MILLENNIALS NOW
ミレニアルズの今
Quartz読者のみなさん、こんにちは。今日の「Millennials Now」では、アメリカで問題になっている若者の「うつ」をトピックに取り上げます。自分自身と向き合わなければならないメンタルヘルス問題。スタートアップでも、それに関連した業界が大きなマーケットに成長しています。
アメリカの若者は、うつ病で悩んでいます。
先日、グラミー賞5冠を達成した18歳のアーティスト、Billie Eilish(ビリー・アイリッシュ)は、「2018年のツアー中にうつで苦しみ、自ら命を絶つことを考えたと告白していた。17歳まで生きられたことがラッキー」と、アメリカの特別番組『The Gayle King Grammy Special』に出演した際に話していました。
セレブリティにも限らず、ファッション業界にも波紋を広げるメンタルヘルス問題。2019年9月にミラノで開催された2020年春夏「Gucci」のファッションショーでは、イギリス人モデルAyesha Tan-Jonesが、「Mental Health is Not Fashion(メンタルヘルスはファッションではない)」と手に書き、ランウェイに登場した際に抗議の声を挙げました。これは、同ショーが病院をイメージした演出で、拘束衣や精神病患者を示唆するような服を着用し、ベルトコンベアーから食肉のように人間が流れ出すようなイメージを与えたからです。
アメリカの10代には今、「うつ」で苦しんでいる人が多いです。2017年に公開された「薬物使用と健康に関する全米調査(National Survey on Drug Use and Health)」によると、2017年に少なくとも1回、重いうつ病だと感じる体験をしたアメリカの12〜17歳の数は、2007年から59%も増加。ハーバード大学医学部によると、うつ病の最も顕著な症状は「気分が乗らない、深い悲しみ、または絶望感」とされています。
また、10代の女性は最悪な状況で、同世代の男性に比べると3倍もの人がうつ病を経験しています。 調査によると、10代の少年の7%に対して、2017年に10代の少女の20%がうつ病に関する体験をしたと回答。また、最近うつ病を経験した10代の女性の割合は66%で、2007年から2017年までの期間の10代の男性の数値(44%)よりも速い割合で増加していることが分かります。
うつ病は、10代の若者が直面する「日々のプレッシャー」に関連している可能性があります。 2018年の調査では、性別を問わず、10代の61%が良い成績をとることへのプレッシャー、29%が見た目をよくすることへのプレッシャー、28%が社会的に適合することへのプレッシャーを感じていました。
なお、家庭や学校でつながりが強く、サポートされていると感じる10代は、よりメンタルヘルスの問題やリスクに向き合う機会が少ないことも分かっています。
Feeling stressed
ストレスの多い生活
うつ病を抱えるのは10代だけではありません。ミレニアル世代も悩んでいます。
「Blue Cross Blue Shield」のレポートでは、2017年、21歳から36歳の5,500万人のアメリカのミレニアル世代のデータを分析。そのなかで、2013年以来、ミレニアル世代におけるうつ病の診断を受けた人が47%増加。そのうち、5人に1人は適切な解決法を見出だせていないという結果になっています。
また、リサーチ会社「Pew Research」は、2020年、ミレニアル世代(2019年に23歳から38歳の人々)のメンタルヘルス状態は「よくない」という結果を示しています。うつ病を含め、増加している「絶望的な死」は、孤独やお金のストレスなどの問題に関連し、世代間で増えています。
ミレニアル世代は、自分の仕事がメンタルヘルスに大きな影響を与えていると感じています。労働時間が長く、賃金も上がらない、そういった理由から、他の世代に比べて仕事に対するモチベーションが続かない人が多くいます。メンタルヘルス問題が理由で仕事を辞めている割合も高いのです。
