China:パンデミックでも鳴り続ける音楽

[qz-japan-author usernames=”Shunta Ishigami”]

Because China

すべてを変える中国

Quartz読者の皆さん、こんにちは。火曜のPMメールでは、世界に先んじて「ポストコロナ」時代に向けた試行錯誤を重ねる中国から、エンタテインメント業界で起きている新たな動きをお伝えします。

Image for article titled China:パンデミックでも鳴り続ける音楽
Image: MASAMI IHARA

Cloud Raves on TikTok

クラブ×TikTok

新型コロナウイルスの感染拡大に対応するなかで、つぎつぎと新たなデジタルトランスフォーメーションを成し遂げている中国。オンライン教育リモート医療の発展がすでに多くのメディアで取り上げられていますが、もちろんほかの領域でも積極的な取り組みが行なわれています。

なかでも注目すべきは、エンタテインメントクリエイティブ産業

日本でも規模を問わずさまざまなライヴやパーティが中止・延期を余儀なくされたことで大きな機会的・経済的損失を被っていますが、中国では2月頭から各所で多様な動きが生まれていました。

Image for article titled China:パンデミックでも鳴り続ける音楽
Image: Shanghai, MASAMI IHARA

大きな転換としては、多くのヴェニューがオンラインへ活路を見出したことが挙げられるでしょう。

たとえば上海の巨大クラブ「TAXX」は中国版TikTokとして知られる「抖音(Douyin)」上で“バーチャルクラブ”をオープン。とある日の放送では累計7万人以上が視聴し、728,500元(約1,100万円)もの収益をあげました。

Image for article titled China:パンデミックでも鳴り続ける音楽

こうした取り組みはあちこちで行なわれており、北京の「ONE THIRD」、長沙の「0731MISSION」など、各都市の大型クラブは2月頭の時点で抖音上にバーチャルクラブをオープンしています。

巨大クラブだけがオンライン配信に乗り出しているわけではなく、各地を代表するオルタナティブなクラブも独自性の強い取り組みを行なってきました。

上海のクラブ「Elevator」が実施したのは、同市を拠点とするShanghai Community Radioとコラボレーション。自宅謹慎のため市内に散らばったDJたち8人をつなぎ、12時間に及ぶ“ホームパーティ”を開催しました。同ラジオは現在SoundCloud上でも「不要出门/HOMESTREAM SERIES」と題したMIXシリーズを公開しています。

日本のクラブシーンとも交流しているクラブ「ALL」も同じく、「ALL by yourself」と題したMIXシリーズを公開。9人のローカルDJが参加し、Github上につくられた特設ページでは「Play at anytime, any order, you control.」なるメッセージが掲げられています。

Online Interaction is Essential

発信するアーティスト

感染拡大を受けて新たな挑戦を試みているのは、クラブやライヴハウスだけではありません。これまでと異なる環境での活動を余儀なくされたことで、アーティストたちも新たなプロジェクトに身を乗り出しています。

たとえば2019年のSXSWに出演するなど中国国外でも注目されている音楽家、YEHAIYAHANは「Street Live」と題したライヴ映像シリーズを公開。このシリーズは住宅街、川沿い、公園とさまざまな場所で収録されており、無人の街のなかに彼女の音楽が響いていくさまはどこか儀式的な神秘性も感じさせます。

Image for article titled China:パンデミックでも鳴り続ける音楽
Image: YEHAIYAHAN

アーティストによる映像配信プラットフォームの活用は、YEHAIYAHANのようにオルタナティブな領域でこそ活性化しているといえるかもしれません。

エクスペリメンタルミュージシャンとして知られる北京のZhao CongやZhu Wenbo、大理のDing Chenchenはオンラインセッション・シリーズ「Practice」を始動させ、これまでに13本の動画を公開しています。

プロデューサーとしても活動する音楽ジャーナリストのピーター・カーンは、ニッチな領域で仲間を探さねばならない中国のアーティストにとってストリーミングは一般的なものだったとしつつも、次のように述べています

