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Because China
すべてを変える中国
Quartz読者の皆さん、こんにちは。これまで中国が世界中であらゆる産業を激変させている現場を追い続けてきましたが、今日は、『三体』でも注目される中国SF界から発信された、“コロナウイルスの感染が拡大した後の世界”についての20の視点を紹介します。
Specurative Perspective
SF作家は予測する
中国におけるコロナウイルスの感染拡大は、デジタルテクノロジーを用いた公共サービスの開発を深く浸透させています。
百度はビッグデータの解析技術を活用した地図サービスで感染拡大の範囲確定に貢献し、中国・山東省にある山東財経大学はブロックチェーンを活用した教職員・学生の行動情報を管理するシステムをローンチしました。WeChatがユーザーを病院に誘導するサービスをリリースするなど、SNSによる支援も多く生まれています。
「この疫病を苦痛と恐怖を与えるだけでなく、深い洞察と機会をもたらすものとして理性的に受け止めようではないか」
そう自らのテキストで発信したのは、中国人作家の顾备。ディック、アシモフ、ハインラインら巨匠たちの翻訳も手がけている、中国SF界を代表する人物です。
顾备は、今後どのようなテクノロジーが市場に現れ発展するかというテーマのもと、次の20のキーワードを挙げています。
- ビッグデータ・ガバナンス
- クラウドによる危険予知
- 効率化する遠隔診療
- 人工知能診療
- IoTヘルスケア
- VRエンターテインメント
- サークルベースのSNS
- EコマースはOMOへ
- テレコラボレーション
- スマートな無人工場
- サービス業の無人化
- オンライン教育
- 作り手に報いるプラットフォーム
- 個性を求められる娯楽
- 劇場のオンライン化
- ブランド化する都市
- 知性をもった社会システム
- スマートな物流
- 二極化する交通網
- 情報セキュリティ
Quartzでは顾备氏より許諾を得て、その視点を皆さんにお伝えします。以下、それぞれの論点を抄訳でお届けします。
20 keywords
20のキーワード
1. ビッグデータ・ガバナンス
ビッグデータが為政者の意思決定を助け、迅速なフィードバックを可能にすることで、管理効率は大幅に向上するでしょう。これまでの行政は目が粗く主観的な判断にもとづいていましたが、行政・産業・民間・金融がオンラインでつながることで、さらに進んだ行政サービスを提供できるようになります。たとえば新生児の数にもとづいて将来必要な教員数を、地域内の住民構成によって用地計画を立てられるといった具合に。
2. クラウドによる危険予知
クラウドが社会の至るところに浸透することで、科学的数値モデルにもとづいた潜在リスクの予測が可能になります。発熱を訴える外来患者が急激に増えたのを察知してインフルエンザ流行を予見し、スマートフォンのGPSによって人の動きを特定して交通量集中によるリスクを予測するのです。
3. 効率化する遠隔診療
5G通信をきっかけに、遠隔診療は徐々に現実のものとなっています。感染症が発生したときにオンライン医療が実現されていれば、多くの人が迅速な診療を受けられるだけでなく、入院患者の負担も大幅に軽減できるでしょう。今も実施されている三甲医院(訳注:中国で最高クラスの病院)におけるトリアージには、遠隔診療が役立っています。
4. 人工知能診療
優れた画像処理技術、データ分析、AIによる補助診療システムの正診率はかなり向上しており、人間の医師よりも誤診率が低い可能性すらあります。こうしたシステムは地域医療において特に有効で、かかりつけ医や地域の病院による治療の精度を大幅に向上させるでしょう。
5. IoTヘルスケア
心拍数や血圧など、個人の健康情報を取り出せる端末ネットワークがユーザーの異常を検知すると、ユーザー本人はもちろん、他のユーザーに注意を促し、突発的な疾病による致命的リスクを大幅に減らすでしょう。慢性疾患のある人には、処方薬のオンライン注文から自宅配送まで提供してくれます。
6. VRエンタテインメント
COVID-19の感染拡大以降、オンラインエンタテインメントは私たちの娯楽体験を変えました。VRゲーム、VR映画、VRライブ、VRツアー、VRラウンジ…。そうしたVRエンタテインメントだけでなく、VRショッピングが私たちの生活にも少しずつ浸透していくでしょう。
7. サークルベースのSNS
わたしたちはインターネットにアクセスし“友達の輪”を切り替えるたびに、さまざまな役割を演じ分けています(あるときはマネジャー、あるときは熱心なセールス。あるいはクレーマー、まじめな親…)。もはや現実な世界よりもバーチャルにこそ、リアルさを感じられるようになってたといえるでしょう。人は役割を変えることで、不安なことの多い人生から外部化されたリラックス空間を見つけているのかもしれません。
8. EコマースはOMOへ
Eコマースはさらに発展し、サプライチェーンを挙げての共同研究開発をはじめとする高度な協同が必要となるでしょう。オフラインでの体験や口コミマーケティングがより一般的になり、製品そのものがターゲット顧客層の意向に合わせて変化することが勝ち筋になります。
9. テレコラボレーション
テレワークそのものは、技術的にすでに実現されています。重要なのは、それを可能にするテクノロジーではなく、管理体制やインセンティブの設定です。テレワークは、経営モデルの変革やアップグレードといえるもので、共働する人が集う企業文化の体現でもあるのです。
