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India Explosion
爆発するインディア
Quartz読者のみなさん、こんにちは。連日、新型コロナ関連の報道が続いていますが、ビジネスニュースもお忘れなく。3連休初日の本日は、インドのeコマース市場を騒がせた攻防の舞台裏を覗きましょう。英語版(参考)はこちら。
2017年、インドのeコマース市場の覇権をめぐる争いは熱を帯びていました。年初にTencentがリードする14億ドル(約1,550億円)の資金調達ラウンドの一環として、シェアNo.1を誇るFlipkartがeBayのインド部門を買収。米国から進出したAmazonは潤沢な資金力を武器に物流倉庫を次々と整備し、人口13億の巨大市場の取り合いが続いていました。
そんななか、同じくEC大手のSnapdealがFlipkartに身売りする交渉が直前で決裂したと報じられ、世を驚かせました。Snapdealの筆頭株主であるソフトバンク・ビジョン・ファンドはこの話を進めたがっていたからです。
交渉決裂を伝える報道とともに明かされた『Snapdeal 2.0』。身売りを阻止するべく、この戦略を練り上げ、ソフトバンクグループの孫正義社長と交渉した当時のSnapdealの最高戦略および投資責任者であるJason Kothari(ジェイソン・コタリ)は、次のように運命の日を振り返ります。
DECISION MAKING
孫正義のスピード
その日、私はいつもより早く目が覚めました。私がSnapdeal 2.0を創設者と取締役会に提出する日だったのです。すべてがクリアで、かつ完璧である必要がありました。
ベッドに腰を掛けラップトップを開く。100枚に及ぶスライドを一枚ずつスキャンして、タイプミス、文字や行間隔、数字をしらみつぶしにチェックし、創業者や取締役会がこの会社の救済計画を却下する根拠になりうるエラーを徹底的に潰します。
スライドをレビューしながら、私は数カ月前にマサ(孫正義社長)が関わった2つのミーティングについて思い返していました。1つは、デリーの大使館エリア、チャナキャプリにあるホテル「ザ リーラ パレス ニューデリー」のルーフトップレストランでもたれた会合です。
その日マサは終日、デリーにいましたが、ナレンドラ・モディ首相との面会が長引き、結局姿を現したのは、ディナーの時間でした。
会議はカジュアルなものでした。マサとKunal Bahl(クナル・バール:Snapdealの共同設立者)は同じテーブルに、私を含めた他の数名は別のテーブルに。
私たちSnapdealは切実に資金を必要としていました。このとき、もしもマサが“ディールメイキング・モード”にあるようなら、バールはSnapdealの資金強化のための決断を迫ろうと思い描いていたのです。
その夜、マサはいつも通りに礼儀正しく、意気揚々と振舞っていました。彼のマナーは温和で優雅です。でも、勘違いは禁物。Snapdeal側はあくまで彼に「お願い」をする立場です。
マサは、アリババグループの創始者ジャック・マーがいかにアリペイを切り出して評価額1,500億ドル(約16兆2,000万円)の世界最大のモバイル決済プラットフォームにつくりあげたかを見てきました。
そしてアリペイの成功は、マサの競争心をかき立て、オンライン決済分野への進出に執心させたのです。それゆえ、彼はSnapdealからFreeCharge(Snapdealが保有していたデジタルプラットフォーム)を買収することに興味をもっていました。
マサの行動の速さは、こんな感じです。おもむろに紙ナプキンをつかみ、考え得るディールを走り書きするのです。最終的にその取引は実現しませんでしたが、しかし、これがソフトバンクの「スピード」です。
そのスピードは、我々が提案したSnapdeal 2.0がボードメンバーの賛同を得られなかった場合にソフトバンクが我々SnapdealをFlipkartに売却するスピードであるということは十分に理解できました。
Excitement
孫正義の興奮
次に頭に浮かんだのは、同じくザ リーラ パレス ニューデリーの会議室でのミーティングです。
ソフトバンクのAlok Sama(アロク・サマ:ベア・キャピタル・パートナーズを創業した)がスーツを着て現れたのですが、いつもの彼はカジュアルなスタイルが多く(スティーブ・ジョブズをイメージしてください)、少し珍しいことでした。
テーブルの周りを固めたのは、のちのHike、Grofers、Inmobi、Oyo、Ola、Snapdealといった企業のCEOと創業者たちでした。一方のマサはサウジアラビアからプライベートジェット機で移動していたのですが、遅れていました。
彼は到着してまず、歴史的なビジネスの瞬間について熱い議論を始める前に、遅刻したことを謝罪しました。この時、マサはとても興奮しており、座っていられない状態でした。ビッグニュースを携えていたからです。