さらに、同世代を悩ませるのがヘルスヘアのコスト。ヘルスケアは、彼らを悩ます4つ(賃貸、奨学金、子育て、医療保険)の主要なコストの1つです。 1960年には、1人当たりの平均年間健康保険費用は146ドル(約1万6,000円)でしたが、2016年には10,345ドル(約111万円)に達し、物価上昇率も考慮に入れるとおよそ9倍に。コストは2023年に14,944ドル(約163万円)に増加すると予想されます。
実際、ミレニアル世代は、コストがかかりすぎるため、医療や歯科治療を拒否しています。
また、都市への居住もうつ病のリスクを上げると言われ、都市居住者の方が都市外に住む人々よりも同リスクは20%高くなっています。
Anxiety Tech
うつを助けるアプリ
デメリットばかりのように思える社会で生活している、ジェネレーションZ世代やミレニアル世代。
そんなうつを少しでも軽減するため、コストをかからなくするため、メンタルヘルスのセルフケアをするために、テック業界も黙ってはいません。メンタルヘルス問題をテクノロジーが解決する「Anxiety Tech」と呼ばれるようになっています。
シリコンバレーでは今、さまざまなメンタルヘルス関連のスタートアップが誕生し、アプリが登場しています。というのも、仕事でストレスを多く感じる彼ら自身がメンタルヘルス問題に向き合い、常にそれを解決しようとしているからです。シリコンバレーで働くエンジニアにとっての治療法は、技術者らしく技術的な方法、そして合理的であるべきと考えています。
■セラピストを探すなら
- Kip
サンフランシスコエリアで、「最高」のセラピストを探せるアプリ。平均的なセラピストに依頼するよりも、10倍早く治療できるというのがモットー。 - Reflect
サンフランシスコエリアで、自分に合ったセラピストを見つけるアプリ。 - Two Chairs
サンフランシスコ・べイエリアに6つのクリニックを持つセラピーのスタートアップ。2019年8月に2,100万ドル(約23億円)の資金調達した。
■心を整えるなら
- Mindset Health
不安、うつ病などを和らげる催眠療法アプリ。 - Personal Zen
ストレスや不安を軽減するために、科学的に検証されたマインドトレーニング・ゲームアプリ。 - Happify
感情や思考をコントロールし、ストレスや不安を取り除くツールやプログラムを提供するアプリ。 - SuperBetter
変化と困難な課題に直面したときに、乗り越えるための強い力を身につけることができるゲームアプリ。 - Mind Ease
アプリ上で7分間の簡単なエクササイズをすることで、心を整えることができる。
■孤独感を感じたくないなら
- Shine
SMSやメッセンジャー、専用アプリを通じて毎日モチベーションの上がる名言や瞑想Podcastコンテンツを配信してくれる。
このように、いまやメンタルヘルス業界において、スタートアップとは密接な関係をもつようになっています。
従来のメンタルヘルス治療を受けようとすると、高い医療費、見合っていない薬の処方や時間がかかるなど、患者にとってデメリットがあります。
特にアメリカは、世界で最も高い医療費の国のひとつ。 2017年、アメリカが医療に費やしたのは3.5兆ドル(約384兆円)で、1人あたり平均約1万1,000ドル(約120万円)になります。経済の規模と比較しても、医療費は過去数十年間で増え続けています。1960年のGDPの5%から2017年の18%に劇的に増加。2027年までには総額6兆ドル(約650兆円)、つまり1人あたり約1万7,000ドル(約186万円)で、GDPの約19%を占めることになります。
ゲーム化されたアプリは完全に無料ではないにしても、魅力的で、ポータブル、処方箋も必要ありません。日々の生活に取り入れることで少しでも役立つなら、リーズナブルに見えるのです。
Meditation Market
瞑想への道
メンタルヘルス問題を解消する方法として無視できないのが、「瞑想(メディテーション)」。アメリカの瞑想市場は、2015年時点で9億6,000万ドル(約1,050億円)の価値があり、2016年には10.8億ドル(約1,184億円)、2017年には12.1億ドル(約1,330億円)に成長しました。平均の年間収益成長率は、11.4%で、2022年までに20億8,000万ドル(2,300億円)になると予測されています。