10. スマートな無人工場
産業用ロボットが活用されることで、工場の無人化が実現します。現代においては、人件費がコストを圧迫しています。一方でロボットはエラー率も低く、単純な作業を行う低スキルの工程はすぐにも代替されるでしょう。
11. サービス業の無人化
サービス業にかかる最大のコストは人件費です。コロナウイルス感染の拡大を経て、サービス業すら無人化が進んでいます。一方で、ハイエンドな顧客はよりパーソナルなサービスを追求することになるでしょう。そのため、柔軟なシステム構築が事業主にとって最優先事項となるのです。
12. オンライン教育
中国では、全国の小学校から大学まで、わずか数日でオンライン教育への移行が始まりましたが、教師も生徒もいまだ不慣れなままです。しかし、一定の期間を経て、オンライン教育は実施できないままのアクティビティの不足を大幅に補うでしょう。
13. 作り手に報いるプラットフォーム
会員制やサブスクリプションなど、直接/間接的なコンテンツへの支払いが加速します。中国国内での著作権を重視する動きに伴い、この市場はますます活力をもち、急速に発展しています。
14. 個性を求められる娯楽
TikTokをはじめとするプラットフォームの出現は娯楽を大企業から解放し、すべての人が参加できる国民的娯楽に変えました。コンテンツ制作者は、ファン数を維持しタイムラインで目にとまるような独自性をもたざるをえなくなります。
15. 劇場のオンライン化
コロナウイルスの流行によって在宅をやむなくされたことで、映画は数人の友人同士で観るのがトレンドになっています。新作の公開は、上演される劇場のスクリーン数や回数に制限されていましたが、オンライン映画館が登場することで、比較的低コストで、より多くの自由な放映権を獲得することになったのです。オンラインでの公開には興行収入の“偽造”も危惧されますが、本当に優れた作品ならば必ず突出した人気を得ることでしょう。
16. ブランド化する都市
都市においても、固有性のないものは淘汰されていきます。都市はすべからくブランドを確立しなければならないのです。成否の鍵を握るのは、地理的条件や民族性、風俗や食などのその土地に独特な文化を深いレベルで掘り起こし、固有性がある都市をつくり上げること。土地の売却や不動産開発だけを目標にした都市は、多くの苦難に直面するでしょう。
17. 知性をもった社会システム
未来の社会は、あらゆる先進技術が複合的につながり合って構成されるため、大量のデータをいかに効率的に収集・分析するかが鍵となります。セキュリティの観点からすると、そのデータは政府の完全な管理下に置かれているべきでしょう。
18.スマートな物流
かつてビッグデータ活用に沸いた物流は、現在では人工知能、スマート倉庫、無人配送といったフェイズまで進んでいます。未来のスマート物流のキーポイントは、効率的な運送だけでなく、大量のデータを市場指数や調査研究としてレポートすることで、生産やマーケティング、金融などにインサイトを提供することにあるのです。
19.スマート交通
未来の移動は、都市内であるか都市間であるかで明確に区別されるでしょう。飛行機や船舶などの都市間高速においては無人運転が顕著になり、交通手段にはパーソナライズと効率化が求められます。
20. 情報セキュリティ
情報セキュリティは、社会的に最も必要とされているにもかかわらず、最も脆弱なまま見過ごされています。情報セキュリティをどのように担保するかは、テクノロジーだけの問題ではなく、社会の問題です。専門化した情報セキュリティサービス市場が、近い将来、爆発的に成長するでしょう。
(編集協力/石神俊大)
This week’s top news
注目の中国ニュース4選
- Wechatはコロナウイルス関連のキーワードをブロックしていた。Wechatがコロナウイルス関連のキーワードを検閲し、ブロックしていたという調査結果をトロントを拠点とする研究グループCitizen Labが発表しました。この検閲は今年1月1日から始まっており、習近平国家主席が封じ込めの必要性を公に述べた1月20に先立って実施されていました。
- 英防衛省がHuaweiの5Gの安全性を調査へ。6日、英国の議員グループはHuaweiの5Gネットワークのセキュリティを調査することを明らかにしました。ボリス・ジョンソン首相は1月にも、限定的ながら英国でのネットワークを解禁することを決定していました。
- …一方、Huaweiはフランスに工場を建設へ。ヨーロッパ諸国はHuawei製品の締め出しに対する態度を留保していますが、同社は政府が導入するかいかんにかかわらず、フランスに工場を建設することを発表しています。
- ByteDanceの音楽ストリーミングサービスがインドで開始。TikTokを展開するByteDanceは、音楽ストリーミングサービス「Rosso」をインドで正式ローンチしました。すでにTikTokはインド市場で熱狂的に受け入れられています。配信元にはSMEやワーナーらが名を連ねていますが、Tensentと契約のあるユニバーサルは含まれていません。
【今週の特集】
今週のQuartz(英語版)の特集は「AI’s power problem(AIの権力問題)」です。AIが人間が生み出した巨大なデータを基に開発されるなかで、人間の持つ「ステレオタイプ」が助長される問題が起きています。これを正すには、アルゴリズムだけではない、人間の関与が必要になる――。その最前線をQuartzがレポートします。