Millennials:求められる「上半身」投資

MILLENNIALS NOW

ミレニアルズの今

Quartz読者のみなさん、こんにちは。今日お届けする「Millennials Now」では、パンデミックで変わった、人々の見た目へのこだわりについてレポートします。

REUTERS/NORA SAVOSNICK
REUTERS/NORA SAVOSNICK

新型コロナウイルスの影響で、家から出られずにいる日々が続いています。私たちは必然的に、生活の柱ともいえる衣食住の変化に順応しなければならなくなりました。今回は、なかでも「衣」における価値観がどう変わったのかをお伝えします。

さまざまな業界が苦境を強いられていますが、ファッション産業もまた、危機に陥っています。ウイルスの蔓延を食い止めるため、ブランドは店舗を閉鎖し、ヨーロッパとアジアの工場で注文をキャンセルする状況が続いています。ボストン・コンサルティング・グループは、2020年のファッション売上高は2019年に比べて4分の1、あるいは3分の1に減少し、最大で6,000億ドル(約64.7兆円)の収入減になると予測しています。

一方、ファッションや美容関連のビジネスはオンラインで営業を続けています。たとえば、米シアトルに本社を置き全米40州で380店舗を展開する百貨店Nordstromは、米国での店舗を一時的に閉鎖していますが、2019年の売り上げの約3分の1を占めていたオンラインには対応。一部の小売拠点では、限られた従業員が店頭でのフルフィルメント(受注から配送までの業務)を行っています。

しかし、同社は先日、7月に開催する予定だった50%オフのアニバーサリーセールを8月に延期することを決定。規模を半分程度に縮小する計画で、パンデミック期間中に売上の平均を上回ったカテゴリー(ホーム、ビューティー、セルフケアなど)へは資金を投下する予定ですが、先の見えない状況に苦戦しています。

リサーチ会社Statistaが2020年3月に実施した米国の小売業者を対象とした調査によると、新型コロナウイルスの発生により、Eコマースの売上が大幅に増加すると考えている回答者は、わずか8%にとどまっています。人々が自宅隔離を強いられているため、オンライン注文の量が増加すると考えられていますが、一方で、Eコマースのサプライチェーンや物流はこの状況に不安を感じているのです。

■新型コロナウイルスの影響が、Eコマースの売上にどのくらい与えると考えるか?

Statista
Statista

Good sales

売れる「上半身」

一方、新たなムーブメントも生まれ始めています。家にいることが増えることで、ラウンジウエアと呼ばれるリラックスした服装や、数年前からトレンドにもなっていたアスレジャー(ヨガパンツやパーカーなど、日常着に近いファッション)のカテゴリーが人気になっています。

Worn on This Day: The Clothes That Made History』の著者でもあるKimberly Chrisman-Campbellは「歴史的にみると、ファッションの最大の変化は、ランウェイのトレンドから発生するのではなく、巨大なスケールで社会を混乱させる戦争などのイベントが関係しています。たとえば、第二次世界大戦中に女性が労働のために着用しなければならなかったパンツは、終戦後に女性が社会に進出するようになり、必要に迫られてではなく、ひとつの選択肢として着用されるアイテムになりました」と記しています。

パンデミックによって起きている「外見への投資」にも、同じことが言えるでしょう。この1カ月で百貨店、ファストファッション、スニーカーショップなどの業界では収益が急降下していますが、一方で米国と英国の多くの小売店でスウェットパンツとトラックスーツのオンライン販売が急増していることも分かっています。

また、Zoomを使ったオンラインミーティング、ビジネスミーティング、オンラインデート、ビデオチャットが主流になってきたので、人々の目線が「上半身」へ集中するようになり、下半身はともかく上半身をきちんと見せようというような動きもあります。

Photo by Gabriel Benois on Unsplash
Photo by Gabriel Benois on Unsplash

米WallmartのDan Bartlett執行副社長は、 Yahoo Financeに対し、同社ではトップスの売り上げが急増していると説明しています。一方で「ボトムスの売り上げは増えていません。人々は、明らかに“腰から上”が気になっているようです」と話します。「このような行動は、人々がこの新しいライフスタイルに慣れるにしたがって変化し続け、進化していくでしょう」

