Asia:都市閉鎖とEコマースの危機(と希望)

Asian Explosion

爆発するアジア

火曜日のPMメールでは、今日から、中国・インドに加え、韓国や東南アジアをはじめとするアジア全域の最新ビジネスニュースとインサイトをお届けします。今日はロックダウン下のインドでのEコマース各社の取り組みと、アジアの最新ニュース4本を。英語版(参考)はこちら

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インドで実施されている21日間のロックダウンによって、EC業界は「生鮮食品」と「それ以外」とで明暗が大きく分かれることになりました。

モディ政権は、4月14日までの期限付きで「食品」「医薬品」「医療機器」を除く商品のオンライン販売を制限しています。しかし、これら3つのカテゴリーは、インドの600億ドル規模のEC業界のほんの一部。大半を占めるのは、スマートフォンやデジタルデバイス、アパレルです。

ロックダウンは、すでに多額の損失に喘いでいたEC業者の大半に、痛烈な打撃を与えることになったのです。コンサルティング企業エベレストグループVPのYugal Joshiは「ロックダウンはすでに経済活動に影響を与えており、さらに悪化するでしょう」と言います。「エコシステムのあらゆる面に影響し、解雇や雇用の遅れをはじめとする課題が表出するでしょう」

The big fish

大魚の余裕

ロックダウンは3月25日に実施されましたが、それ以前、国内の一部地域に対して外出禁止令が出されていた数日間から、あらゆるジャンルのEC企業に少なくとも60%の需要の減少があったと、TechSci Researchのアナリスト、Sukriti Sethは言います。

3月24日から、国内最大手のオンライン小売業者であるAmazonとFlipkartは、ユーザーからの注文を制限していました。

Amazonは、家庭用主食、パッケージ食品、ヘルスケア、衛生、身の回りの安全を守る製品など“重要な商品”の配送を優先すると述べています。「これはまた、優先順位の低い商品の注文受付を一時的に取りやめ、出荷を停止しなければならないことを意味します」(同社ブログ記事

Amazon Covid-19 response
3月27日時点のスクリーンショット(Amazon India)
Image: Amazon

一方、Flipkartは、ロックダウンを旗印にオペレーションすべてを停止し、その数時間後に食料品や生活必需品の配達を再開しました。

両社とも、親会社の資金が豊富で、かつ事業が多様化しているため積極的な措置をとる余裕があります。が、多くの中小企業にとってロックダウンは“死の宣告”となりえます。

Small fish, big pond

小さな魚の大きな工夫

インドのオンライン小売業界には、メガネのD2C(Lenskart)をはじめ、ファッションポータル(Myntra)から美容製品(Nykaa)、インテリア家具(Pepperfry)、ランジェリー(Zivame)まで、ニッチな分野に特化したプレイヤーが多数存在します。

彼らが販売する製品のほとんどが冒頭の「許容リスト」外のものです。彼らは今、自分たちのビジネスを維持する方法を模索しています。

例えば、Nykaaは、個人用衛生用品、手指消毒器、生理用ナプキンなど必需品の前払い注文を、平時よりも長い納期で受け付けています。Lenskartは自動化された製造工程を設置して眼鏡やコンタクトレンズを納品し、30%の補助金まで出しています。

Nykaa Covid-19 response
「日々の必需品にのみ注力します」(Nykaa)
Image: Nykaa

ビジネスが低迷しようが、企業は従業員に給与を支払い、オフィスの賃貸料などのコストを負担しなければなりません。

「PLが圧迫され、あらゆる企業がこの間に発生する支出に注意しなければならなくなる」と、EC向けソリューションを提供するスタートアップShopmaticの共同設立者兼CEO、Anurag Avulaは言います。「政府の措置がいかに合理的でも、こうした制限が続くと、Eコマースの売上高の大規模な減少は避けられません」

