。このアドレスについても、登録用に新たにメールアドレスを取得することが推奨されています。
- ユーザーはもちろん仮名です。事前承認された2万通りのリストからユーザー名を選択することで、本名が漏れないようにします。
- アプリが登録を要求するのは生年月日ではなく、年齢だけです。
- プロフィール写真の設定は任意のオプションです。ユーザーは必要に応じて写真をアップロードできます。
- データは完全に消去されます。プライベートメッセージは30日後に期限切れになり、サーバーから消去されるため、個人データがサーバーまたはバックアップアーカイブに何年も残ることはありません。
- 位置情報は距離だけ。GPSの位置情報はデータベースに保存される際に概算され、距離のみがアプリに反映されます。これは、他のデーティングアプリで追跡される位置情報とは対照的です。
- セキュリティは万全。パスワードは、BCryptと呼ばれるメソッドでハッシュ化されます。復元には約200年かかるそうです。
ストレートの人にとっては当たり前のように許されている、本当の自分を表現できる安全な社会とコミュニティさえあれば、「その他」という言葉は必要ありません。Butterflyのサービスは始まったばかりですが、インドのジェンダー観を変える狼煙となるのか。
日本の状況を鑑みるに変化に時間はつきものですが、1人でも多く、心置きなくデートを楽しみ恋愛できる社会になることを願うばかりです。
This week’s top stories
インド注目ニュース4選
- 初の新型コロナウィルス発症確認、そしてデマ……。ケララ州で新型コロナウィルスによる肺炎の感染がインド国内で初めて確認されました。市民の不安は高じ、新型コロナウィルスは「カナダが売り渡した生物兵器」というフェイクニュースが流れ始めています。
- もう負け犬とは言わせない! Apple好調。第4四半期のiPhone出荷台数は、前年同期比200%超増の92万5,000台で、過去最高を記録しました。調査会社Canalysのレポートによると、2017年の第3四半期に89万台を出荷して以来、2年振りの塗り替えです。昨年9月に発売したiPhone11シリーズの販売戦略の一環でキャッシュバック特典をつけたことが勝因とみられます。
- モディのせいで政府債務が爆増。インド最大野党の国民会議派は、モディ政権発足から5年で政府債務は71%拡大したと与党を批難しています。国民1人当たりの債務は2014年に4万1,200ルピー(約6万3,000円)だったのが、2019年には6万8,400ルピー(10万4,000円)に増加。債務拡大の一方で、一人当たりGDPの増加は30%にとどまっていることを指摘し、新年度予算で対応するよう求めました。
- デリバリー事業、80億ドル規模に成長へ。Googleとボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の共同レポートによると、インドのデリバリーサービス市場は2022年末までに80億ドル(約8,700億円)規模に達するとみられます。インターネットの普及と注文頻度の増加に伴い、年平均成長率最大30%の勢いで成長が見込まれます。
【Quartz Japan読者イベント開催】
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読者の皆さんとのミートアップイベント「Voice Up」を開催します。
日時:2020年2月14日19:00〜
場所:都内某所
参加をご希望の方はこちらのフォームよりご応募下さい。応募多数の場合は、抽選とさせていただきますこと、ご了承下さい。
【今週の特集】
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今週のQuartz(英語版)の特集は「The global economy in 2020(2020年のグローバル経済)」です。リーマンショックから10年以上が経つ中で、我々は今の経済を理解しているのか、そして次の景気後退の可能性とは、Quartzが独自にディープレポートしていきます。
(翻訳・編集:鳥山愛恵、写真:ロイター、Butterfly)
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