マサは、ビジネス史上最大のファンドを設立するつもりだと言いました。そう、のちにソフトバンク・ビジョン・ファンドとして知られるようになったアレです。
「私はとても興奮している!」マサは言いました。「史上最大の資金、1,000億ドル(約11兆円)を調達した!」
マサは、サウジアラビアの皇太子であるムハンマド・ビン・サルマン(MBS)と一緒だったと我々に説明しました。45分のピッチで、彼は450億ドル(約5兆円)を確保したというのです。
「これについてどう思う?」
我々は驚愕していました。マサは、数年ごとに1,000億ドル(約11兆円)の資金を調達したいと説明しましたが、話の全てが信じられませんでした。過去最大級のファンドをつくりたいがために、誇張しているとさえ思いました。
彼はまた、空港に向かう途中で、OlaのCEOであるBhavish Aggarwal(バビシュ・アガルワル)から電話があったようです。「空港から向かう途中で、アガルワルと私は、電気自動車(EV)100万台が絡む取引について話し合っていたよ! なんてエキサイティング!」マサは、アガルワルが微笑んだ、と興奮を抑えられない様子で話しました。
それを聴きながら私は、自分がアガルワルになれないものか、とうなだれました。
Future-focused Mindset
孫正義の未来志向
マサを興奮させないものはない、とジョークを言う人々がいます。ディールメイキングとアントレプレナーシップに懸ける彼の情熱は伝染するのです。
こと壮大なビジョンにかけては、彼に匹敵する存在はいません。したがって、のちに歴史的な1,000億ドルのビジョンファンド設立という偉業を成し遂げたのは、驚くべきことではありませんでした。
マサのマインドは常に未来志向です。彼はいわゆる「シンギュラリティ」を信じています。曰く、テクノロジーと人間の生物学の融合がSF映画でしか見られないような世界をつくり出し、テクノロジーの進化と人工知能(AI)を引き金に、人間の存在そのものに大規模かつ不可逆的な変化がもたらされる──。彼はどこに行き着くのでしょう?
マサはテレパシーについても言及しました。つまるところ、マサのビジョンは世界で最も珍しいものの一つです。
最終的に彼が手元の仕事に取り掛かかると、我々への期待を率直に口にしました。「あなた方はソフトバンクファミリーの一員です」「あなたがその領域の勝者なら、金に糸目はつけない。が、敗者に割く金はない」
ストレートなマサの物言いは、その場にいたCEOたちに、状況を理解させるには十分でした。「私にはIRR(内部収益率)44%の実績がある。よって、収益を傷つけないでいただきたい。私が投資するのは、期待収益に達した場合のみです」
目がくらむような、ナプキンに書き付けるようなスピードで投資の意思決定が行われ、パフォーマンスが将来の資金調達の運命を決める。その2つの現実を心に浮かべながら、私はSnapdeal 2.0プランを創設者と取締役会に提出し、天命を待つことになったのです。
This week’s top stories
インド注目ニュース4選
- 手の甲にスタンプで感染の印。新型コロナウイルス感染の震源地である中西部のマハーラーシュトラ州は、自宅隔離を命じられた人の手の甲にスタンプを押すなど管理を厳格化しています。19日時点でのインドの感染者数は156名、死者3名。近隣諸国との国境封鎖や、すべての国を対象にビザを停止するなどで、感染を抑え込んでいると評価される一方、アウトブレイクが起きた場合に対応できる医療リソースはないとみられます。
- 政府には頼れない。ほとんどの国の人々は、新型コロナウィルスのパンデミックと戦うため、政府と公衆衛生システムを信頼していますが、インド人は違います。州政府の取り組みに疑念が広まっているのです。感染が疑われた人が、隔離施設のトイレの不衛生な状態を目の当たりにして逃げ出し、その写真をTwitterに投稿。これをきっかけに、SNSには汚い写真が溢れ、インドの公衆衛生インフラの脆弱性が露呈しています。
- 航空各社はさらなる苦境。経営難が続いていたインドの航空各社がさらに窮地に追い込まれています。たとえ原油安が進行し1バレル30ドルを割っても、全ての地場航空会社が巨額の損失を計上するとの予測も。
- 飲食店は営業停止せよ。レストラン協会(NRAI)は、3月18日〜31日の間、もしくはコロナの新規症例が報告されなくなるまで、レストランの営業を停止するよう、すべての加盟社に提案。多くのレストランを展開するFirst Fiddleグループはいち早く、17日深夜から運営するすべてのレストランを閉鎖することを発表しました。
【今週の特集】
Quartz(英語版)の特集は「The business of fertality(不妊のビジネス)」です。出産年齢が高齢化し、一方で、親世代の経済水準がかつてより上がるなか、不妊ビジネスはかつてない規模に成長しています。数千億円規模のビジネスとなった、不妊ビジネスの最前線をQuartzがレポートします。
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