Africa Rising
躍動するアフリカ
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週水曜日の夕方は、次なるイノベーションの舞台として世界が注目する「アフリカ」の今をお届けしています。英語版(参考)はこちら。
WhatsApp上の“イナゴ・ホットライン”は、止むことがありません。ケニア農村部の農家や牧畜業者は、聖書に書かれた疫病のように太陽の光を遮断し頭上を飛ぶ大群を撮影した動画を送り合っています。
砂漠のイナゴの大群は、2019年6月にアフリカ東部に到来して以来、何十万ヘクタールもの農作物や牧草地を食べ、少なくとも8カ国(ケニア、ウガンダ、南スーダン、エチオピア、ソマリア、エリトリア、ジブチ、スーダン)で破壊の道を歩んでいます。
科学者たちによると、イナゴはアフリカ東部から消えることはないといいます。今シーズンの降雨量は例年以上で、イナゴにとって良好な条件が揃っています。今年6月までにさらに繁殖を重ね、個体数は最大でも400倍に増加するとされています。
locust forecaster
イナゴ予報士、曰く
イナゴへの対応を監督する国連食糧農業機関(UN FAO)によると、アフリカ東部には、深刻な食糧不足に苦しむ人が2,000万人いるといいます。
イナゴの波は、紛争や干ばつ、洪水などの気候変動で荒廃した地域の食糧安全保障に深刻な脅威をもたらすだけでなく、新型コロナウイルス(COVID-19)の症例を急増させると予想されています。国連食糧農業機関(UN FAO)のシニア・イナゴ予報士であるキース・クレスマンは、「(農民や牧畜民は)全く休息を許されない状況」と言います。
砂漠のイナゴは群れをなして移動し、目の前に植物があれば、その葉をあらかた食い尽くしてしまいます。イナゴは1平方キロメートルあたり1億5,000万匹もの群れとなり、風に乗って1日で150kmも移動します。1平方キロメートル程度の小規模な群れでも、1日で約3万5,000人分の食糧を消費するのです。
このイナゴの群れは、そもそもアラビア半島で発生しました。2018年、2つのサイクロンがアラビア半島の無人地帯に大雨を降らせ、砂漠のイナゴが繁殖するために必要な、理想的な湿った砂地をつくり出しました。
9カ月の間に3世代の繁殖が行われ、イナゴの数は8,000倍に増加し、現在アフリカ東部を悩ませている猛威の元凶になったのです。
群れは紅海とアデン湾を飛び越えて「アフリカの角」(大陸東端の半島部)へ。ソマリアでは、2019年12月のサイクロン「パワン」の上陸により広範囲の洪水が発生し、害虫の数をさらに劇的に増加させました。
イナゴは西へ南へと移動し、2020年初頭の数カ月の間にケニアに到達。その数もピークに達しました。
専門家によると、イナゴはケニアの牧草地の少なくとも30%を壊滅状態にしたと推定されています。さらに、ここでも異常な豪雨が砂地を濡らし、1月と2月にメスは新たな卵を産みました。
Made in Kenya
ケニア産イナゴ
イナゴの卵は孵化するまで、わずか2週間。赤ちゃんイナゴは、「ニンフ」や「ホッパー」と呼ばれ、小指の爪ほどの大きさをしています。ホッパーは何度も脱皮して小指ほどの大きさになるまで成長し、成虫になって羽を生やします。そして群れをなして壊滅的な大群となり、飛び立ち、植物を食べ始めるのです。
「(この過程が)3月のケニアで起きました。だからこれはケニア製といっていい」と、クレスマンは言います。
未熟な群れが卵を産めるようになるまでに最大4週間かかります。ケニアでは成熟サイクルの半分以上が完了しており、新世代のイナゴの大群はもうすぐ産卵を開始すると予想されています。
Covid-19 delays
コロナが駆除を妨げる
ケニアは今、雨季。農家は、4月下旬から5月の雨季のころに作物が豊かに育つことを期待して、3〜4月にかけてトウモロコシ、豆、ソルガム、大麦、キビなどの作物の種をまいていました。イナゴが増え続けていることから、専門家は作物の100%が食い尽くされ、まったく収穫できない地域も出てくると懸念しています。
FAOのアフリカ東部担当レジリエンス・チームリーダーであるシリル・フェランは、次のように述べています。「今のところの懸念は、砂漠のイナゴが、出芽していない植物を食べてしまうことです。非常に柔らかい牧草地は砂漠のイナゴの好物なんです」
FAOは政府・NGOからなるチームと協力して、大規模な農薬空中散布キャンペーンを実施しています。南風と乾季が到来する6〜7月にイナゴが北上するまでの間、一時的ながらもイナゴを制御できると期待されています。
しかし、COVID-19によってこの活動に暗雲が漂っています。
サプライチェーンの混乱により農薬の出荷が滞り、在庫切れや不足が生じています。ソマリアではイナゴ駆除用の農薬の出荷が3週間遅れています。南アフリカから監視のために向かうはずのヘリコプターは、平時であれば燃料補給のために立ち寄る国でロックダウンが発生しており、現地に到着すらできません。
駆除活動が失敗に終わった場合、FAOは、アフリカ東部では今年の6月までに、さらに500万人が食糧不足に陥る可能性があると懸念しています。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- ナイジェリアのゲノム解析スタートアップが1,500万ドルを調達。ビル&メリンダ・ゲイツ財団らが支援する投資ファンドAdjuvant Capitalが主導するシリーズAラウンドで、ゲノム解析スタートアップの54geneが1,500万ドル(約16億円)を調達しました。54geneの設立は2019年。ナイジェリアでの新型コロナウイルス検査でも重要な役割を果たしています。
- アパルトヘイト以来の低金利。14日、南アフリカ準備銀行は政策金利を4.25%に引き下げました。長期化するロックダウンのなかで高まる景気支援策の一環で、この利下げはアパルトヘイト以降の南アフリカで最低の数字です。
- 中国はアメリカを非難。中国・広州に住むアフリカ系の住民たちが、「ウイルスを広めている」との激しい差別を受けています。14日、中国外務省は会見を開き、中国とアフリカの団結の歴史を訴えるとともに、アメリカが両社の間を引き裂こうとしていると主張しています。
- エチオピア人は中東から強制送還。エチオピアでは8日に国家非常事態が宣言され、11日には同措置が発表されています。一方、アラブ首長国連邦とサウジアラビアに不法滞在していた数千人単位のエチオピア人労働者が、強制送還されています。エチオピアは今後15日間だけで、さらに3,000人の市民を受け入れることになると予想されています。
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