New Normal:「メイド・イン・〜」の再定義

New Normal

新しい「あたりまえ」

Quartz読者の皆さん、こんにちは。新しい月のスタートです。5月が始まった今日から、毎週金曜日のPMメール「Post-Corona」をさらにアップデート。「New Normal」と題し、パンデミックを経た先にある経済のありかたを、今も世界で立ち上がっていることばや人の動きから、一緒に見据えていきましょう。今日は、フランスからお届けします。

マクロン大統領、マスク工場にて。REUTERS
マクロン大統領、マスク工場にて。REUTERS
Image: マクロン大統領、マスク工場にて。REUTERS

グローバリゼーションは行き過ぎた」──。新型コロナ危機を受け、欧州委員会のティエリー・ブルトン委員は、こう発言しました。

新型コロナウイルスによる危機は、世界が「中国へ過度に依存している現実」を顕在化したといってもいいでしょう。翻って欧州各国は、一部の危機的な状況にある産業分野の拠点・外注先の「脱中国」さらには「国内・欧州域内生産」の計画を加速しようとしています。

exodus from China?

「脱中国」の先

特に、医薬品やマスクの中国への輸入依存は、人命にかかわる新型コロナ危機対応の難航を招きました。

欧州各国やアメリカではマスクの取り合いが起こり、高速かつ大量生産を成し遂げた中国のマスク外交に押されることに。医療現場での防護服が不足したイタリアやスペインの一部病院では、医療従事者がゴミ袋を着用して感染患者の治療にあたるほどの状況で、人工呼吸器の不足においては、自動車関連企業などが製造の援助をしています。

REUTERS/BENOIT TESSIER
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Image: REUTERS/BENOIT TESSIER

こうした状況を受け、フランスでも、エマニュエル・マクロン大統領は特に医薬品、農業、テクノロジーなどの分野において、国家主権を取り戻したいと言及。

フランスの経済紙レゼコーが掲載した国内の世論においても、90%以上が、農業や製薬においてフランスに開発・生産の拠点を戻してほしいと回答。さらに、61%の回答者が「環境への取り組み方や、今後のグローバル社会を根本的に変えるべき」と答えています。

コストが増えても、安全面や確実性を優先すべき──。新型コロナウイルス危機は、官民の両方に、従来の経済モデルの刷新を要請しているかのようです。

pacte de relocalisation

近隣への回帰が進む

フランスでは、地方自治体による企業への国内・欧州域内回帰のサポートがすでに進められています。

その一例が、シャンパーニュ地方があることで有名な北東部グラン・テスト地域圏で始まっています。同地域圏でスタートしたのは「移転協定」(pacte de relocalisation)という試み。企業がアジアなどのサプライヤーへの依存を少なくすることで、CO2排出を減らすと同時に、地域内で新たな産業と雇用を創出することを目標としています。

対象となる産業は、農業食品、バイオテクノロジー、自動車関連、家具、デジタルなど多岐に渡ります。すでにケーススタディーとして5社が移転を実施。今後、半年ごとに50~100の企業を支援することを目指しています

REUTERS/CHARLES PLATIAU
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Image: REUTERS/CHARLES PLATIAU

グラン・テスト地域圏副議長のリラ・メラベ(Lilla Merabet)は、こうした移転戦略を通して達成すべき目標として、次のように語ります。

「まずは、外国直接投資を増やすこと。 そして、企業が近隣のサプライヤーを選ぶことで、競争力を高め、地域圏での産業の革新に繋げることです」

グラン・テスト地域圏は今回の新型コロナ危機によって、フランス国内で最も打撃を受けた地域のひとつ。メラベは、経済の停滞と同時に地域圏の企業連帯が高まったと言います。

「危機の際に、企業間での従業員や機械の供出など、新たな連携が開始しました。協力は今後も続くでしょう。移転によって近距離でのバリューチェーンが構築されるとともに、エネルギー移行が成し遂げられれば、それらは新型コロナウイルスによる打撃から回復するための柱となるはずです」

同じ動きは南部オクシタニ―地域圏でも計画されています。今後、国内・欧州域内回帰政策が広がることで、各地域の活性化のきっかけになる可能性もあるかもしれません。

Globalization is changing

変わる「グローバル」

今回、フランス国内で実際に起きている動きにフォーカスしてきましたが、その先にはどんな未来がみえるのか。グルノーブル・マネージメント学校で教鞭をとり、グローバルリゼーションと国際政治経済に詳しいグレゴリー・ヴァネル准教授にお話を伺いました。