先日、Calm、Headspace、Happierなどの瞑想アプリのトップ10の合計が、前年比52%増の1億9,500万ドル(約213億円)に達しました。2015年にわずか800万ドル(約8億7,000万円)だった市場が急成長した背景には、ジェネレーションZやミレニアル世代の健康問題が大きく関わっていると言えます。
特に2012年に創立したCalmは、今や5,000万人が使う世界No.1の瞑想アプリともいわれていて、資金調達額は約1億4,100万ドル(約153億円)。俳優のマシュー・マコノヒーが「語り」として参加しているのも話題で、現在、大注目の企業です。
Calmの人気が伝えるのは、現代人が「睡眠薬」にお金を投じるより、こういった自分の目で見ることができ、体に負担のかからない「テクノロジー製の睡眠導入剤(アプリ)」なのです。
テクノロジーの進化がメンタルヘルスの悪化を生んでいるともしばしば言われますが、人とのコミュニケーションはもちろん、テクノロジーもうまく使いならがら自身のメンタルヘルス問題と向き合い、セルフケアしていくことが大切でしょう。
This week’s top stories
今週の注目ニュース5選
- NFLのハーフタイムショーから見る、政治的メッセージ。シャキーラとジェニファー・ロペスが、今年のスーパーボウル・ハーフタイムショーに登場しました。シャキーラはコロンビア出身、ジェニファーはプエルトリコ系アメリカ人なので、現在、アメリカで問題になっている移民問題や世界情勢に対する政府の動きに訴えかけるようなパフォーマンスが見られました。
- Nordstromが「セカンドハンド」市場へ。アメリカの大手百貨店「Nordstrom」が、セカンドハンドのラグジュアリーブランドの服をオンラインとNYの旗艦店で発売することを発表しました。1月31日よりスタートした同サービスは、6カ月間行われる予定。Nordstromギフトカードと引き換えに、顧客からの中古品も買い入れます。
- キャリアに必要な男の美容整形。シリコンバレーでは、35歳を過ぎたらキャリアが「下り坂」といわれているので、とにかく見た目を若く、良くするために男性の美容整形が流行っています。また、患者は20代も多く、ソーシャルメディアの普及もあり、「なりたい自分」に対する意識も高いようです。実力よりも見た目ということでしょうか。
- アマゾンで気になる相手をオーダー? デートサイト「Amazon Dating」が誕生。といっても、Amazonのサイトをパロディにしたもので、クリエイター数人とアニメ制作会社が共同で作りました。Amazonのように簡単にクリックしてカゴに入れられるスタイル。バレンタインデーに向けて気になる人をオーダーしてみては?(もちろん、実際には届きません)
- The Oscar goes to…(オスカーを手に入れるのは……) アカデミー賞に先立ち、アメリカの「映画芸術科学アカデミー」は、ファンのためにオスカーの予測を投稿するプラットフォームをTwitter上で作成。しかし、アカデミー自身が間違って予測を発表してしまいました。すぐに投稿は削除されましたが、340万人もフォロワーがいるので、かなりの人がすでに見てしまっているようです。
【今週の特集】
今週のQuartz(英語版)の特集は「The VC boom(VCブームの行方)」です。つい最近までニッチな産業に過ぎなかったベンチャーキャピタルが今や爆発し、特に大きなVCによる弊害や問題も生まれています。その最前線をQuartzがレポートしていきます。
「Because China」特別編
世界全体を恐怖に巻き込むコロナウィルス。なぜ、感染の拡大を防ぐことができなかったのか、中国の“盲点”に迫った取材動画をお届けします。毎週火曜日の夕方のPMメール「Because China」から、今日は特別に、早出しでお送りします(👆のサムネイル画像をクリックするとメンバーシップ会員限定の動画《6分56秒》をご覧いただけます)。
(写真:ロイター、Quartz、Two Chairs、SuperBetter、Statista、Calm)
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