また、小規模プレイヤーは、すでに思い切った対応に踏み込んでいます。Quartzによるヒアリング内容とともに紹介します。

  • XYXX(男性用下着ブランド):ウェブサイトを停止。「不確実性の高まりから消費者心理が急落している。また、ECで消費者の需要が急増したとしても、実現方法が明確になっていない」(創業者兼CEO・Yogesh Kabra)
  • Kiabza(中古衣料品のECストア):資金調達計画が頓挫しており、窮地に立たされている。「VCと高度な交渉をしてきたが、現在は減速している。そのうちの1社は、7月までは新規投資をしないという方針のもと『すべての交渉は終了した』と言っている。VCの支援を受けている大手企業は、我々のような小規模でニッチなプラットフォームよりもはるかに有利な立場にある」(創業者兼CEO・Nohar Nath)
  • Fynd(ファッションEコマースサイト):オンライン配送をすべて停止。ロックダウンが長期化することを予想して、長期的な計画策定をスタート。「マネタイズの可能性がある非コマース分野でどんな技術力があるか、探り始めている」(共同創業者・Farooq Adam)
  • Coutloot(ソーシャルコマースサイト):ユーザーが500メートル〜1キロ圏内の店舗や必需品の販売者を確認できる機能を実装。「物流の悪夢を、最小限に抑えることができた(共同設立者・Jasmeet Thind)。
  • Raisin(AmazonやMyntraなどで販売される婦人服ブランド):ロックダウンが終われば、以前よりも多くのバイヤーを見つけることができると期待して、マーケティング費用を最大15%増やす計画を立てている。その投資は「ロックダウン期間中に発生する損失を補填しうる」(共同創業者・Vikash Pacheriwal)。
  • Payoneer(越境ECなどのオンライン決済サービス):売り手は選択肢としてより長時間の出荷を検討し、買い手とのコミュニケーションを増やすべきだとする声明を発表。マーケットプレイスでは、ネガティブなフィードバックを緩和したり、取扱手数料を補助したり、返金のためのペナルティ料金を免除したりすることで、売り手を支援。

The bright spots

レイオフはしない

一方、「必須アイテム」の分野で事業を展開している企業は、盛況を極めています。

非接触型のヘルスモニタリング・デバイスを製造する医療テックの新興企業Dozeeは、顧客エンゲージメントが上昇、今後の成長が期待されています。「人々は継続的に健康状態を監視するようになりました」とCEOのMudit Dandwateは言います。

さらに、こうした厳しい状況にもかかわらず、Quartzが取材したどの企業も、レイオフは計画していないと言います。

「パンデミックにあってもスタッフをサポートしていきます。給与や休暇を差し引くことはありません」と言うのは、オンラインのオーガニック・スキンケアブランドJuicy Chemistryの創設者Mega Asherです。「投資家は細心の注意を払うべき現状を理解し、私たちをサポートしてくれています。パニックになったり、予算を削減したりすることはありません」

(Reuters/Adnan Abidi)
(Reuters/Adnan Abidi)

短期的な問題は山積しています。が、新型コロナウイルスは業界に迅速なるイノベーションを迫ることで、長期的には利益をもたらすといえます。

「リモートワークの活用にはじまり、サプライチェーンのトレーサビリティの実践方法まで、多くの問題はテクノロジーを使って解決できます」と、物流インテリジェンスプラットフォームClickpostのビジネス担当VPのPranshu Kacholiaは言います。「この間に、我々は多大なインテリジェンスを構築できています。将来的には、長期的な利益とよりよいEC体験をもたらすでしょう」

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アジア注目ニュース4選

  1. 韓国発のウイルス検査キットが海外市場で存在感。ソウルに本拠を置く遺伝子検査スタートアップSeegeneが開発したのは、AIを活用することで結果を得るまでの時間を6時間に短縮した診断キット。現在、同社のキットはドイツやイタリアに供給されているほか、韓国国内で実施されている検査の約8割を占めています
  2. 医師派遣プラットフォームが資金調達。シンガポールを拠点とするヘルステックスタートアップDoctor Anywhereが2,700万ドルを調達。COVID-19の蔓延に対抗するものとして、タイやベトナム、マレーシア、フィリピンへと拡大が期待されます。
  3. WeChatアプリ内に追加された新たな機能。従来型のクレジットカードを持てなかったユーザーでもクレジット払いができる新機能「Fengfu」をTencentが発表。先行するAnt Financialの「Huabei」に競合しそうです。
  4. OYO Hotelsがインド国内で「病院の代わり」に。OYO HotelsがApollo Hospitalsとのパートナーシップを発表。OYOはすでにインド国内の一部のホテルに除菌ベッドを提供するほか、検疫施設も提供していました。

(翻訳・編集:年吉聡太)

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