CBSによると、Gap、Athleta、Old Navyを展開するGapは、Walmartと同様の調査結果を報告しています。さらに、ジョガーパンツ、レギンス、スウェットシャツ、スリープウエアといった快適な衣類の売上が大幅に増加。広報担当者は「私たちのブランドでは、ルームウエアやセーターなど、自宅で着るのに適した服の検索数が増えています」と述べています。

こういった流れから、多くのブランドがホームページで「Stay Home」のカテゴリを設け商品を展開していますが、メンズファッションブランドのSuitsupplyは、おもしろいアイデアを提案しています。

同社は最近、ボタンダウン、ネクタイ、上にブレザーを着ているモデルの写真をInstagramに投稿。「在宅勤務だからといって、スタイルに妥協することはありません。少なくとも、上半身の外見をプロフェッショナルに見せるのです」と書かれています。

Instagram/Suitssupply
Instagram/Suitssupply

Eye zoom

目もと効果

美容ブランドは、少なくともオンライン上では引き続き好調なようです。しかし、フェイスマスクの着用が義務付けられ、あるいは必須のものになっているため口紅の需要は低く、着用しても隠れない目もと(マスカラ、つけまつ毛、コンシーラー、アイライナー、スキンケア製品など)に対する需要が高まっています。

調査会社の7Park Dataによると、3月15〜28日までの2週間、Ultaのオンライン売上は前年比63%増。5つのベストセラーのうち4つは、Anastasia Beverly Hillsのアイブロウペンシル、Benefitのマスカラ、Stilaのアイライナーなどのアイメイク関連のプロダクトでした。また、Sephoraのトップセラーは、Khielのアイメイク製品でした。

Ulta
Ulta

こういった「売れる化粧品」は、世界の経済状況の変化によって変わってくるともいえます。

ITバブル崩壊(2001年)、リーマンショック(2008年)では、口紅の売上が急増(高級品を購入する経済力がないため、安価な非生活必需品を購入することで心理的な欲求を満たすという「口紅効果」)。日本でも2011年の東日本大震災の際、その「口紅効果」により、売上が好調でした。

今回のパンデミックでは、通常起こり得る「口紅効果」ではなく、マスクによってそれに変わる「目もと効果」が登場しているのです。

服と同様、メイクもオンラインミーティングが増えたことで需要は変わっています。たとえば、同僚とのビデオ通話では、爽やかな顔で「目が覚めている」ように見せたいという人が多いようですが、アイメイクでその効果を得るのはそれほど難しくありません。パッチリとしたまつげや目の下を明るくするコンシーラーは、朝のメイクアップのときに重要なものへと変化しているのです(目もともですが、インスタ映えするネイルアートも頑張っています!)。

Photo by Alexandru Zdrobău on Unsplash
Photo by Alexandru Zdrobău on Unsplash

Accentureの消費財担当グローバルリーダーであるOliver Wrightは、このような需要に加え、デジタルチャネルへの過去の投資が、美容系の小売店が不況を打開するのに役立つ可能性があると述べています。

「買い物客は、化粧品を店頭で購入することを好みますが、ブランドはすでに、バーチャル試着技術やロイヤルティプログラム(Ultaの会員数は数千万人)、そしてTikTokチャレンジを採用することで、製品をオンラインで販売するための大きな投資をすでに行ってきています

また、戦略・経営コンサルティング会社であるKearneyの消費者部門の主任であるAndrea Szaszは、「オンラインで存在感を示している小売業者や、消費者への直接販売に強いブランドは、この状況下で優位に立っています」と発言しています。

つまり、オンラインですでに多くの顧客を抱えるブランドは、「パンデミックとの相性もよかった」といえるでしょう 。

Invest in

セカンドハンドも好調

レアなハンドバッグ、入手困難なスニーカー、コレクターズワイン、その他の特殊アイテムなどを販売する転売サイトやオークションサイトは、パンデミックにもかかわらず好調であると報告されています。

