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⛏ 世界が石炭に熱視線

世界はいまも石炭に依存しています。欧州を襲う熱波・干ばつ、ウクライナ危機や気候変動を解決するための世界の動きに対して存在感を増す石炭について。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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ウクライナ危機が長期化するなか、欧州各国で休止中の石炭火力発電所を再稼働させる動き が広まっています。ロシアからの天然ガスの輸入を抑えると同時に、暖房需要が急増する冬に向けてガスの備蓄を少しでも増やすための緊急措置で、ドイツやオーストリア、オランダ、イタリア、英国などが石炭火力の再開を決めました。

これは「環境優等生」を目指す欧州諸国にとっては正に苦肉の策ですが、切羽詰まった状況で背に腹は変えられない状況です。

一方、発電・熱生産部門の二酸化炭素(CO2)排出量は2021年に14.6ギガトンと、前年から約6.9%増えて過去最高に達しました。増加分は絶対量では9億トンで、これは同年の世界全体の排出量の増加分の46%を占めています。つまり、昨年に排出量が増えた原因の半分は電力と熱需要だったということになります。

なかでも石炭火力発電は温室効果ガスの排出量が特に多く、科学誌『Nature』に発表されたある論文によれば、発電部門の全排出量の7割は、世界の発電施設のうち5%を占める、発電効率が特に悪い旧型の石炭火力発電所によるものです。

Image copyright: KACPER PEMPEL

しかし、先進国が次々とカーボンニュートラルに向けた計画を打ち出す一方で、世界は総発電量の3分の1超を石炭火力発電に頼っており、石炭は発電燃料としては依然として首位を保っています。石炭火力発電がなかなか減らないのはどうしてなのでしょう。

さらに、ウクライナ危機を受けた経済制裁で欧州各国はロシアから石炭を購入することができなくなっています。こうしたなか、代替の調達先として注目を集めているのが南アフリカですが、同国は特異な国内事情のために、いわば降って沸いたこのチャンスを生かせていません。


BY THE DIGITS

数字でみる

  • 8,500カ所:世界で稼働中の石炭火力発電所の数
  • 36.7%:2019年の世界の発電総量に占める石炭火力発電の割合
  • 77%:南アフリカの双発電量に占める石炭火力発電の割合
  • 132年:2019年末時点での石炭の可採年数

COAL-FIRED POWER IN BRIEF

最大の「発電源」

発電セクターを脱炭素化するためには、石炭火力発電の縮小および発電設備の効率化が必須です。ただし、世界全体で見ると石炭火力は世界の総発電量の36.7%を占め、単独で最大の発電源となっています。また、発電全体の6割は化石燃料(石炭、天然ガス、石油)による火力発電です。

Image copyright: Quartz

それでは発展途上国ほど石炭火力発電の割合が高いかというとそうではなく、例えば中南米は地形的な要因のために水力発電が半分以上を占め、石炭火力は全体の5.6%にとどまります。また産油国が集まる中東も石炭火力の割合は1.8%と低いものの、石油と天然ガスによる火力発電が94%を占めています。

一方、石炭火力への依存度が特に高いのはアジア。太平洋地域で、58.1%を石炭火力発電によって賄っています。なかでも、石炭生産量が多い中国、インド、インドネシアの3カ国はエネルギーミックスにおける石炭の比重が高いほか、資源大国のオーストラリアも電力の6割前後を石炭火力発電から得ているのです。

Image copyright: Quartz

WHY COAL?

なぜ石炭なのか?

それでは、なぜ炭素排出量の多い石炭火力発電の縮小が進まないのでしょうか。石炭には発電燃料として以下のような利点があり、低コストで一定量の電量を安定供給できる「ベースロード電源」として広く利用されています。

  • 発電コストが低い:石炭は化石燃料の中では安価で、価格も比較的安定しているため、他の化石燃料などと比べて発電の燃料費を抑えることが可能です。例えば、発電燃料のほぼすべてを輸入に頼っている日本でも、設備投資や運営費などを除いて純粋に燃料費だけで見れば、キロワット時当たりの発電コストは石油(12.9円)やLNG(6円)と比べて石炭(4.3円)が一番安くなっています。石炭の産出国であれば価格はさらに下がります。
  • 輸送・保管が簡単:石油や天然ガスの輸送は専用タンカーやパイプラインで行われ、LNGの場合は貯蔵と再ガス化を行う受入れ基地の建設も必要ですが、石炭は鉄道やトラック、通常の貨物船での輸送が可能です。
  • 可採年数が長い:可採年数とは、特定の資源が今後どれだけの期間にわたって利用可能であるかを示す数字で、確認されている埋蔵量を年間の生産量で割って算出します。石炭の可採年数は2019年末時点で132年と、石油(50年)や天然ガス(50.9年)と比べてかなり長くなっています。
  • 供給が安定している:石油や天然ガスの埋蔵が中東に偏っているのに対し、石炭は埋蔵地域が(それ以外の)世界中に分散しています。石炭の輸出国にはオーストラリアや米国など政治的に安定している国が多く、例えば中東で政情不安が起きたり、今回のウクライナ危機のような事態のために特定の国からの調達が不可能になっても、簡単にその穴を埋めることができるのです。またコストや規制などは埋蔵場所によって異なりますが、石炭は一般的に石油や天然ガスと比べると採掘が容易で、供給が安定しています。
Image copyright: Quartz

