India:気候危機が生む「新しい難民」

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India Explosion

爆発するインディア

Quartz読者のみなさん、こんにちは。ここ数年、日本も毎年のように台風被害に見舞われていますが、世界では自然災害によって住む場所を追われる「気候難民」が問題となっています。今週はインドの異常気象と新たな難民についてレポートします。英語版(参考)はこちら

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Image: REUTERS/SIVARAM

気候科学者や専門家らが数年前に発した不吉な予言が今、現実のものとなっています。世界中で発生する異常気象はもはや当たり前。これに起因する自然災害で避難を強いられる人は、紛争や暴力の脅威から逃れた難民の数を上回っています

移民を追跡する、国連の国際移民機関(IOM)から隔年で発行されているWorld Migration Reportによると、2018年末時点で世界148の国と地域で合計2,800万件の国内避難が発生。「新たな避難の61%(1,720万件)は災害によって引き起こされ、39%(1,080万件)は紛争と暴力が原因だった」と報告されています。

他の機関からも指摘はされていました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、自然災害の発生数とパワーが増すにつれて、最悪とも言える影響が人間の移動に及ぶしています

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Image: REUTERS / FRANCIS MASCARENHAS

2018年の世界銀行の発表では、気候変動に何らかの策が講じられない限り、2050年までに世界の3つの地域(サハラ以南アフリカ、南アジア、ラテンアメリカ)で、1億4,300万人以上の気候難民が発生すると予測されています。

さらに新たな問題も出てきました。自然災害による避難と聞けば一般的にイメージするのは国内での避難ですが、国を跨いで避難するケースが出現しているのです。

「(避難民の中には)国境を越えて避難している人々がいます。彼らは突然居住地を離れ、他国に避難しなければなりません。したがって、彼らは『気候難民』ということになります。これは人身売買や紛争・暴力の脅威から逃げた人たちと同等に深刻な状況です」と、World Migration Reportの共同執筆者であるビノード・カドリア(Binod Khadria)は説明します。

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Image: REUTERS/ANUWAR HAZARIKA

ジュネーブを拠点とする国内避難モニタリングセンター(IDMC)によると、2018年末までに、災害で避難した160万人近くが、いまだに自宅から離れた場所に留まっています。「避難民の多くが自国に戻るのではなく、そのまま別の国に定住できると信じている」。カドリアはこう付け加えました。

VULNERABLE SUBCONTINENT

脆い亜大陸

このシナリオは、特にインド亜大陸の国々にとって悲報です。南アジアに住む人々は、自然災害と気候変動に関連する突発的な災害に対して特に脆弱だと報告されています。

実際、2018年に南アジアで発生した330万人の避難民はほぼ自然災害によるものでした(アフガニスタンを除く)。この年のインドは最悪でした。各地は熱波に襲われ干ばつと水不足が騒がれていたのに、8月に一転。今度はハリケーンとモンスーンの豪雨が「過去100年で最悪」の洪水を引き起こしました。これだけでは終わらず、10月にはサイクロン「ティトゥリ」が直撃。暴風雨や土砂崩れで大きな損害を被りました。

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Image: REUTERS/AMIT DAVE

IPCCは、これほどまでに自然災害や異常気象の頻度と規模が増した元凶が、温暖化だと強調しています。

海に囲まれ広大な海岸線を持つインドの地理的条件を鑑みるに、自然災害に最も脆弱な国と言っても過言ではありません。過去2年間で、この国は毎月少なくとも1回、異常気象に見舞われています。

2月9日にインド科学環境センター(CSE)からリリースされたレポートでも、同様の指摘がされています。2018年にインドを襲った自然災害は23件、死者は1,396人。翌2019年にアジアで発生した93件の災害のうちインドで生じたのは9件でしたが、死者は全体の48%近くを占めます。異常気象の威力が増したことで、発生件数が少ない割に大きな犠牲を生みました。

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Image: REUTERS/SIVARAM

インド国内でも被害の集中している地域とそうでない地域の差は顕著です。国家防災委員会(NDMA)によると、国内37の区分(28の州と9つ連合領土)のうち27が災害を起こしやすいとされています。ベンガル湾に面したマングローブ群生地帯の広がる西ベンガル州スンダルバン地域は、海面上昇の脅威に直面した場合、洪水と地滑りのリスクが増します。2009年にベンガル湾で発生したサイクロン「アイラ」、2013年のウッタラーカンド州の秘境ケダーナスを襲った洪水は、北インドの脆さを証明しました。