「これまでとの違いは、中国においてオンライン上のインタラクションが必要不可欠になったことだ。すべての人々が事実上それぞれの家で孤立しているのだから」

Broadcast what you want

新しい選択肢

こうした環境の変化に迫るべく中国版『DAZED』が始動させたのが、ビデオチャット・インタビューシリーズ「真情在线聊天室」です。

本シリーズには前出のYEHAIYAHANをはじめ、Netflix発のリアリティショー『Next in Fashion』でも注目されたデザイナーAngel Chenなどさまざまなゲストが登場。「いまあなたの身の回りはどんな感じ?」「パンデミックは仕事にどんな影響を与えた?」「最近は家で何をしているの?」とカジュアルな雰囲気のなかで行なわれるインタビューからは、アーティストたちもまたこの苦境のなかで新たな挑戦へと踏み出そうとしていることが感じられます。

Image for article titled China:パンデミックでも鳴り続ける音楽
Image: DAZED CHINA

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会の変化は、人々を自宅へ隔離することで、アーティストと人々のコミュニケーションの形を多様化させてきました。

もちろん、ストリーミングサービスを活用したエンタテインメントやアーティストが映像プラットフォームで作品を発表することそれ自体は、いまに始まったことではありません。クラブやライヴハウスもパンデミックが収束していけばこれまでと同じようなかたちで営業を再開するでしょう。

しかし、今回の感染拡大を経て人々は新たな“選択肢”の存在に気づかされたといえるのかもしれません。

Image for article titled China:パンデミックでも鳴り続ける音楽
Image: Shanghai, MASAMI IHARA

今回紹介したさまざまな取り組みの多くは、2月初頭〜上旬から始まっているもの。中国は世界に先駆けて新型コロナウイルスの影響を受けていたとはいえ、新たな挑戦へと踏み出すスピード感やフットワークの軽さは眼を見張るものがあるでしょう。

新たな病院の建設や教育プラットフォームの構築、フードデリバリーネットワークの再編も含め、中国の革新を支えているのは高度なテクノロジーではなく迅速な意思決定のあり方なのかもしれません。規模にかかわらず、意思を現実のものとするスピード感こそ、わたしたちが中国から学ぶべきものなのでしょう。

This week’s top news

注目の中国ニュース4選

  1. 起業家たちは皆、数十億ドルを失う。中国メディアSCMPが、中国の起業家たちが2月19日からの1カ月で失った資産額を次のように試算しています。【Alibaba創業者】ジャック・マー:▼69億米ドル(約7,590億円)/【Tencent創設者】ポニー・マー:▼55億ドル(約6,050億円)/【Alibaba副会長】ジョセフ・ツァイ:▼37億ドル(約4,070億円)/【JD.com創業者】リチャード・リュウ:▼27億ドル(約2,970億円)
  2. 中国で再び増加する感染者は帰国者。中国国家衛生健康委員会の発表によると、23日に中国本土で新たに確認された感染者数は、78人と前日から倍増し、そのうち74人が海外からの入国者でした。中国では、新規感染者数0を達成する都市が増えているなか、帰国者からの感染拡大の懸念が高まっています
  3. TikTokは“見苦しい、貧困、障がいに関する”ビデオを検閲。米メディアThe Interceptが、TikTokが「モデレーター」と呼ばれる規約違反の動画を検閲する社員に向けたガイドラインを示した内部文書を入手。その中で、「醜い」とされる動画や、貧しさを感じる動画、障がいに関する動画を、おすすめ動画を紹介する「For You」から削除するよう指示していたことが判明しました
  4. 4月以降中国は復活する。中国人民銀行のチェン・ユル副総裁は、新型コロナウイルスによる景気後退の影響を世界中が受けている中、世界規模のでマクロ系経済政策での強調を求めました。また、今は深刻な影響を受ける中国経済ですが、第2四半期には大幅に回復するとする見立ても示しました

今週の特集

Image for article titled China:パンデミックでも鳴り続ける音楽

今週のQuartz(英語版)の特集は「Why startups fail(なぜ、スタートアップは失敗するのか)」です。スタートアップのムーブメントが世界を覆いはじめても、やはり成功するのは難しい。そんななかでスタートアップの成否を左右するひとつの要素について、Quartzがレポートします。

👇に、こちらの記事をシェアできる機能が追加されました。Quartz JapanTwitterFacebookで最新ニュースもどうぞ。