Pop QUIZ

ここで問題です

以下から、世界の石炭生産トップ10に含まれる国をすべて選んでください。
  1. 中国
  1. カナダ
  1. 南アフリカ
  1. ドイツ

答えは、中国(1位)南アフリカ(7位)ドイツ(8位)です。中国は世界最大の石炭生産国ですが、同時に輸入国でもあります。これは単純に生産だけでは消費に追いつかないためで、中国では発電や暖房などエネルギー関連のほか、製鉄に必要なコークスも石炭需要の大きな割合を占めます。なお、ドイツ(同7位)も生産量と輸入量の両方でトップ10に入っています。

Image copyright: Quartz

一方、世界最大の石炭輸出国インドネシア(4億500万トン、2020年)で、以下、オーストラリア(3億9,000万トン)、ロシア(2億1,200万トン)、米国と南アフリカ(いずれも6,300万トン)が続きます。


SOUTH AFRICA’S REALITY

南アフリカの現実

欧州はこれまで、温室効果ガスの排出のネットゼロを目指して脱石炭を進めてきましたが、ウクライナ危機で状況が一変しています。欧州連合(EU)はなるべく早くロシアからのエネルギー輸入をゼロにする方向で対応を進めており、ロシア側も欧州へのガスの供給を減らしています。

欧州は冬季の暖房需要のためにいまからガス備蓄を増やす必要があり、各国が国を挙げて節電に取り組むほか、電力不足に備えて石炭火力発電所を再稼働させる動きも進んでいるのです。

一方、経済制裁のためにロシアからの石炭の輸入が禁止され、代替となる調達先として注目を集めているのが南アフリカです。

前述したように南アは世界7位の石炭生産国で、2020年の輸出量は6,300万トンと世界4位に付けています。同国の石炭の主要積出拠点であるリチャーズベイ石炭ターミナル(Richards Bay Coal Terminal、RBCT)から、今年1〜5月に欧州各国に向けて輸出された石炭の量は前年同期比で40%拡大し、324万トンに達しました。

しかし、2021年のロシアからEUへの石炭輸出は5,161万トンであったことを考えれば、南アの石炭輸出の伸びは小幅にとどまっています。昨年のRBCTからの石炭輸出量は5,872万トンと前年から16%落ち込み、過去25年で最低を記録しました。RBCTの積出能力は9,100万トンですが、現在はこの6割程度しか使われていない状況なのです。そして、その一番の原因は実は輸送インフラにあります。

Image copyright: SIPHIWE SIBEKO

炭鉱から輸出の積み出し港までの石炭輸送を担うのは国営輸送会社トランスネット(Transnet)ですが、インフラの老朽化鉄道資材の盗難車両不足などで輸送能力は低迷しており、鉱山会社との輸送契約も果たせていません。

南アではさまざまな分野で組織的な汚職が蔓延しており、特にジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)前大統領の時代には不正が悪化しました。前大統領には700件以上の汚職疑惑があり、現在も裁判が続いています。ズマ政権の時代にトランスネットが購入した新たな車両も、契約がいい加減だったり、支払われるべき代金の横領などで納入が何年も遅れているのです。

さらに、気候変動対策という意味では南アフリカという国家そのものが石炭への依存体質から脱却する必要性がある点も指摘されています。

南アでは石炭生産は20万人を雇用する一大産業であり、石炭はプラチナなどの白金族金属や鉄鉱石と並ぶ主要輸出品です。また、南アの総発電量に占める石炭火力の割合が77%と世界的に見てもかなり高く、南ア経済は「石炭中毒」とまで言われています。

Image copyright: MIKE HUTCHINGS

昨年に英国で開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、南アが石炭への依存を低減させるために、欧米各国が総額85億ドル(1兆1,474億円)の支援を行うことが決まりました。しかし、ロシアのウクライナ侵攻によって世界情勢は大きく変化し、同国のエネルギー転換に向けた取り組みも今後の見通しは立っていない状況です。


ONE 🌵 THING

ちなみに……

ドイツは脱原発と脱石炭火力を同時に進めていますが、ロシア産の天然ガスへの依存度が非常に高かったために、やむを得ず停止していた石炭火力発電所の再稼働を決めました。しかし、ここに来て思いもかけなかった問題が浮上しています。

欧州は現在、熱波と降水量の落ち込みでフランスを中心に記録的な干ばつに見舞われています。ドイツでもライン川の水位が例年より大幅に低下して貨物船の航行が難しい水準にまで落ち込んでおり、ライン川経由での石炭輸送に影響が生じているのです。

Image copyright: BENJAMIN WESTHOFF

主要火力発電所のひとつでフランクフルト近郊にあるシュタウディンガー(Staudinger)発電所では燃料の石炭が不足し、9月7日までは発電量が通常を下回る見通しです。このままの天候が続けば、石炭だけでなくライン水系を利用した物流全般の混乱がさらに拡大することは必至でしょう。

こうした状況で、8 月初頭にはとうとう、ショルツ首相が年内に停止が決まっている国内最後の原子炉3基の稼働延長を示唆する発言をして話題になりました。気候変動はこんなところにも影響を及ぼしているのです。


今夜のニュースレターはChihiro OkaとSota Toshiyoshiがお届けしました。