VICIOUS SPIRAL

負の連鎖

複数の報告書はまた、貧しい発展途上国は地球温暖化によって引き起こされる災害に対してより脆弱であると警告しています。

防災は、負のインパクトへの「守り」と認識されるため、経済発展を急ぐ途上国においては後手後手の対応になってしまう領域ですが、その結果として耐久性の低い田舎は災害のダメージを受け、多額の災害対応費用を費やし、国の持続的な発展の阻害となる悪循環にさえなりかねない。相次ぐ異常な気象現象に対抗するためには、防災への資金と資源の投入は欠かせません。

国立科学アカデミー論文集(PNAS)が実施した研究で、165カ国の過去50年(1961〜2010年)のGDPと年間の気温データを集計すると、温暖化がインドなどの貧しい国のGDPを低下させる一方で、一部の富裕国は経済的に恩恵を得ていたことが明らかになりました。インドは気候変動のダメージによってGDPが30%もダウンしたとされます。

インドの7,500キロメートルにわたる海岸線には約2億5千万人が暮らし、そのほとんどは漁業に生計を依存しています。したがって、災害によって引き起こされる移住は、漁師、農民、貧しい労働者の生活を直撃するでしょう。

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Image: REUTERS/AMIT DAVE

「今日、難民は手を焼く問題だと世界で思われています。難民問題が政治利用され、選挙の勝敗が決まってしまう。インドは、人口も数えていますから、数が増えればどんな行動に出るかわからないという不安もあります」。CSEのスニータ・ナレイン(Sunita Narain)局長はこう警鐘を鳴らします。

「とにかく今は、難民問題を単に政治的なトピックとして扱うのではなく、危険な地域に暮らす人々の生活にフォーカスして農村への再投資に具体的な策を決める時期にあります。弱者の生活を奪っていることを、私たちは自覚しなければなりません。しわ寄せを受けるのは、出て行く選択肢しかない貧しい人々なのですから」

This week’s top stories

インド注目ニュース5選

  1. 年内にApple製品のオンライン販売開始へ。ティム・クックCEOは水曜日の年次株主総会で、年内のオンラインストアオープンと2021年の旗艦店オープンについて明言しました。政府の規制と一般市民にとって手の届かない価格設定のため、インド市場で苦戦を強いられてきたAppleですが、地場企業との提携と外資系小売に対する規制緩和によって向こう2年で状況は大きく変わりそうです。
  2. 鳥たちは静かに減っていた……。インドに生息する867種類の鳥の分布範囲と保全状況を評価した結果、絶滅危惧種や珍しい鳥についてはこれまでも研究されてきたが、その他多数101種についても深刻な状況にあると報告されました。このうち34種はレッドリスト入りしていません。なかには2000年以降に75%減少した種もあるそうで、研究者らは、原因の特定と対策を政府に求めています。
  3. 抗生物質の価格1.5倍に。インド工業連盟(CII)の発表によると、新型コロナウイルス感染拡大の煽りを受け、インド国内の抗生物質の価格が1.5倍に跳ね上がっています。ジェネリック大国インドは、医薬品原料の70%、抗生物質と解熱剤についてはほぼ100パーセントを中国に依存しています。ウィルス発生源である湖北省と河南省の化学工場は未だ再開の目処が立たず、インドのディストリビューターは倒産する可能性も。
  4. 配車サービス市場の急成長は今年も。調査会社スタティスタによると、UberやOlaをはじめとするインドの配車サービス市場は今年、369億5,500万米ドル(約4兆800億円)規模に達する見通し。年平均13%の成長率で拡大が続く見込みで、昨年1億7,360万人だった利用者は今年、2億740万人に達すると予想されています。
  5. 成果なく帰るトランプ。メラニア夫人や娘イバンカを引き連れ、24日からインドを訪れていたトランプですが、本題とされていた貿易協定の交渉で進展はありませんでした。訪印期間でトランプが挙げた成果は、インドへの30億ドル(約3,300億円)相当の武器売却の合意にとどまっています。

今週の特集

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Quartz(英語版)の特集は「China’s first global app(中国初のグローバルアプリ)」です。Tik-Tokを武器に、グローバルなプラットフォームを作り上げたByteDance。アリババ、テンセントの巨人に頼らず、世界を駆け巡る彼らの野望をQuartzがレポートします。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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