MILLENNIALS NOW
ミレニアルズの今
Quartz読者のみなさん、こんにちは。今日お届けする「Millennials Now」では、男女間のジェンダー・ギャップを埋めることでもたらされる経済効果を考えます。
米Atlantic誌を読んでいて、衝撃的なタイトルを見つけました。「The Coronavirus Is a Disaster for Feminism」と題したこの記事では、パンデミック下における女性の立場の弱さが冷静に分析されています。
新型コロナウイルスの影響で「ステイホーム」が前提となる生活のなかでは、子育てや仕事の選択・解雇など、あらゆる場面において女性が強く影響を受けています。いまだジェンダー・ギャップが強く残るなか、このパンデミック下においては如実にあらわれる結果となっているのです。
こうした事実を見るにつけ、私たちが生きていくポストコロナの時代には「ジェンダー・エクイティ」の意識がより必要になってくるといえます。
What is Gender Equity?
ジェンダー・エクイティ
ジェンダー・エクイティとは、女性と男性が同じになるという意味ではなく、女性と男性の権利、責任、機会が、男性に生まれたか女性に生まれたかによって決まるものではなく、同等の価値をもつということ。
女性と男性のそれぞれのニーズに応じた待遇の公平性を意味しますが、待遇や権利、利益、義務、機会の点で同等と考えられることが含まれる場合があります。
たとえば機会について話すとき、私たちは、機会が単に性別に基づいて制限されないようにしようとします。すべての人にとって経済的効果が向上するように、ジェンダーの偏りがないようにするのです。
しかし、それは、いまだにどの国でも達成されていません。実際、世界経済フォーラムは、世界的にジェンダー・エクイティを到達するには170年、北米では158年かかると予測。つまり、あと5世代を経ないと、ジェンダー・エクイティの世界は見られないということです。
Women’s power
女性の社会進出
2018年12月現在、世界の国家レベルの議会における女性の参加率は24.1%。2013年には、女性は国の指導者全体の8%、大統領職全体の2%を占めています。さらに、過去20年間で女性の首相と大統領の75%が就任しています(フィンランドでは2019年、ミレニアル世代となる34歳の女性首相が誕生したことも記憶に新しいです)。
米国でも女性の社会進出は進んでいるものの、政府関係者の数はまだ少ないです。現在、102人の女性が下院で働いており、435の総議席の23.5パーセントを占めています。この数は歴史的にももっとも多いものとなっていますが、米国は他の国々に比べてはるかに遅れをとっています。
実際、ランキングを継続的に調査している列国議会同盟(Inter-Parliamentary Union)の最近のデータによると、米国は193カ国中75位にランクされ、女性議員の議席保有率は、世界平均の24.1%にも達していないのです。
しかし、米国では、18 歳未満の子どもがいる世帯の40%が女性が主または唯一の稼ぎ頭であることに加え、母親が家庭外で働いている家庭の中央値では、女性が家族の総収入の40%近くを占めています。つまり、女性の収入と経済的機会は、米国の大多数の家庭にとって重要なもので、女性の労働力は確実に上昇しています。
また、数カ月前、米国は2008年に起こったリーマンショック以降、初めて最長の月間連続雇用増加率(112カ月)を記録。結果として、この強力な労働市場に多くの女性が関わることになりました。
2017年1月から2019年8月までの間に、女性の労働力率は74.5%から76.3%に上昇。2019年12月までに、女性は米国の雇用の50.04%を占めていました(農場労働者と自営業者を除く)。そして、学士号以上の学位をもつ女性が労働力に占める割合が男性よりも高くなり、2,950万人(女性)対2,930万人(男性)となりました。
2020年1月においては、女性の間で就職率が急速に増加したのはミレニアル世代とZ世代。昨年の同時期よりも1.4ポイント上昇しています。
ただ、賃金に格差があることは否定できません。米国大学女性協会が分析した国勢調査局のデータによると、年間を通じてフルタイムで働いている米国の女性の収入は、男性の収入1ドルにつき平均82セント。黒人女性は1ドル62セント、ヒスパニック系女性は54セントになっています。
ハリウッドにおいても、映画への出演料に関してジェンダー・ギャップがあるとたびたび報じられています。女優のエマ・ワトソンは、2014年に国連のジェンダー・エクリティを推進するキャンペーン「HeForShe」に参加し、スピーチを行っています。
なお、女性政策研究所のアナリストによると、米国では男女賃金格差が解消されるのは、2059年になると予想されています。
The pandemic changed this situation
パンデミックで不利に
しかし、この新型コロナウイルスによるパンデミックで状況は変わりました。
ソーシャルディスタンシング(社会的距離)の影響で、賃金労働者やサービス労働者が広範囲に解雇されることに。3月15日週までに、年収5万ドル(約530万円)未満の世帯の25%が仕事を失ったり、勤務時間を短縮されました。
米国の最低賃金・低賃金労働者の62%が女性であるため、この解雇は女性へ打撃を与えることになります。実際、2月以降のすべての解雇のうち、女性が大半(58.8%)を占めています。
下記の図からも、米国の各州別で見ても多くの女性がパンデミックで職を失っていることが分かります。
今回のパンデミックは、リーマンショックのときとは状況が違います。たとえば、レストランや旅行業などのサービス関連の業種は最も影響を受けますが、女性の雇用率がかなり高く、より多くの女性が仕事を失うことになります。