Bloombergによると、パリを拠点とする高級ファッションのリセール業者であるVestiaire Collectiveは、HermèsとChanelの中古ハンドバッグの販売は、ヨーロッパでのロックダウンが始まった時に落ち込んだことを除けば、ほとんどの場合、価格と数量は安定しているといいます。

REUTERS/Alessandro Bianchi
REUTERS/Alessandro Bianchi

また、オークションハウスのSotheby’sは、時計、写真、ジュエリー、デザインなどのカテゴリーのオンラインオークションでは、高値が出ていると話します。また、限定発売のスニーカーではそれ自体がコレクターズアイテムとなっていますが、スニーカーを再販する大手マーケットプレイスのStockXは、「これまでのところ、当社の販売量とトラフィック数は、パンデミックの影響をほとんど受けていない」と述べています

多くの人たちはこのパンデミックの状況のなかで、今後売ることもできる「価値のあるもの」に対して投資することをいとわない、ということがわかります。

New shopping

買い物の変化期

今やZ世代とミレニアル世代の消費者の意見は、非常に重要視されるようになりました。これらの消費者層を合わせると、米国だけでも約3,500億ドル(約37.7兆円)の消費力があります(Z世代が約1,500億ドル、ミレニアル世代が約2,000億ドルを消費しています)。

さらに、2020年までには世界の消費者の40%をZ世代が占めるようになると予想されていたことも考えると、市場はすでに“若い世代のもの”だととらえてもいいでしょう。

Photo by Parker Burchfield on Unsplash
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しかし、環境や社会問題への関心が高い若い消費者は、目前の状況に合わせて性急な決断を下すともされています。現に、今回のパンデミックにより若者の消費は明らかに下降しています。仮にこの状況が落ち着きをみせたとしても、ショッピングに対する価値観は変わっていくでしょう。

ボストン・コンサルティング・グループのファッションとラグジュアリーのセクターリーダーであるJavier Searaは、長期的な予測を確定するにはまだ早いと警告していますが、米国や西ヨーロッパの買い物客の消費行動の変化を指摘しています。「すでに起こっていたトレンドでもありますが、それは“より高品質でより少ないアイテムへの投資”です」

ファストファッションのブームもあって常に消費することに慣れてしまっていた私たちですが、昨今の「サステイナブル」なトレンドの後押しもあり、買い物の仕方は変化を遂げていくことでしょう。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. Snapchatが好調。写真・動画共有アプリSnapchatを運営する米Snapが、4月21日に第1四半期の決算を発表。新規ユーザーが急増し、売上は予測を大きく上回る4億6,250万ドル(約498億円)になりました。新型コロナウイルスの影響もあって、デイリーアクティブユーザー数は過去最高の2億2,900万人に達しています。
  2. 3Dプリントを使った医療具を製造。3DプリントアイウエアブランドのFitzは、同社のカスタムフィットメガネ技術を採用し、新型コロナウイルスで第一線で働く医療従事者のために医療用メガネ(ゴーグル)を提供しています。すでに、3,000人近くの医療従事者が発売から1週間でオーダーしたため、予想外の需要に対応するために事業の拡大に取り組んでいるとのことです。
  3. 若者がロックダウン終了後にしたいこと。米国の若者たちは、ロックダウンが終わったら、フェスやスポーツ観戦、海外旅行に行くよりも、まず友達と外食したり飲みに出かけたいと考えています。また、ロックダウンが終わってからも、家からオンラインショッピングを楽しんだりすると予測されています。
  4. Z世代とミレニアル世代の意識の違い。新型コロナウイルスに向き合う両世代には、若干の意識の違いがあります。マスクの着用率、手洗いの習慣、ソーシャルディスタンシングを取っているか、ポストコロナの計画など、さまざまな項目に対して考え方が異なるようです

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