──新型コロナウイルスによる危機は、現在の経済のシステムにおいて、世界の国府にどのような「レッスン」をもたらしましたか。

この危機は、これまで私たちが抱いてきた幻想を打ち破りました。その幻想とは、すべての人が恩恵を享受できる自由貿易、介入の少ない小さな政府などです。

また、医薬品のような公共に資するべき製品の生産、重要な活動に対する国の保護、充分な必需品の在庫、国内で一貫生産ができる企業、国際協力などの要素なしではパンデミックと闘えないことも、示されました。

たとえば現在、フランス国内にはほとんど製造工業がありません──GDPの約10%に過ぎません。今回の危機は、特に医療分野において製造工業をもつべきだと示しました。

REUTERS/STEPHANE MAHE
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Image: REUTERS/STEPHANE MAHE

また、経済的合理性──さらなる経済の開放、自由な競争、より長く複雑化するバリューチェーン、ますます企業が製造の一部を外部委託している点──は、想像以上に、人命、仕事、不平等、貧困や社会の分断、環境の悪化などに多大な影響を与えました。

今回のレッスンから学ぶことがあるとすれば、それは、世界の国々は経済モデルの変更が必要だということ。たとえば、中国、ドイツのような輸出大国は、国内の経済活動に再び焦点を当てる必要があります。

「脱炭素」もまた、世界各国にとって最優先で取り組むべき課題です。その過程において交易が減り利益が少なくなったとしても、環境が優先されるべきです。重要な要素を再考し、民主的に、優先事項を評価する必要があります。

──フランス国内では移転・国内回帰の動きがありますが、今後どのように実施されるべきですか。

国内回帰は、そもそも容易ではありません。国内での生産の増加に急速に対応するためのノウハウをはじめ、機械や従業員、工場、ネットワークには莫大なコストがかかります。

その一方で、国内の消費者がより高価な国産製品を買う購買力をもっていないとすれば、いったい誰が製品を購入するでしょうか? 「メイド・イン・フランス」であることの付加価値も、再定議されなければなりません。

REUTERS/BENOIT TESSIER
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Image: REUTERS/BENOIT TESSIER

工場が国内回帰することで廃棄物などの汚染が国内に生じる事態は、政府にとって致命的でしょう。環境に害を与えず、エネルギー消費が少ない技術を用いた状態で、実施されなくてはなりません。

──ナショナリズムが高揚する可能性はありますか。

緊密な国際協調をしながらも各国から受ける経済的影響を制限している場合においては、ナショナリズムは一概にネガティブな要素ではありません。

第二次世界大戦後の欧州での経済成長期には、各国間に緊密な国際協調がありましたが、そこには保護主義による要素も大きかったです。

今日のナショナリズムにおいて危険なのは、誰もが他国を競争相手とみなし、閉鎖的な点です。こうした考えのもと工業の国内回帰をすると、国際貿易において対立が増すのは明らかで、失敗に終わるでしょう。

──フランスでの、ポスト・コロナの経済についてどのように予測されますか。

エコノミストですら、予測がしにくい状況です。コロナの第二波の可能性、国境開放についても不確かなこと、経済回復の程度や手段、ポスト・コロナの国際協力の度合い、債務のレベルなど、未知な部分は大きいですから。

29, April. REUTERS/CHARLES PLATIAU
29, April. REUTERS/CHARLES PLATIAU
Image: 29, April. REUTERS/CHARLES PLATIAU

世界の疫病の歴史をみれば、たいていの場合、危機の後に大きな変化がなかったことがわかります。

むしろ、政治・経済の意思決定者の一部は、コロナ危機の最中に、残酷にも自身の都合やイデオロギーを加速させようとしているように、私には感じられます。

ある意味、もしコロナ危機後にフランスに新しい経済モデルが確立されるならば、より新自由主義に基づいた、労働者、そして国家間の競争が、より広範囲に広がる危険性もあります。


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  1. Amazonとヨーロッパの関係性。ドイツでは、倉庫労働者が勤務前に集まることを防ぐために、組合がAmazonに働きかけています。イタリアでは、COVID-19の発生で、Amazonの主要な物流倉庫が襲撃され、労働組合は11日間のストライキを敢行。また、4月24日のフランスの控訴裁判所は、倉庫作業員の安全を保護するために、Amazonに国内で必須製品のみを販売するよう命じる、以前の判決を支持しました。
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  4. コロナがもたらしたポジティブな結果。新型コロナウイルスによるロックダウンで、過去1カ月間、大気汚染が軽減されました。英国とヨーロッパでは、大気汚染の関連による死亡者数が1万1,000人減少していることが研究で明らかに。道路交通と産業排出量の減少により、喘息を発症している子どもが6,000人減少、救急外来の受診が1,900人減少、早産が600人減少する結果となりました。

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