特に16~24歳の労働者の半数近くがバー、レストラン、ホテルなどのサービス業に従事しているため、若い女性への影響も大きく、経験の未熟な若い労働者は、最初に解雇される可能性が高いです。
また、子どもと一緒に暮らしているほとんどの人にとってより大きな影響があるのは、育児の必要性。 「ステイホーム」により、育児が大部分の女性の負担となり、通常通りに働くことが難しくなります。
さらに、感染者を救うために多くの女性は医療の最前線にいます。世界保健機関(WHO)によると、女性は医療従事者の75%、サポートスタッフの87%を占め、男性よりも賃金が低いわりに危険にもさらされている確率が高いのです。
つまり、女性が従事する仕事は、しばしば低賃金で過小評価されてきたものが多かったのですが、実は経済を大きく動かし、最も必要とされるもので、目に見えない労働力でした。それが、このパンデミックによってやっと表出してきたのです。
The Future of Work
変えるべき価値観
こうした事実と状況をみれば、「ジェンダー・エクイティ」を考える必要がさらに増していることは明らかです。
Pipelineの29カ国4,161社を対象とした調査によると、ジェンダー・エクイティが10%増加するごとに、1%から2%の収益増加。米国も、ジェンダー・エクイティのギャップを埋めることで、2兆ドル(約220兆円)の経済的利益を得ることができるといわれています(先述のように、今、米国では女性が最も教育を受けた人たちであることを忘れてはいけません)。
また、McKinsey & Co. が公開した記事では、このパンデミックで企業にとって必要になるのは「企業の目的、アイデンティティ、文化を定義して固めることであり、それはポストコロナでも重要な要素になる」と述べられています。ジェンダー・エクイティをこれまで以上に進めるタイミングとして、今こそがふさわしいというのです。
では、どのように進めていけばよいのでしょうか?
解決策となるのは、第4次産業革命のツールにあります。企業のリーダーは、AIやクラウドなどのテクノロジーを導入し、組織内でのジェンダー・エクイティを促進しなければなりません。テクノロジーの必要性を示す2つの重要な理由があります。
まず、ジェンダー・エクイティのギャップを埋めるためにテクノロジーが必要であるという根本的な理由があります。CEOの78%がジェンダー・エクイティを最優先事項の1つに挙げていますが、そのデータ(従業員への給与の支払い方、パフォーマンスの評価方法、潜在能力の評価方法)が共有され、定期的に状況を確認している従業員はわずか22%にすぎません。
しかし、第4次産業革命のツール(テクノロジー)は、ジェンダー・エクイティのデータを収集して活用するだけでなく、ジェンダー・エクイティを達成するために必要なデータ、透明性、説明責任を企業に提供することができます。
次に、新型コロナウイルス特有の理由があります。今回のウイルスによるパンデミックにより、人々の仕事方法が変わり、必要とされるものも変わってきているからです。
実際、一部のアナリストは、こうした「仕事の未来」はすでに到来しているかもしれないと話しています。つまり、人事担当者は、テクノロジーを使いより高度に人を分析し、見合った人材を雇用するためにプラットフォームを使いこなす必要があります。
そして、パンデミックの前に多くのCEOが「デジタル主導によるビジネスモデルの抜本的な変革」の必要性を表明していた世界的な大手企業の70%にとって、この状況がまさに「変革期」なのです。
もちろん、ジェンダー・エクイティは女性だけに影響を与えるものではありません。米国で働く48%の男性は、家で子どもと一緒にいたいという調査もあります。
このパンデミックにより、ジェンダーに問わない働き方や生き方が今後の「ニューノーマル」になっていくでしょう。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 厳しい旅行業界。TripAdvisorのCEO兼共同創業者であるスティーブン・カウファーは、旅行業界に大きな被害をもたらしたCOVID-19の大流行を受け、人員削減を行うことを発表しました。同社は従業員の約4分の1にあたる900人の従業員を削減。このうち600人は、米国とカナダの人員です。
- 肉製品が米国から消える? Tyson Foodsの会長ジョン・タイソンは、パンデミックの影響によって家畜や工場閉鎖が増加し、牛肉、豚肉、鶏肉の肉製品が米国の食料品店から消えるだろうと述べました。同氏は「米国のサプライチェーンが壊れている」と警告しています。なお、Tyson Foodsは米国最大の豚肉加工工場を含む2つの工場と牛肉工場を現在、閉鎖しています。
- パンデミックで強く感じるミレニアル世代の「色」。Pew Researchが3月に18〜49歳の米国人を対象に行った調査では、白人以外の回答者がパンデミックの影響をより強く感じていることが分かりました。黒人とヒスパニック系の世帯では、それぞれ23%と30%が解雇を経験したことがあるのに対し、若い白人の世帯では18%と回答。有色人種の若者の経済的現実は、今後数カ月の間にさらに悪化する可能性があります。
- セレブリティがマスクでチャリティ。ユニバーサル・ミュージック・グループのアーティスト、アリアナ・グランデ、ビリー・アイリッシュ、ジャスティン・ビーバー、ローリング・ストーンズが、同社の「We’ve Got You Covered」イニシアチブの一環として、再利用可能な布製マスクを発売しました。このマスクは15ドルで販売され、利益はすべて、現在のパンデミックを含む厳しい時代に音楽コミュニティを支援する慈善団体MusiCaresに寄付されます。
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